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被害五 海外も安全とは言えないな…

―前回より・アメリカ/ニューヨーク市内―


華やかなニューヨーク市内は、航空機から投下された機械の兵士や異形の怪物達の襲撃によりパニック状態になっていた。

機械兵達の機関銃に女子供が殺され、散弾銃やライフルで機械兵を射殺したり、撲殺する猛者もまた、人禍の異形達によって殺されていった。

またある一人の紅い機械兵が、部下の白い機械兵を率いている。白い二人は何やら湯気を放つ巨大な箱のようなものを二人がかりで担いでいるようだった。

「よし、ここら辺で解放しよう」

「「了解」」

箱から何かが解放された。

それは白や黒や灰色の小動物の群れであり、筺の中から無数に湧き出ていた。

―一分後―

物陰に逃げ込んだ少女は、今時すっかり珍しくなった公衆電話に小銭を注ぎ込むと、警察へ連絡を試みる。

しかし電話は繋がらない。

ふと、受話器の重さに違和感を感じた少女は、受話器のコードを見て驚愕した。


「な…千切られてる?」


コードは途中で引きちぎられていた。

公衆電話には数匹の鼠が居り、また同時にこの鼠は少女の周囲に無数に蠢いていた。

恐らく公衆電話のコードを切ったのはこいつらだろうと、少女は思った。

「…そういえば、携帯!」

ふと少女は鞄に携帯電話を入れていたのを思い出し、再度警察への連絡を試みる。

しかし携帯電話は狂ったように動かず、暫くしてその機能を停止してしまった。


「…そんな…痛っ!?」

少女の腕に鼠が噛み付いた。

痛みを感じ振り払おうとするが、鼠の勢いたるや凄まじく、少女は瞬く間に鼠の群れにその身を喰われてしまった。


この鼠群こそは玄白の産み出した陸軍の一つにして、大都市を実質的に崩壊させる脅威の兵団「磁気鼠群ジキソグン」通称「マグネッティズム・ラッツ」である。

この鼠達が種全体として持つ異形としての能力は、名前に在るとおり「磁気」であり、その肉体は常に強い磁気を帯びる。

成長段階・性別・体調・個体差により細かく分類すると二十四種類の電波を発し、元々その電波を媒介として集まり、群れで行動する習性を持つが、玄白はこれのうち最も生命力の強い個体の頭脳にスティモシーバーを埋め込み、リモコンでその群れを操作する事に成功している。

その習性故に電子機器を見つけ出しては寄り集まり、発生した磁気によって精密機械部分を破壊。

一カ所へ大量に集まれば無線通信を阻害する事さえ容易い。

その特性と異常な繁殖力・悪食さは都市害獣としての役割を十分に果たし、小規模な街程度なら四日程で封鎖出来る程に協力であり、前述のリモコン操作によってその凶悪性は既に計り知れないものとなっている。

しかし天才的な頭脳によりあらゆる生物学・科学の分野に通ずる古藤玄白でさえ、この鼠群を無敵の存在にすることは出来なかった。

磁気鼠群は自ら発する磁気によって周囲の電子機器のみならず自らの健康までも害され、世代を経るごとに弱体化が著しくなるのである。

そうした弱体化の影響により磁気鼠群の兵器的有用性は放逐一週間にしてピークを迎え、更にもう一週で群れの個体は全て死に絶えてしまうのである。

性質は凶暴で雑食性、集団で人間をも襲う。

しかし一個体の身体能力はそこまで高くはなく、また免疫力も元々弱く病気や毒素には滅法弱いため爆弾・火炎・BC兵器の他スズメバチやグンタイアリの大群はこの鼠にとって最大の敵。

先程放たれたのは空母内で冷凍保存されていた数匹の『源泉個体』と、それに一世代目の子供を生ませたもの。

源泉個体は黒毛に黒の瞳だが、世代を経るごとに色素が抜け落ち、最終的には色素欠乏(アルビノ)化する。

よって個体の体色を見ればそれが何世代目なのか大体の所判断することは可能である。



磁気鼠群の群れは瞬く間にニューヨークの街を覆い尽くし、周辺の街へも急速にその勢力を拡大していった。


―同時刻・イタリア/ヴェネツィア―


水の都と呼ばれる多少風変わりなこの街にもまた、人禍の魔の手が迫っていた。

「何なのよあの怪物!?」

「判りません!兎に角今は全速力で逃げています!」

「ありがとう水夫さん。てか私も手伝うわ!」

「俺も手伝おう!」

「私も行くわ」

観光客数名を乗せた水上タクシーを漕ぐ水夫は観光客三名の協力を得て、まるで手漕ぎ船とは思えない程の高速により、迫り来る水中仕様の機械兵及びそれを率いる人禍幹部の男性異形から必死で逃げていた。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!

