つよい敵
島のなかでは、同時多発的に、反乱が発生していた。そして、エルヒーだけではなく、ヘイハチ・ムネシのふたりもまた、ちがう場所で、反乱をおこしていた。
ユキメは、エルヒーのうしろについていた。ソレも、解放されたドレイのうしろに。なぜならば、ユキメの異能は、「ニンゲンの持つチカラを向上させる」というものであり、ニンゲンの治癒力を向上させたり、体力・筋力をも、向上させる効果があるのだ。
つまり、解放されたドレイたちは今、通常よりも、つよい筋力や体力を持っており、チカラがみなぎっていた。
その結果として、しぜんと戦闘意欲もたかまり、つぎつぎと、看守にたいして襲いかかっていった。
そのたかまった筋力・体力は、看守たちを、叩きのめすほどであった。そのうえ、ドンドンと、解放されたドレイのかずは増えていった。
3カ所で、同時多発的に発生した、エルヒーたちの反乱の火の手というものは、あっという間に、島中を覆っていった。
つぎつぎに、解放されたドレイたちが、看守たちに襲いかかり、そして、さらにドレイを解放していく。というながれが、しぜんとできはじめた。
(このままいけば、今日中には、島中を制圧することができるかもしれない)
エルヒーは、このようにかんがえた。それほどまでに、反乱の火の手というものは、いきおいを増していた。
そして、当初に危惧していた、看守からの反撃というものは、予想した以上に、あっけないものであった。
(もっとつよい抵抗があって、はげしいたたかいが起こるかもと覚悟してたけど、拍子ぬけね。
それにしても、ワタシたちは、こうもなさけなくて、よわい連中に、今までいいようにあつかわれてたのかしら)
つい先ほどまで、じぶんたちの上にいた、恐怖の対象である看守たちが、実は、大したことがなかった。
こうおもうと、「何年にもわたる、今までのじぶんの苦労や、ツラク・くるしい目に遭ったイヤなできごとは、一体なんだったのか」というおもいが、腹のそこから、グツグツと湧きあがってくるのを、止めることができなかった。
そして、ソレと同時に、「これほどまでに弱くて、なさけないのに、じぶんたちにたいして高圧的に、はげしい弾圧をして、くるしめてきた」ということに、はげしい怒りが湧きあがってきた。
「かまうことはないわ、看守たちを全員、ワタシたちで叩きのめしましょう。こんなにも弱くて、なさけない、フザケタ連中に、今までヘコヘコして、弾圧されてたとおもうと、ハラが立つでしょう。今こそ、その怒りをぶつけてやりましょう」
エルヒーがこう叫ぶと、うしろにつづいていた解放ドレイたちは、はげしく同意した。
そして、今までドレイにたいして、はげしいボウリョクを振るい、ときには、イノチをうしなうほどのボウリョクを振るってきた看守たちは、こんどは逆に、はげしいボウリョクを振るわれて、痛めつけられだした。
このように、感情的になる一方で、エルヒーのアタマの一面は、冷ややかに冴えていた。
(コイツらが、こんなになさけなくて、弱かったっていうのは、カンゼンに予想外だけれども、なぜワタシがこう感じるのかっていえば、ヤッパリ、異能をつかえるからでしょうね。
もし今も、異能をつかえないままだったら、反乱がうまくいくとはおもえない。看守たちは、たいしたチカラをつかえない異能者のようだけど。それでも、異能をつかえないニンゲンからすれば、キケンなあいてで脅威になる。
今ワタシが、こうして異能者の看守たちをたおせてるのは、キリガクレさんが、この島にきたから。っていうことになるワケか。ヤッパリ、はやまって反乱を起こさなくてよかったわ)
このようにおもうのと同時に、
(あのとき、キリガクレさんを見たときに、あえて看守に通報せず、むしろ、看守のいる場所から遠ざけて、チカラをためしてみたのは、我ながら、正解だったってことね。
もしあのとき、キリガクレさんを看守に通報してたら、あのヒトのことだから、捕まることはないにしても、ワタシたちは、異能を使えるようになれなかった。つまり、今の反乱をおこせなかった)
じぶんがすこし前におこなった、たったひとつの選択・判断・決断・意思決定によって、今のじぶんの状況がうまれている。
そのために、「とてもちいさくて、些細な選択・判断・決断・意思決定で、どうやら、ニンゲンのじんせい・ミライ・うんめいは、おおきく変わるのかもしれない」と、エルヒーは感じていた。
(ということは、見方を変えれば、ワタシたち4人は、キリガクレさんと出会い、かかわったことで、今の状態を、招いたっていうことになるワケか。
だったら、これから先も、ワタシたち4人は、可能なかぎりながく、このヒトと、かかわっていくべきなのかしら)
事前に予想した以上に、スムーズに反乱が進んでいた。そのために、エルヒーはいつの間にか、反乱以外のことも、かんがえだしていた。
そのせいであろうか、些細でちいさな違和感に気がつくのが、一瞬だけ、遅れてしまった。
(ん?)
