1章-12
俺と萌香の新しい日常が始まった。
いじめ問題は解決し、加えて結城達を脅す道具も手に入り万々歳。
「ひっ!」
「逃げろ!」
「同じクラスなのにどこに逃げるんだろうな」
「あはは…」
俺たちを見て逃げ出す取り巻きだったモブ共。その様子を眺める生活は、とてもとても愉快であった。
自席でそれを楽しんでいると、隣で萌香は苦笑いをした。
「結城様、今日も欠席らしいよ」
「あんなことされたら、来れねェわな」
「まぁ、そうだね」
パイセンの言葉を思い出した。
『プライドが、高い』
(でもアイツ、そんな感じに見えなかったんだよなぁ)
記憶にあるのは、覚悟を決めた男の顔だ。大層イケメンだったそれは、プライドのみで生きているようでは無かった。
(つか俺、攻略キャラ一人潰しちゃったな…。ま、パイセンいるしいいよな)
今更ながら気づき、遅すぎる焦りを感じていると、突然教室が静まり返った。
担任が来た時も同じようになるが、まだホームルームが始まる時間ではない。
周囲を見渡すと、教室の奴らは扉の方を見つめていた。そこには件の”結城怜空”が立っていた。タイミングが良すぎる。
「私たちに用かな…」
「あぁ」
何かを探すように教室を見渡していた結城は、俺を見つけて目を止めた。やはり目的は俺らしい。
若干緊張しながら、男が目の前に来るまで待った。クラスの生徒達は結城に道を開け、何が始まるのかと固唾を飲んで見守っている。
「…なんの用だ」
萌香を庇うように立ち、結城を睨む。しかし相手が怯むことはない。
男は昨日と同じく、何かを決意したような顔をしていた。
「…俺様に」
「……あ?」
「喧嘩を教えて欲しい」
小さな声だった。だから聞き間違いをしたのだろうか。
「なんて?」
「だから!俺様をっ!」
今度はデカい声だった。恐らく教室中の人間がキッチリ聞き取れるくらいの。
「弟子にしてくれ!!!」
しっかり聞き取れてしまったそれは、
恐らく乙女ゲームで聞くはずのない台詞だった。