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植物博士モチオののんびり遺跡フィールドワーク ~歌姫カリーナと二人の木の精霊に囲まれて、伝説の果実を育てることになりました~  作者: ゆうぎり
第2話:精霊と遺跡さんぽ

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南端の石路

 朝食を済ませた四人は、萌芽の月の柔らかな光の中、遺跡の南端へと続く古い石路いしみちを歩いていました。


 夜露を含んだ空気はひんやりとしていて、森の奥からは小鳥たちの声が聞こえてきます。

 石路はところどころ苔むし、長い年月を静かに物語っていました。


 モチオくんは丸っこい革鞄を肩にかけ、真鍮の定規を手に「とてとて」と歩いています。研究者らしい真面目な足取りです。


 その頭の上では、カリンベリーがちょこんと座り、


「ここが一番高いんだもん!」


 と、すっかりお気に入りの展望台にしていました。

 まるで船の見張り台にでも乗っているような顔で、きょろきょろと周囲を眺めています。


 少し前を歩くのはカリーナちゃん。


「タッタッタッ」


 と弾むような足取りで進みながら、背中の竪琴をときどき「ポロン」と鳴らしていました。


 森の葉擦れの音、小鳥のさえずり、遠くの風の気配。

 カリーナちゃんは、それらと一緒に音を重ねて遊んでいるのです。


「ふふっ、今日は森のリズムがいい感じ!」


 彼女はくるりと振り返りました。


 その隣では、アイベリーが静かに歩いています。

 小さな手で、そっとモチオくんの服の裾を掴んだまま。


 離れないように。

 でも邪魔にならないように。


 そんな遠慮がちな優しさで歩いていました。


「ねえ、モチオ」


 カリーナちゃんが笑顔で声をかけます。


「今日のこの道、なんだか昨日より『ポカポカ』してない?

 石がみんなで笑ってるみたい!」


 太陽みたいな笑顔でした。


 モチオくんは、くいっと眼鏡を押し上げます。

 そして足元の石路をじっと観察しました。


 石の継ぎ目から、小さな苔や芽が顔を出しています。


「……ああ」


 モチオくんは静かに頷きました。


「君の言い方の方が、正確かもしれないね」


「え?」


 カリーナちゃんが首をかしげます。


 モチオくんは少し考え込みながら続けました。


「ぼくはいつも、数値を測ったり、理屈を並べたりすることに夢中だった。

 でも最近思うんだ。この遺跡は、ただの石の集合じゃない」


 彼はゆっくりと周囲を見回しました。


 石路。

 苔。

 蔦。

 木々。

 土。


 すべてが静かに呼吸しているように見えます。


「植物を育む巨大な生命体。

 ……ぼくには、そんなふうに見えるよ」


 少しだけ静かな空気が流れました。


 そして――


 モチオくんは、はっとして咳払いをしました。


「……いや、なんでもないよ」


 少し照れくさくなったのです。

 自分にしては、ずいぶん詩的なことを言ってしまった気がしました。


 彼は定規を革鞄にしまい、歩き出します。


「ただ、この石路も、その下の土も、全部が繋がってあの子たちを守っているんだなって思ったんだ。

 ……さあ、先を急ごう」


 少しだけ歩調を早めました。


 その背中を見ながら、カリーナちゃんは「ふふん」と得意げに笑います。


「ほら、やっぱりモチオもそう思うでしょ!」


 彼女はくるりと前を向き、元気よく歩きながら言いました。


「理屈も大事だけどさ。

 こういう『わくわく』が一番大事なんだから!」


 石路の両脇には、萌芽の月の光を吸い込んだ蕾たちが並んでいました。

 小さく「ぷっくり」と膨らみ、開く瞬間を待っています。


 アイベリーが、そのうちの一つにそっと触れました。


 すると――


「ふわっ」


 優しい甘い香りが空気に広がります。


 まるで森が、小さく笑ったみたいでした。


「モチオ」


 アイベリーが静かな声で言います。


「この石路さん、とっても優しい記憶を持っています」


 彼女は目を細めました。


「……わたしたちを、秘密の場所へ案内してくれるみたい」


「えっ、ほんと!?」


 カリンベリーが頭の上で跳ねました。


「わーい! 秘密の場所!

 秘密の場所だー!」


 モチオくんの頭は、すっかり賑やかな展望台です。


 一節、また一節と歩くごとに。


 森の香りは少しずつ濃くなり、

 遺跡の気配が足裏から「トクトク」と伝わってくるようでした。


 モチオくんはふと気づきます。


 この時間は、ただの調査ではありません。


 大好きな仲間たちと歩く――

 何よりも贅沢な時間でした。


 やがて。


 石路の先に、ひとつの影が見えてきます。


 巨大な石門。


 古い蔦が絡まり合い、まるで生き物のように石を覆っていました。


 その向こうは――


 モチオくんも、まだ一度も足を踏み入れたことのない場所。

 遺跡の心臓部へと続くエリアです。


 モチオくんは足を止めました。


 そして、仲間たちを振り返ります。


「よし」


 穏やかな声でした。


「がんばりすぎずに、でもしっかり観察していこう」


 彼は少し笑いました。


「みんな、準備はいいかな?」


 カリーナちゃんが元気よく頷きます。

 カリンベリーは「いくぞー!」と拳を上げます。

 アイベリーは静かに、でもしっかりと頷きました。


 こうして四人は――


 まだ誰も知らない、遺跡の奥へと歩き出したのでした。

調査ログ:補足事項


【物理の理】


一ストライド:カリーナちゃんが元気に踏みしめる、弾むような歩幅。


一リーグ:観察小屋からこの石門まで、四人で語らいながら歩いてきた親密な距離。


【刻の理】


一節いっせつ:歩くごとに景色が移ろい、会話が重なっていく時間の重なり。


光弦こうげん:朝の光が石門を照らし、新しい冒険を祝福する刻限。

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