エルヒーが、その違和感に気づいたのは、襲いかかってくる看守を叩きのめしながら、まえに進んでいたときのことである。
(さっきよりも、まえに進むスピードが落ちてる気がする)
こうおもい、うしろを振りかえってみると、解放したドレイのかずが、微妙に減っていることに気がついた。
(オカシイわね、気のせいか、人数が減っている気がする)
エルヒーがこのように感じた、つぎの瞬間、彼女はおおきくジャンプし、その場から離れた。なぜならば、先ほどまで彼女がいた場所に、多数のナイフが刺さっていたのだから。
「チッ、カンのいいオンナだ」
エルヒーの先に現れたオトコは、そういうとすぐに、つぎのナイフを、エルヒーにたいして投げつけた。
だがしかし、すぐれた動体視力を持っているエルヒーは、そのナイフを、いともカンタンにかわした。
「もうチョット、ドレイのかずを削ってから仕留めたかったが、まあいい」
(コイツが、ワタシのうしろにったニンゲンを、すこしずつ襲ってたのか)
こうおもったのもつかの間、エルヒーはすぐにうごいて、場所を移動した。なぜならば、一旦避けたはずのナイフが、またじぶんにたいして向かってきたのだから。
(ナイフのうごきを自由にあやつる、異能ってとこかしら。あるいは、自由にコントロールできるのは、ナイフだけじゃないかもしれない)
エルヒーがこうおもい、目のまえにいたオトコに斬りかかろうとしたら、こんどは、オトコの近くにあった石コロが、宙にうかびあがり、エルヒーにたいして向かってきた。ソレも、たくさんの石が。
すぐれた動体視力と反射神経で、その石コロを避けるのだが、それでも、全部はかわしきれない。何個かは、エルヒーのカラダにあたってしまう。
そのつど、エルヒーのカラダに、ニブイ痛みがはしった。かといって、うごきを止めるワケにはいかない。
なぜならば、エルヒーのうごきが、すこしでも遅くなった途端に、またナイフが襲ってくるのだから。
(コレは、マズイわ)
エルヒーの意識が、飛んでくる石コロやナイフに、気をとられた瞬間、オトコがエルヒーにたいして、剣で斬りかかってくる。
その剣を、エルヒーは、じぶんの剣で受けとめながらも、ソレと同時に、飛んでくる石コロとナイフについても、警戒しなければならない。
「どうだ、オレのチカラは、単純なもんだが、ダンダンと、ツラクなってくるだろう。オマエの異能がなにかは知らんが、さっさと斬られてラクになれよ」
オトコがエルヒーにたいして、残酷なカオで、わらいながらいった。まさにそのとき、エルヒーのまわりを飛んでいた、ナイフと石コロのうごきが、とつぜん止まった。
「なんだ?」
オトコが困惑し、ソレに目をうばわれた瞬間、エルヒーはすばやくうごき、オトコにつよいあて身をあてた。
通常のニンゲンよりも、つよい筋力を持っているエルヒーの打撃を、マトモにうけたために、オトコは、うめき声をあげてたおれた。
(ホントウにベンリね、キリガクレさんのチカラは。もらった剣を、いったんケムリ状にして、うすい膜を張って、石コロとナイフのうごきを、止めることができたわ)
エルヒーのたたかいのようすを、離れた場所で見ていた解放ドレイたちは、エルヒーの勝利にたいして、おおきな歓声をあげた。
「スゴイぞエルヒー。オマエはつぎつぎに、襲ってくる看守たちをたおしてる。オマエだったら、この島を叩きつぶすことができるぜ」
意気揚々とした歓声にかこまれながらも、エルヒーはココロのなかで、一抹の不安を感じはじめていた。
先ほどの石コロがあたり、ニブイ痛みをかんじるカラダの箇所を、ユックリと手でなでながら、思案をしていた。
「大丈夫?エルヒー」
ユキメが心配そうなカオをして、近づいてきた。
「大丈夫よ。できればアナタのチカラで、ワタシのケガをなおして、体力を回復させてもらえるかしら」
「まかせて」
ユキメの治療をうけながら、エルヒーはおもった。
(ダンダンと、あいてのつよさが増してる。このままのペースで進んでいくと、おそらくどこかで、ワタシの体力が限界になる。そのときに、さらにつよい敵と出会ったら、一体どうなるのか)




