二章 劔と鉾の重ね
漆黒が深まる森は静かにたたずんでいた。時折吹く風が木の葉をざわめかせ、たき火を揺らめかす。それは同じ赤色をしていたけれど、灯は温かく彼はどこまでも冷たいと感じた。両足を抱える形で座り顔を上げるつもりはなかったけど、隣りから自信をなくした様子でいつにもなくか細い声がした。
「・・・サキミヤ。」
未だ心の整理は出来なかったが彼女より幾分はマシであろうタクレイアが声をかけていた。
「まだはっきりと理由を聞いていない・・・もう一度、」
「もう一度、会えって言うの ?・・・そんな事できないし、嫌よ !!」
普段はあんなにも明るく振る舞っていたサキミヤだったがこの時ばかりはそうもいかなかった。まして彼女は妖族のこととなると感情的になる癖があり、冷静で居ろという方が無理な状況でそれなりに信じていた人物が裏切っていたという事実は重かった。
「私は、あの妖族を・・・閃帝を殺す為に今まで、生きて来たのよ ?・・・割り切れるワケ、ない!!」
「分かっているが・・・。」
「わかってない !わかって欲しくもない !!」
慰めて欲しいわけじゃない・・・理解してほしいとも思ってなかった。他人にこの気持ちがわかる筈ないって思ってる・・・・タクレイアが正しいってことはわかるけど、心がそれを許さなかったからどうする事も出来なかった。ただ、ただ、声を張り上げて怒鳴る事や溢れる涙も止まらなかった。
森は静かに朝を迎え、薄く光が差し込んでいた。薪は既に燃え尽きそこに温もりはない・・・結局2人は一睡もできないまま朝を迎えていた。
「追っ手は待ってはくれなさそうだ。私達だけで・・・このまま朱雀に向かうか ?」
ジッとしていても状況が進展するわけも無く、むしろ悪くなる一方だという現状に考えの末、サキミヤに静かに問いかける。
「・・・感情に流されるかもしれない。けど、このまま逃げるのって性に合ってない・・・と思う。」
「わかった。今なら追いつけるだろう。」
あの後ノゾミがどこにいるのかはわからないが夜の森を抜けるのは通常ならばしない。 恐らく彼もこの近辺にいるはずなのは確かだ。
「印をつけておいて正解だったな。」
「・・・印 ?何それ。」
サキミヤは武術に神珠の力を使っていたからあまり気術の事についてはよく知らない。
「印とは気術師が術の発動時に特定の相手に術をかけたい時に用いるものだ。」
「ふ~ん ?あ、そっかタク氏って両方使えるんだっけ。でもいつの間に ?」
「緊急時に備えて蒼琳院の時にな。さて、日が昇れば彼も動きだすだろう。急ぐぞ ?」
「わ、わかった !」
サキミヤとタクレイアは印を頼りにノゾミを探す為に森の奥に歩き出す。
いくらか歩いた所で印に反応があったのでそれを伝えるとどんな感じなのかと尋ねられるが感覚的なものなので表現はしにくい。気配を探るのと似ている、とサキミヤに言えば何となく理解したようだ。 朝でも薄暗い森の中ではあったが木々の隙間にノゾミの着ていた赤い衣服が見えた。
「探したぞ、ノゾミ。」
「・・・まだ、何かあるのか。」
「大ありよっ !」
「まず、私に話させてくれ。」
今にも飛びかかる勢いのサキミヤを落ち着かせるためタクレイアは話しを切り出す。
「お前の立場を考えれば、責められる立場ではないのは承知の上だが共に旅をして来た間柄なのだから多少話してくれてもよかったのではないか ?」
「言葉を返す様だが、お前も同じだ。」
断言したノゾミの言葉にタクレイアは反論出来ないでいた。思い返せば、レエス達と会う時に彼等と同行していていたのは偶然だった。一瞬の付き合いで、他部族の人間となれば手の内を明かす訳にも行かなかった。彼が押し黙ったのを確認したノゾミはサキミヤの方をむいて言い放った。
「仇など、子供のすることだ。」
「・・・っ !!このぉ――― !!」
彼女の癇に障ったようでその手に剣を持ち感情のまま動く。それを見たタクレイアは止めに入る隙もないくらいに彼女の行動は素早く対面して話していたノゾミを捕らえていた。
・・・キィィン。
静寂な森の中に鋼と鋼が擦れ合う甲高い金属音が響き渡る。
「剣を納めなさい。」
聞き慣れない女性の声と止められた刃にサキミヤは戸惑い、固まったままでタクレイアも今の状況が飲みこめずにいた。返答がない事にその女性は気にも留めない様子で再度、丁寧だが棘のある口調で警告を発した。
「納めなさいと言っているのが分からないのですか ?・・・この方を傷つけるならば容赦は致しません。」
強く鋭い琥珀の双眸がサキミヤを貫く。
「・・・あ、・・・ぁう?」
自分がしようとした事を理解したのか、言葉にならない声をこぼしたサキミヤは力が抜けカラン、と乾いた音と共に剣が手から滑り落ちたその手を見つめる。
「・・・ここで何をしている ?」
気まずい空気が流れたが意外にも最初に切り出したのはノゾミだった。