この俺の泳ぎから人間如きが逃れられるとか思ってンじゃねぇぜッハッハァー!」

この細身ながら筋肉質な男性異形こそ人禍幹部の一・クストーである。

その姿は疑似霊長でないにもかかわらずまるで魚人の様であり、それこそが彼の能力「泳者」の本質でもあった。

その能力「泳者」とは、単純に言えば泳ぎに特化した魚人の様な形態へと変身する能力であり、それ故に霧散化も可能である。

鈍色に輝く鱗は硬く、元々鍛えられた肉体も相俟って大口径銃弾や刀剣の刃を返す程強靱で、四肢や背から生えた鰭の側面は刃の様に尖り、口の中には釘のような牙がトラバサミの如く並んでいた。

唯一銃弾や刃物を許してしまう巨大な目玉の視力は高く、その構造自体がかなり特殊であるため大気中・水中共にその視界が狂うことはない(大気と水では光の屈折率が違うため、一方の環境を見渡す事に慣れた視覚でもう一方の環境を見ると視界がぼやけて写ってしまう)。

鰓と肺の両方を内蔵し、変身と共にその体液成分は通常の生物が持つナトリウムイオンから比重の軽いアンモニウムイオンへと変換される為水中で身軽に動き回れる。



クストー部隊は驚くべき速度で水上タクシーを追い詰めていった。

漕ぎ手達も次第に疲れ始め、最早追いつかれるのは時間の問題かと思われた。

そしてクストーの手が、水上タクシーを掴もうとしたその瞬間。



ガォン!



ヴェネツィアの空に銃声が木霊した。

船に乗っていた一人の男がクストーの左目を拳銃で撃ち抜いたのである。


「ぐぉああああッ!目が!俺の目がぁッ!」

クストーは左目を押さえながら勢いよく水中へと退避する。

銃口から硝煙の上がるベレッタを構えた男は、硬直する機械兵達に言い放った。

「イタリアンギャングをナメるな、化け物め!

GINKA(ジンカ)だか何だか知らないが、私の縄張り(シマ)で好き勝手暴れ回るような奴は何者も許さん!

この私が生きている限り、この素晴らしきヴェネツィアを荒らす貴様等など、一人たりとも決して生きては逃がさん!

水夫殿遠慮は要りません。さぁ早くお逃げ下さい!」

「は、はい。それではぁあァッ――

ギャングの男に言われて船をこぎ出そうとする水夫が、突如川底へと消えた。

心配する乗船者達の目の前に、皮の中から現れた者が居た。


「ったく…クストーの野郎やる気だきゃあ幹部一だっつーのに…目玉の防御怠るなんつー典型的なミスを犯しやがって…。

まぁいいや…手前等、覚悟しとけよ…?」

ワニガメの疑似霊長・アトスである。

アトスは手元に、まるでアクセサリーの様なチェーンのくっついた小さな球体を吐き出した。

「…こいつは俺の得意技でよ、まぁ見てりゃ判る話なんだが…」

アトスは球体を高く投げ上げると、少し引き下がった。

その行動が理解できず、乗船者達は空を見上げた。


「な、何だ!?あの丸いのは!?」

「まさか、さっきあいつが投げた玉!?」

「何か、大きくなってないか?」

「まさか!?そんな筈は―――


巨大な鎖突きの球体は、船を悉く押し潰した。

これぞアトスの能力「砲丸」である。

その概要とは、その強靱な咀嚼筋力を生かして周囲の物体を噛み砕き、体内で直径1cm程の鎖尽き球体として吐き出すというもの。

球体はアトスを離れると同時に距離に応じて巨大化&重量化していき、彼の指示が無い限り決して止まらない(彼が死ぬと球体も消滅する)。

ちなみに球体の材質はあくまで噛み砕いた物体の材質であり、その材質としての性質はしっかりと受け継がれていたりする。

現在船上に落ちてきた球体はかなり大きく、船の中央部分諸共乗船者の殆どを潰し殺していた。


「っと…これで殆ど死んだな…。

おい機械兵共!俺はひとまずアラミスとポルトスを叩き起こしてから、沖縄のリージョンの所へ増援部隊を送り込むよう本部へ連絡する!

