出会い
目的地に着いたのであるが、そこは小さな島であり、ミナトがあった。そして、複数の船が停泊していた。
「キリガクレさん、着きましたよ。この島に潜入してもらいますが、一応、ほかのドレイたちと、一緒になってもらいます。
停泊している舩の一隻に、まぎれこんでもらいます。船長には、コチラからハナシをつけてあります。ですので、このまま行ってください」
こうしてキリガクレは、ミナトに停泊しているドレイ船のなかにまぎれこんだ。そのフネのなかに乗っていた、たくさんのドレイに混ざり、キリガクレは、島のなかに潜入することができた。
島のなかでは、たくさんのドレイたちが、強制労働をさせれていた。キリガクレも、このなかにまざり、過酷な強制労働をするハメになったのだ。
こうして、数日が過ぎたのだが、ダンダンと、島のなかのようすが、わかるようになってきた。
この島では、違法なヤクブツを作っているだけではなく、違法なモノの売買もおこなわれていた。そのなかには、ドレイの売買も含まれていた。
(今の時代、ドレイの売買は禁止されてるはずだが。コレだけでもこの島は、法に触れることをしてる。っていうことになる。
コレ以外にも、ヤクブツの製造や販売、違法な物資の売買、武器も売り買いされてやがる。ありとあらゆる違法なモノがあつかわれてる。
こんな島が、よく今まで野放しにされてたもんだ。ウラに、ダレか大物でもいるのか)
このようなことをおもいながらも、キリガクレは、虎視眈々と、島のなかを調べるチャンスをうかがっていた。そして、そのチャンスが訪れた。
おおきな取り引きがおこなわれるために、島でドレイを監視する看守たちも、取り引きの警護にまわされることになった。そのために、しぜんと、看守のかずが減ったのでる。
(今がチャンスだ)
こうおもうとキリガクレは、コッソリと、じぶんの持ち場をはなれた。島のなかは、入りくんだ迷路のように、たくさんのヘヤや通路がそんざいしていた。
島のヤマをくりぬいてあるために、その通路は、まるで洞くつのようでもあった。つまり、あちこちに、ちいさな穴があいており、身を隠せる場所がおおいともいえた。
すくなくなったとはいえ、看守と会ってしまうキケン性は、カンゼンに捨てきれない。
そのために、慎重に前後左右をかくにんしながら、キリガクレは、通路をすばやく走り、島のなかをしらべていた。そのときである。近くにヒトの気配を感じた。
その瞬間、キリガクレはすばやく、近くの通路のカベにあった、ちいさな穴に身を隠した。
その穴は、ヒトが身を隠せるていどのおおきさはあった。そして、キリガクレの手から、霧やケムリ状のモノがでてきた。
そしてソレは、その穴をふさぐようにしてひろまり、膜のようになり、まわりのカベとおなじ色になった。ソレはまるで、まわりの色に擬態するという、カメレオンのようであった。
ここで息をひそめ、気配を押し殺して、ヒトが通りすぎるのを待つことにした。そのとき、その人影が、キリガクレの近くで、とつぜん立ちどまった。
(なんだコイツは、オレのそんざいに気づいたのか?今のオレは、カンゼンに気配を断ちきってる。並のニンゲンだったら、気がつくはずはないが)
こうおもいながらも、瞬時に警戒する姿勢をとった。つまり、イザとなれば、このニンゲンと、戦うことも覚悟したのだ。
その人影は、一瞬だけ立ちどまると、また歩きだした。
(気づかれたかとおもったが、気のせいだったか)
その人影が立ちさったあと、キリガクレは、ケムリ状の膜を解除すると、いそいで先に進んだ。そして、先のほうで、看守たちが出入りしている、ヘヤを見つけたのだ。
(あのヘヤを見ると、看守の出入りがはげしい。しかも、位が上の看守が、何人も出入りしている。なかに、なにかあるのか)
「あの」
とつぜん背後から、話しかけられた。そのためキリガクレは、瞬時にその場をはなれて振りかえった。するとそこには、ひとりのニンゲンが立っていた。
(マズイ、持ち場を勝手に離れてるうえ、看守のようすを見てるところを、見られてしまった)
こうおもうのであるが、ソレと同時に、
(いくら前方の看守に気を取られてたとはいえ、ニンジャの出のオレの背後を、こうもアッサリ取るとは。ナニモノなんだコイツは)
とも、おもってしまった。
「先ほど、あの廊下のカベの近くにいませんでしたか?廊下を歩いてたら、なぜか、スガタは見えなかったんですが、ニンゲンが、すぐ近くにいるのを感じたんです。
もしかして、アナタじゃありませんか?どうも、さっき感じた気配と、おなじような気がしますので」
目のまえにいるニンゲンは、このように、キリガクレにたいして話しかけてくるのだが、キリガクレとしては、なにもいうことができない。
正直なところ、どのように対処・対応すべきなのか、アタマがサッパリまわらない。
「みたところ、アナタは、じぶんの持ち場を離れてますよね。もしも看守に見つかったら、タダではすみませんよ。
よろしければ、コチラにきてください。このまま先に進んだらキケンですので」
(コイツは、オレをたすけようとしてるのか。どうやら、オレが持ち場を逃げだしたのはいいが、前に看守がいるから、進めないとおもってるらしい)
「それはどうも。実はアナタのいうとおり、強制労働がイヤで、逃げだしてきたんですが、どうにも逃げ場所がないというか、こまってたんです。
前には、看守が出入りしてるヘヤがあって、これ以上は進めそうにないので」
「ヤッパリですか。この島にきて、まだ日が浅いんですか?」
「そうなんです」
「じゃあ、期待を打ちくだくというか、ガッカリさせるようでワルイんですが、この島から逃げだすことは、まず不可能ですよ。
ですから、今日みたいな、安直な行動というか逃走は、ヤメるべきです。見つかったら最後、問答無用で、イノチを取られかねません」
「そうなんですか。ちなみにアナタは、この島に長いんですか?」
「そうですね、もう何年もこの島にいます。そのあいだに、何人ものドレイが、この島から逃げだそうとしましたが、ことごとく失敗しました。
そして、その全員が、見せしめとして、われわれの目のまえで、処刑されてしまいました。
ですから、短絡的に、すぐに逃げようとするのはヤメるべきです。そういう行為は、ゼッタイにオススメできません」
目のまえにいるニンゲンのハナシを聞きながら、キリガクレは、注意ぶかく、このニンゲンのことを観察していた。
(見たところ、年齢は、10代の後半から20歳ころのオンナか。髪は赤色で、カオには一部、包帯を巻いてる。ケガをしているのか、それとも、なにかのヒフ病なのか。
さっきオレが、廊下のカベに、異能をつかって隠れてることに、すぐ気づいたところを見ると、よほど感覚が優れてるのか。それとも、なにかの異能を持ってるのか)
キリガクレは、目のまえのニンゲンの素性がわからない以上、あいかわらず、警戒心を解いていない。
だがそれでも、「どうやらじぶんにたいして、敵意や害意がない」ということは、薄々、感じはじめていた。
(もしもオレにたいして、敵意や害意があるんなら、さっきオレのうしろに立って、イチイチ、話しかけることはないだろう。
オレに気づかれないよう、コッソリと看守を呼んできて、突きだせばいいワケだ。それに、オレのことを、看守がいない場所に、つれていこうとしてるようだし)
このようなことをかんがえ歩いていたら、その女性は、急に立ちどまった。