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三章 闘わぬ戦士の詩

夜が明けるまでに二人は商人の雇った傭兵を振り切りった後、蒼龍族管轄区(ソウリュウゾクカンカツク)蒼景(ソウケイ)から街道沿いに西へと向かった。途中に小さな休憩場所となっている場所で休息を取ることにした。

「〈誇らしげに咲く花は世界に羽ばたき・・・常夜を映す水面(もなも)は瞬き忘れた月を揺らして幾つもの夢を渡る貴方を探している・・・〉」

謌は幾時の世界の物語を語り、時には真実をも紡ぐ。その為、吟遊詩人や語り手と呼ばれる者達は影と闘いながら生きている。それが弱く幼い者でも例外はない。

「・・・危険が伴うと知りながらもそれを選ぶのか。」

囁く様な歌声を聞きながら、赤錆色の髪を持つ青年ノゾミは呟く。彼の色素の薄い瞳の視界の端には歌声の主が映っていた。こげ茶色の髪は肩より少し下で所々に長く伸びた場所がありはっきり言って不揃いだ。服装は一般的な物ではなく衣装という印象を受ける。閉じられている瞳の色は分からなかったが十代半ばの少女だった。

「危険だって分かってるだけマシじゃない ?」

独り言にまさか自分の返事が帰って来たので少し目を開き、驚いてしまった。少し後ろで休んでいたサキミヤは少しバツが悪そうに言葉を続けた。

「私が言うのもおかしいけどね。・・・ちょっと提案があるんだけどいい ?」

「提案 ?」

「うん。私が蒼龍族の軍に属しているって事は気付いてると思う。その軍本部まで付き合って欲しいの。」

「・・・は ?」

ノゾミは思わず間抜けな声を出してしまった。この女なんと言った?蒼景では商人から神珠と剣を取り戻すだけだと言うことで協力したのに図々しくも蒼龍族の軍本部・・・つまり蒼琳院(ソウリンイン)まで付き合えと !?

「もちろん、タダでなんて言わないわ !」

サキミヤの必死の説得が続いているがノゾミの答えは決まっていた。

「断る。」

いつまでも他の部族と関わるのは正直な所、避けたい。例え、戦い慣れた者とは言え連れていると何かと動きづらい。今回はたまたまあの商人が”ハズレ“だったから余計な詮索もなかったし無事に済んだ。この辺りが潮時だな・・・ここで釘を刺しておけば今は後を追ってくることもない・・・あれを追ってるならば会うかもしれないが。

「俺はお前ほど暇じゃない。それに・・・あれには関わらない方がいい。」

「なにそれ。」

「お互いの為だ。」

先ほどの表情と打って変わって不機嫌になるサキミヤ。そんな彼女を置いてノゾミは無言で腰を上げて歩き出すので止めようと彼の後を追う様に立ち上がる。

「ちょっと、どこ行くのよ !?」

今までの観察(コウドウ)からある程度予測はしていたが・・・予想以上にしつこい女だ。これ以上付いて来ない様にしなければ。

「関わるな。」

突然、席を立ったノゾミを止めようとするサキミヤだったが彼は聞かずにそのまま歩き出す。今まで一人では成果が上げれない事を悩んでいたので協力者が欲しいと考えていたサキミヤは当然追いかけようとしたが、追いかけられなかった。

「・・・ッ。」

彼の発する威圧(プレッシャー)だけで動けなかった・・・手さえも。格上だという事は会った時の行動から読み取れたがこんなにも力の差があるとは思わなかった。しかも、神珠の力を使わずに、だ。

僅かな時間の交わりは暁とともに終わりを告げ、新たなる光は混沌の世界を覆う闇を濃くするだけだった。






夜明けに伴い休憩所を発つ人が増え残る者は少ない。その中、一人で立ちすくむ人が気になって声をかけることにした。

「どうされたのですか ?」

鳥のさえずりの様な声をしたのをぼんやりとした頭で聞いた。

「どこか怪我をされましたか?」

二度目で自分に言われていることだとサキミヤは気が付くと、慌てて返事を返す。

「え ?あ、なんでもないのっ !」

「本当ですか ?」

「大丈夫よ !ほんとに !!」

念押しに三度も聞かれたと思うと相当な時間ぼーっとしていた様で急に恥ずかしくなり、少し顔を赤らめながら言うと納得したのか、ニコリと微笑んで座りませんか?と言ったので二人向かい合う形でその場に腰を下ろした。

「あの、すいません。突然話しかけたりして・・・来られた時にもう一方といた様に見えたのですが、先ほどから見かけなくなったものですから・・・。」

サキミヤに話しかけて来たのは休憩所に来た時に語り詩を紡いでいた幼さが残る少女だった。

「あ、僕はリョウ、リョウ・ハクサンポウと申します。見ての通り語り手をしています。」

小さく未熟者ですが・・・と付け足してはにかんで言う。

「私はサキミヤ。サキって呼んでもらって結構よ ?」

サキミヤはあえて自分の(うじ)と職業は伏せておく。何処からどう情報が漏れるか分からないのだ。例え若い語り手でも・・・。

「では、サキさん。連れの方はどうされたのですか?」

「あ~、それなんだけど、仲間とかそういうのじゃないから気にしなくていいよ ?」

濁した様にいうとリョウは失礼なことをしたと思い、頬染めて俯いてか細い声で謝った。

「すみません、要らぬことお聞きして・・・。」

「だから気にしなくていいって。でも、心配してくれたんでしょ ?ありがと。」

「あ、はい。」

そこで、サキミヤは思い出したかの様にリョウに問いかけた。

「そうだ !語り手って各地を渡り歩いてるんでしょ ?妖族・・・赤い髪の妖族を見たり、聞いたことってある ?」

期待のまなざしで返事を待つサキミヤにリョウは記憶をたどっているのか少し考えて

「ごめんなさい、僕はまだ駆け出しの吟遊詩人なので蒼龍の管轄から出たことがなくて・・・赤い髪の妖族は聞いたことありません。」

「そっ・・・か。」

「そ、の、本当にすいません !」

サキミヤの落胆の声に罪悪感を感じたのかリョウはまた頭を下げた。

「あ、いいの !変に期待した私が悪かったし・・・ごめん。それとありがとう・・・そろそろ行くわ。」

「いえ、お気をつけて。」

別れを告げサキミヤは立ち上がってその場を去ろうとした時、不思議な旋律(コエ)が聞こえた・・・様な気がした。



『その力を恐れるな龍を従えしヒトよ。紅き帝は慈悲深き者ぞ。』



薄明かりが世界に広がり声は風とともに溶け、誰一人としてその声の主を知ることはできない。  

実は今回出てきたリョウですが、物語の作ることになったきっかけは彼女です。

最初はメインに入れようとおもったのですが話を肉付けするうちにメインから離れちゃいましたが・・・ネタバレしそうなのでこの辺で。

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