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一章 彷徨う風、確かな光

腑甲斐ない…今の私の状況をどう説明したらいいのだろう。

冷たい床は石で出来ているらしく、六畳程の部屋全体も同じ材質で建てられている。

倉庫として使われていたと思われる部屋に私はいた。当然扉は固く閉じられており、唯一ある小さな窓は通気口らしく鉄格子が編み目の様に組まれている。身につけているのは服だけで他には何もない。

宿を出るときに一応、装備として剣を携帯していたがそれも盗られ、最悪な事に契約した神珠(シンシュ)もない。

武器なら代わりはいくらでもあるがよりによって神珠をなくすなんて…。

ここから出れないかと考えていたが、あまりこういった経験は少なく特に何も浮かばずどうしていいのか分からなくなり 途方に暮れ、走馬灯ではないが今日の事を思い返していた。




“噂や人の話なんてモノは曖昧で偏見や先入観が入ってて信用が出来ない”

この言葉がいつも私の事を嘲笑う様に心の中で繰り返し浮かび、進む事を躊躇して立ち止まってしまう。 今日は天気も良く出かけるのにはうってつけなのに、あの言葉が私を外に出してはくれない。

今いる場所は蒼龍族管轄区(ソウリュウゾクカンカツク)の中でも流通の多い街で有名な蒼景(ソウケイ)に来たのはいいが思っていたほど情報が集まらず、もどかしい日々を過ごしていた。宿屋で部屋を取りもう四日が経とうとしていた。

「ここじゃ、ダメなのかな―…。」

通りが見渡せる宿を取りその一室の窓に肘をついて何度目かのため息をついた。

近頃、昔の事や今までの事を振り返る事か多く、こうして外を見る事が増えたのもそうだし空が茜色になる頃になると決まって窓を閉め、夜になるとまた開けるといった一連の行動をする自分が“あの事”を忘れていないことを実感する。

「夕焼けは綺麗だけど、まだ…ダメなのよね。」

燃える様に赤い夕陽。赤い髪。深紅の炎。脳裏に焼き付いた色が、六年たった今でも恐怖と怒りと悲しみで心は埋め尽くされてしまう。忘れる事なんか出来ない。だから探して、探して…。

「そう…探してるんだ。あの、紅い記憶を。」

微かに唇が動く。

誰にも聞こえない程度に呟きそれまで虚ろだった瞳に光が宿ったかの様に決意を確認する。それからの行動は素早く、荷支度を済ませると露店の光が灯り始めた街へと駆けだした。



まだ、ほのかに明るい西の空には薄い月が見えたが街の明かりでそれに気付く人は少ない。

流通の街なだけあって露天の数が多く人も昼とさほど変わらず、その中を私は商人や旅人を中心に聞き込みを開始する。 日はとうに暮れ、街の明かりなしでは暗闇に染まる頃休憩をとるため家と家にある隙間に身を隠す様に休もうとしたその時

「あんた、“アイツ等”の情報が欲しいんだって ?」

その言葉に振り向くと、後ろには商人らしき男が立っていた。いきなりだったのでうまく言葉が出せず、

「え…と、あいつらって、」

「妖族のことだよ。そうだな、立ち話もなんだから私の店に来ないか ?」

私が言うよりも一瞬早く商人が答えた。 特に有力な情報もなく彼の提案を断る要因がなかったため、誘いを受けその後をついて行った…と、ここまではよかった。

商人の経営する店に入り、案内された部屋に入るといきなり手を縛られ剣と神珠を奪われた。

その後は記憶がない事から 何か嗅がされたのだろう、そしてこの有様。縄抜けぐらいはすぐに抜けれたが、部屋からは出る事が出来なかった。

どうして気付かなかったのかと今更騒いでも状況が変わるまでもなく、再度途方に暮れようとしたその時 わずかに光が差し込んでいた通気口から小さいながらも声が聞こえる。

「………。」

その言葉の内容を聞き取ろうと息を潜める。

「こ…ら、…れも…ろ」

声に集中するが、思ったよりも外壁が厚く上手く聞き取れない。これ以上状況が悪化する事はないと考え強硬手段に出る。

「―――てや !!」

掛け声と共に通気口のある壁に向かってに勢いよく体当たりをするが、壁はヒビすら入ることもなく強硬手段はその成果を上げる事なく終わり代わりに言いようもない痛みと虚しさだけが残る。

「痛―…。神珠さえあれば、こんな壁くらい… !」

しかし、ないもはない。その場に倒れ込み、そう嘆きにも似た悔しさを聞く者はいない筈だった。

ふと、何もないはずの部屋で顔にかかる影があることに気が付く。

「――影 ?どうし…」

疑問を口にしながら影ができる方向に顔を上げると、同年代と思われる青年が部屋の入り口近くでこちらを見ていた。彼の印象に気を捕われている場合ではないが、特徴的な前髪で中央部分だけが長い。

