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被害四 あぁ…大切な人を失ってしまった…ってかそうこしてる間に殺し合い勃発かよ!?

―前回より―


日本異形連盟所属社一同が再び総統室に集まり、それぞれが互いに近況を話し合う中、松葉がある提案をした。


「で、天聖会の連中は教祖ジョセフ・ラッセルを残して俺が全員在るかどうかも不確かな世界に送ってやったわけだが―「うぉああああああっ!」


叫び声はラッセルのものだった。

意識を取り戻し、孤立した状況に置かれたことで精神が限界を来したのである。

集まった敵の姿を見てパニック状態に陥ったラッセルは己の感情に任せて出鱈目に矢を乱射し始めた。

「ぬぉっ!危なっ!」

「熱ッ!何だこりゃ、俺のご機嫌な毛が燃えちまう!」

それぞれが乱射される矢に手こずる中、松葉は仲間に警告する。

「気を付けろ!紫の矢は刺さると俺でも確実に死ぬ!」

「当たった奴を見たのか?」

「いや、連中がそう言ってた。

救い様の無ぇ馬鹿共だったが、だからって言い分無視して自滅ってオチも有り得るからな!」

「成る程な!流石兄貴だぜ!」


ラッセルの矢の乱射は既に歯止めが効いておらず、本人も最早何をして良いのか判らないようだった。

「うああああっ!助けて!助けてくれぇああああっ!」


乱射される矢の数は尋常で無かったが、猛烈な矢の雨は突如にしてピタリと降り止んだ。

「な、何だ!?何故矢が出ない!?

