過保護な守護精霊たち
翌朝。
窓の外で小鳥たちが「ピチチ」とさえずり、萌芽の月の訪れを知らせていました。
モチオくんは、いつものように精霊たちに顔を覗き込まれて……ではなく、顔に降ってきた「粉」のせいで目を覚ましました。
「……ふぇ、ふぇっくしゅ! んん……なんだか、すごく眠い……」
目をこすりながら体を起こそうとすると、頭が「ふわふわ」とします。
まるで綿菓子の中に閉じ込められたような、妙に心地よい眠気でした。
見上げると、天井から翠色の微細な粒子が、雪のように「しんしん」と降り注いでいます。
「おはよう、モチオ。それは私のお昼寝胞子。
急に動くと、もっとたくさん降ってきて、一日中夢の中へ連れて行ってしまうから、気をつけて」
枕元に立っていたのはアイベリー。
その頭には、どこから持ってきたのか、大きな柏の葉で作った「兜」が乗っていました。
「アイベリーちゃん、どうしてそんな格好を……。あ、痛っ!?」
ベッドから足を下ろした瞬間、奇妙な感触が走りました。
床一面に、鮮やかな緑色のツタが網目のように張り巡らされていたのです。
触れたスリッパは、そのツタに「ぴたっ」と吸い付いて離れません。
「モチオ、動いちゃダメーッ!
そこから先は、あたしが作った『ぺたぺたツタ』の迷路なんだから!」
声の主はカリンベリー。
窓際の植木鉢の前で、小さな木の枝を槍のように構え、きりっと眉を吊り上げています。
彼女もまた、カリンの皮で作ったような黄金色の胸当てを身につけ、すっかり「守護騎士」の構えでした。
「カリンベリーちゃん、これは一体どういうことだい?
ぼくは、昨日植え替えたあの子の状態を確認したいんだけど……」
「ダメーッ!
この子は昨日の夜、一生懸命月光を編んで、今はとってもデリケートな『おやすみ中』なんだから!
モチオみたいな大きい人が『ドスドス』近づいたら、びっくりして光が割れちゃうよ!」
「ぼく、そんなにドスドス歩かないよ……」
モチオくんは困り果てて、その場で固まってしまいました。
普段は「大好き」を連発して甘えてくる二人が、今日はまるで別人です。
アイベリーは静かに胞子を操り、
モチオくんが少しでも鉢に近づこうとすれば、さらなる「眠りの霧」を降らせようとしています。
観察小屋は、一晩のうちに外敵を阻む「緑の要塞」へと変貌していました。
研究机の周りもツタで幾重にも囲まれ、指一本通せない状態です。
「いや、でもね。
ぼくが葉脈の走り方を確認して、適切な栄養を与えないと、この子の健康が損なわれる可能性があるんだ。
一グレインの狂いもないデータが必要なんだよ」
「だーめー!
データの前に『あんしん』が必要なの!」
カリンベリーは枝の槍をびしっと突き出しました。
「アイベリー、モチオをあっちへ追っ払って!」
「了解しました、カリンベリー。
モチオ、ごめんなさい。三節だけ、眠っていてくださいね」
「わっ、ちょっと待っ……!」
アイベリーが羽を「バサッ」と振ると、お昼寝胞子が濃密な雲となってモチオくんを包み込みました。
抵抗する間もなく、モチオくんは再びベッドへ――
「ばたん」
自分の家。
自分の研究室。
それなのに。
過保護な精霊たちの鉄壁の守備の前で、植物博士は手も足も出ない「迷子」になってしまったのでした。
調査ログ:補足事項
【物理の理】
一グレイン:モチオくんが追求しようとした、解析データの極微な精度。あるいは、精霊の兜からこぼれた柏の葉の欠片ほどの重さ。
【刻の理】
一節:お昼寝胞子が脳を揺らし、モチオくんが再び夢の淵へと沈んでいくまでの短い時間。
三節:アイベリーが宣告した、強制的な二度寝の刑期。




