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乙女的ヤンキー  作者: 江田 小枝
1章 萌香編
13/22

1章-10

「こんなことして、ただで済むと思ってますの!?」

「そうだ!結城家が黙っているはずないっ!」


ご主人様がやられて、手下たちからは非難轟々。その声は全て俺への怒りで、気絶するご主人様を心配するものは無い。


(テメェらが守ってやらねェからだろ)


急に元気になった歓声は、結城のために戦う羽目にならなった、安心感にも見える。

倒れる結城に目をやった。少し同情してしまう。


「くるみ、ごめんね。私のせいで…」


萌香は申し訳なさそうにしていた。どこまでも俺なんかの心配をしている少女が可愛くて、再び彼女の頭を撫でる。


「だから、大丈夫だっつったろ」

「え?」

「多分、そろそろだ」


スマホを取り出すと、タイミング良く通知が鳴った。メッセージの通知。

送信者は東雲郷。内容は数分の動画だ。


「オイ、テメェらッ!!」


声を荒げると、一気に周囲は静まり返る。得体の知れない暴力女がやはり怖いらしい。


「ここにあるのは、お前らの『弱み』だ」


そう言ってスマホの動画を再生し、周囲に見せる。

そこには少し離れたところから撮影された体育館裏の様子。つまりは先ほどの出来事が一部始終記録されていた。


「ここに映ってるモンを教えてやる。まずボコられるお前らのご主人様」


傍にいた萌香が息をのむ。その目的がわかったらしい。


「そしてご主人様を守れずに、ただ眺めていた手下たち」


モブ共の顔が歪んだ。何とも愉快である。


「しかもお前らがビビってたのは、俺。『小柄な』『女の子』で、ただの『庶民』。情けねェったらありゃしねぇな」


嘲笑ってやったが、誰も言い返すことができない。つまり図星ということだ。


「プライドのお高い皆さんなら、こんなことバラされたくねぇよなァ。なんてったって、たかが『庶民』にやられたんだから」

「このアマァ!」

「馬鹿!よしなさい!」


俺に怒りをぶつける者や悔しさで顔を歪める者、冷静に今後を見据える者など様々であるが、俺に脅されてくれるというのは共通認識のようだ。

思わず高笑いが零れる。楽しくって仕方が無い。

だがこれ以上調子に乗って逆上されても困るので、ひとまず退散することに決めた。


「もしこれ以上、俺たちに何かしたら――」


調子に乗っている俺に困っているだろう萌香の手を取る。


「アナタ達も結城サマも、痛い目みるワヨ?」


嘲笑を含みながらそう言って、俺たちは体育館裏から去る。

去り際にレンズが覗いていた場所を目線のみで確認したが、人の影は無かった。


(もう保健室かよ)


モブ共の視線から逃れ、校舎に入る。馬鹿デカい廊下で二人っきりになった瞬間、俺は吹き出した。


「ハッ!見たかよ、クソ共の顔!」

「え」

「情けねぇったらありゃしねェ。ザマァ見やがれ」


本当にスッキリした。喧嘩もできたし、なんか懐かしい感じだ。

解放感に伸びをしていると、突然萌香が笑い出した。


「ふふっ」

「あ?」

「あ、ううん」

「どした」

「いや。あ、さっきのくるみ、言葉遣いおかしかったなって」

「あー、そーだな」

「うん」


挑発の意味も込めてお嬢様口調を真似ただけなのだが。

後からツボに入ったのか、萌香は思い出したように笑い出した。


「ふふっ」

「ンな面白かったんかい」

「うん、あはは!」

「そんなおかしかったかよ」

「だって、さ」


薄っすら涙を零しながら笑う萌香の顔は、初めて見る優しい顔だった。


「昔のくるみだったら、違和感ない言葉遣いなんだよ?」

「まぁ、確かにな」

「あははっ、おかしい!」


やっぱり何がそんなに面白いのかわからなったけど。

俺の前で初めて、多分心から笑ってくれた。

その事実だけで、もう全部どうでもよくなった。

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