ミナト
「さっさとあるけ、オマエら」
看守に怒鳴られながら、エルヒーたちは、歩かされていた。
「オマエら、ウキタさんは許すといってたが、ソレで済むとおもうなよ。こんだけの騒ぎを起こしたんだ。
これからは、今まで以上に、キッチリと働いてもらうからな。すこしでも反抗的な態度を示したら、情け容赦なく、すぐ死刑にしてやる。覚悟しとけ」
反乱に失敗したエルヒーたちにたいして、連行している看守は、このように言いながら、監獄につれていった。
「スイマセン、待ってください」
うしろのほうから、ひとりの看守が近づいてきた。
「どうした」
「ウキタさんの命令で、じぶんがコイツらを、監獄までつれていくことになりました。交代します」
「そうか、わかった。あとはまかせた」
そういうと、あたらしくきた看守に、監獄のカギを渡した。
「そういえば、オマエは見たことがないカオだが、新入りか?」
こう聞いたのが、このオトコのさいごのコトバであった。つぎの瞬間、床にたおれていた。
「無事だったか、エルヒー」
やってきた看守のカオが変形し、キリガクレのカオになった。正確にいえば、ケムリ状にしたモノをカオにつけて、変装していたのだ。
「キリガクレさん、アナタこそ、無事だったんですね?」
「なんとか」
「すいません、ワタシがヘイハチ・ムネシと合流して、そこにキリガクレさんも合流し、ここから逃げだす手はずでしたが。あのウキタっていうオトコが現れて、すべて台なしになってしまいました」
「ソレは仕方がない」
そういうと、キリガクレは、エルヒー、ヘイハチ、ムネシ、ユキメに新たにつけられた、手枷・足枷のカギ穴に、自らのケムリ状の異能をいれて合いカギをつくり、ソレをハズシた。
「予定とズレたが、まだ反乱は終わってない。というか、あいてはコレで、失敗に終わったとおもってるから、カンゼンに油断してる。今が逆にチャンスだ。このまま逃げてしまおう」
「ソレには賛成です。でも、この施設のボスのウキタは、コチラの想定した以上の強敵でした。正直なところ、ワタシとヘイハチ、ムネシが3人がかりで戦ったとしても、勝てる自信はありません。
幸い、ヤツは今、ワタシたちが、監獄に入るとおもってますし、気づかれずにコッソリと、逃げだすしかないとおもいます。正面切ってアイツと戦うのは、得策じゃないとおもいます」
「アイツに気づかれず、コッソリ逃げだすのは、たぶんムリだ」
「どういうことですか?」
「さっきオレは、君たちが反乱を起こしたとき、ヤツラがつかってるヘヤを調べたんだが、そこに、この施設のボスのことが書かれてた。
そしたら、コイツが、予想した以上の大物だった。だからキケンを感じて、オレはいそいで、君たちのところに向かった。
ソレで、ヘイハチとムネシのふたりとは、合流することができたんだが、エルヒー、君はまだ来てなかった。
だから、いそいで君が反乱を起こしてる方向に走ったんだが、いつまで経っても、君のところに辿りつかなかった。そうしたら、通路のカベの土がうごきだして、通路のカタチが変わってしまった。
その変わってしまった通路を進んでいくと、さっきまで、ヘイハチとムネシがいた場所に辿りついた。そこを見たら、ウキタというニンゲンがいて、君たちを降伏させてた。
そのとき、君たちが、アイツに挑むんじゃないかとヒヤヒヤしたよ。もしそうなれば、あっという間に、3人ともコロサレてたとおもう。その可能性が、カナリたかい」
「最初、挑んでみたんですが、実力差がおおきすぎて、一方的に、軽くあしらわれてしまいました」
「この施設のボスの名を見たときに、ホントウなのかと、カナリ疑ったんだが、施設のなかのカタチが変わったのを見て、ホントウのことだと、確信に変わった。
