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依頼

「コレが、こんかいの依頼の内容だ。もしこの依頼をうけるなら、くれぐれも、粗相のないようにしてもらいたい。

 いつもどおり、報酬は、成功したときのみ支払われる。ということは、あたりまえのことだが、失敗したときには、一銭も支払われない」

「ホントウにいつもどおりだ。もうすこし割の良い、良い条件のシゴトをまわしてもらいたいもんだね」

「オイオイ、ワガママいうもんじゃないよ。アンタみたいな、フリーのニンゲンにまわってくるシゴトなんて、こんなモノばかりだ。そんなことは、アンタだって、百も承知のはずだろうが」

「まあ、たしかに」

 そうだろう。だったら、ツベコベいわず、コレを受けるのかどうか、ハッキリした返事をもらいたい」

「イヤ、返事をするまえに、もうすこし、くわしい内容について、チャントせつめいしてもらいたい。いくらなんでも、コレだけじゃあ、せつめいがすくなすぎる。なんともいえん」

「わかった。じゃあくわしくせつめいをする。と、いいたいところだが、オレのクチからは、これ以上のことはいえない。くわしいことは、アンタが直接、依頼人に会って聞いてもらいたい」

 そして、一枚の紙を、オトコに渡した。

「わかった」

 以上の会話をおえたあと、オトコは、タテモノのソトに出ていった。そして、街中を歩きながらも、その様子というものは、どうにも、ほかのニンゲンとは、違うようにおもえる。

 そのオトコの歩いているスガタを見てみると、つねに、ヒザをすこしだけ、曲げながらあるいている。コレはおそらく、じぶんの重心を、カラダの下のほうに置いているのであろう。

 そのくせ、そのオトコの足どりは、一歩一歩、チャント地面を踏みしめながら歩いている。そして、歩くときは、おそらく、足の親ユビの付け根あたりに、チカラをいれて歩いている。

(まったく、シゴトの斡旋所とはいうけど、ロクなシゴトがまわってこない)

 と、内心ぼやいていた。ソレと同時に、

(アイツのいうとおり、組織に属さず、フリーでやってる以上、仕方ないか)

 とも、おもっていた。

(まあいい。とりあえず、依頼人と会ってから、くわしいことはかんがえるさ。おもいこみや先入観を持って取りかかると、その分だけ、キケンが増すことになる)

 その表情から、オトコの好悪や感情、かんがえなどを、うかがい知ることはできそうにない。なるべく、無表情にしながら歩いているようであった。

 もっといってしまえば、その場所に、そのオトコがいるのかどうかさえも、いまいち、よくわからないかもしれない。つまりは、そんざい感が、カナリ希薄といってもよい。

 はたしてホントウに、そのオトコが、その場所にいるのかどうか。ということが、イマイチわからないような、そんな足どりで、指定された場所に向かっていた。

(ここか)

 もくてき地は、レンガづくりのずいぶんリッパなタテモノであった。このタテモノのまわりも、やはり、リッパというか、たかく分厚く、カナリ固そうな塀にかこまれている。そして、その門の前には、カナリ高齢とおもわれる、白髪の門番が立っていた。

「しつれいですが、先ほどから、このタテモノを見ているようですが、なにかご用件でしょうか?」

 その門番が、オトコにたいして尋ねてきた。この門番の目は、オトコの一挙手一投足を見のがすまいと、観察しているようにもおもえた。

「いや、斡旋所で、ここに行け。といわれた者なんですが」

 こういって、オトコは、斡旋所でわたされた紙を、門番に見せた。

「ああ、コレはしつれい」

 こういうと、門番は、オトコを敷地のなかに招きいれた。敷地のなかを歩きながら、オトコは、タテモノを注視していた。

(ソレにしても、ずいぶん頑丈そうなタテモノみたいだが、コレならおそらく、大砲を撃ちこまれても、カンタンには崩れんか。

 でも、異能力を持った能力者にたいしては、こんなもの、あまり効果がない)