お前達は引き続きヴェネツィアを制圧しろ!

仕事が済み次第、俺も向かう!」

「は!畏まりましたアトス様――

突如、機械兵の頭が吹き飛んだ。


アトスの砲丸から逃れた、あのギャングである。

「…死に損ないが。

まだ生きてやがったのか…」

ふと、アトスの頭上に全身を黒、肩・胸にかけてを紅い甲殻に覆われた小さな少女が現れた。

「随分と悪運の強い奴ね。

アトスの砲丸で死んでないなんて」

「だな、ハーカー」


ハーカー。

彼女はアトスの頭に寄生している少女の姿をした小柄なシェルツェマダニの疑似霊長であり、当然血液を主食としている。

玄白の遺伝子操作と訓練により優れた知力・学習能力・記憶力・思考力を持つ為、寄生対象であるアトスの第二頭脳として双利共生の関係にある。

知的であるが故にいつ何時も冷静であり、感情的になりやすいアトスをなだめたり、彼の話し相手になって精神を癒すのも彼女の役目。

無性生殖で卵を孕み、孵った子供を支配するという潜在的才能を持ち、能力との相性は抜群である。

また、彼女は騙しの達人である事とその能力から玄白に「嘘」の称号を与えられている。


ギャングは二匹の異形を睨み付けながら言い放った。

「悪運だと…?ギャングをなめるな化け物め!

ギャングの生きる世界は不条理で理不尽な世界だ。

そんな世界で運に頼ろうなんて、私は微塵にも思っていない!

運なんて不安定なものに頼ってしか生きられないのは、どうしようもない程に軟弱な愚か者だからだ!

だが俺は違う!俺は運なんかに頼らないし、ゴミ同然の奇跡も、形だけの神も信じない!

殺せるものなら殺して見せろ!

さっさと殺れ!

どうした?化け物が人間如きに怖じ気付いたk―――


その瞬間、ギャングの上半身は川底から突如現れた巨大な鮫によって食い千切られる。

クストーが呼び寄せた人禍の海兵・テラージョウである。

しかしその直、同時に後鮫の頭が弾け飛んだ。


「あの野郎ッ、何を!?」

驚くクストーに、冷静なアトスは言う。

「気にするな。古藤様は陸海空軍の全滅も考慮してるんだ。お前が慌てる事じゃ無ぇさ」

「そーそー。だから貴方は機械兵と一緒にこのままヴェネツィアを制圧し続けて。

途中で専属特殊部隊を呼んでも良いわ。

それが終わったらまた近隣の街を襲えばいいから。あとは私達に任せておいて」

「そうか…感謝するぜ。アトス、ハーカー。

御前等、行くぞ!」

未だ左目から血を流し続けるクストーは、傷も気にせず機械兵を率いて川を溯っていった。


―同時刻・インド/首都デリー―


インド国内。

人禍による総攻撃宣言に最も怯えていたのは、国内に住む全司祭級(ブラフミン)の国民であった。


さて、読者諸君の中には知っている者も居るとは思うが、国民の大半が三つの言語を使いこなす国家・インドで信仰されている宗教は主に、ヒンドゥー教・キリスト教・仏教の三種類である。

この内キリスト教に関しては嘗てのトマス派による支配から現在の様なローマ・カトリック派閥が殆どを占める形となっており、また仏教に関しても0.8%程のチベット仏教徒が居たりする。

そしてインドに最も浸透している宗教というのは、ヒンドゥー教である。

象・牛・猿等の動物を神と崇め喰らう事も傷付けることも許さず、また主神として宇宙の創造・管理・破壊をそれぞれ司る三柱の神を崇める等の特徴がある。

そしてそんなヒンドゥー教の数多い風変わりな特徴の中で、作者が最も忌まわしく思っているのが「カースト制度」という鬼畜で外道な身分制度である(憲法では一応禁止されたらしいが、今でも色濃く残っている地域などがあるとの話を聞いたことがある為、作中では上位連中と政府が連んで憲法で禁止された事を無視して横暴を働いている事にさせて頂く)。