こんなことは、相当の力を持ってる異能者でなければできない。もっというと、いくら無人島とはいえ、ヤマのなかに、おおきな空間をつくって、そこで大キボな施設をつくるなんていうのは、ほんらいなら、それなりの工事がひつようになる。
つまり、たくさんのニンゲンにバレずに、隠しとおしてやれることじゃない。となれば、かなりレベルのたかい異能者が、異能を使ってやったんだろうと予想したが、コレがあたった。
さっき、施設のカタチが変わるほどのチカラを見て、予想がウラづけされたというか、証明されたと感じたよ。
だから、君たちがヤツと戦わなかったのは、一見すると、チカラに屈したかのようにおもえるが、ソレはけっして、ワルイことじゃない。自他の強さ、実力差を見きわめて、テキセツな判断をしたってことになる。
じぶんより、はるかに強いあいてにたいして、真正面から戦いを挑むっていうのは、たんなる無謀というか、キケンなことになる。ジサツ行為にすぎない。そんなことは、すべきじゃない。
イノチあっての物種というけど、生きのびることこそ、最優先にすべきだ。ニンゲンは、死んだらソレでおしまい。すべてがおわる。
死んだあとも、なにかのカタチで影響を与えることはあっても、ソレはしょせん、一時的なものにすぎん。
まして君たちは、今まで何年間も、劣悪な状況・環境のなかで、ヒドイ目に遭ってきたんだから、コレから先のミライを棒に振るようなことは、すべきじゃない。
つよい敵に屈したんじゃなく、じぶんたちが生きのびるために、テキセツな判断をしたってことだから、なにも恥じることはない」
「そうですか、そういってもらえると、アリガタイです」
「じぶんがゼッタイに勝てない敵にたいしては、バカ正直に、真正面からたたかいを挑むんじゃなくて、ソレから逃げて、避けて、たたかわない。コレが一番なんだよ。
たしかに、一時的にはみっともないし、恥だとおもえるけど、いきてればどこかで、ソレをばん回できるチャンスが、巡ってくるかもしれない。
一時的で、短期的な目じゃなくて、ながい目で見てかんがえれば、生きのこることを優先すべきだ。まあコレは、オレの持論だけどね。君たちの参考になることを願うよ」
こういうとキリガクレは、つぎつぎに、ドレイたちの手枷・足枷をハズシていった。そして、一旦ヤマのソトに出て、逃げるようにつたえた。
「チョット待ってください。ワタシたちが逃げだしたら、どこかのだんかいで、あのウキタにバレませんか?看守たちがソレを止めるでしょうし、ウキタに報告がいくとおもいます。
一旦は許したのに、すぐに2度目の脱走をすれば、こんどこそ、問答無用にコロサレる気がするんですが」
「そのとおり。危機感を持つのは良いことだから、そういう視点や発想、かんがえを持つのはたいせつだとおもうよ。エルヒーのいうとおりだ。ヤツには、すぐバレるだろうね。
でも、だからこそ、今すぐ逃げるべきだ。そして、ジャマしてくる看守たちがいれば、君たちで、倒してしまうべきだね。
ちなみに、今のミナトには、フネがなくなってる。さっきオレが、分身をつかって、すべて壊しておいた」
「え?フネをすべて、壊したんですか?」
エルヒーは、おどろいてしまった。なぜならば、あたりまえのことだが、島から抜けだすには、ミナトのフネを、奪うひつようがあるのだから。それなのに、キリガクレは、フネをすべて、壊してしまった。
「なんでなんですか?さっきキリガクレさんは、逃げることがたいせつだと言いましたが、これじゃあ、島から逃げだせず、みんな、コロサレてしまうじゃないですか」
困惑した表情で、エルヒーは、キリガクレにたいして問いただした。そしてソレは、エルヒーだけではなくて、ヘイハチ、ムネシ、ユキメにとっても、おなじギモンであった。