赤と白を基調とした和服装で 目立つ人物だったがその気配は無いに等しく、何より近よりがたいふいんきを持っていた。この部屋に入れる人物は限られている。反射的に身構え、狭い部屋だがその中で距離を取る。

「あいつらの仲間 !?」

「・・・・・・。」

しかし、返事はない。こちらの問いかけは無視した様子でその場を動かず部屋を見ている。その態度が気にくわない私は もう一度、殺気を込めて問う。

「敵なの、味方なの ?」

「さぁ ?」

緊張感のない返答をされ、更に殺気を彼に、確実に向ける。

「…いきなり殺気を向けた奴に答える義理は無い。」

「あ。」

かなり間抜けな声とともに顔をしていたに違いないが、そんな事はおいとくとして、敵ではないと判断した私は現状把握の ため彼に聞きたい事があった。

「…さきの事は謝るわ。貴方に聞きたい事があるのだけれど、いいかしら ?」

「聞いてれば、な。」

多少引っかかる返事だったが、他に打開策が見つからない今、私はこれまでの経緯を簡単に話すことにした。 ここがどこであるか、どうして閉じ込められる事になったのか彼らが何者かであるのかなどを聞いた。

「その話が事実ならここは、あんたを誘った商人の倉庫だ。少し街から離れてはいるがな。

あいつらは大雑把に言うとブローカーってとこか。」

「ブローカーって…何の ?」

「このご時世で高く売れるって言えば、神珠しかないだろう ?」

当然の様に言うが彼だが、私には思いもよらない事実だった。

「神珠なんか売れる物なの ?」

「普通の契約者…“力”が欲しいなら、売らないだろうな。それ以外なら話は別ってことだ。

いくら停戦状態といっても小規模な争いはあるし、部族の上層部は次の(マツリ)に明け暮れてる状態。」

「…たくさんの、それに強大な契約獣の力!」

「そういうこと。お前が何を探してるかなんて興味ないが、次は用心しろ。」

無愛想だけど結構優しい所もあるんだぁ…それよりも重要なことが彼の話から分かった。ここの商人らが違法行為をしている事に。この世界の柱である聖獣との契約をかわした証・神珠は聖獣の力を借りる媒体であり、借宿でもある。

そしてそれは絶大な力を生み出す。そのことから神珠は重要な物とされており、神珠が原因で部族抗争や内部紛争が起こる事がしばしばあった。その事から最近では売買が禁止事項とされている。そして軍に組する私がやる事は一つ。

「よし、行動開始ね!」

「な、何をするつもりだ… ?」

「何って、取り締まるのよ !カモにしたのが軍人だった事が運の尽きよ。」

と誇らしげに話すが、そもそも盗られた事がばれるとヤバい。腰にいつも携帯している剣と掴んだ…つもりだったが 虚しくも何無く手は空を切り同時に叫ぶ。

「…って剣盗られてるんだった !!―――…どうしよう。」

この最悪であろう現状にため息をつくが、ふとある事に気がつく。彼がこの場所にいる理由を知らない。正直言ってこんな 辺鄙な倉庫に来ること自体がおかしいし、ましてやここの関係者ならこんなに警戒心がないのもそうだ。

「ところで貴方、彼らに用事があるのよね ?」

私は目の前にいる彼に自分の推測を述べる様に話しかけるとその意図が分かったのか顔を顰めた。

「…おい、ついでに「助けて」なんて思ってないだろうな ?確かにあいつらに用はあるが、お前に用はない。」

「…それなら話が早いわ !お願い、あいつらから剣と神珠が戻るまで !!ね ?」

「断る。」

「…自分の事は自分でするし、貴方の用事も手伝うから !」

「いらん。」

「…せめてここから出すくらいはいいでしょ ?」

「………分かったから黙ってくれ。」

この際プライドは捨てる覚悟で彼に言い寄る。藁にもすがる思いで引き止めたかいがあったのか、渋々ではあるがとりあえず 協力をしてもらえる事となった。

「他の事はしないからな…。」

念押しに言われたが、そんな事は気にせずこの倉庫から出る事の方が優先事項だ。でもその前にまだ聞いてない事があった。

「あ、そうそう、どう呼んだらいいかな ?」

突然の問いに一瞬戸惑っていたが短く答えてくれた。

「名か ?ノゾミだ。どう呼んでもらってもかまわない。」

「私はサキミヤ・ツァクロー。サキでもいいわよ。」

相変わらず事務的な会話だが、お互いの事に触れた瞬間でもあった。    

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