概要を平たく言うならば『産まれた時から何れか五つの身分のどれかに属さねば成らず、生涯死ぬまでその身分から逃れることは許されない』という表現が適切だろう。

以下より、その五段階の身分について解説していく。


『ブラフミン』

別名をブラーフマナ、バラモンとも呼ばれるカースト制度の最高位。司祭級。

先天的な金持ちであり、上位聖職者として儀式を行う権利等が与えられ、自然界支配の能力と権利を持つとされている。

意外なことだが、インド人の過半数はこれの出身者か、そう自称する奴だという。

また、裕福なアジア諸国(日本含む)や、大陸国家(欧米・ロシア等)の出身である観光客もこの階級と同様に扱われる。


『クシャトリア』

別名をクシャトリヤとも呼ばれるカースト制度の準最高位。武人級。

王族や貴族などが属する階級であり、下位の庶民級(ヴァイシャ)隷民級(シュードラ)を統括する役割を持つ。


『ヴァイシャ』

商業・製造業が属する第三位階級。庶民級。


『シュードラ』

別名をスードラとも呼ばれる一般的に嫌がられるような職業、即ち汚れ役として生きる今年か許されない便宜上の最下位階級。隷民級。

彼らはブラフミンの影に触れることさえ許されず、上位階級の者の命令には何であれ従わなくてはならないという。


『アチュート』

別名をパーリヤとも呼ばれる、カースト制度の外に居る真の最下位階級。不可触民。

力が無く、ヒンドゥー教の加護の元でなければ生きられない悲劇の人々であるが、それにも関わらず一億人もの人々がこの階級のままインド国内で暮らしている模様。



さて、そんな中で何故司祭級(ブラフミン)が最も人禍の脅威に怯えているのか?

それには歴とした理由があった。

人禍が必ず殺すべき人間としてリストアップした、彼らの定義に於ける「死刑囚」のリストにあるインド人は、刑務所の中の犯罪者や政治家を除けば全員が『産まれながらの純潔司祭級(ブラフミン)』と呼べる人々だったのである。

これでは司祭級(ブラフミン)の人間は嫌でも怯えるしか無いだろう。というか、怯えない方が可笑しいように思える。


そしてそんなインドの首都デリーにもまた、空から人禍幹部の異形が、部下や無数の機械兵を率いて舞い降りていた。


人々が逃げ惑う中、物陰に隠れてその様子を伺っていたシュードラで乞食の少年は、人禍幹部達の姿を見て思わず呟いた。


「…シヴァ様が…ナンディンに乗ってる……。

…それにあれはガネーシャ様だ……鼠には乗っていないけれど…確かにガネーシャ様じゃないか…。

それにハヌマーン様まで……何故この世界に…?

…そうか!僕達をあのジンカとかいう悪い奴らから護ってくれるんだ!きっとそうなんだ!

ねぇ皆!何で逃げてるの?

あれはどう見たってシヴァ様やガネーシャ様、それにハヌマーン様でしょ?

だったら逃げなくったって平気だよ!?だって僕たちを助けに来てくれたに違いないんだもん!」

少年は逃げ行く人々へ必死に言い聞かせるが、人々は少年の言葉になど耳を貸さず、ただ本能の赴くままに逃げ続けた。


少年はもう一度町中の異形達にめをやり、それらが神であるとより一層信じ込んだ。

少年がヒンドゥーの神々と思いこんでいる異形達は、まず人型の男性異形一名と、恐らく此方も異形と思しき牛一頭、更に疑似霊長が二名であった。


牛に乗った男の肌は青黒く、またその首には毒蛇が首飾りのように垂れ下がっており、牛同様異形と思われた。

男の服装や身につけている装飾品、髪型は如何にもシヴァ神を思わせたが、何よりも少年がその男を見てシヴァ神であると思いこんだ理由とは、その細長い腕が全部で4本あった事だろう。

そしてその隣のガネーシャ―と、少年が思いこんでいる雄の疑似霊長―の身長は何と2.5mもあり、片方の牙は事故なのか、途中でへし折られていた。

ハヌマーン―と、少年が思いこんでいる雌の疑似霊長―の方は、身長150cm前半の細身で、比較的人間的な体つきと現代的な服装をしていた。


ふと、猿女が象男の頭上に飛び乗り、拡声器に電源を入れて構えると、語り出した。


「アー。アー。テステス。

おkおk、拡声器異常無しっと。

あー、吃驚させちゃって済みませんねー本当にもう。

うちのリーダーがね、何かこういう派手なの好きだって言うからね。仕方なかったんですよ。

んで早速自己紹介とかさせて頂きますわ。

アタシは人禍の猿飛哀(サルトビアイ)

んでこの頼れるデカブツは大田原泰蔵(オオタワラタイゾウ)ってなァマッチョメンでアタシの親友やってくれてます。

ほんであちらの多腕な男前様こそは我らが幹部こと、Mr.司馬!

