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植物博士モチオののんびり遺跡フィールドワーク ~歌姫カリーナと二人の木の精霊に囲まれて、伝説の果実を育てることになりました~  作者: ゆうぎり
第1話 歌う花と、のんびり植物博士

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精霊との邂逅

 カリーナちゃんの歌声が止まったあとも、遺跡の石柱たちは「じわわっ」と余韻を吸い込み、かすかな振動を続けていました。


 まるで石そのものが、音楽を 一節いっせつの淀みもなく覚えてしまったかのようです。


 名もなき新芽が放つ淡い琥珀色の光は、二人の足元をやさしく照らしていました。


 その場所だけが、夜の森から切り取られた小さな陽だまりのように、ほんのり温かく輝いています。


「ふう……なんだか、この遺跡も一緒に歌ってくれてたみたい」


 カリーナちゃんが竪琴を抱えながら言いました。


 モチオくんは頷きます。


「うん。共鳴してたんだと思うよ」


「石柱の振動、さっきの旋律と同じリズムで続いてる」


 少し考えてから、続けました。


「もしかすると、この遺跡自体が音を記憶する構造なのかもしれないね」


 モチオくんが日誌を開き、新しい観察記録を書こうとした――そのときでした。


 遺跡の空気が、ふわっと甘い香りに包まれます。


 それは、太陽を浴びた果実の香りと、雨上がりの森の苔の香り。


 そのふたつが 一ドロップの狂いもなく溶け合った、不思議な香りでした。


「あら、とってもちゅてきな……調べ、ね」


 やわらかな声が、石柱の影の奥から響きます。


「ふふ……ききほれちゃったわ。……あ、……聴き惚れてしまいましたわ!」


 次の瞬間。


「ころん」


 小さな丸い影が、転がるように姿を現しました。


 深い森色のベリーのような姿。


 膝の高さにも満たない、小さな丸い生き物です。


 そのあとから、もう一つ。


「とてとて」と歩きながら、もう一匹が出てきました。


 二つの丸い生き物は、モチオくんたちの方へ近づいてきます。


 まるで 十ストライド進むのも一生懸命な子どもみたいな歩き方でした。


「わあ、かわいい!」


 カリーナちゃんの目が輝きます。


「モチオ、見て見て! すっごく丸っこいのが来た!」


 その声を聞くと、二つの影は嬉しそうにぴょんと弾みました。


 そしてモチオくんの足元まで駆け寄ります。


 モチオくんはその場に座ったまま、彼らと同じ目線になるよう体を丸めました。


「やあ、こんにちは」


 やさしい声で話しかけます。


「君たちは、この森の住人さんかな?」


 すると――


 二つの小さな体が、しゅわわっと光に包まれました。


 光がすっと消えたあと。


 そこに立っていたのは――


 小さな女の子の姿でした。


 カリーナちゃんの腰くらいの背丈。


 森の精霊のような、幼い少女たちです。


「モチオ! カリーナちゃん!」


 黄金色の髪の子が元気よく叫びました。


「やっと会えたーっ!」


「ぴょーん!」


 そのまま 一ストライドを軽々と飛び越え――


 モチオくんに勢いよく抱きつきます。


「うわわっ!」


 モチオくんはぐらっとよろけました。


 まるで 一ロード以上の衝撃です。


 それでも、丸っこい体でなんとか踏ん張りました。


「わ、わわ……元気だねぇ」


 少し驚きながら笑います。


「ぼくたちの名前、知っててくれたの?」


 少女は元気いっぱい頷きました。


「うんっ!」


「ずっと森の中から見てたもん!」


 一方で。


 もう一人の少女は静かにカリーナちゃんへ近づきました。


 緑の髪の子です。


 そっと袖をつまみます。


「つん……」


 カリーナちゃんはすぐにしゃがみ込みました。


