手枷・足枷
(コイツ、おそろしくカンがするどい)
キリガクレとしては、いくら前方の看守にたいして注意をしており、意識を向けていたとはいえ、ニンジャの出であるじぶんに、まったく気づかれることなく、エルヒーは、じぶんのうしろに、一定時間いたである。
コレだけでも、十分すぎるほど驚かされるのに、さらに、些細な点から、コチラの真意というものを、するどく見ぬいてきたのだ。
(ナニモノなんだ、コイツは)
ここでふと、気になることがでてきた。
(さっき、このエルヒーというオンナは、じぶんのことを、いや、あの3人もふくめて、4人とも、異能者じゃないと言ってたが)
キリガクレとしては、このことに、どうにも妙な感じがした。違和感といってもいい。
(フツウ、異能者ってのは、そのカラダから、あるていど異能がソトにでてる。どれほどソトにでるのをふせごうとしても、漏れでることを、カンゼンにふせぐことはできん。
その異能者の持ってるチカラが、おおきければおおきいほど、つよければつよいほど、ソトに漏れでてくる分量は増える。それこそ、あの門番の老人のように。
見たところ、このエルヒーというオンナだけじゃなく、あっちの3人も、ココロなしか、それこそ微妙な感じだが、異能が漏れでてるように感じるんだが)
「チョット確認をしたいんだけど、いいかい?」
「なんですか?」
「さっきエルヒーは、じぶんたち4人は、異能者じゃないと言ってたけど、ソレは単純に、異能を、今まで一度もつかったことがない。つまり、使えたことがない。と、こういうことかな?」
「ええ、そうです」
エルヒーは、キリガクレからの質問にたいして、「なぜこのようなことを聞くのか」という表情をしながら答えた。
「なるほど、つまりソレは、『むかしは使えていたけれど、今現在は、使えなくなってしまった』と、こういうことではないと」
「そのとおりです。今まで一度だって、使えたことはありません」
(どういうことだ?今まで一度も、異能を使えたことがない。つまり、使う術を、まったく知らない。
なのに、この4人は、まるで意図してるかのように、ソトに漏れでる異能が、わずかでしかない。
フツウ、異能の才能・能力を持った、候補者がいたときは、まだあやつる術を知らないから、ソトに漏れでる異能を、抑えることができない。
だから、こうも微妙な量が漏れでる。っていうことはなくて、もっとダダ洩れになるはずなんだが)
ここまでかんがえたあと、キリガクレは、3人の手と足にハメられている、手枷足枷を見た。
(まったく異能を使えないはずのニンゲンが、チカラをあやつれる異能者のように、カラダのソトに漏れでる異能がすくなくなるよう、コントロールできるとはおもえん。だったら、ソトからムリヤリ、抑え込んでるっていうことか?)
「チョット、失礼するよ」
こういうと、キリガクレは、エルヒーの手枷足枷を見た。そこには、ちいさなカギ穴があった。
キリガクレは、じぶんの手から、霧やケムリ状のモノをだして、そのちいさなカギ穴のなかにいれた。
「どうしましたか?」
エルヒーが、こう聞いた瞬間、彼女の手枷足枷はハズレた。
「え?どういうことですか?なんでワタシの手枷と足枷が、急にハズレたんです?」
エルヒーが驚いているようすを、キリガクレは見ていた。とはいっても、その驚くようすを見ているのではなくて、カノジョのカラダのまわりを見ていたのだ。すると、
「こりゃスゴイ」
おもわず、キリガクレはクチにだしてしまった。
「どうしましたか?なにがスゴイんですか?」
「くわしいことは、あとでせつめいするよ。チョット、あの3人をコッチに呼んでもらえないかい?おそらく、君がいえば、素直に従うとおもうんだけど」
じぶんの手枷足枷が、とつぜんハズレたことに驚いてしまい、どうやらエルヒーは、キリガクレのいうことにたいして、ギモンにおもったり、疑うことを、わすれてしまったようである。いわれたとおり、3人を、キリガクレの近くに呼んだ。
そして、キリガクレは、エルヒーにしたのとおなじように、3人の手枷足枷もハズシた。3人とも、エルヒーとおなじように、驚きを隠せなかった。
(どうやら、この手枷足枷は、異能を封じこめるチカラがあるらしい。たしかに、ドレイたちのなかに、異能をつかえるニンゲンがいたら、そのチカラをつかって、反乱を起こされるかもしれん。
そういうリスクやキケン性をかんがえたら、異能のチカラを封じこめることは、ひつよう不可欠っていうことか)
