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乙女的ヤンキー  作者: 江田 小枝
2章 怜空編
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2章-1

「弟子にしろ!!!」

「うるせェ」


昼休み、教室で弁当を食べる俺たちに結城は叫んだ。うるさいことこの上ないし、注目を浴びているのでやめてほしい。


「朝から飽きねぇな。テメェ」

「俺様に喧嘩を教えろ!!」

「嫌っつってんだろ」


本当にうざい。わかりやすく顔を顰めてやったが、察してくれなさそうなところが更にうざい。

俺はため息を吐きながら『デシニシロ』とうるさく鳴く男を見つめ、その尻目に萌香の様子を伺う。

ぎこちなくでも必ず笑顔を浮かべている少女は、無表情のまま全力で気配を消していた。その頬には冷や汗が見える。


「萌香」

「大丈夫だよ」

「嘘つけ」


(いじめの主犯が目の前にいるんだもんな…)


明らかに怖がっているその様子で色々察せる。だが俺ばかりを見ている結城は、当然それに気づかない。


「テメェよ、どのツラ下げて俺らに話しかけてんだ」


今まで投げやりだった言葉に少し覇気のようなものを加えてやると、結城は黙って俺の言葉を聞いた。


「自分がやったこと、忘れたわけじゃねぇよな」


目線を萌香にやる。そうすると、結城はやっと萌香の存在に気づいたようだ。慌てたように言葉を紡ぐ。


「俺様は、別にコイツをいじめてやるつもりはなかった!」

「あァ?」


突然の言い訳に思わずドスの効いた声が出る。それでさらに焦ったらしい結城は早口で言葉を続けた。


「俺様はコイツを呼べって言ったんだ!なのに、アイツらが勝手にいじめ始めた!」

「ンな訳あるか」

「本当だ!」


丸見えの嘘だ。しかし、嘘をついている様子ではない。判断に迷っていたら、ずっと黙っていた萌香が口を開いた。


「…なんの用があって、結城様は私を呼んだんですか」


若干責める物言いな気がするが、被害を受けたにしてはいやに冷静だ。

結城は相変わらず俺の方ばかりを向いて言い訳を続けた。


「お前を呼ぼうと思った」

「俺?」

「ちょっと前に喧嘩してただろう。繁華街の不良と」


見られていたのか。

確かにあそこは登下校の車が多く通る。その中に結城の車があったのだろう。


「だから、喧嘩を教えさせようとして」


(その時から目ェつけられてたンか)


「でも全然見つけられなくて」


(ま、ずっと保健室いたからな)


「だから、お前が守ってたコイツを探した!」


――つまり、俺に会うために萌香を呼び出したら、周りが勘違いしていじめ始めたって訳か。何でだよ。


「喧嘩して改めてわかった。お前は強い、俺様に喧嘩を教えろ!」


説明できた気になったのか、結城は改めて目的を伝えた。その目にはやはり強い意志を感じ、中途半端な宣言でないことはわかる。


(…なんでこんな喧嘩キャラになってんだよ、結城怜空)


それを死んだ目で見つめるのは俺だ。乙女ゲームに転生したはずなのにいつの間にかバトル漫画の世界観になっていたなんて。訳が分からなすぎてそう簡単に受け入れられない。

だが諦めて息を吐く。おざなりな対応ではどうにもならないようだ。俺は引導を渡すために席を立った。


「おい、俺様野郎」

「なんだ」


少し様子が変わった俺に、結城はかしこまる。俺の言葉を待つその顔は心なしかキラキラしていてムカついた。


「二度とそのツラ見せんな」

「え」

「さっきも言ったが、どのツラ下げて俺らの前にいる」

「なんの話だ!」

「――筋ってモンがあるだろッ!!」


この声帯に出せる最大限の威圧感。

ビビったのは結城だけでなく、萌香や遠巻きにいたモブですら冷や汗をかいている。


「…俺様はっ!」

「二度も同じこと言わせンな」


なおも引き下がる結城に一言吐き捨てれば、やっと諦めた結城は教室を出ていった。周囲のモブもそそくさと逃げていく。元々クラスメイトの大半は食堂で飯を食うので、気づけば昼休みの教室は萌香と俺だけになっていた。


「ごめんな、怖がらせて」

「ううん。ごめんね、怖がって」


先ほどまでビビっていたはずの萌香はすっかり元に戻っていた。いつもの優しい笑顔に安心する。それは多分、向こうも同じだった。


「私のために、追い払ってくれたんでしょ?」

「いやまァ、そうだけどよ」


純粋な感謝にちょっと居心地が悪くなる。俺はそんな大層な人間ではないのだ。


「お前を傷つけた相手、そう簡単に許せねェってだけだよ」


そう言って俺は、萌香の頭に手をやった。なんとなく、幼い頃の妹を思い出したからかもしれない。


「俺は、お前のこと大好きだからな」


そう言って座っている彼女の髪を撫でた。妹にやってたみたいに、ちょっとグシャグシャって感じで。

いつもは俺より高い位置にある頭だが、今は座っているから撫でやすい。懐かしい感覚に俺は調子に乗って、萌香の様子を伺うこともせずに撫でまくった。


だから俺は気づかなかった。じわじわと真っ赤になっていく萌香の顔にも、バクバクいってる萌香の心臓の音にも。


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