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被害九 某先生の新刊…か、タイトルからして悪堕ち系だな…と、思ったらエイプリルフールネタかよ…まぁ良いや






健一「今回の『白い巨像第三部』は、この春一押しのメロンブックス一般ゾーン新刊特集。


…これでランキング三桁入りは確実…ッ」

エヴァ(亡霊)「嘘はいけません!」


松葉「そもそもランク三桁どころか六桁入りもしねぇよ『白い巨像(コレ)』」


―世界各国で異形同志の戦いが起こっている最中・人禍拠点内部・玄白―


「皆、順調なようだね。

我が子の輝かしい活躍を見る親の気分とは、こういうものなんだろうな…。

さて、そろそろ頃合いか?いや、独断で巨像を動かせば疑われるな…ここはひとまず()の指示を待つとして」


玄白は研究室を一通り掃除し、荷物をまとめている最中だった。

今頃は傘下の益獣部隊が各地で破壊活動をしているだろう。人禍の計画は我が子等を試すのに最適だ。

このまま行けば、事はほぼ計画通りに進む。そうなればこっちのものだ。


「…?」

ふと、玄白は背後に気配を感じ取る。

(これは懐かしい、とても懐かしい気配だ)

そして玄白は、言った。

「…いい加減出てきたらどうだい?逆夜(さかさや)君」

玄白が呼んだのは、嘗てシンバラでとても親しかった愛弟子の名であった。

「…流石先生、俺如きの気配なんて探すまでもありませんでしたか」


白衣を着込み、白い狐の仮面で顔を覆った男・逆夜クラレ。

シンバラ社生物学科科長にして、農学科・生物化学科・医学科・動物学科などでも活動する、博士号を持った異形の男にして、玄白の愛弟子である。

元々は人間であり、明治中期の滋賀で研究者として玄白の元で細菌学の研究をしていた。

しかしある日料亭で起こった爆発事故に巻き込まれ、無惨な姿で死亡。

その死を哀れんだ玄白によってクローンとして蘇生され、戦時中偶然異形化したという過去を持つ。


「それもあるけれどね、色々な感情に左右されてエネルギーがダダ漏れだったよ。

あれじゃ見付かってしまっても文句は言えないね」

「でしょうね」

「それで、用件は何だい?試しに言ってごらん」

「先生にね、幾つか質問があるんですよ」

「質問…か…良いだろう」


「じゃあ最初に…先生、何で…会社辞めたんですか?

それに…同じ日に連盟からも消えましたよね…?

何故……そんな不必要な事を……?」

「…僕はね…好奇心に負けて平然と重罪を犯したんだよ…」

「重罪……デヴィル・フィンガーの事ですか…?

だとすればあれの何処が大罪―「立派な重罪さ」


「先生…」


「……湯船に漬かって遺伝子操作について考えている最中、ふと思い付いてしまってね。

二日後には完成していた。

遺伝子操作によって非異形を異形にしてしまう技術『悪魔の指(デヴィル・フィンガー)』…これはまさに悪魔の指先で行われる手遊びなんだ…。


確かに、この技術を使えば異形連盟や緊急特務科の戦力補充に役立つだろうし、発展すれば延命に役立つかも知れない…。

だが、同時にこの技術に関する情報が外部に漏洩すれば、動植物が金次第で手軽に異形化する時代の到来は避けられないだろう…。

僕は恐れて居たんだ……異形化した犯罪者やマフィアによる、人知を超越した犯罪を。

自分が産み出した技術で、同志や連盟や、或いは異形という存在そのものへ…更には地球にまで反逆を企ててしまう事を…」


「…じゃあ、何で人禍に…何で人禍なんかに居るんですか?何で不二子・コガラシなんかに協力するんです?

それこそ同志への…連盟への…異形への…地球への反逆じゃ無いんですか?」


玄白は答える前に、少し待ってくれとクラレに言って、ルルイエを呼び出した。

『何用で御座いましょう?古藤様』

「ルルイエ、僕らを部屋(・・)案内(・・)してくれ」

『畏まりました』


玄白の言葉に疑問をぶつけようとしたレラクだったが、時既に遅し。

彼は次第に意識を失い、深い眠りについていった。


―幾らかして・部屋・玄白、クラレ―


クラレは白い空の岩地で目を覚ました。

「お目覚めかい?」

「先生?…此処は一体…」

「秘密の部屋さ」

「秘密の部屋?」

「そう。ここには僕ら以外誰も居ないし、誰も入って来れない。例えあの不二子・コガラシもね。

だから何を話したって良いし、どう暴れたって構わない。出たくなったら言ってくれ」

「はい」

「それで、質問の答えだが…何故、僕が人禍に協力しているのか?