アタシ等を率いてくれる、クールで素敵な御方です!」

Mr.司馬は驚きの余り硬直して動けなくなったインド人達に笑顔で手を振った。

「そしてそんなMr.司馬を背中に乗せているのは、彼の愛機にして自他共に認める史上最強の家畜・ヨシエちゃん!」

猿飛が泰蔵から飛び降りてヨシエと呼ばれた牛の口元に拡声器を近付けると、牛は陽気な声で言った。

「はいどーも!ヨシエちゃんです!」

「ありがとうヨシエちゃん!

っと、紹介が遅れてましたね!Mr.司馬の美しい御首へ華麗にぶら下がってるのはアタシ等の頼れる知恵袋ことジョンソン野沢君!」

ヨシエの上に飛び乗った猿飛は、ジョンソン野沢と呼ばれた毒蛇へマイクを近付ける。

「ジョンソン野沢だ、宜しく!」

「はい有り難う御座いました~っと。

んなわけで皆さん突然私達が空から落っこちてきて吃驚したかと思います。

その気持ち、良く判ります。誰だってそういうもんです。人間とか人間じゃないとか関係在りません。

そこは判ります。

でも、私達にもお仕事在るんですね。インド制圧っていうお仕事が。

皆さんには迷惑かも知れませんけど、司祭級(ブラフミン)の方以外は降伏して此方への協力宣言して頂ければ命を奪うような事は致しませんので。


宜しくです♪」


そういうわけで人禍によるインド制圧は開始されてしまった。


―同時刻・中華人民共和国/都市部―


「ハハハハハァ!中国人共めェ!数だけの烏合の衆めが怖じ気付いたらすぐコレだァ!ギャハハハハハァ!」

緑色の鎧を纏った男が、STGの敵に似たデザインの飛行機械に乗って民衆を追い回している。

男は異様なデザインの爆弾を民衆に投げつけ、所々へ無差別爆破を仕掛けていく。

逃げ惑う民衆の姿を見る度、男は狂ったように笑っていた。


「っと、朝鮮行ったアイツはどうしてっかな…」

あらかた爆破を終えた男は携帯電話を取り出し、どこかへ連絡を入れ始めた。

「アロアローッ?俺の嫁か?」

『ハイハーイ!アンタの嫁よ♪』

電話の相手は、男と同じくらい陽気な女であった。

「おっしゃ嫁、北朝鮮はどうだった?」

『ショボいわ!ショボ過ぎるわよ!異形連盟どころか核兵器すら影も形も無かったもの!

このアタシにあんな弱小国を押しつけるなんて、総統も判ってないわ!

だから今は総統に許可を取って大韓民国を攻めてるの。勿論総統には許可を取ったわ』

「そうかよ。んじゃ嫁よ、最後に言っておくぜ」

『何?』

「愛してるぜ」

『私もよ、婿』

電話を切った鎧の男は、再び都市爆撃を開始した。

これほど広い国土なのだ。自分の能力『発破』を使いまくって暴れ回っても大丈夫だろう。

男はそう思うことにした。

一方韓国では、男と似たような桃色の飛行機械を乗りこなし、また男と似たような桃色の鎧を身に纏った女が指先や眼からビーム光線を放っては暴れ回っていた。


―同時刻・アフリカ/セレンゲティ国立公園―


アトスとハーカーは、ヴェネツィアから急遽航空機でセレンゲティ国立公園のある地点へと向かっていた。

広大な草原地帯。人類が未知の存在からの攻撃に慌てているというのに、動物達は慌てもしなければ怯えもしない。

空に妙な飛行機が飛んでいようと、それは変わりなかった。


頭にハーカーをくっつけたアトスは一定のポイントで飛行機から飛び降りた。

地面に降り立つと、辺りの散策を始めた。

この辺りにはアトスの仲間にして、益獣部隊で一、二を争う大柄なメンバー・ポルトスが眠っているのである。

「確か、この辺りだったか?」

「だねー。この辺り。

ってかこの場所、ちょうど寝てるポル兄さんのジャスト頭の上だよ?」

「マジでか?」

「マジだね。どう考えてもマジ」

「ちょっと下がるか。どのくらい下がればいい?」

「んー。西に大股十歩くらい」

「OK」


ハーカーの指示通り、西へ大股で十歩ほどその場から後退ったアトスは、大声で仲間の名を読んだ。


「ポルトース!起きろー!出撃だー!」

「ポル兄さーん!起きて下さーい!