 オトコは歩きながら、門のほうを、すこし振りかえった。すると門番は、まだコチラのほうを見ていた。それも、カナリ注意ぶかく、観察しているようすで。

(ずいぶん注意ぶかく、コッチを見てるようだが、なにか事情でもあるのか。たとえば、敵対したり、争ってるあいてがいるとか)

 オトコが、タテモノの玄関のドアの前に立ち、ダレか呼ぼうとしたら、ドアがひらいた。すると、タテモノの召使とおもわれる、上等そうなスーツを着た、品の良さそうな男性の老人が現れた。

「もしや、斡旋所からのお客サマですか」

「ええ、そうです」

「そうですか、それでは、どうぞ館におはいりください」

「では、しつれいします」

 タテモノのなかは、オトコが予想していた以上に、広々とした造りになっていた。

(床から天井までのたかさが、ほかのおなじキボのタテモノよりも、たかいかもしれん。つまり、その分だけ、天井に、ヒトがはいれるような場所や空間がちいさいか、それとも、ないということか)

 こんなことをおもいながら、オトコは、屋敷の廊下を歩いていく。

(イカンな、いまだに下忍だったころのクセが、どうにも抜けてない。まあ島にいたころは、いろんな屋敷の屋根裏に忍びこまされたもんだから、仕方ないか)

「当館に訪れるのはずれるのはおとずれるのは、はじめてでしょうか」

「ええ、こんかいがはじめてです」

「でしょうね、ワタシはこの館に、もう何十年も勤めていますが、あなたのおカオを拝見したキオクが、まったくございませんので」

「何十年も勤めていれば、たくさんの訪問客があるでしょうに。そのいいかただと、すべてのお客のカオを、おぼえているとでも」

「いえいえ、この館にやってくるお客サマは、ほとんどおりませんよ。それこそ、一年のあいだに、数人もいるかどうかなんです」

「そうですか」

 召使を自称する、老人と会話をしながらも、オトコは注意ぶかく、そして、警戒心を持ちながら、屋敷のなかのようすを見ていた。

 タテモノの構造や、どこに、なにが置かれているか。などを、見ているようであった。

「しつれいながら、お客様は、ずいぶんと警戒心がつよいというか、注意ぶかいように見うけられますね。

 先ほどから、ワタシとの会話をしながらも、実によく、まわりを見わたしているようにおもわれます。目が小刻みに、うごいているようですし」

 老人からの指摘を聞き、オトコは一瞬だけ、カオに緊張が走った。だがしかし、これまた一瞬のうちに、いつもの無表情に戻っていた。

(この老人、オレのことを、良く見てやがる)

「イヤイヤ、そんなことはありませんよ。根が臆病で、小心者なものですから、はじめて入ったいったタテモノだと、どうしても、まわりを見わたしてしまうんです。慣れない場所にやってくると、どうにも落ちつかないものでして」

「イエイエ、べつにワタシは、ヘンなイミでいったんじゃありませんよ。そういう注意ぶかさというか、警戒心というものは、たいせつだとおもっております。

 どうにも世のなかには、不注意というか、警戒心を持っていないニンゲンが、たくさんおりますでしょう。

 ワタシとしては、そういう不用心なニンゲンは、やがて、イタイ目を見るものとおもっております。

 ですので、ワタシとしては、褒めコトバとして言ったまでです。お客さまの注意ぶかさや、警戒心のつよさを見て、コレはなかなか、シッカリしたお方だと、感じ入っております」

「それはどうも」

「イエイエ」

 老人に案内されたのは、タテモノの奥にある一室であった。

「このヘヤのなかに、こんかい、斡旋所に依頼を送ったお方が、お待ちしております」

 こういうと、老人は、その場所から離れていった。

 オトコが、ヘヤのドアをノックすると、

「どうぞ」

 と、声が返ってきた。ヘヤのドアを開けると、ひとりのオトコがソファーに座っていた。

「アンタだったのか、ヨロズさん」

 ヘヤのソファーに座っていた、ヨロズというオトコは、かなりガッシリとした、ゼイニクがほとんどない、キンニク質な体格をしており、白髪のまざった黒髪を持っていた。そして、抜け目のなさそうなカオつきをしている。