はっきり言えば、その理由の一つは当然、研究の為だ」

「研究…ですか…」

「そう。

シンバラは企業である性質上、社会に役立つ物を研究しなければならない。

だが僕はちょうどその頃、『商用科学』の考案に限界を感じていてね。

何か使えるアイディアは無いかと模索していた最中に、純粋な好奇心からデヴィル・フィンガーを開発してしまった。

喜ぶ反面、何時か制御が聞かなくなってしまうであろう力を得てしまった自分が許せなくなった僕は、会社と連盟を去り、自ら志願して人禍の幹部になった。

今のまま会社や連盟に留まれば、僕はそれらにとって害にしかなりえないからだ。


そして二つ目の理由だが―」



玄白は、人禍に協力する本当の理由を愛弟子に語り尽くした。


「こういう訳なんだが…君は僕をどうする?

腐り果てても一応君の師匠である事に変わりはない僕に協力するかい?

それとも、悪の道に走った師を殺すかい?」


選択を迫られたクラレは、静かに言い放った。


「古藤先生が自分にとって尊敬すべき最高の師である事は今も変わり有りません。

ですが、それでも、貴方は人禍の人です。

だから、この戦いを終わらせるためにも、俺は貴方を殺しに行きます。

勝つ気なんてありません。

ただ、貴方に貰ったこの力と、貴方に教えられた生物として真っ当な道が、貴方相手にどこまで通用するのか試してみたいんです。


我が偉大なる古藤玄白師匠、どうかこの不甲斐ないクズ弟子をお許し下さい」


そう話すクラレの手元には、既に身の丈ほどもある巨大な切断刀が握られており、その右半身は多種多様にして無数の蟲が大木に密集しているかの如し形容となっていた。


「クズ弟子だなんてとんでもない。

君は僕にとって唯一にして最高の弟子さ」

そう言う玄白の両目は異常なまでに肥大化し、透き通った水晶玉のようになった。


そして、次の瞬間。


クラレは切断刀を振り上げながら飛び上がり、玄白は目玉から太い光線のようなものを照射した。

二人の闘争は時間と共に激しさを増していった。



―数分後―


肉塊となったクラレの亡骸に一礼した玄白は、言った。

「逆夜クラレ、僕にとって君はまさ最高の弟子だ。

何たって僕が教えた事を全て最高の形で学び、活用しているんだからね」



玄白は死体から肉片を摘み、口に含んで味わうように咀嚼、飲み込むと、呟くように言い放った。





「……遠隔操作型のクローンを仕向けてくるとはね、流石僕の弟子だ。

嘗て僕が教えた訓戒を四つも実行している。

…中でも特に重要な『如何なる時も自分自身を愛し、また大切にせよ。自分を蔑ろにする事は許されない』という訓戒についてこうも徹底しているとはね…尊敬に値するよ、逆夜君」



玄白はルルイエを呼びつけ、部屋(・・)から研究室へと戻っていった。


―同時刻・イワタ&アイカワ―


本部へ向けて海上を飛ぶハンミョウ夫婦。

その飛び姿からは、まさかこの異形が二人で一人である等とは予想できないだろう。


と、ここで夫婦の翅を何かが直撃した。

「うぇっ!?は、翅が!」『ぬ!飛べんッ!』


直撃したのは水だった。

恐らく下に連盟傘下の異形が待ちかまえているのだろう。

何も出来ずに落下していく夫婦だったが、当然五死頭分隊のメンバーがこんな事で死ぬ事など有り得ない。

イワタは自身の能力を、自分達に使用した。


その瞬間、夫婦の身体が細かいキューブ状に分裂し、空中に浮遊するそれらはイワタとアイカワの身体をそれぞれ別々に再構築し始めた。


再構築が完了した夫婦は、それぞれ黒と緑色の金属光沢を放つ全長1.7m程の巨大な甲虫―巨大化したオシドリハンミョウの夫婦―となった。


これこそ、刑罰の称号を持つイワタの能力「立法」である。

彼の能力に掛かればあらゆる物体は立方体として分解され、大きさも形状も全く違う別の物体へと組み替えられてしまう。

また、分解する立方体の大きさ(一辺の長さ)は基本6cmなのだが、必要に応じて更に細かくしたり、逆に大きな状態で分解したり、立方体そのものの大きさをある程度調節する事も出来る。

