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植物博士モチオののんびり遺跡フィールドワーク ~歌姫カリーナと二人の木の精霊に囲まれて、伝説の果実を育てることになりました~  作者: ゆうぎり
第1話 歌う花と、のんびり植物博士

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歌姫の登場

 タッタッタッ――ピョン!


 軽やかな足音が、遺跡の静寂を弾ませました。


 崩れた石柱の影から、ひとりの少女が元気よく飛び出してきます。


「モチオー! またそんなところで地面とにらめっこしてるのー?」


 弾けるような声。


 声の主は、モチオくんと同じくらいの見た目年齢の少女――カリーナちゃんでした。


 明るい笑顔。

 元気いっぱいの動き。


 モチオくんより 一ディジットほど背が低く、動きやすそうな冒険者の服を着ています。


 背中には、小さな竪琴。


 歩くたびに、弦がかすかに揺れて――

 一節の澱みもない澄んだ音を鳴らしました。


 腰のポーチからは、モチオくんの調査道具が「カチャカチャ」と楽しそうに鳴っています。


「あ、カリーナちゃん。おかえりなさい」


 モチオくんは、のんびりと顔を上げました。


「街のギルドでの用事は、もう終わったの?」


 するとカリーナちゃんは、ぷーっと頬を膨らませます。


「もう! とっくに終わらせてきたわよ!」


 腕を組んで、ぷんぷん。


「影弦の刻になっても帰ってこないから、心配して迎えに来たんじゃない!」


 怒っているような顔。


 でも次の瞬間。


「よいしょっと!」


 カリーナちゃんは、モチオくんの隣にドスンと座りました。


 距離は――一ストライド。


 怒っているのに、しっかり近くに座るあたりが彼女らしいところです。


 モチオくんは、くすっと笑いました。


「えへへ、ごめんね」


 そして、地面の小さな芽を指さします。


「でも見て、カリーナちゃん。この新芽くん」


「さっき 一節のあいだに、とっても綺麗に光ったんだよ」


「えっ、ホント!?」


 さっきまで怒っていたのが嘘のように、カリーナちゃんは身を乗り出しました。


「どれどれ!」


 新芽を覗き込みます。


「うわあ……!」


 ぱっと顔が明るくなりました。


「ほんとだ! キラキラしてる!」


 指先で葉っぱを指さします。


「このギザギザのところまで、なんだかワクワクしてる感じ!」


「ほら、ピカピカしてる!」


 カリーナちゃんの言葉は、いつもオノマトペがいっぱいです。


 でも不思議と、それがぴったりくる。


 彼女が話すだけで、遺跡の空気まで

 一ドロップの濁りもなく明るくなるようでした。


 理屈っぽい植物博士と、感情豊かな歌姫。


 正反対のふたり。


 それでも、これまでの長い旅路を一緒に歩いてきました。


 何十リーグもの道を。


 モチオくんは、ふわっと微笑みます。


 するとカリーナちゃんも、つられて目を細めました。


「ねえ、モチオ」


 カリーナちゃんは新芽を見つめたまま言いました。


「この子、きっと歌を待ってるんだわ」


「……歌?」


「うん!」


 くるっと振り向いて、にっこり笑います。


「わたし、ピンときちゃった!」


 モチオくんは少し考えてから、頷きました。


「カリーナちゃんの『ピン』は、だいたい当たるからね」


 そして、やさしく続けます。


「ぼくも、君の歌を聴かせてあげたいなって思ってたところなんだ」


 その言葉に。


 カリーナちゃんは一瞬、動きを止めました。


「……えへへ」


 少しだけ照れたように、鼻の頭をこすります。


 モチオくんの優しさは、誰にでも平等です。


 誰にでも向けられる、やさしい「大好き」。


 でも――


 それを向けられると、

 カリーナちゃんの胸の奥は、ちょっとだけきゅんとするのでした。


「よしっ!」


 ぱっと立ち上がります。


「だったら、とっておきの一曲を歌っちゃうわよ!」


 背中の竪琴を、シュッと取り出しました。


 夕暮れの 光弦 が弦に当たり、きらりと輝きます。


「モチオ、特等席で聴いててね!」


 モチオくんは嬉しそうに頷きました。


 遺跡は、ゆっくりと琥珀色に染まっていきます。


 まるでこの場所が、これから起こる

 小さな奇跡を知っているかのように。


 カリーナちゃんが竪琴を構えました。


 細い指が、そっと弦に触れます。


 風が、ふわりと吹き抜けました。


 そして――


 最初の音が。


 静かな遺跡に、やさしく響きました。


 その瞬間。


 地面の新芽が、

 ふわりと光った。


 まるで、

 歌に応えるように。

調査ログ:補足事項


【物理の理】


一ディジット:指の幅ほどの、ごくわずかな長さ。


一ストライド:一歩の幅。二人の親密な距離感。


一リーグ:千回のストライドを積み重ねた距離。道端の草花の変化を楽しみながら歩くと、ちょうど一刻いっこくの半分ほどが過ぎ去る。


何十リーグ:モチオくんとカリーナちゃんが、これまでの調査で共に踏みしめてきた膨大な距離。

一リーグ歩くごとに新しい発見があり、一節いっせつの会話を交わし、一グレインの思い出を積み上げてきた「信頼の厚み」を象徴する尺度。


【刻の理】


影弦えいげん:影が長く伸び、一日が収束に向かう刻限。


一節いっせつ:変化を見逃さないための最小の観測単位。


一刻いっこく:モチオくんが腰を据えて一箇所をじっくり観察し、日誌を三〜五ページほど書き上げるのにちょうどよい区切り。

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