 そして、その黒目は、ドアをあけて立っているオトコの全身を、良く見ているようすである。

「あいかわらず、ずいぶんと隙のなさそうなおヒトだね、あんたは。そういう状態が、ヒガシの果ての島にいるっていう、ニンジャの身のこなしなのかねえ」

 ソファーに座っている、ヨロズからの問いかけにたいして、

「どうだろう」

 と、キリガクレは、アイマイに答えた。

「アンタとは、とくべつ親しいっていうワケじゃないが、かといって、まったくのアカのたにん。っていうワケでもない。こうして、たまに会うくらいだが、どうだろうね、何度も会うと、妙な親近感が湧いてくるよ」

「ソレはどうも」

「あいかわらず、素っ気ないねえ、キリガクレさんは」

「そんなことよりも、こんかいの依頼主は、ヨロズさん、アンタってことでいいんですか」

「ええまあ、ワタシが斡旋所にシゴトの依頼をつたえたんですよ。ですから、ワタシが依頼主ということでいいです」

(どうにも、ハッキリしない言いかただが、じぶんが依頼主と断定しないのは、なにかウラがあるのか?)

「依頼主ということでいい。という言いかたをするってことは、アンタが直接の依頼主じゃなくて、ほかに、ダレかいるっていうことですか?」

「はは、こまかいところが気になりますか。まあたしかに、ハッキリと、ワタシが直接の依頼主とはいえないんですよ。こんかいのワタシのたちばっていうのは、ほかの方からの依頼を、仲介しただけですので」

「じゃあ、その大元の依頼主に会わせてもらいたい。間接的な依頼っていうのは、どうにも警戒するタチなのでね」

「ところが、そういうワケにはいかないんです。大元の依頼主の方は、直接会うワケにはかいない。と、こういう意向なんです」

「それはまた、ずいぶんアブナイというか、アヤシイとしかいいようがない。そういうニオイがプンプンするね。コチラとしても、じぶんの身のあんぜんが保証されないなら、うけるワケにはいかない」

 キリガクレがこういうと、ソファーに座っているヨロズは、ジッと見てきた。

「まあまあ、べつにアヤシイ依頼というか、ハナシじゃないですよ。チョットした事情があって、オモテ立って、スガタをだせないっていうだけです」

「だから、ソレが十分アヤシイってことだよ。アンタがオレのたちばだったら、おなじことをおもうはずだが」

「たしかに、ソレは一理ありますね。でもねえ、こんかいの依頼にかんしては、キリガクレさん、アナタにたいして、ひつよう以上にフリな条件だとか、キケンがあるっていうワケじゃないんです」

 こういうと、オトコは、一枚の書類を、キリガクレに見せた。

(コレは)

「ご存じのとおり、アナタたち、異能力を持ってるニンゲン。俗にいう、異能者たちのほとんどが属してる組織、異能者ショーカイからの依頼なんですよ。

 とはいっても、アナタはたしかフリーで、この組織には、属していないんでしたか」

「そのとおりで、オレはここに属していない。でもなんでまた、このショーカイが、オレにたいして依頼をしてくるんだ?

 ここはたしか、セカイ中にいる、異能者たちの50%近くが属してると聞いてる。だったら、フリーで名も知られてないオレにたいして、イチイチ依頼してくるのはオカシイ」

「たしかに、おっしゃるとおりですね。でも逆にいえば、こんかいの依頼は、この異能者ショーカイからしたら、『身内のニンゲンをつかうワケにはいかない』と、こういう事情や理由があるんですよ」