我らが神ヤハウェから与えられし神聖なる力は、尽きる事など有り得ない筈だ!」

往生際の悪いラッセルに、詰め寄りながら鉄治が言う。

「諦めろ。手前はもう死ぬしか無ぇ。

この場の誰も、手前を生かして置こうなんぞ――「お待ち下さい田宮様」


「エヴァ姉さん…?」

「我がキリスト教の教義を無宗教の貴男に押しつけるつもりは一切ありません。

ですがその男、すぐに殺してしまうのは勿体ないと思いませんでしょうか?」

「…どういう事です?」

「天聖会は手塚様の奮闘により壊滅、残る人員はこの哀れな教祖ジョセフ・ラッセル只一人。

矢を使い果たしたこの男には我々に抵抗する手段など一切ありません。

しかしこの男は我々にとって今や無害であり有益でもあると、私は思うのです」

その言葉を聞いて殆どの者は、エヴァの言おうとしていることが判った。

しかし出遅れた恋歌が問う。

「どういうこと?」

「この男は一応人禍の機関員であり、比較的上の地位にあると思われます。

つまり彼は上層部しか知り得ない情報を知っている可能性が高いのです。

よって私は、ジョセフ・ラッセルをこのまま我々の捕虜として生かし、これより必要となる重要な情報を吐かせるのが適切なのではないかと思ったのですが…」


その考えに賛同した一同は、黙って頷く。

話を聞いていたラッセルは、自分の知っている人禍に関する情報を話し始めた。


「…総統は本日17時丁度、世界各地の人間が住む場所へ機関員を放ち、同時に現地に潜伏している機関員や軍隊にも起動命令を出される…。

巨像は既に目覚めており、あとは総統の命令さえあればどうにでも動く。

総統と古藤様はこの船に乗って東京湾へ移られると聞いているが…定かではない。

私の知っている情報と言えば、この程度だな…」

聞いた情報をメモし終わった松葉は、ラッセルに言った。

「それだけゲロってくれりゃ十分だ。

俺達は今から手前に手を出さねぇが、手前も俺達に手を出すな。

但しこの約束が護られないようなら、御前の命は無いと思え。

よし、引き上げるぞ」

松葉の指示と共に全員がラッセルに背を向け総統室を出ようと歩き始めた直後、ラッセルの口元が幽かに歪んだ。

そしてラッセルは再び発射台を出し、矢を放つ構えを取る。

狙いは松葉に定まっていた。



そして無い筈(●●●)の矢が発射された、その直後。




「手塚様!」

「っ!?」



エヴァが突如松葉を突き飛ばした。

地面に倒れそうになるも、どうにか受け身を取る松葉。

そして全員の意識がエヴァへと完全に集中した直後には、既に紫の矢がエヴァの背中を貫いていた。


「エヴァ!」

「「エヴァ姉さん!」」

「エヴァ様!」

「ブラウン殿!」

「ブラウン様!」

「「エヴァちゃん!」」


松葉は『罪悪の矢』に蝕まれつつあるエヴァの身体を優しく抱き、必死に声をかけ続ける。

「エヴァ!おいエヴァ!

死ぬな!生きろ!お前の身体に能力を使え!

異物を浄化して取り除き、いつものように優しく微笑んで見せろ!

おいエヴァ・ブラウン!聞こえるか!」

続いて雅子も、涙を流しながら彼女に語りかける。

「エヴァさん!エヴァさん起きて!こんな所で死んじゃ駄目です!

原作知らないのに私の本……私の絵に漫画…私なんかの絵や漫画を純粋に面白いって言ってくれた人に………私、自分を心から褒めてくれた人に目の前で死なれるなんて嫌なんです!

……だからお願い……死なないで!

そんな厨二臭い矢くらい乗り越えてっ…!

貴女の信じるキリスト教は…如何なる強敵にも負けず生き残ってきた、世界最強の博愛宗教じゃないですか…!

なのに…あんな奴に……あんな偽善者なんかに殺されて……それで言い訳無いじゃないですか!」

他のメンバーも松葉や雅子のように、エヴァに語りかけたい気持ちは山々であった。

しかし千晴・千歳や健一は目を瞑ったまま両手を合わせたまま微動だにせず心を落ち着かせ、鉄治・薫・直美・大志は松葉や雅子を撫でながら宥めていたし、恋歌は黙って涙を少し流しているだけだった。


エヴァはか細い声で言った。

「……楠木…雅子……貴女はとても素晴らしい優れた人………平和な日常を地獄とされ……恐ろしい悪意や困難に阻まれようとも決して生きる事を諦めず……必死で戦い抜いた……素晴らしい人…。

それに貴女は…人から異形となって間もないにもかかわらず……人でない者として生きる上での…覚悟が……出来ているわ………。

…その覚悟…決して忘れないように…大切になさい……。

その価値は……油田や黄金よりずっと価値のあるものよ……。

…貴女が今まで学んできた色々な知識や、様々な経験…それに、貴女が手に入れた……あらゆる技…それらは皆……貴女の覚悟と合わせて……貴女にとって最高の……財産になるわ……」