「どうしたの?」


 少女は少し恥ずかしそうに見上げます。


 カリーナちゃんがそっと抱きしめると、その体はとても軽いのに、どこか温かく感じました。


 まるで 一ドロップの不安も溶かしてしまうような、やさしい温度です。


「アイベリーに、カリンベリー……」


 カリーナちゃんは微笑みました。


「ふふ、素敵な名前!」


 モチノキの精霊 アイベリー。


 静かな森のやさしさをそのまま形にしたような存在です。


 モチオくんが注いだ 一フラスコの水で、新芽が元気になったことを、とても嬉しく思っているようでした。


 そして。


 カリンの精霊 カリンベリー。


 太陽みたいに元気いっぱいの女の子です。


 彼女はくんくんと鼻を鳴らしました。


 そして――


 モチオくんの鞄の中を見つけます。


「お菓子!」


 目をきらきらさせました。


 そこには 一グレインほどの小さなお菓子が入っていたのです。


 モチオくんは優しく笑いました。


「ぼくはモチオ」


「こっちはカリーナちゃん」


 そして、少し照れくさそうに言います。


「……これから、よろしくね」


 その言葉が響いた瞬間。


 遺跡の空気が、ふわりと温かくなりました。


 新芽の光が ぽわっ と広がります。


 まるで世界そのものが、新しい仲間を歓迎しているみたいでした。


 一節ごとに。


 世界に、新しい色が加わっていく。


 モチオくんは、胸の奥で静かに思います。


 測ろうとしていた世界は――


 想像していたより、ずっと可愛くて。


 ずっと温かい場所だったのだと。


 カリーナちゃんが元気に言いました。


「うん! みんなで行けば、きっと大丈夫!」


 モチオくんも頷きます。


「そうだね」


 カリーナちゃんは笑います。


「どんな道でも、きっと楽しいわ!」


 四人の笑顔が重なりました。


 夕暮れの遺跡は。


 世界でいちばん幸せな色に、ゆっくり染まっていきました。

調査ログ:補足事項


【物理の理:物質の尺度】


一ストライド:モチオくんと新芽の、手を伸ばせば届く親密な観察距離。また、カリンベリーが「ぴょーん!」と軽快に飛び越える、元気な跳躍の幅でもある。


十ストライド:小さな精霊たちが「とてとて」と一生懸命に歩む、愛らしい歩幅の積み重ね。


一ロード:モチオくんが鞄に入れている重厚な魔導書の重み。カリンベリーが勢いよく抱きついてきたとき、彼が全身で受け止めた「生命の確かな手応え」の基準。


一ドロップ:新芽からこぼれた魔力を帯びた雫。抱きしめた瞬間に心へ染み渡る、安心感という名の潤い。


一フラスコ:モチオくんが新芽の喉を潤すために注いだ、透き通った水の量。錬金術師の器を満たす、命を育むための標準的な単位。


一グレイン:鞄に忍ばせたお菓子の、微小だけれど確かな喜びの重み。精霊たちの指先に宿る、繊細な魔法の粒。


【刻の理】


一パルス:新芽が放つ琥珀色の光が、静かに明滅する生命のリズム。鼓動のように刻まれる、生きている証。


一節いっせつ:メロディが展開し、光の色が変化していく心地よい時間の単位。新しい仲間が増え、世界の景色が鮮やかに塗り替えられていく、かけがえのない瞬間。


影弦えいげん:共鳴の光が最も美しく映える、夕暮れの穏やかな刻限。一日の観測を終え、安らぎへと向かう時間。


【精霊の礼節:背伸びの理】


一ディジット(指先ほど)の背伸び:精霊たちは、自分たちを見つけてくれたモチオくんやカリーナちゃんに対して、「ちゃんとした存在」でありたいと願っています。そのため、ふとした瞬間に幼い口調が出そうになると、一瞬いっしゅんで言い直して居住まいを正すのです。その一所懸命な姿が、一グレインの濁りもない彼らの純粋さを物語っています。

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