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植物博士モチオののんびり遺跡フィールドワーク ~歌姫カリーナと二人の木の精霊に囲まれて、伝説の果実を育てることになりました~  作者: ゆうぎり
第4話:星瞬草と名付けた夜

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18/20

遺跡の星

 月が天頂に差しかかり、

 夜露が森の葉を「しっとり」と濡らす頃。


 四人は再び、あの日出会った

 南の遺跡へと足を運んでいました。


 モチオくんの腕の中には、

 大切に抱えられた古い植木鉢。


 その中の新芽は、夜の森の奥へ近づくにつれ、

 まるで見えない誰かと「内緒話」をしているかのように、

 期待に震えながら小さな火花を散らしています。


「……ここだね」


 モチオくんが足を止めました。


「一節も違わぬ、記憶の場所だ」


 辿り着いたのは、

 崩れかけた円形の石造りの広場でした。


 かつて何らかの儀式が行われていたのか、

 周囲には風化した石柱が並び、

 まるで巨人たちの墓標のように

 静かに夜空を見上げています。


 モチオくんは慎重に歩み寄り、

 広場の中央にある真っ白な石の台座の上へ

 新芽をそっと置きました。


 その瞬間でした。


 新芽の葉脈から

 青白い光が溢れ出しました。


 それは液体のように

 とろり、と台座を流れ落ち、


 石の床へと広がっていきます。


 光の波紋が

 床に埋もれていた古い幾何学模様に触れた――


 次の瞬間。


 広場全体が、

 眩い光の海へと変わりました。


「わあ……!」


 カリンベリーが目を丸くします。


「見て! 足元が、お星様の絨毯みたい!」


 光の筋を追いかけて

 ぴょん、ぴょん、と跳ね回ります。


 地面に浮かび上がった文様は

 まるで星座のようでした。


 そしてその星の配置が――


 新芽の拍動と

 寸分違わぬ周期で、淡く瞬き始めたのです。


「……同調シンクロしている」


 モチオくんは思わず膝をつきました。


「いや……違う」


 彼は光る床の文様を

 慎重に指先でなぞります。


 冷たい石の奥から

 トクトク、と温かな鼓動が伝わってきました。


「この場所そのものが」


 モチオくんの声は小さく、しかし確信に満ちていました。


「この子の放つ微細な魔力を増幅し、

 大地へと還すための巨大な装置だったんだ」


 彼の瞳が、ゆっくりと夜空へ向きます。


(……理屈で言えば)


 これは地脈のエネルギーを視覚化した回路だ。


 だが、この配置は――


 あまりにも精密でした。


(まるで……)


 天にある星々を地上へ繋ぎ止め、

 その恵みを植物たちへ分け与えようとしたかのような。


 古の誰かの、

 優しき意志。


「……ここは」


 アイベリーが静かに呟きました。


 彼女は祈るように

 胸の前で両手を合わせています。


「星を模した『祈りの庭』だったのね」


 その瞳には、

 遠い記憶が揺れているようでした。


 かつてこの場所で

 同じ光を見つめていた人々の記憶。


 森の民の、静かな祈り。


「星……?」


 カリンベリーが夜空を指差しました。


「あっ! 本当だ!」


「お空のお星様と、足元の光が

 おんなじリズムで『チカチカ』してる!」


 見上げれば――


 満天の星々が広がっていました。


 まるで地上に咲いた

 この小さな光に応えるように、


 一節ごとに寄り添い合いながら

 静かに明滅を繰り返しています。


「……きれい」


 カリーナちゃんの吐息が

 夜の空気に白く溶けました。


 彼女は新芽に歩み寄ります。


 月光に透ける

 小さな葉。


 それを、一ドロップの雫さえ落とさないほど

 やさしい視線で見つめました。


「ねえ、モチオ」


 カリーナちゃんが静かに言います。


「星って、あんなに遠いのに」


「どうしてこんなに

 懐かしい感じがするのかしら」


 少し考えて、続けました。


「触れることもできないのに

 心の中が『ぽかぽか』するの」


 モチオくんは夜空を見上げました。


「……光が届くまでに」


「何年も、何十年もかかるからね」


 静かに答えます。


「星を見上げることは、

 遠い過去の輝きを

 今この瞬間に受け取ることと同じなんだ」


 少しだけ間が空きました。


 そして彼は

 目の前の新芽を見つめます。


 小さく。


 けれど、力強く瞬く光。


(……空の星は)


 ぼくたちの手には届かない。


 でも。


(この光は)


 いま、ぼくの目の前にある。


 ぼくの手が届く場所で。


 一生懸命に、生きている。


 遠い空の記憶を

 今この瞬間の温もりに変えて。


 ぼくたちに笑いかけている。


 モチオくんの胸の中で

 ひとつの言葉が形になっていきました。


 一グレインの迷いもない名前。


「……地上の、星」


 その言葉が

 夜の遺跡の風に乗り、静かに広がりました。


 すると。


 新芽は一度だけ――


 強く、黄金色に瞬きました。


 まるで。


 その名前を

 気に入ったと言うかのように。

調査ログ:補足事項


【物理の理】


一ドロップ:新芽の葉を滑り落ちる朝露のような、瑞々しくも儚い量。


一グレイン:石畳の文様に溜まる微かな砂塵のような、極めて小さな存在。


【刻の理】


一節いっせつ:夜空の星が一度瞬き、それに応えるように地上の光が返事をするまでの時間。

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