門番
ヨロズのハナシを聞きおえて、キリガクレは、今回の依頼を受けることにした。
「いや~、ホントウに良かった。もしもアナタに断られたら、ダレにハナシをしたらいいのか、途方に暮れるところでした」
(おだてるのがウマイというか、要領のいいヤツだ)
「そういうお世辞はいいから、取りあえずオレは、指定されたこの施設に潜入して、内情を探ればいいワケだね?」
「そういうことです」
「その際、もしもじぶんの身にたいして、キケンが降りかかってきたときは、身をまもるため、あいてにたいして、コチラも反撃をして良いと」
「そうなります」
「それにしても、依頼のかつどうをするとき、付帯条件や指定が、ほとんどないっていうのは、一体どういうことなのか。
これだけ高額の依頼だったら、もっと細々と、イロイロな付帯条件や指定とかがあるのが、フツウとおもうんだが」
「たしかに、フツウだったらそうでしょうね。でも今回は、いかんせん、カナリ急な依頼でしてね。
おそらく、ショーカイ組織としても、細々とした指定や条件というものを、アレコレと、かんがえるヨユウがなかったんでしょう」
(どうだか)
「まあいい。こまかい指定や条件が、ハッキリとキメられてない以上、この施設に入ったら、その時々の状況に合わせて、コチラで勝手に判断して、動かせてもらうことにする。ソレで相違ないかい?」
「ええ、ソレで良いとおもいますよ。モノはかんがえようで、細々とした指定や条件っていうものが、ハッキリとキメられていないのなら、キリガクレさん、アナタのじぶんの判断で、それこそ、ゲンバ合わせで動いていい。とかんがえるのが、妥当じゃないかとおもいます」
「それはどうも」
「それじゃあ、あとはヨロシクお願いします」
このあとキリガクレは、ヘヤをでて、タテモノのソトにでた。報酬の1億イエンの半分は、なんと前払いであった。
(この館にくる前、報酬は後払いといわれたが、オレが渋ったのを見ると、アッサリと、半額を前払いしやがった。
こんなに高額のカネを、半分とはいえ前払いするっていうのは、気前が良いというか。なんというか。
というか、それほどまで切羽詰まってて、体裁だとか、ナリフリをかまってられんのかもしれん)
キリガクレが、タテモノのソトにでたら、そこには、まだ門番の老人が立っていた。
「お帰りですか」
「ええ、今日のところは、コレで帰らせていただきます」
キリガクレが、門をでようとしたときのことである。
「余計なお世話かもしれませんが、十分に気をつけてくださいね。最近はこのアタリも、カナリ治安がワルイので。
このタテモノの敷地内や近くなら、アブナイ目に遭うことはないとおもいますが、タテモノから離れるほど、キケンが増えるとおもっていただきたい」
「ソレはどうも。ご忠告アリガトウございます」
こういうと、キリガクレは門番のほうを、ジッと見ていた。
「どうされましたか。ワタシのカオに、なにかついてますかな?」
「いえ、スミマセン。しつれいしました。アナタがいるかぎり、この近くでワルさをするようなニンゲンは、まずいないでしょうからね。
ですから、『このタテモノから離れたら、キケンが増える』というよりは、おそらく、『アナタから離れたら、キケンなことをおこなうニンゲンが増える』っていうほうが、正確かなとおもいましてね」
「ソレは一体、どういうことですかな」
キリガクレの発言にたいして、門番の老人は、わらいながら答えた。
「いえいえ、気にしないでください。ただの独り言だとおもっていただければ、幸いです」
こういうと、キリガクレは、タテモノから離れていった。
(あの老人、おそろしくつよいな)
キリガクレは、タテモノに入るとき、門番の老人のスガタを見たときから、ずっと冷汗がでていたのだ。
(想像するに、あれだけつよいニンゲンを、門番として、タテモノのソトに置いてるのは、おそらく護衛だろう。
『キケンなあいてから、タテモノと、なかにいるニンゲンをまもるため』と見るのが、まあ妥当な線か。
となると、こんかいの依頼は、やはりキケンがおおきいのか。あれだけの強者を、護衛として、わざわざタテモノのソトに配置してるくらいだから、ヨロズがいっていた、『キケンがない』っていうのは、カナリ疑わしいし、アヤシイと見るべきか。
だったらヤッパリ、オレみたいな、フリーの異能者に依頼してきたのは、なにかあったとき、トカゲのシッポで切りやすいからか)
このようなことをおもいながら、道を歩いていたのだが、キリガクレはダンダンと、歩くスピードを早めた。
(つけられてる)
じぶんのうしろをつけてくる、複数のニンゲンの気配を察知したのだ。キリガクレが、歩くスピードを早めると、つけてくるニンゲンもまた、歩くスピードを早めた。
キリガクレは、街のほそい道に入ったりして、追跡者の視界から消えて、尾行を巻いたのであるが、その直後、また次の尾行者が、彼を追跡してきた。
こうしてキリガクレは、尾行者にうしろをつけられながら、ダンダンと、人気のないところに向かっていった。
(コイツ、ダンダンと人気のないところに向かってやがる。だったら、どっかで攫っちまうか、それとも、コロシてしまうか)
尾行者は、このような物騒なかんがえを、ダンダンと抱きはじめたのだが、ふと気がつくと、すこし前にいたはずのキリガクレのスガタは、どこにもいなかった。
(なんだ、どこにいった?)
尾行者は、先ほどまでキリガクレがいた場所に、急いで向かったのであるが、やはり、キリガクレのスガタは、どこにもいない。ソレこそ霧が晴れたように、どこにもいない。
キリガクレのうしろをつけていた尾行者は、他のナカマと合流し、聞いてみたのだが、どの尾行者もまた、キリガクレのスガタを見失っていた。
「どうなってんだ?」
「なにかの異能をつかったってワケか。それにしても、スガタを見失ったのはマズイな。コイツがこれから先、なにをどうするのか、調べようがなくなった」
尾行者たちは、困惑しているようすであった。