迷子
ユキメの治療をうけたことで、エルヒーは、ふたたび立ちあがり、解放されたドレイたちを率いて進みだした。
その途中、向かってくる看守たちを迎撃しながら、目的地・合流地点にたいして向かっていた。
(もうすこしで、合流地点に辿りつくはず)
こうおもった矢先のことである。とつぜん、エルヒーは足を止めた。
「どうしたんだ?なんで足を止める?」
後続していた、解放されたドレイたちが、不審がってエルヒーに問いただした。
「オカシイ」
「なにがだ?」
「襲ってくる看守のかずが、さっきより減ってきてる」
つい先ほどまで、ドンドンと増えてきた看守だったのだが、気がつくと、そのかずが、減ってきていた。
「そういわれれば、たしかにそうか」
(どういうことかしら。ワタシたちの反乱の鎮圧を、スンナリ諦めたとはおもえない。となると、コレはなにかのワナかしら?)
こうおもいエルヒーは、さらに警戒心をたかめた。それこそ、わずかなうごきや、針の落ちる音であっても見逃さず、聞きのがさないように。
(止まったな、コイツら。気づきやがったか。もうすこし進んだところで、一気に始末をつけたかったが。まあいい、この場で皆ゴロシだ)
エルヒーたちから、すこしキョリの離れた場所で、このようにかんがえるニンゲンがいた
エルヒーが、まわりにたいして警戒心をつよめていた、まさにそのとき、前方から、おおきな音がした。
(この音は一体)
こうおもった、つぎの瞬間、今度はなにかが焼けるニオイと共に、熱風がやってきた。
「コレは、火!!」
熱風がやってきたあと、ホノオが襲いかかってきた。
「ヤバイ、火だ」
解放されたドレイたちは、パニックになり、皆一斉に逃げだそうとしたのだが、ソレよりもはやく、火の手は、エルヒーたちにたいして近づいてきた。そして、あっという間に、あたり一面は、火の海になってしまった。
「クズどもは、コレで全員焼け死んだか?」
こういいながら、エルヒーたちがいた場所に、オトコがひとり、近づいてきた。
「そもそも、ゴミクズみたいなニンゲンのくせに、反乱なんてもんを起こすのが間違ってんだ」
こういいながら、近づいてくるオトコを避けるようにして、火はうごいている。オトコは、この施設の副看守長であった。そして、火をあやつる異能を持っていた。
(ソロソロ、全員焼け死んだろう)
こうおもい、火を消そうとしたとき、副看守長は、違和感に気がついた。どうにも火のうごきが、じぶんのイメージするカタチと違うのだ。
(なんだ?オレがイメージする火のうごきと、すこし違う気がするが)
副看守長が、ふたたび火のうごきをコントロールしようとして、目のまえの火にたいして、意識を集中したとき、そのまま、カレのクビは、胴体から離れてしまった。
背後からエルヒーが近づき、キリガクレのチカラでつくったカタナで、容赦なく斬りつけたのだから。
火をあやつる副看守長が死んだことで、異能のチカラによって燃えさかっていたホノオは、ダンダンと消えていった。そして、ホノオが消えた先には、解放されたドレイたちの一団がいた。
「残念でした。ワタシの持ってる異能も、ホノオをあやつるモノなのよ。だから、アナタがこのあたり一面を火の海にしたとき、そのホノオをあやつって、ワタシたちのまわりには、ホノオが近づかないようにした。
そのホノオのうごきに違和感を感じて、ソレに気を取られてたから、その隙に、ホノオのなかに、ほそいぬけ道をつくって、アナタの背後にまわらしてもらったわ。
そうしたら、案の定、目のまえのことに気をとられて、隙だらけだった。だから遠慮なく、斬らせてもらったわ」
「スゴイぞエルヒー、あのキケンな副看守長を、一撃でたおしてしまった。コイツにボウリョクを振るわれて、苦しめられたニンゲンはおおかった。焼き殺されたニンゲンもいた。コイツが死んで、セイセイしたぜ」
目のまえで、今までじぶんたちを苦しめたニンゲンが、あっと間にたおされてしまった。そのことに、歓喜しているドレイたちであったが、エルヒーとしては、やはり単純に、安心することはできなかった。
(今のところ、出てきた看守たちは、なんとか全員たおせてる。でも、予想した以上に、進むスピードがおそい。
もっとはやく、ヘイハチ・ムネシと合流するはずだったけど、ソレができていない。急がないと)
熱狂する解放されたドレイたちとは裏腹に、エルヒーは内心において、安心していなかった。
なぜならば、施設のなかを、比較的には自由にうごけたエルヒーであっても、この施設にいるニンゲンのことを、全員知っているワケではないのだから。
つまり、「彼女がまったく知らない異能者がでてきたとき、はたして、今までのように、うまくいくのか」という点で、一抹の不安があったのだ。