「…はい……大切に…します……」

泣き止んだ雅子は、エヴァから離れ黙り込んだ。


「………手塚……様…今こそ……私……との………『約束』を……」


エヴァはその一言と共に、息絶えた。


「あぁ…判った…」



松葉はエヴァをそっと寝かせると、立ち上がり深呼吸をし、それと共にその姿を獣のそれにした。

そして合掌し一礼すると、何とその亡骸に喰らいついた。

驚いた雅子は松葉を止めようとするが、健一に制止されひとまず黙っておくことにした。


亡骸を喰い尽くし人の姿に戻った松葉は、エヴァとの間に交わした「約束」について話し始めた。


「エヴァの奴な……何考えたか、『自分が死んだら死体を喰ってくれ』とか頼んできたんだよ…。

何でも『自分はこの能力を持つに相応しく無かった。"彼"の暴走もそれによるものだろう。

こんな自分が只死んでいくのはとても寂しい。だからせめて自分が生きた証拠というものを残しておきたい』だとよ…」


その言葉を聞いた一行は、黙ったままラッセルに歩み寄った。

怖じ気付いて死を悟ったラッセルは勝ち誇ったような態度を一変させ、命乞いを始めたが、当然許されて良いはずがない。

一同がラッセルに詰め寄ろうとした、その時。



ツッ



ラッセルの首に、何やら小さな注射器か麻酔弾に似たものが突き刺さり、教祖は倒れた。


「…何だよ、これから作者お楽しみの敵キャラ虐殺シーンだってのに…」

「毒殺ってどういうことなの…」

「…まぁ良いや…行こうぜ皆…」

「ですねー。そういえば外部に船とか潜水艦とかほったらかしでしたしー」

「戻ろ――「ふおおおぉぉぉぉぉぉッ!!」


空母脱出ムード全開の日異連一行の耳に入ってきたのは、毒殺された筈のラッセルの悲鳴。

驚いて振り向けば、彼は狂ったように叫びながら苦しみのたうち回っており、最後尾に居た薫目掛けて突進してきた。

身構える薫だったが、生態的な抑制の外れた筋肉から繰り出される常識外れの怪力によって突き飛ばされ、刀を奪われてしまう。

一行は攻撃を予知し身構えたが、その刃先は持っているラッセル自身に向いていた。




自殺を試みているのである。




しかし刀を持ったラッセルの右手は己の心臓を貫こうとしている反面、何者かによって押さえつけられているようにも感じられた。

数秒後、刀を落としたラッセルは目を抑え蹲った。

直後起き上がったラッセルの顔を見て、一同は凍り付いた。




「ぁ…ぇぅぅ……ぴー………ぴよぴよ……」





その両目が在るはずの穴からは円錐形の突起物が飛び出ており、左右それぞれが全く違う不規則なタイミングで動き続けており、先端が黒く、緑と城の縞模様である事からまるで芋虫を連想させた。

そのあまりの異様さに寒気を覚えた一行は、静かにその場を去り、外部でそれぞれ二手に分かれ船と潜水艦とに乗り込み空母を脱出。日本を目指すと同時にラッセルから得た情報を国際異形連盟に報告した。


一方一人残されたラッセルはと言うと、まるで狂ったかのように鳥の真似事をし始めた。


「ぴーよぴよぉっ!

ぴーよぴよっ!

ぼくはとりさん!とりさんだよぉ!

ぱたぱたぱたぱたぱぁぁたぱたっ!おそらをとべる、とりさんだよぉぉぉっ!

きょうはなんていいおてんきなんだろーなあ!

こんなひはおともだちといっしょにうたってあそびたいなー!」


両手を鳥の翼のように羽撃かせたラッセルは、驚くべきスピードで柱へと昇っていき、叫んだ。


「とぉぉぉりさああああん!あーーーそぼーーよーーーーーー!」



するとどこからとも無く大きな鴉が一羽、ラッセルの元へと飛んで来た。

喜ぶラッセルだったが、直後鴉は驚くべき行動に出る。



グャウッ



「…あげ……」


ラッセルの右目が、鴉によって啄まれたのである。

それまで狂ったように笑っていたラッセルだったが、その表情が徐々に曇っていく。

しかし鴉はお構い無しに、ラッセルの左目をも啄み、その両目の神経を徹底的にほじくり出した。

ブヂリ と、生理的嫌悪感を感じさせる音がしたかと思えば、ラッセルの腕力は急激に鈍り始め、彼は床へと仰向けに転ちていった。


「あぁああぁぁぁぁあああぁああぁぁぁぁあああいたいよぉぉおおおおおぉおおおぉぉぉ―――――バゴシュ



コンクリート製の床材に直撃したラッセルは全身に複雑骨折を負った上に衝撃の余り臓器が原形を留めない肉塊レベルにまで粉砕された。

直後、血と胃液と胆汁と泥状の臓腑が混ざり合った液状のものが両目・両耳・口・鼻・肛門・尿道から勢いよく噴き出すと共にそれらの穴全てへ詰まり、腹が破裂。

血とも肉とも言えない泥状の汚物が総統室の一角に撒き散らされた。


―本土・YMAジャーナル本社―


「編集長、お時間宜しいですか?」

若い男性記者が訪ねる。

「何だ沢村?大巨人についての情報なら大歓迎だぞ」

編集長・竹本晴彦は、八丈島近海にて起こったトビウオ漁船破壊事件について追っていた。

「その大巨人なのですが…オカルトマニアの甥がそれと思しき巨大生物についての情報を提供してくれまして」

「オカルト?

