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乙女的ヤンキー  作者: 江田 小枝
1章 萌香編
10/20

1章-7

私が連れて来られたのは、体育館倉庫の裏。

校舎の華やかさとは程遠く、そこはいつも薄暗くて湿気ていて、嫌な空気が漂っている。


「きゃっ!」


投げつけられたのはチョークの粉だ。

見下ろした制服はもうすっかり汚れている。


(…怪我が出るような暴力はないんだよね。女だからかな)


やけに冷静な思考に反して、状況は悲惨なものだ。

周囲には数十人の生徒達。どれも力のある家の者たちで、逆らうなんて許されない。


「結城様に選ばれちゃったからよ。可哀想に」


同情に愉悦が滲む声がした。目を向ければ私を常にいじめているクラスメイト達。


「……っ」

「あーあ、ずぶ濡れ!」

「間抜けな格好ねぇ」


今度はバケツをひっくり返される。続いて浴びせられるのはギャラリー達の冷たい笑い声。

痛む心に泣きだしてしまいそうになったけど、俯きながら唇を噛みしめて耐えた。


(きっと泣き出したら、面白がって悪化する…)


「結城様ー。どうします?コイツ」

「もう何にも言わなくなっちゃいましたよ?」


私を囲む男子たちは、無表情の結城様に目を向けた。体育館裏の壁にもたれかかって、ギャラリーと私の様子を見ていたらしい。まさに高みの見物だ。

結城様は汚れた私に一瞥を向けた。


「…勝手にしろ」

「うぇーい、水追加すっか!」

「はーい」


結城様の取り巻きなのだろう。舐めた口調は権力の強さを表している。

彼らが水を調達させに行っている時もいじめは続く。箒で怪我しない程度に殴られたり、卵を投げつけられたり。


(よく飽きないなぁ…)


比例するように思考は冷静になる。思考が薄くなっていき、目に映るのは過去の記憶だった。


(前にも、こうやって…)


小学生の頃の記憶だ。私立の制服を着た同級生は、いつも私の敵だった。


『おい、なんとか言ってみろよ!」

『弱虫~!』

『や、やめてっ』


私はいつも、涙を堪えることしかできなかった。

そしてそんな私を助けてくれたのは、


『萌香ちゃんをいじめないでっ!』

『…くるみ』


涙越しに見えるのは、いつも彼女の背中。


『萌香ちゃん、大丈夫?』

『…う、うん』

『くるみちゃんすごい!』

『さっきのかっこ良かったよ!』

『当たり前のことしただけだよ』


(くるみはいつも、勇敢で、可愛くて)


――みんなから愛されていて、みんなを愛していて、


『萌香ちゃん』

『あ、くるみ。ありが――』


『さっきの子たちも、悪くないの』


――バカみたいに正しい世界を生きてた。


『え…』

『ホントは優しい子たちなの!だから仲直りしよ?』


その言葉はただひたすらに正しかったから。

そう思えなかった自分は、多分間違っているんだろう。


『…いやだよ、』

『大丈夫!きっと仲良くできるよ』

『なんで、そんな』

『誰だってね、いいところがあるんだよ』

『何言って…』

『だから仲直りしよう!大丈夫!私もついていくから!』

『私も行くー!』

『くるみちゃん、優しいね!』

『……』


そう言ってみんなに囲まれる貴方を見て、

私に言葉だけの謝罪をしたいじめっ子たちを見て、

良かったと可愛い笑顔を浮かべる貴方を見て、

それを微笑ましく見つめる女友達と、赤く頬を染めるいじめっ子たちを見て、


――あの日世界に失望した。

そんな私に、貴方の『友達』を名乗る資格はない。

私達は、ただの幼馴染。

そうあるべきだ。


「おい止めろ。テメェら」


そうあるべきなのに、


「…く、るみ」


私を失望させたその背中に。

なんで今は、安心しちゃうんだろう。

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