ちなみに、キリガクレがつけていた手枷足枷は、この島に潜入する前のだんかいで、用意されたモノであった。つまり、『異能を封じこめる』というチカラはなかった。
だからこそ、今までキリガクレは、異能のチカラというものを、自由につかえることができたのだ。
(それにしても、こんなたいせつな情報を、なんでオレにいわなかったのか)
このことにたいして、ハラが立ってくるのであるが、ソレと同時に、
(それとも、もしかしたらホントウに、依頼主も知らなかったのか)
とおもえた。いかんせん、こんかいの依頼は、こまかいところがアイマイであり、カナリ大ざっぱな内容なのである。
そもそもの前提として、くわしい情報というものを、潜入捜査をする本人が知らないのであれば、任務に失敗するリスク・キケン性・確率・可能性というものが、たかまるはずである。
だからこそ、こういう重要であり、たいせつな情報というものは、じぜんに知らせるはずである。
だがしかし、くわしい情報を手にいれるヨユウもなく、急いで依頼をだしたとすれば、ソレはソレで、ツジツマが合うのだ。
(こういう情報を、じぜんに手にいれる間もなく、急いでオレに依頼をだしたんだとすれば、緊急というか、急ぎの案件っていうことになる。となると、よほど焦ってたのか)
「さっきのハナシのつづきだけど、エルヒーは、オレが逃亡者じゃなくて、看守を観察していたことから、この島にたいして、敵意を持っているニンゲンだと、そういってたよね」
「ええ、たしかにいいました。だからこそ、こうして接触をしたんです」
「じゃあ、ズバリ聞くけれど、オレの意図や目的、狙いは、一体なんだとおもうのか」
「じゃあ、ズバリいいますね。ワタシたちは、この何年もつづく、ドレイのようなあつかいに、もう限界なんですよ。
いつまで経っても、ソトに解放されることがない。それこそ、死ぬまでこうして、ドレイとしてあつかわれて、強制労働を課せられてしまう。こんな状態にたいして、心底から嫌気がさしています。
でもワタシたちだけでは、ここの看守たちと、たたかうことはできない。それだけのチカラを持っていないんです。
ですから、この島を、叩きつぶすことがムリだとしても、せめて、島を脱出することはしたい。とかんがえています。
ですので、この島にたいして、めいかくな敵意をもったナカマが、それも、すこしでもつよいナカマがほしいんです。
つまり、『ワタシたちと、おなじ目的や狙い、意図を持っているニンゲンじゃないか』とかんがえています。
こういうワケで、先ほどアナタにたいして接触をして、この場所につれてきました」
「なるほど」
こういうと、キリガクレはすこしのあいだ、かんがえこんでしまった。ソレは、「このエルヒーというオンナが言っていることに、ウソがあるのかどうか。もっといえば、信用してよいのかどうか」ということを。
(このオンナが言ってることは、おそらく、ホントウのことなんだろう。もしもオレをダマシて、看守どもに突きだすんだったら、さっきオレが、看守を監視してるだんかいで、さっさと看守にいえば良かったワケだし。
それに、わざわざこうして、こんな人気のない場所につれてきて、オレに襲いかかってきて、つよさを試すべき理由も、まして、ひつよう性もない。
だから、このオンナはおそらく、ホントウに、この島を叩きつぶすか、抜けだしたいんだろう)
キリガクレは、依頼をうけたときのことを、おもいだしていた。それは、「なにかあったとしても、たすけはこない」ということである。
「わかった。こうなったら、オレも乗りかかったフネだ。ひとりでこの島で戦って、つぶしたり、抜けだそうとしても、おそらくムリかもしれない。
だったら、ナカマをつくって協同で、一緒におこなったほうが効率がいいし、つごうもいい。だから、そのハナシに乗ることにする」
こういうと、キリガクレは、エルヒーのカラダを、自由にうごけるようにした。
「あ、カラダが自由にうごきます。ヤッパリ異能をつかって、ワタシのカラダのうごきをにぶらせて、止めたんですよね。
スゴイですね。ワタシたちにも、このチカラがあったなら、もっとはやい時期に、反乱を起こすことができたのに」
こういうと、エルヒーは残念そうな、無念ともいえるカオつきをした。
「いや、たぶんソレは、悔しがることはないとおもう」
「どういうことですか?」
