三章 繋がれた楔
陽は昇って間もない頃、蒼龍族管轄区と朱雀族管轄区をまたぐ森を抜けたノゾミとタクレイア、サキミヤ、新しく加わった妖族のフォメルの4人。まずは近くの朱雀族管轄区の街である朱夏まで行き休憩と補給をしてから昏帝のもとへ向かう事になった。
「それにしてもその色は目立つな。」
「確かに。それって妖族の長だけだったっけ ?]
脈絡のない言葉がタクレイアから発せられればそれに続きサキミヤも頷く。
「言伝えによれば、帝・・・王の証と言われてます、が・・・ !こ、このままでは他部族の集まる所へはいけませんね。
一般には知りえない情報を丁寧に返してくれるフォメルだったがノゾミに睨まれ話を切り替える。
「少し待て、術をかけてくる。」
そう言って三人の傍から離れて茂みの向こうへ消えるノゾミの気配が薄くなった所でタクレイアは疑問があったのでこの機会に答えてくれそうなフォメルに聞く事にした。
「ところで貴女はなぜこのような場所へ ?」
「タク氏 ?そんなの伝言を伝えにじゃないの。」
タクレイアの質問の意図が分からずサキミヤは先ほど聞いた伝言ではないかとフォメルの顔を見るが目線を反らしてバツの悪そうな表情だった。
「・・・。」
「答えたくないのなら勝手に推測をする事になるが・・・。」
タクレイアの質問に答えないフォメル。サキミヤが言ったような建前でも言えばいいものを答えないのは なにかしら都合の悪い事があると言っているも同然だ。それか根本的に素直な性格なのかもしれない。 「まぁ、さっきの事は忘れてほしい。少し警戒をしすぎた。」
「警戒 ?って・・・あぁそう言う事ね。ま~タク氏らしいって言えばそうなのかも。」
「サキミヤ・・・警戒の意識が低いのも問題だと思うが。」
「・・・気をつける。」
警戒すべき相手・・・とするならば妖族はそれに値するのだが、今は彼等よりも蒼龍部族の過激派の軍を 警戒した方が、今は最善である。協力・・・とまでは行かないが話し合える状態ではあるのだから 下手に薮を突っつくものでもない。歴然とした力の差があるのは分かっている。 などとむくれたサキミヤの隣でタクレイアは思っても見るものの謎が多い妖族を警戒せざるを得ない。
「それもあるが、妖族の里にたどり着いたものはい無いと文献には書いてあった。 我々では行使できない術でもあるのか?」
生物学的に言えば全て同じ種族なのだが太古に交わした神獣の違いにより部族は別れ、暮らして来たが 妖族が異なる種族の様に扱われて来たのには契約が大きく関わって来ている。そもそも妖族が契約できる神珠はあやかし。つまりは神格のない力を持つ獣を従わせる事ができる。
今の世界は四神五聖獣が納めているがそれ以前は違ったと言い伝えられている事から妖族とは古に君臨した神の名残なのである。その事から言えば一番古くから神珠を行使して来た部族なのである。
それゆえ、妖族独自の術が在ってもおかしくはないのだが。
がさり、と草木が揺れる音がした方を見ればノゾミが髪色を深紅から赤錆色へと抑えた色にかえて戻ってくると話を少し聞いていたのかタクレイアの問いかけに答える。
「それについては、黙秘。・・・としたいが。」
「別に他の人へ言われても使えないので問題ありませんし、ね。 不思議に思われませんでしたか ?どうして妖族は滅びないのかと。」
ノゾミの言葉を繋ぐ様にフォメルが続けて話す。
「少数でありながら持つ神珠の力は上位だと言うのもありますが、我々が里としている土地がここより離れた場所にあり外部から介入を遮断しているからです。その分違う危険もある訳ですが・・・。」 歯切れの悪い終わり方だったが要はそう言う事らしい。それを聞いて納得した様にタクレイアは頷く。
「外部の介入を遮断・・・と言う事は行き方が問題だった訳か。」
「それって契約とにてる ?」
「そうですね。神獣と人間の住まう空間は異なりますが里はそこまでしてしまうと完全に行き来ができなくなってしますので厳密に言うと違うのですが、そう考えてもらってもかまいません。」
「それぞれの里の者はその〈鍵〉を持っている。・・・この様に宝石に刻んでいる。」
そう取り出したのはノゾミの腰の下げていた刀を取り出し、柄の部分に付いた飾りを2人に見せる。 飾りとしてはシンプルなもので紐通しの穴が中央に開いているくらいで特に変わった事はない様に思えるが角度が変わった時にだけ見える様に文字が刻まれていた。
「隠文字・・・この文字の意味がある訳か。」
「文字の意味 ?〈閃〉って読むのよね?この文字。」
「はい、各部族によって里がある空間が異なるためこの文字は変わります。交流がある人ならばその里ごとの〈鍵〉を持っていたりしますね。」
「外からの侵入は困難だが中からは容易い、とう事か・・・なるほど、先の戦乱はそれであんなに早くから族長が先頭にいたのか。」
ただ妖族の里に行くだけの話だったが以前から疑問に思っていた事が解決した事を思わず口にしていた。その瞬間、何とも言い難いぎこちない空気が流れる。当事者の同族であるノゾミとフォメル、そしてサキミヤは先の戦乱の中でなにかしらあった事を思い出すタクレイア。
「・・・失言だったのなら詫びよう。以前に見た記録で疑問に思う所があってだな・・・それはともかく、その〈鍵〉があればどこからでも里に行けるものなのか ?」
話題を元に戻したがフォメルとサキミヤは依然沈んだままだったが、平然としているノゾミが答える。 「・・・場所、だったな。〈鍵〉さえあれば問題ないが文の返事が来ていない。 返事がなければ行っても追い返されるだけだ。」
「追い返されちゃうの ?」
ここでサキミヤが元に戻ったのか会話に入ってくるがその疑問は当然のものだ。交流があるならば多少の融通は聞いてもいいはず。
「それについては族長同士で決めた事なのです。その、戦乱の発端が文なしで里に訪れた事により起こったものなので・・・。幾ら仲が良くても文の返事を待たずして入った場合、攻撃されても文句は言えないのです。」
「なら、文が返ってくるまでは動けないという事か。昨晩はあまり休めていないので休憩しても ?」
そう言えば永帝のレエスが昨晩来てからまともに休んでいない事に気が付く。
「そうだな・・・。」 この時にもっと急いでいれば・・・と後悔をする事になるとは思ってもなかった。 朝の清々しい空気に雲が流れる影が太陽を遮り陰をつくればひんやりとする風に不穏な空気が混じっていた。それは静かに確実に彼等に近づいていた。