(今まで遭遇した看守たちは、異能をつかうのを、見たことのあるヤツラばかりだった。そのチカラ自体を見ることはできなかったけど、おおよその検討はついてた。だから、すばやく対処することができた。
でも、もしワタシの知らないニンゲンがでてきたら、しかもソイツが、つよい異能者だったら、今までどおり、うまくいくかわからない)
こういう不安を感じている以上、エルヒーとしては、やはり一刻もはやく、合流する予定の場所に向かうべきだと、つよくおもった。
「喜んでるところワルイけれど、先を急ぐわよ。予定よりも、進むスピードが遅くなってる」
こういうと、エルヒーは、足をはやめて進んでいった。だがしかし、予定していた合流地点・目的地にたいして、一向に着きそうにない。
(オカシイ、道を間違えたかしら)
こうおもい、この施設内にある通路のことを、おもいだしてみたのだが、道を間違えたとはおもえない。
なにせ、もう何年間も、この施設にいるのである。そんなじぶんが、今さら、道を間違えるとはおもえない。
そして、じぶんが今現在、道を間違えているとはおもえなかった。つまり、じぶんが覚えているとおりに、通路を選んで、まえに進んでいるのである。それなのに、合流地点・目的地にたいして、まったく辿りかないのだ。
(ここまでくると、あきらかにオカシイ。本来だったら、もうとっくに、ヘイハチとムネシと合流してるはずなのに)
エルヒーは、先に進んでいたのであるが、ふと立ちどまった。
「どうしたんだ」
あとにつづくドレイたちが、エルヒーに言ったのだが、エルヒーは、なにやら考えこんでいるようすであった。
(オカシイ)
「ユキメ、チョットいいかしら」
エルヒーは、ユキメを呼び止めた。
「なにかしら、エルヒー」
「アナタから見て、ワタシは、進む道を間違えたとおもう?」
「いいえ、そんなはずないわ。ワタシもこの施設内の通路は、どうなってるか覚えてるけど、間違ってないはずよ」
「そうよね、でもそうなると、オカシイわよね。なんでまだ着かないのかしら」
「エルヒーも、ヤッパリそうおもう?ワタシもさっきから、どうにもオカシイとおもってたのよ。ホントウだったら、ヘイハチとムネシと、もう合流してるはずなのに」
「そうよねえ」
こういうと、エルヒーはあらためて、じぶんのまわりを見わたしてみた。だがしかし、べつだん、違和感や不自然なところは見あたらない。
(ワタシのキオクする通路と、なにか変わったようすはない)
とくべつに、違和感や不自然さを感じるようなところは、なにもなかった。通路のカタチが変わったようすもない。
「チョットいいかしら、ワタシがすこしだけ、まえに進んでみるから、ユキメは、その今いる場所から、ワタシのほうを見てくれない」
こういうと、エルヒーは、ひとりでまえに進んでみた。そして、しばらく進んでから、ユキメのほうを見た。
「やられた」
エルヒーとユキメは、ほぼ同時に、こう叫んでいた。ふたりがキオクする通路であれば、この位置から、ふたりとも、おたがいのスガタが、ハッキリと見えるはずであった。
だがしかし、今現在、ふたりがおたがいのスガタを見てみると、おたがいに、すこしだけカラダが隠れてしまう。つまり、通路がすこしだけ、曲がっているのだ。
つまり、ふたりがキオクしている通路とは、微妙に、ズレた方向に向かっていたのである。いいかたを変えれば、通路のカベなどは、まったく変化がないのだが、進む道筋が、すこしずつズレており、曲がっているのである。
(本来だったら、ここの通路は、まっすぐに進んでる。だから、今のワタシの位置から、ユキメのスガタが、ハッキリと見えるはず。
なのに、ユキメのカラダがの一部が、カベに隠れてる。つまり、通路がすこし、曲がってることになる。だから、いつまで経っても、合流地点に辿りかないワケか。
というか、ヘタをすれば、合流地点に着かないどころか、近づくことすらできないかもしれない)
このカラクリに気がつくと同時に、エルヒーはゾッとした。
(ワタシたちは、気づかないうちに、知らず知らず、違うところへ誘導されていた。っていうことになる。
となると、ワタシたちは一体、どこに向かわされてたのか。そして、そこにはなにがあり、ダレがいるのか)
こういうことをかんがえたのだが、良いことは、アタマにうかんでこなかった。
(なんにしろ、コチラを誘導しているキケン性がたかい。だったら、この先に行ったところで、ロクなことはない)
「引きかえしましょう。この先に進んでも、おそらく、合流地点に着きそうにないわ。道にまよって迷子になったら、元にいた場所に戻るっていうのが鉄則だし」
こういうと、エルヒーは、進んできた道を戻っていった。ユキメやドレイたちも、彼女の後についていった。