…良いだろう、話してくれ」

「では編集長、エリゴス・ウェールズをご存じですか?」

「エリゴス・ウェールズ?

17世紀、世界中の海で活躍した巨大海賊船『ネイキッド・シール号』の船長か?

あの『耳元で爆弾が爆ぜても起きない』『鮫と鯨に育てられた男』とまで言われた伝説の海賊だろう?

確か50代で海賊船同士の抗争に巻き込まれた際射殺されたとかの」

「そのエリゴス・ウェールズですが、実際の死因は記録と全く別のものであるそうです」

「別のもの?」

「はい。甥から借りてきた本によれば、ネイキッド・シール号は突如海中から出現した巨大生物によって完全に破壊され、その時巻き添えになった乗組員達の殆どが死に絶えたそうです」

「何処からの情報だ?」

「巨大生物襲撃の際奇跡的に生き延びた唯一の乗組員、エドワード・マンセルによって書き記された手記だそうです」

「マンセルは赤道横断中病死したと聞いているが…」

「それは弟のジャック・マンセルです。

記録の上でも、エドワード・マンセルは船長の死後生存し海賊を引退。

平和的な老後を送ったという事になっていますよ」

「そうだったな…それで、その巨大生物というのは?」

「マンセルは自伝の中でその生物を『全身白い長毛に覆われ、身体と手足はまるでナナフシのように細長く、尾の様を言い表すならば毛の生えた竜。頭は東洋の竜かワニを思わせるシルエットで、頭には悪魔に似た角を持った、途轍もなく巨大な怪物』と語っています」

「成る程。それほど大きいのなら大型トビウオ漁船を握り潰すなんて容易いだろうな。

それで、マンセルはその怪物を何と名付けているんだ?」

「マンセルはその姿が、巨大さの余り生物でない人工物の如し風体だった事から『白い巨像』と名付けています」

「白い巨像…か。有名医学ドラマのタイトルっぽいが、まぁ良いだろう。

大和テレビの大西に電話してみよう。|日本教育テレビ(NKT)本部の安藤にもだ。

こいつを主題にしたドキュメンタリー番組を作れば今までにないほどの視聴率を取れるぞ!

それに出版社の高橋や濱田にも話を振ってみるか!今に書籍は馬鹿売れだ!」


晴彦がYMAジャーナルを率いる一方で、彼の同級生達の一部はテレビ局や出版社等の長へと成り上がっていた。


―海上・松葉、雅子、直美、大志―


「どいつもこいつも一斉攻撃に備えて出払ってやがる。

御陰で脱出が余裕過ぎて怖いな」

「ですねー。というか、海中組は大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫だろ。指揮は健一に任せてあるし、華奢な恋歌もあの潜水艦の中なら安全だ」