タ○ルちゃんと○夏の朝じゃないんですから早くー!」

「おいおい、勘弁してくれよ」

「あ、私=純○ってくだり?

確かに私、あんな可愛くないね。寧ろキモいねダニだし」

「そっちじゃねぇ。ポルトス=○ケルってくだりだ」

「あー…まぁ良いじゃん。っていうかそろそろポル兄さん起きるよ?」

「マジか?」

「マジだね」


ハーカーの警告通り、地面が徐々に揺れ始め、その揺れが大きくなると共に地面が盛り上がってきた。

轟音と共に土塊を撒き散らしながら勢いよく地中から現れたのは、益獣部隊メンバー・ポルトス。


「いよぉ、アトスにハーカー嬢ちゃんじゃねぇか。

どうしたんだこんな時間に?」

「どうしたんだじゃねぇ。自分の職業忘れたか?」

「俺の職業……人類総攻撃か?」

「よく覚えてんじゃねぇかよ…」

「いや、覚えてるって表現は適切じゃねぇな。

俺はこの日までエネルギー温存他諸々の目的で土に潜って眠ってる最中、俺の脳は記憶だの忘却だの学習だの通り越して、必要最低限の動きを残して全部眠ってたんだからな」

除波(ノンレム)睡眠って奴ですね?」

「専門的にはそう言うらしいな」


全長10mを超え、太く強靱な尻尾を持った蛙。

アフリカウシガエルの疑似霊長・ポルトスの姿を言い表すのならそんな感じだろう。

またその姿はヤールーにこそ劣るもののかなり異様な造りになっており、先述の太長い尻尾の他に、両横原の辺りから人間のそれに似た長い腕が生えている。

また彼の外皮は本来深緑色の蛙皮とでも呼ぶべきものなのだが、今の彼の外皮はまるで煉瓦造りの巨大な壁といった外見だった。


そんな3名の元に、ふと一羽の怪鳥が現れた。

「おやポルトス、もう起きたんだね?」

ヘビクイワシの疑似霊長・アラミスである。

その姿は翼を広げた長さが2mもある怪鳥であり、その翼の間接には硬い鱗に覆われ鋭い爪の生えた指がそれぞれ四本生えていた。

そんなアラミスに、アトスは指示を出した。

「アラミスよ、アフリカ大陸エリアの空中戦力の指揮権がお前に譲渡された。総統直々のお心遣いらしい」

「そうか。では早速向かうとしよう」

アトスはアラミスが飛び立ったのを確認すると、ポルトスにも指示を出す。

「んで、ポルトス。陸上戦力の指揮権はお前にある」

「ハハハ!陸上戦力の指揮権が俺に?とんだ笑い話だな!

俺にはもう俺専用の大隊(・・・・・・)が在るってのによ」

「まぁそう言うなよ。お前の大隊は航空機部隊が結構持っていくし、それ全部でアフリカ大陸攻撃なんざナンセンスにも程があるだろ?」

「そうかもな。で、持ってくのは結構だが数はどんぐれぇだ?」

「持ってく数は一機につき五十個。そいつをデカイ国や都市に一斉投入する」

「五十個ォ?そんなもんかよ?一機につきか?」

「十分だろうが。本当は百個にするつもりだったんだが重量的にどうも…な」

「そうかよ。なら好きなだけ持って行かせろ!人類共に容赦なぞするんじゃねーぞ?」

「お前こそな!」


その後アトスとハーカーは航空機に連絡を取りその場から飛び去った。

数分後、アトスが呼んだと思われる戦闘機数十機が、ポルトスの身体から煉瓦を抜き取っては積み込んで飛び去っていった。


それと同時かそれより遅いかのタイミングで、大国の首脳は人禍への総攻撃を自国の戦力に命じた。

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