表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
植物博士モチオののんびり遺跡フィールドワーク ~歌姫カリーナと二人の木の精霊に囲まれて、伝説の果実を育てることになりました~  作者: ゆうぎり
第2話:精霊と遺跡さんぽ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/12

灯りの下で

 すっかり日が落ち、萌芽の月の夜風が窓を「カタカタ」と揺らす頃。

 モチオくんの観察小屋の中は、古い真鍮のランプが灯す琥珀色の光で、まるでお菓子箱の中のような温かさに満たされていました。


 テーブルの上には、カリーナちゃんが町で買ってきたふかふかの丸パンと、アイベリーちゃんが森の恵みで仕立てたスープが並んでいます。

 湯気が「ぽわぽわ」と立ち上り、小屋の中にやさしい香りが広がっていました。


「ふふ。やっぱりみんなで食べるごはんは、一グレインの調味料よりもずっと美味しく感じるね」


 モチオくんはパンをちぎって口に運びながら、おっとりと目を細めます。


 その隣では、カリンベリーがパンの欠片を両手で大事そうに抱え、


「おいしーっ!」


 と、全身で喜びを表現していました。


 アイベリーちゃんは静かにスープを啜りながら、時折モチオくんの食べこぼしを「うふふ」と笑って拭いてあげています。


 小さな小屋の中には、暖かな笑い声が「ふわふわ」と漂っていました。


 やがて賑やかな夕食が終わると、モチオくんは椅子から立ち上がり、壁に掛けてある大きな地図を広げました。


 そこには今日、遺跡で出会った結晶体が最後に示した幾何学模様が、モチオくんの丁寧な筆致で書き加えられています。


「……みんな、ちょっとこれを見て」


 モチオくんは羊皮紙を指差しました。


「この森で見つけた、あの不思議な『光る子』が示した座標。そして今日、結晶体が教えてくれた導線。これらを重ね合わせてみると——どうやら一つの場所に辿り着くんだ」


 カリーナちゃんがパンを飲み込んで首を傾げました。


「どこ?」


 モチオくんは、地図の奥を指差します。


「おそらく、アイレックス創生期に造られた施設……

 伝承では『大魔導炉』と呼ばれている場所だ」


「だい……まどーろ?」


 カリーナちゃんは、まだ聞き慣れない言葉を口の中で転がしました。


 モチオくんは眼鏡を少し押し上げます。

 研究者の瞳が、静かに輝いていました。


「うん。昔、この森全体に“温かな鼓動”を送り続けていたとされる装置だよ。植物が健やかに育つための、いわば森の心臓部だね」


 モチオくんは少しだけ声を落としました。


「今はもう眠っているはずだけど……もしあそこを調べることができれば、この森の仕組みがもっと分かるかもしれない」


 カリンベリーがぴょんと立ち上がります。


「森の心臓! なんだかワクワクする!」


 モチオくんは頷きました。


「もしかしたら、この森の草花がもっと元気に育つ方法も見つかるかもしれない。今日見た新芽くんみたいに、みんながもっと『ニコニコ』できるようになるかもしれないんだ」


 モチオくんは少し照れたように笑いました。


「だから……明日から、本格的な遠征準備を始めようと思う。そこは今いる場所よりずっと深い森だ。一節いっせつたりとも油断できない道のりになるはずだから」


 小屋の中に、ほんの少しだけ静かな空気が流れました。


 ——けれど。


「バン!」


 次の瞬間、テーブルを叩く音が響きました。


 カリーナちゃんです。


「何を改まって言ってるのよ!」


 彼女は勢いよく立ち上がりました。


「遠征なんて、最初から一緒に行くに決まってるじゃない!」


「カリーナちゃん……」


「モチオ一人じゃ、また石に躓いてお団子になっちゃうんだから!」


 カリンベリーがすかさず頷きます。


「そうそう!」


 そしてモチオくんの肩に飛び乗り、


「あたしたちも行くもん! モチオを守るのが、あたしたち精霊の役目なんだから!」


 アイベリーちゃんも、静かに頷きました。

 やさしくモチオくんの裾を握ります。


 モチオくんは、少し驚いた顔をしてから——

 ゆっくり微笑みました。


「ありがとう」


 その声は、とてもまっすぐでした。


「ぼく一人じゃない。君の歌と、みんなの力。そして、ぼくの知識。きっと辿り着けると思う」


 モチオくんは机に戻り、日誌を開きました。


 今日の出来事を、一行ずつ丁寧に書き記していきます。


 最後のページに、静かにインクが落ちました。


 一ドロップのインクが紙に染み込みます。


 窓の外では、夜の森が「ざわざわ」と静かに息づいていました。


 明日からの旅は、きっと簡単ではないでしょう。

 深い森には、まだ知らない秘密が眠っているはずです。


 それでも。


 この灯りの下に集まった四人の笑顔を見ていると、

 どんな困難も、長いお散歩の途中にある小さな出来事のように思えてくるのでした。


 ランプの火が小さく揺れ、机の上の地図の端を照らします。


 そこには、森のさらに奥へと続く細い道が描かれていました。


 静かな夜の中で——

 新しい旅の気配が、そっと息づいていました。

調査ログ:補足事項


【物理の理】


一グレイン:味の決め手となるスパイス、あるいは心に宿る微かな幸福の重み。


一ドロップ:日誌に歴史を刻むインク一滴。あるいは、未来を潤すための最小の決意。


【刻の理】


一節いっせつ:深い森での警戒を解くことができない、緊張感のある時間の最小単位。


一パルス:大魔導炉がかつて刻み、そして再び四人が呼び覚まそうとしている森の鼓動。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