逃亡
(いた、アソコだ)
キリガクレやエルヒーたちのスガタを見つけたウキタは、猛スピードで、かれらにたいして近づいていった。
(あのオトコが、エルヒーたちの反乱の黒幕か。いずれにしろ、オレのジャマをしやがったのは間違いない。だったらこの場で、すぐにコロシてやる)
ウキタは猛スピードで、キリガクレたちにたいして向かっているのだが、そのウキタのまわりの地面が、とつぜん隆起をはじめた。
そして、その隆起した部分が切りはなされ、これまた、猛スピードで土のカタマリが、キリガクレたちに向かって飛んできた。しかも、何十個も。
(このスピードで、このかずだ、全部はよけきれまい)
たくさんの土のカタマリが、キリガクレたちにたいして近づいたという、まさにそのとき、木端微塵にすべてハカイされた。粉々になり、土のカタマリは、砂のように散ってしまった。
(なにをしやがった、アイツ)
ウキタがよく見てみると、キリガクレがなにかを持っており、ソレをつかったようである
(アレは、鞭か?)
ウキタの読みどおりであった。キリガクレは、霧状にした異能を細くして、かつ、伸縮自在の材質にして、鞭をつくった。そして、その鞭をあやつり、数十個もの土のカタマリを、こなごなにハカイしたのだ。
(アイツのチカラは、何なんだ?)
ウキタは瞬時に警戒し、一瞬だけ、その足を止めた。そして、つぎの瞬間には、彼のカラダは吹きとばされていた。キリガクレの鞭が、ウキタのカラダをとらえて、はじきとばしたのだ。
(痛てえな、クソが!!)
ウキタはおきあがり、ふたたび走りだしたのだが、すぐに止まってしまった。なぜならば、先ほどまでいたキリガクレのスガタが、どこにもいなかったのだから。
(何なんだコイツは、スガタを見せたり、隠れたり。なにがしたいんだ?)
ウキタは注意ぶかく、まわりを見わたしたのであるが、どこにも、その気配を感じることができなかった。
(どこにもいる気配がない。コイツ、カンゼンに気配を消してやがる。さっきから、オレと直接たたかうことを避けてるようだが、戦闘では、オレに勝てないと踏んで、遠くから攻撃して、逃げやがったのか?)
「ケッ、くだらねえ。しょせんは三下のザコか。オレとたたかって勝てないことを悟って、逃げだしやがったか」
キリガクレのスガタを見失ったのだが、ウキタは、けっして慌てることはなかった。なにせ、この島には今、フネがないのだから。つまり、島のソトに、逃げだすことはできない。
しかも、島にたいして通信機器を持ちこむということは、まず不可能であるし、もし持ちこむことができたとしても、通信妨害をしている以上、れんらくはできない。
ソレに、解放したドレイたちもおり、あれだけの人数が、この島のなかで、ずっと隠れつづけるということは、まず不可能と言ってよい。
一旦冷静になり、ジックリと、島中を探しだしてやろう。そういう腹づもりでいたのであった。
(とりあえず、ヤツラが向かってた、ミナトのほうに向かうか)
そうかんがえて、ウキタは、ミナトのほうに向かっていった。
というか、向かおうとしたのであるが、向かえなかった。なぜならば、うごきだそうとした、まさにそのとき、ウキタはつよい衝撃を感じて、地面にたたきのめされたのだから。
正確にいうと、「真上から、すさまじいチカラをくわえられて、押しつぶされた」と言ったほうがいいであろう。
「グェ」
と、声にもならぬ声を発して、ウキタは、気を失いそうになった。
(なんだあ?)
上を見あげると、空から巨大なカタマリが、自身にたいして、降りかかってきていた。
一見すると、ソレは雲のように見えるのだが、その雲のようなカタマリが、まるで巨大なハンマーのようになり、じぶんに降りかかってきて、押さえつけていた。
(イカン、このままではつぶされて、カラダが粉々になる)
ウキタは、地面にはいつくばりながらも、全力をだして土をあやつり、ハンマーのようなカタマリにたいして、ヨコからぶつけて、じぶんのカラダから逸らそうとした。
「クソったれがあ!!」
全身のホネのきしむ音が聞こえながらも、ウキタは全力で、そのハンマー状のカタマリを、じぶんのカラダから逸らすことができた。
だがしかし、あちこちの骨に、ヒビが入ったようであり、全身から、はげしい痛みを感じていた。
(どうなってんだ。コレはさっきのオトコの異能か?ここは一旦引いて、態勢を立てなおすべきか)
よろけながらも立ちあがり、まわりを見わたしたのであるが、あいかわらず、視界に入るところには、ダレもいない。
(さっきからコイツは、オレに近づこうとせず、遠くから仕掛けてきやがる。おそらく、接近戦では、オレに勝てないと踏んで、遠距離攻撃をしてやがる。
だったらヤッパリ、コイツを見つけだして、近づいてコロスべきか。だがそのまえに、一旦ここから離れなければ)
ウキタは、カラダの痛みをガマンして走りだした。そして、すぐに転んでしまった。というか、足をうごかすことができなかった。
(なんだあ?)