「そもそも、ヤツラのフネを奪うっていうのも、まあコレしか、脱出する方法がないとしても、確証がなさすぎる。ヤツラがスナオに、コチラの言うことに、従うっていう保証もない。
それに、もっといえば、反乱がおきたあと、フネをすべて沖合に出されてしまえば、コチラはフネを奪えないから、脱出することはできない。エルヒー、コレは君も、想定していたはずだよね?」
「そのとおりです。だからこそ、すばやい行動がたいせつだとおもって、はやいだんかいで、ヘイハチとムネシと合流し、逃げだすことをしたかったんです」
「でも、あのウキタが、通路の方向を変えたことで、合流することができなくなった」
「そうなんです。ですからあのとき、正直なところ、ゼツボウ的なキモチになりました」
「だろうね。スピードがイノチなのに、ソレをジャマされてしまったワケだから。そもそもの前提というか、成功するための条件が、カンゼンに崩されてしまった」
「でも、ヤツラのフネを奪う以外に、方法というか、やりかたが、まったく思いうかびませんでした」
「ソレはとうぜんだとおもう。オレが君のたちばでも、おそらく、おなじキモチになる。ヤツラのフネを奪うことが、現実的に、むずかしくなったワケだから、ほんらいなら、違うやりかた・方法をつかうべきだが、ソレが見つからない。
まあこの施設のなかで、ドレイっていう状況にいたワケだから、予備の案をかんがえて、用意するなんてことは、まずムリだ。そんなことは、オレが君のたちばでも、どうしようもない。
でもオレは、幸いなことに、シマのソトからきたニンゲンで、ソトにたいして、連絡することができる。
ソレにオレは、もともと、異能のチカラをつかえるニンゲンなワケだから、これだけでも、エルヒー、君たちとは前提条件が、まったく違うっていうことになる。
つまり、前提条件が違うんだったら、君たちよりも、打てる手札は、多くなるってことになる」
このキリガクレのコトバを聞いて、エルヒーのカオに、明るさが戻った。
「なるほど、つまり、ソトにたすけを呼んで、フネを持ってこさせると」
「そういうことになる。そうなると、ヤツラのフネを、イチイチ奪うひつようはない。まあコレは、ヤツラのフネを、奪えなかったときのための保険だけれど。
ただ、この島にやってくるのは、あくまでも一隻だけになる。だから、まずはそのフネにたいして、コチラの事情をつたえる。
そして、そのフネに連絡を取ってもらい、ドレイを運べるだけのフネを、あとから持ってこさせる。
このことを黙ってたのは、情報がどこかで、ヤツラにたいして漏れることを恐れたからだよ。けっして君たちのことを、ないがしろにしてたワケじゃない」
「いえ、そんなことは思いませんよ。たしかに、イザ反乱を起こすっていうときに、ソトから助けがくるなんてことは、ゼッタイにバレたらマズイですし」
(ホントウにこの子は、アタマの回転というか、理解がはやい。ヒミツにしてたことに、もっと怒るかとおもったが)
キリガクレは、エルヒーの状況判断・理解のはやさに、あらためて、舌を巻くおもいであった。
(この子は、ヒトの上に立つのが性に合ってるというか、サマになってるのかもしれん)
「でもキリガクレさん、ソトのニンゲンにたいして、どうやって連絡するんですか?通信機器を持ちこめるとはおもえません。キリガクレさんに、テレパシーのようなチカラがあるんでしょうか?」
「そんなチカラは、オレにはないよ」
「じゃあ、どうやって?」
「正確にいうと、コチラから合図があったら、フネをよこすように、じぜんに依頼しておいた」
「合図?」
「そう、合図」
「ソレは一体、どういうものなんです?」
「まあソレは、あとでせつめいするよ。今は時間が惜しい。すこしでもはやく、君たちは、このヤマから逃げだして、ミナトにいくべきだ」
「わかりました。ではあとで」