個体に限らず液体・気体をも分解出来る上に、それらの構築を工夫するだけで自由自在に反応を起こしたり混合物や居化合物を作ることも出来る。

但し小ささの限界は原子レベルまでであり、それ以下の縮小は流石に不可能である。


そしてそれを海中から見上げていた人物―夫婦を撃墜した異形はというと。


「(あいつ等…分裂しただと…?)」

テッポウウオの疑似霊長・デュークは一人驚いていた。

まさか自分の水鉄砲で墜ちない蟲が居るなど、彼には信じられなかったからだ。

そして彼は再び口に水を含み、空を飛んでいる虫を撃ち落とそうとした。


と、その時である。


「ッッッッ!!」


デュークの全身へ、原因不明の刺すような激痛が走った。

痛みの勢いは猛烈そのもので、彼は苦痛の余り水中を藻掻き暴れ続け、二分もしない内にそのショックで絶命してしまった。

ぷかり…と、まさに死んだ魚の如く海に浮かぶデュークの死体を、海軍の大型魚が丸飲みにした。


『流石だな、お前の能力は』

「…そうでもないわ」



自身は謙遜しているようだが、アイカワの能力『痛覚』は、その強力さ故に賞賛せざるおえない。

この能力の概要とは第一に、何らかの形で認識した相手の痛覚神経を刺激し対象に原因不明の激痛をもたらし、多くの場合そのショックで死に至らしめるという者である。

そして第二に、対象とした相手の感じている苦痛を吸い取り、それを別の対象に移すことも出来る。

これは一見平和的な能力のようで、恐ろしい側面も併せ持っている。

つまり、対象に直接手を下さず痛みのショックで死に追いやることが出来るわけである。


―同時刻・アメリカ―


テキサスの大都市に降り立った直美と薫を待ち構えていたのは、大量の機械兵や生態兵器を引き連れた人禍の異形であった。

そして二人は現在、見事に



囲まれていた。


「…香取」

「…何?」

「某等はこれからどうすれば良いと思う?」

「…私が変身して突撃とか―「イェェェェアアァァァーッ!俺、参上ーッ!」


直美の言葉を遮ったのは、マイクで増幅された妙に厨房臭い少年の台詞と、大音量で流される、品も芸も感じられないエレキギターの爆音。

それを垂れ流しているのは、人禍に於いて最年少で幹部を務める少年、ヴァガルドス(自称131315歳。実年齢15歳)。

後天性臭いが一応先天性の異形である。

中1の五月にネットの動画サイトにて「ネット世界の神」「オタクのトップスター」「全知全能の存在」を名乗り自らの素顔を晒した動画を投稿。

誇大的な発言や無意味な暴走を繰り返した挙げ句孤立し、墜ちに墜ちて薬物乱用に陥る。

その時乱用していた麻薬が運良く(?)コカインなどの天然麻薬ではなく、合成麻薬MDMAであった為乱用する度死に近付いていき、ついに死の直前となった所でどういうわけか身体の生理機能が勝手に遺伝情報を異形のそれに書き換えたのである(所要時間僅か数秒。玄白の開発した「悪魔の指先」の場合開始から異形として活動できるまで約五日要する事を考えると圧倒的に早い)。

その後その能力の高さから(というか異形としての能力の性能だけで)飛び級で幹部にまで成り上がり、不二子より多額の物資と資金を、玄白より専属特殊部隊を与えられる。

その名も機関員となった時自ら改名したものであり、本名は「山下泉実」と、普通に日本人的だったりする(本人曰く自分は人の姿を借りた魔界の堕天使であり、地獄の貴公子にして全ての悪魔を統べる長ジョン・クラウゼスの正当後継者らしい)。


「ヒャァーハハハハハハァ!

俺様の名はヴァガルドス!

十三億年の眠りを経て、愚かなる人間共へ裁きを下すため蘇った地獄の貴公子!