足下を見ると、いつの間にか、地面の上に、うすい膜のようなモノが張ってあり、しかもソレは、粘着度がたかく、足にからみついて、うごかすことができない。
(いつの間にこんなモノを。そうか、さっき上からの攻撃に気をとられて、ふせいでるあいだに、こんなものを、地面に張りやがったのか)
薄いのだが、つよい粘着質の膜にからめとられて、ウキタは、身うごきが取れない。
先ほどの攻撃をふせぐために、体力をつかってしまったのと、カラダ中の痛みのせいで、チカラが入らないのだ。
(すこし休めば、こんな膜、引きちぎってやるが)
こうかんがえてから、ウキタは、はじめてゾッとした。「どうやらこの敵は、ダンダンと、じぶんの体力をけずり、痛めつけて消耗させ、弱らせることを、最初から、狙っていたのではないのか」ということが、アタマうかんだのだ。
(コイツが、オレの前からスガタを消したのは、逃げたんじゃなくて、さっきの空からの攻撃に、じぶんが巻きこまれるのをふせぐためか。ソレで今、オレが弱るのを、ジッと待ってやがるのか)
あいての真の狙い・もくてきを、おぼろげながら察するにいたって、「どうやらこの敵は、用意周到というか、細心の注意をはらうタイプではないか」ということを、感じたのであった。
(オレを弱らせて、ここに足止めすることを狙ってたんなら)
ウキタは、全身にチカラをこめて、臨戦態勢を取った。なぜならば、この敵が、満を持して、じぶんにトドメを刺すために、コチラにたいして近づいてくる可能性がたかいのだから。
(トドメを刺しに近づいてきたら、その瞬間、全力の一撃をくらわせてやる。オレの全力の一撃を食らって、タダで済むようなヤツなんて、そういない)
「抵抗をヤメたようだが、あきらめて、覚悟をキメたかな?」
ウキタのうしろから、声がした。
(きやがった)
声の主は、ダンダンと、ウキタにたいして近づいてきた。そして、背後に立った瞬間、ウキタは、全身のチカラを振りしぼり、異能をフルパワーにした。のこった体力を、すべてつかったと言っていい。
すると、まわりの土が、ウキタのカラダを覆いはじめ、まるで鎧のようになった。そして、その土の鎧を来た状態で、手にありったけの異能をこめて、渾身の一撃をくらわした
異能をこめれば、通常の打撃であっても、おおきなハカイ力を持つ。まして、ショーカイにおける、10人の大幹部・実力者であるウキタが、土の鎧を装備して、強化した状態での渾身のコブシの一撃である。ほとんどのニンゲンであれば、致命的なキズを負うはずである。
現に、ウキタに近づいてきたオトコは、つまり、キリガクレは、その一撃を食らい、カラダをおおきく吹き飛ばされた。
ウキタは、土を操作して、じぶんのカラダにまとわせるとき、同時に、地面を覆っていた、粘着性の膜も破っていた。
さすがに、ウキタの全体力をつかったフルパワーを前にしては、粘着質の膜といえども、ひとたまりもなかった。
「バカが、接近戦に自信がないくせに、油断して近づいてきやがって。オレが弱ってると見て、気がゆるんだか」
こういうとウキタは、鎧の一部のカタチを変えて、するどい剣をつくりだした。しかも何本も。
そして、それらをすべて、吹き飛ばされた、キリガクレのカラダにたいして投げつけた。キリガクレのカラダには、土の剣が、何本も突き刺さった。
「くたばったか」
ウキタは、キリガクレの生死をかくにんしようとして、近づいた。
すると、とつぜん大バクハツがおきて、あたり一面が、火の海になった。ウキタが吹きとばし、突き刺したキリガクレのカラダが、大バクハツしたのだ。
さらに、その大バクハツには、つよいホノオもふくまれており、大バクハツと同時に、大量のホノオが、あたり一面を焼きつくした。
「ソッチこそ、くたばったかな?」
ホノオが弱まるのを待ってから、キリガクレが、大バクハツの中心地に、つまり、ウキタがいた場所にたいして近づいてきた。
「さっきアンタが吹き飛ばし、剣を突き刺したのはオレの分身でね。しかも中身に、エルヒーのホノオと、ヘイハチのバクハツとを、ありったけ込めといた。
ふたりとも、アンタにたいしては、カナリつよいウラミがあったんだろうね。疲労困憊だったけど、よろこんで、オレの分身のなかに、じぶんの異能を入れこんでくれたよ。
だからまあ、アンタがそういう目に遭ったのは、日ごろのおこないが、悪かったっていうことだね。
たくさんのニンゲンにたいして、ヒドイことをして、危害をくわえて、恨まれるようなことをした。だから、その報いを受けたってことだろうよ。
