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植物博士モチオののんびり遺跡フィールドワーク ~歌姫カリーナと二人の木の精霊に囲まれて、伝説の果実を育てることになりました~  作者: ゆうぎり
第2話:精霊と遺跡さんぽ

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石の奥で脈打つもの

 石門をくぐった瞬間――


 空気が変わりました。


 それまでの萌芽ほうがの月のやわらかな気配は消え、

 ひんやりと澄んだ沈黙が四人を包み込みます。


 その先に広がっていたのは。


 巨大なドーム状の空間。


 見上げるほど高い石壁。


 そこには光る苔が「とろり」と垂れ下がり、

 淡い翠色の光をゆっくり滴らせていました。


 静かな地下の広場。


 そして――


 その中心に、

 それは立っていました。



 高さ三人分ほどの。


 巨大な琥珀色の結晶。


 まるで遺跡そのものと根を結んでいるように、

 石床の奥へ深く食い込んでいます。


 そして。


「ドクン……」


「ドクン……」


 結晶が脈打ちました。


 まるで、生き物の鼓動のように。


 一パルスごとに光を満たしては、

 ゆっくりと引いていきます。



 モチオくんは眼鏡を「くいっ」と押し上げました。


 いつものゆるい表情は消え、今の彼は、完全に調査官の顔です。


「……なるほど」


 小さく呟きます。


「自律的な脈動反応」


 彼は真鍮の定規を取り出し、

 結晶の光の揺らぎを測り始めました。


「しかも、共鳴周期が一定じゃない」


 カリーナちゃんが首をかしげます。


「周期って?」


「鼓動のリズムだよ」


 モチオくんは答えました。


「普通の共鳴植物なら、吸い上げた魔力は外へ放出する」


「でも、この結晶は違う」


 彼は結晶を見つめます。


「力が一ドロップも外へ逃げていない」


「全部、どこか一箇所に――」


 少し手で握る仕草をしました。


「『ぎゅーっ』と集まっている」



「集めてるってこと?」


 カリーナちゃんが聞きます。


「うん」


 モチオくんは静かに頷きました。


「まるで、何かを守るみたいにね」


 そして振り向きます。


「……アイベリー」


「君には何が見える?」



 アイベリーは静かに前へ歩きました。


 そして。


 結晶に小さな手を伸ばします。


「ぺたっ」


 掌が、そっと触れました。


 広場は、しんと静まり返ります。


 しばらく沈黙。


 やがて。


 アイベリーがゆっくり口を開きました。


「……モチオ」


「この子、泣いてるわけじゃない」


「え?」


「とっても……いそいそしてる」


 カリンベリーが首をかしげます。


「いそいそ?」


 アイベリーは頷きました。


「遠くにある『何か』を」


「忘れないように」


「一生懸命、自分の中に閉じ込めて守ってる」


 彼女は結晶を見つめます。


「それはね――」


「とっても熱い記憶」



「熱い……記憶?」


 モチオくんがそれを書き留めようとした――


 その瞬間。


「ドクン!!」


 結晶が、今までで一番強く脈打ちました。


 広場の石畳が大きく揺れます。


「わっ!」


 カリンベリーが跳ねました。


 モチオくんの鞄の道具が「カチャリ」と音を立てます。


 次の瞬間。


 石床が裂けました。



 結晶の根元から。


 無数の黒い蔦が飛び出します。


「シュバッ!」


「ビシッ!」


 鞭のように空気を裂きながら、

 四人を囲みました。


 遺跡は――


 侵入者を検知したのです。



「下がって!」


 モチオくんが叫びました。


「アイベリー! カリンベリー!」


「ぼくの後ろへ!」


 二人をかばうように前に立ちます。


 怖くないわけではありません。


 でも。


 彼の足は、一歩も下がりませんでした。


 そのとき。


「――任せて、モチオ!」


 カリーナちゃんが飛び出しました。


 蔦が襲いかかります。


「シュッ!」


 でも。


 彼女は「ひらり」とかわしました。


 そして背中の竪琴を構えます。


「ジャーン!!」


 強い音が広場に響きました。



「アイベリー!」


「カリンベリー!」


 カリーナちゃんが笑います。


「私たちの大好き!」


「全部のせるよ!」



 カリンベリーの元気な魔力。


 アイベリーの静かな包容。


 そして。


 カリーナちゃんの歌。


 三つの力が重なります。


「ポロン……」


「ジャーン!」


「キラキラ!」


 共鳴の波が、広場を駆け抜けました。



 荒れ狂っていた蔦が止まります。


「……」


「しなしな……」


 次々と地面へ伏していきました。


 静寂が戻ります。


「トクトク……」


 結晶の鼓動も、穏やかになりました。


 すると。


 琥珀の奥から。


 淡い光の地図が浮かび上がります。



 モチオくんは、そっと結晶に触れました。


 その瞬間。


 指先から、古い記憶が流れ込みます。


 石の記憶。


 遺跡の記憶。


 そして――


 長い約束。



 モチオくんはゆっくり目を開きました。


「……なるほど」


 小さく微笑みます。


「怒っていたわけじゃない」


「ただ」


「誰かが来てくれるのを」


「ずっと待っていたんだね」



 カリーナちゃんが聞きます。


「何が分かったの?」


 モチオくんは結晶を見上げました。


「これは道標だ」


「道標?」


 モチオくんは静かに言いました。


「――大魔導炉へ続く道のね」



 その言葉と同時に。


 結晶の光の地図が、さらに広がります。


 遺跡の奥。


 もっと深く。


 もっと古い場所へ。


 そして。


 その中心には――


 巨大な何かが眠っていました。



 石の奥で眠っていた古い約束が。


 今。


 静かに目を覚まそうとしていました。

調査ログ:補足事項


【物理の理】


一ドロップ:結晶が外部に漏らさず、内部に凝縮して守り抜いた微小な魔力の単位。


一ロード:暴れる蔦を鎮めるために必要だった、心の強さと「大好き」という重み。


【刻の理】


一パルス:結晶が記憶を守りながら刻んできた、悠久の鼓動のリズム。


双星の年:この年に結晶が目覚めたのは、果たして偶然か。あるいは、星の巡りが約束のときを告げたのか。

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