魔界の悪魔長ジョン・クラウゼス様よりその地位継承を約束されている魔界の堕天使様だ!」


大勢の武装機械兵に囲まれた少年は、実に馬鹿げた服装をしていた。

簡単に表せば、ヴィジュアル系だかなんだかのメタルバンドを率いる派手なだけのアーティストと言ったところか。

黒・白・金を基調とした華美で攻撃的な洋風の妙ちきりんな服装に身を包み、無駄に派手過ぎるメイクを顔に描き、装飾まみれの悪趣味なギターを担いでいる。


「と!こんな所に手頃なメス豚が2匹も居やがったぜぇ!

よく来たな貴様等!今日はこのミサで貴様等を俺様専用の奴隷に仕立て上げてやる!」

「「…」」

「ギャハハハハハハハハハハハハァ!

俺様のあまりの威厳とカリスマに怖じ気付いて、言葉も出てこねーか!

そうだろうよ!何たってこの俺様こそが、最強の人禍幹b――」


「「!?」」


突如(―っと、あ~…ヴァガルドス?あぁ、うん)ヴァガルドスの頭が、何かに潰された。

その衝撃的な光景に、機械兵は勿論直美と薫も驚いて動けない。


暫くして、ヴァガルドスの死体が、透明な何かに喰われていく。

そして、死体を飲み込み終わった「何か」が遂にその姿を露わした。



それは高さが大体2m程の、種類不明の人間だった。

そもそも動物かどうかさえ怪しい、人型の何かなわけだが。

筋肉が剥き出しになり、その皮膚はぬらぬらした鮮やかなピンク色をしていた。

「な…なんだコイツはッ!」

機械兵の一人が機関銃を人型の何かに向けるが、もう一人がそれを止める。

「待て。あの外見、古藤様の投入した生体兵器じゃあ無いか?」

「だったら何でヴァガルドス様を殺したんだよ?」

「…総統から排除命令が下ったんじゃないか?

だから俺達は―


その瞬間、人型の何かがその腕と思しき部位で機械兵を掴み挙げ、触手蠢く口の中へ放り込んだ。

「…あ……あぁ……高木ィィィ!

てッ…手前等ァ!あんなモンどこに隠してやがっ―

騒いでいた機械兵達も、次々に人型の何かに喰われていく。

そして人型の何かは、機械兵を喰らう度にどんどん肥大化していった。


「…ねぇ…薫ちゃん…これって……」

「…あぁ……恐らくは……」


「野良ね」

「野良か」


野良…読んで字の如く。

如何なる組織にも属さない、孤立した存在全般を表す言葉。

それは異形の中でも珍しくはなく

果たしてこの存在が異形なのか、異形ではない怪物の類なのか、その正体は不明のままである。


ただ、二人には確信できることが一つあった。




どのみちこいつはここで仕留めなければならない。

二人の戦いが、今始まった。


―同時刻・イタリアはヴェネツィア―


「ハッ!セァッ!」

「うぉらァっ!」

槍と拳とが、機械兵達を薙ぎ倒し、叩き潰す。

戦闘機から降りた健一と大志は、幹部クストー率いる機械兵部隊と戦っていた。

そして三分、

「ひェ~、流石は幹部とその側近!百戦錬磨の機械兵部隊がものの三分で全滅か!」

「百戦錬磨ねェ、コイツ等そんなに強くねぇんじゃねぇのか?」

「ふゥ、そうお思いかい?なら俺と戦ってみろよ。

多分がっかりするぜ?」

「がっかりする程の実力なら、何故逃げないのですか?」

するとクストーはこう答える。

「この状況下で逃げるだと?御前等から逃げられるかよ。

川泳いだって、御前等戦闘機(そいつ)で俺を撃ち殺すじゃねぇか。

第一、ここで御前等を食い止めるのが、俺の仕事なんだよ。職務放棄なんぞしていいわけねぇんだ。

それが俺の生きる道なんだよ。この戦いで生き残ろうが死のうが、俺の仕事は変わらねぇ。

だからよ、俺は退かないぜ。退くわけにゃいかねーからなァ」


そう言ってクストーは、自らの両腕をそれぞれ一撫でし、鱗を練り合わせて手斧を作り上げた。

「中々面白い事が出来るのですね」

「いやいや、只の下手な工作さ」


水の都ヴェネツィアの戦いも、かなり壮絶になりそうである。

次回『白井さーん。白井巨像さーん。起きる時間ですよー』

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