それにしても、アンタは、さっきのヤマのなかで、オレの分身に、二度も斬りつけられたのに、また似たようなミスをしたワケだが、たにんを見下して、バカにするような性格ってのは、ヤッパリごう慢になるし、じぶんを過信したがる傾向がつよい。だから、おなじようなミスや失敗を、何度もくりかえすっていうことか」
キリガクレが、ようすを見ていると、どうやら爆心地で、うごく気配があった。
「おどろいた。今のバクハツと爆炎を食らっても、まだいきてるのか。その土の鎧を着こんでたおかげか。不幸中の幸いっていうところか。でもまあ、そのようすだと、ヤッパリ無事じゃないようだが」
キリガクレの視線の先には、ウキタがいるのであるが、土の鎧は所々はがれ落ち、ヤケドを負い、ヒフや肉がはがれたり、焼けこげている状態であった。
「アンタはさっき、オレが接近戦がニガテだから、近づかない。と言ってたが、たんじゅんに、アンタの近くに寄ると、オレも巻きぞえを食らうから、近づかなかっただけなんだけどね。
ソレに、強敵であるアンタと、ウカツに近づいて直接戦闘になれば、コチラとしても、リスクがあるからねえ。オレとしても、イノチは惜しいから、用心して、あんぜん策を取らせてもらったよ」
「ガハッ」
血を吐きながら、ウキタはしゃべりだした。
「やっとオレのまえに、テメエのスガタを見せやがったか。このクソヤロウが、オレと真正面から、ひとりでたたかうと勝てないから、こんなメンドウ臭いことをしやがったのか。卑怯なヤロウだ」
「イヤイヤ、違法なドレイをつかって、違法なことをやってたアンタに、卑怯だといわれる筋合いはないね。
ソレにオレは、べつに戦士じゃない。ニンジャの出でね。正々堂々と、真正面から一対一で、つよい敵とたたかいたいとか、そういうんじゃない。そんなのは、サムライだとかの戦士に言ってもらいたい。
オレにたいして、イチイチそんなことをもとめたり、講釈垂れてるアンタのほうが、どうかしてるとおもうよ」
(ニンジャ?サムライ?なんだそりゃ。そういえば、極東の島国に、そんなヤツラがいるとか、いないとか、聞いたことがあるか。なんにしろ、今度こそコイツは、ホンモノのようだ)
「さて、見たところ、アンタはもうおしまいだ。ムダな抵抗はヤメて、降伏することをオススメするがね」
「なんにせよ、オマエはカン違いをしてる」
「なにを?」
「オレがもう、おしまいだって?」
ウキタのまわりの地面がうごきだし、そして、カレのカラダをおおう鎧が、ドンドン修復されていき、ふたたび、カラダぜんたいを覆った。
そして、巨大なハンマーをつくりだし、ソレをつかい、キリガクレにたいして、たたきつけたのであった。ありったけの異能を込めて。
キリガクレにたいして直撃したハンマーは、おおきな衝撃を放ち、すさまじい土ケムリを巻きあげた。
「モロに食らったな。さっきのバクハツのとき、すべてのチカラを防御につかわず、チカラの一部を温存しといた。だから、これだけのケガを負ったんだ。
全力でふせげば、ここまでのケガはせずに済んだ。だがその代わり、オマエをコロスだけのチカラがのこらないからなあ。さいごのさいごに油断した、オマエがワルイんだぜ」
「肉を斬らせてホネを絶つか。じぶんがキズを負うのを覚悟してまで、オレに反撃することをえらぶとは、見あげた執念ぶかさだ」
土ケムリが収まってきたのと同時に、キリガクレの声が聞こえた。
(バカな、今の一撃を食らって、なんで無事でいる?)
正真正銘、ウキタが渾身のチカラを込めた一撃なのである。それなのに、キリガクレは、なにごともなかったかのように、その場所に立っていた。
(無キズ、どうなってんだ?)
ウキタはソレと同時に、奇妙な感覚を感じていた。
(バカな、この感じは)
「会長?」
「どうやら、今のがホントウに、正真正銘、渾身の一撃だったようだけど、ざんねんだったねえ。そんなんじゃあ、今のオレには、キズひとつ、つけることはできんよ」
キリガクレはこう言うと、みずからのチカラで剣をつくり、ウキタを斬り刻んだ。すでにチカラが弱まっているウキタの鎧は、いともカンタンに切り裂かれた。
そして、ウキタのカラダにたいして、キリガクレの剣があたった。かに見えたのであるが、空ぶりしたのである。
そして、あたり一面に、砂ぼこりが立ちこめ、視界が、ほぼゼロになった。
(ヤツのカラダに剣があたらず、空を切った)
そこに、ウキタのスガタはなかった。
「逃げやがったか」
ウキタは、キリガクレに斬られるという、その寸前に、じぶんのカラダを覆っていた土の鎧を、一瞬で砂に変えて、あたり一面にたいして巻き散らし、逃げだしたのであった。