「文を出さずに来てしまい申し訳ありません。事が急を要するものでしたので・・・。」
「そうか、なら・・・。」
「お前たちは知り合いなのか ?」
今までの状況を無視した会話が続きそうだったので話をそらすため、親しいと思われる間柄にタクレイアは月並みの質問をすると、その女性・・・漆黒の髪は左側で纏められており髪飾りや服の文様からどことなくノゾミと似ていた。彼と同年代か、少し年上ぐらいで強い信念の持ち主だという事が先ほどの事からも伺えるが、どうしても他人を寄せ付けない空気を纏っていた。
「私はフォメル・イージンと申します。以後、御見知りおきを。」
「同じ里の者だ。」
・・・他に言い方があるだろ、と感じたのはそこにいたら誰もが思うだろうが、普段が普段なだけに流すしかなかった。彼との付き合いも短いわけでもないのでそれなりの対応が出来る2人は無口なノゾミの代わりに詳しい事を聞こうと会話をつなげる。
「妖族はそんなにも外に出るものなのか ?」
「・・・好んで外部に出るものは滅多にいません。閃帝である以上は、その責務を果たさなければなりませんので。」
「責務は外に出ないと出来ないのか?」
「一概にそうとは言えませんが、」
「フォメル、余計な事は言うな。・・・急用とは何だ ?」
質問をされたフォメルは淡々と答えていくが、ノゾミに止められタクレイアの思惑は早くも無駄に終わる。
「はい。・・・永帝の動きについてはご存知だと思いますが、昏帝がお会いになりたいそうです。」
「・・・。」
「了承、しますか ?」
「・・・・・・。」
眉間にしわを寄せて真剣に悩んでいるようでその姿も珍しいのだが、それよりも先の会話の方が気になる。永帝が出て来た事にも驚いたが昏帝と言うのも妖族の長なのだろう。妖族は少数ながら強大な力を持っており無干渉であることから今までその存在を詳細に知る事はなかったので好機に違いない、だからこそタクレイアは微かな期待を胸に抱いていた。
「昏帝も長なのだろう ?・・・会わないのか ?」
「えっ !?妖族ってそんなに長がいるの ?」
「・・・サキミヤ、後で説明をするから、話の腰を折らないでくれ・・・。」
「へ ?あ、・・・ごめん。」
妖族を追っているのにも関わらずサキミヤはあまり妖族の部族構成を知らなかった。まぁ、赤髪の妖族しか興味が無かったと言えばそうなのだか、初歩的な部分が意外な所で抜けていよるな・・・とタクレイアは思った。
「会ってもいい・・・が。」
変に区切るノゾミにタクレイアは不思議に思った。
「長同士の面会は問題なのか ?」
「大アリだな。・・・というか。」
「一番、敵にしたくありませんね・・・。」
どういうわけか、今度は手を額に当ててかなり滅入っているノゾミと昏帝と面識があるフォメルも相当その人物に会うのが嫌らしい。妖族同士が敵対している様な噂は最近は聞かなくなったに、だ。ぎこちながらもサキミヤも同じ疑問を抱く。
「会えるって・・・言うくらいだから、争ってるわけじゃないでしょ。」
「話し合えるならそれにこした事はないだろうに。」
二人の考えはわからない事でもないのだが答えたフォメルは言葉を濁しながら返す。
「確かに仰る通りなのですが、昏帝を知らない貴方達はそう言えるのでしょうけど・・・。」
あのノゾミが苦手とする人がいようとは思っていなかったのもあり、一体どんな人物なのか二人は想像もできなかった。当の本人は昏帝と会うのか否か悩んでいたが、決心がついたのか諦めに近い声を発していた。
「不本意だが・・・了承するしかない。」
「状況を考慮すればそうなりますね。早急に、との事でしたのお願いします。」
サキミヤはその言葉に忘れていた怒りを思い出した。
「さっきの事まだ終わってない!!このまま逃げるつもり !?」
「あ ?ハナからそんなつもりはない。」
「じゃあ…貴方達と一緒に行動することになるの !?」
「おい、俺がいつお前等と行動すると言った ?元々、利害一致で行動してただけだ。」
「うっ。」
事実を述べられてそんな事はないと答えようとしていたが、矛盾した想いに少々困りながらもやはり反論は出来ないサキミヤに助け舟がでた。
「私の個人的な見解だがこの際、戦力は多い方がいい。私達も昏帝には会えないのか?」
タクレイアの問いにフォメルは淡々と答える。
「一般的に族長にお会いになるのは紹介が必要です。」
そうか・・・と肩を落とした。タクレイアは少なからずも戦力にしたいのだろう、すぐに他の手だてを考えているのか黙ってしまう。そんな彼を見たノゾミは提案を持ちかける。
「・・・会いたいのなら付いてくればいい。会えるかどうかは…お前達次第だがな。」
横目でタクレイアを見ながらノゾミは言った
新キャラ登場です。
ちなみに彼女はお気に入りキャラだったりします。