「となると、ヤツラにとって、つごうのワルイことがあると」

「ハッキリとはいえませんが、そういうことになりますね」

「オレとしては、その理由や事情とやらを、ハッキリと、クリアにしてほしいんだけどね」

「ソレはそのとおりなんですが、でも、ハッキリとはいえないんですよ」

「となると、こんかいの依頼は、この組織にとって、カナリつごうがワルイことになるのか。たとえば、組織の身内にかんする不祥事とか」

 キリガクレがこういうと、ヨロズはすこし、ギクリとしたようすであったが、すぐに平静を保ったカオに戻った。

「ヤッパリ、アナタはするどいですね。まあ、そういうことになるんですよ。ショーカイとしては、あまりオモテ立って、行動することができないケースなんです。つまり、ソトにバレてはつごうがワルイ。

 だからこそ、内々でショリしたいところなんですが、でもかといって、組織のメンバーをつかうとなると、組織のニンゲンに、バレてしまうことになるので」

「となると、この依頼っていうのは、ソトのニンゲンにたいして、バレてはマズイことであると同時に、組織内のメンバーにたいしても、バレてはマズイっていうことになる」

「そういうことになりますね」

「だったらヤッパリ、かなりヤバイ案件じゃないのかコレは?アンタはさっき、キケンがないといってたじゃないか。」

「正直なところ、ヤバイ案件なんですよ。キケンが伴います。露骨にいえば、中途ハンパなつよさや実力のニンゲンでは、できないようなことです。

 つまり、ハンパな実力の異能者だったら、キケンがあるっていうことです。でも、アナタほどの実力者だったら、キケンがあるとはおもえませんので、さっきは、キケンがないといったんですよ」

「モノはいいようだね。それにしても、そんなリスクしかないようなハナシを、なんでまた、オレに持ってきたんだ?」

「イヤイヤ、アナタだったら、ここまでいえば、十分すぎるほど、察してるんじゃないですか?」

「つまり、フリーのオレだったら、ミスや失敗したとき、トカゲのシッポを切るように、切りすてることができると」

「表現がおだやかじゃないですが、まあ、そのとおりなんですよ。でも、ソレだけじゃありません。

 さっきもいったとおり、中途ハンパなつよさや実力のニンゲンでは、ミスや失敗をするリスクやキケン性が、カナリたかいんです。

 となると、一定以上のレベルを持った異能者でなければ、この任務は、こなすことができないんですよ。

 そして、フリーのたちばで、かつ、この一定レベル以上の方となると、そうそう、いるワケじゃありません。

 アナタはどうも、じぶんの実力やチカラってものを、過小評価しすぎる傾向があるようにおもえます。

 アナタの実力は、アナタ自身がおもっているよりも、はるかにたかいものですよ。コレは、何十年にもわたって、異能者にたいしてシゴトを依頼してきたワタシが、自信を持っていえますよ」

「ヤッパリ、モノはいいようだね。ソレだけでは、オレは納得しかねる」

 キリガクレの不審がる表情や態度をみて、オトコは、さらに、一枚の書類をだしてきた。そこには、こんかいの依頼の報酬が書かれていた。

「1億イエン?」

「そう、1億イエンになります。どうです、破格の高給でしょう」

(コイツはまいった)

 キリガクレは、すこしのあいだ、かんがえこんでしまった。フツウ、フリーの超常者にたいしてくる依頼の報酬は、せいぜい、1万イエンがいいとこなのである。ところが、こんかいは、その1万倍なのだ。

(逆にいえば、それほどまでに、この依頼はキケンがおおきいし、ミスや失敗は、ゆるされないっていうことか)

「どうですか?とりあえず、せつめいだけでも、聞く気にはなりませんか?」

 オトコは、キリガクレの内心が揺れうごいたのを、目ざとく気づいて、見のがさなかった。

(クソ、やはりコイツは油断ならん。コッチのキモチが揺れうごいたのを、すばやくカンづきやがった。何十年も、こういうシゴトをしてるってだけのことはあるか)

 コチラの隙を見のがさない、ヨロズからのすばやい問いかけにたいして、キリガクレは、とりあえず、ハナシだけでも聞いてみようとおもった。

(どうやらこの交渉は、オレの負けらしい)

 内心において苦笑しながら、ヨロズのハナシを聞くことにした。

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