「ソレも含めて、くわしくハナシをするよ」
「ところで、こうしてこの場所に、つれてきてしまたワタシがいうのもヘンなんですが、キリガクレさんは、今げんざい、本来だったら、持ち場にいなければマズイですよね。
ソロソロ戻らないと、抜けだしたことがバレるんじゃないでしょうか?」
心配そうに聞いてきたエルヒーであったが、キリガクレは、あんしんするようにいった。
「ソレは大丈夫だよ。手は打ってある。ところで、ナカマっていうのは、君たち4人だけなのかな?まだほかにもいる?」
「はずかしながら、ワタシたち4人だけなんです。たくさんのニンゲンにハナシをすれば、どこからかハナシが漏れて、看守につたわるともかぎりませんので」
「ソレはただしい判断だとおもう。ひつよう以上にたくさんのニンゲンに、たいせつなハナシをつたえると、まず間違いなく、十中八九、どこかで情報が漏れることになる。
キケンなことをおこなう以上、そういう警戒心というか、注意ぶかさは、ひつよう不可欠なことだろうね」
「おっしゃるとおりですよ。ハナシがはやくてたすかります。先ほども聞きましたけれど、ホントウに持ち場に戻らなくても、大丈夫なんですか?」
不安そうに聞いてくるエルヒーを見て、あんしんさせるひつようがあると、キリガクレは感じた。
(オレの異能を、あるていど、教えておいたほうがいいか)
こうおもうと、キリガクレは右手のひとさし指を、前にだした。すると、その指の先から、なにやら霧やケムリ状のモノがでてきた。
「オレの持ってる異能は、こうして霧やケムリ状のモノをだして、ソレを加工することでね。糸やヒモ状にしたり、うすい膜からぶ厚いカベのようにしたり、その強度や硬さ、やわらかさ、伸び縮み、形状や粘着度、色や感触とかを、自由にあやつることができる。
コレをつかえば、じぶんの分身をつくって、ソレをあやつって、身代わりにできるんだよ。異能っていうのは、ソレを持っていないニンゲンには、フツウは見えないもんだけど、異能者が意図すれば、フツウのニンゲンにも、見える状態にすることができる。だから今、持ち場での強制労働は、オレの分身がやってくれてる」
「なるほど、だから今こうして、この場所にいることができるんですね?コレが異能ですか。ホントウにベンリなんですね。こういうチカラが、ワタシたち4人にもあれば、どれだけ助かったことか」
残念そうなカオをしながら、エルヒーはこうつぶやいた。ほかの3人も、キリガクレの指先を見て、おどろきの表情をうかべていた。
「いや、そのことなんだけれども。どうも君たち4人は、異能の資質を持ってる、候補者だとおもうんだよね。
まだその異能を、自由にあやつれないだけで、おそらく、異能者になれるニンゲンだとおもう。
その証拠に、4人とも、今現在、オレの指先からでてるモノが、見えてるとおもうんだけど」
「ええ、たしかに、指の先から、霧というか、ケムリみたいなモノがでてるのが見えます。アナタたちも見えてる?」
エルヒーに聞かれた3人は、全員がうなずいた。
「なるほど、ヤッパリ君たち4人は、もともと、異能者になれる資質があったんだろうね。今のオレは、異能を持たないニンゲンにも見えるように、チカラを発動していない。
つまり、ホントウに君たちが、異能の才能・才能、資質を持っていなければ、なにも見えないはずだよ。
おそらく君たち4人は、今まで、そのチカラを、自由に使えなかった。というよりも、使えないように、抑えこまれていた」
キリガクレがこういうと、4人とも、おどろいた表情をうかべた。
「スイマセン、ソレは一体、どういうことなんでしょうか?ワタシたち4人は、なにか具体的に、異能を抑えこまれるようなことを、されたキオクはないんですが」
このエルヒーの問いかけにたいして、キリガクレは、先ほどハズシてみせた、4人の手枷足枷を指さしたのである。
「コレが理由だろうね。コレはどうやら、異能を抑えこむ器具らしい。4人とも、ずっとコレをつけられてるんだよね?
だから、そもそも最初のだんかいから、異能を使うことができない状況になってた。っていうことになる。
じぶんたちに、異能を使える資質がある。っていうこと自体、まったく気づかず、認識してなかったんだとおもう」
「そうだったんですね。この手枷足枷には、そんな効果があったんですか」
おどろいたエルヒーであったが、つぎの瞬間、キリガクレのほうを、ジッと見てきた。