「で、こっちには私や手塚さん他比較的タフな面々を配分したわけですか」

「そうだ。直美も大志もしぶとさにゃ定評があるからな」

「ははは。確かに俺等ぁ只で死ぬ様な奴じゃあありませんねェ」

「まぁ、アタシ達身体張る仕事くらいしか自信ないものねぇ」


雑談に興じる4人は、人禍拠点の空母が一瞬にして海上から忽然と消失した事に気付いていなかった。

時を同じくして海中の健一、薫、鉄治、恋歌と妹尾姉妹もまた、潜水艦で早急に日本へと向かっていた。


そして時間は巡り、遂に時は来る。

そう、人禍による世界一斉攻撃である。


―17:00・東京湾―


海の付近に居た者は皆、突如海上に現れた全長600m以上ある超巨大空母の出現に、驚くほか無かった。

驚いて逃げ出す者も居れば、記念撮影を試みる者や、声を掛けたりよじ登ったりする者など、反応はそれぞれ違ったが、皆誰もが空母の存在に驚いていたことは確かであろう。

また同時に、世界各国あらゆる『人の在る土地』の上空に、漆黒の大型爆撃機や軍用ヘリコプターが何十機も突然現れた。


暫くして、船内から出てきた不二子は船首へと歩み寄り、拡声器を片手にこう叫んだ。



「御機嫌よう忌まわしき地球人類達!

私は不二子・コガラシ。貴方達を根絶する『人禍』を統べる存在。

早速ながら言わせて貰うと、貴方達は秀逸な頭脳と適応力によってこの地球上で大変素晴らしい繁栄振りを見せているわ。

しかし同時に、貴方達は調子に乗り過ぎた。

互いに憎しみ合い、怨み合い、殺し合い、欲望に任せてあらゆるものを消費し、破壊してきた。

白色人種は法の上でこそ改心したものの、今も心の片隅に有色人種を蔑み見下す心を持っているし、また鯨を護るという大義名分の元に無意味で非道な暴力行為を働いている。

中国人は自国の発展しか考えず、河川を死と悪夢で溢れた絶望の流れる場所としてしまっても尚、平然としている。

インドの民は一人が平均三種の言語を使いこなす程素晴らしい頭脳を持っているにもかかわらず、未だ産まれながらにして民衆から自由を奪い、生涯死ぬまで拘束するという古くさい低俗な制度の下で生きている。

何も、人種だけの問題ではないわ。

私は誇り高く己の道を信じる宗教家達を素晴らしいと思うけれど、でもそういった宗教家の面汚しが神の名を汚しているのもまた事実。

家族は互いに愛し合い協力する同位体だと言うのに、子を殴り殺す親が居て、親を刺し殺す子も居る始末。

つまらない理由で特定の個人を意味無く攻撃し、破滅させる卑劣なガキ共が少年法に護られてノコノコ生きている様は見ていて忌まわしいと思わない?

卑劣な罪を犯した犯罪者を殺そうと思う者は少なく、どいつもこいつも『人権』だの『命の尊重』だのと抜かしては保護して、それが原因でクズ同然の人間がのさばる様は嘆かわしくまた恨めしい。

その癖獣や虫ともなれば益や害の有無を問わず大したことのない理由で皆殺しにするだなんて矛盾も良い所よ。

報道機関は真実を伝えようとせず、自分達に都合の良い事実ばかりを流し時に捏造さえ厭わない。

嘗ての首相が漢字に弱い事を叩いた新聞屋も、今の首相が重大な金絡みの不祥事を起こしたことはそう叩かないじゃないの。

嘗ての野党代表の秘書が逮捕されたというのに、部下を管理できなかった党首本人は未だ腐る程ある金に溺れて怠惰な政治家生活を続けているなんてとてもじゃないけど許せない。

こういった、『人類の惨状』は最早目も当てられない程酷く、また同時に嘆かわしいものだと私は思うわ。

そういった惨状に不満がある場合、強者ならばそれらに耐え、また平和的な解決を試みるのでしょう。

でも私は弱者なの。とてもとても弱い女で、どんな女にも雌にも負けるほど弱い存在だわ。

故に私は決めたわ。


私達人禍は今から全地球人類に対し大規模な私的制裁を執り行う事にします。貴方がたの協力は歓迎しますし、また貴方がたがどのように行動しようと私はそれを咎めません。

ただ、武力を行使しない抗議や話し合いには弱者ですので一切応じません。ご了承を」


その言葉は本来、地球上のどの言語にも当て嵌まらないものだった。

しかしその演説は、聞く者全ての耳に各自の使う言語として認識され、日本はおろか世界中の人間に理解可能なものであった。

演説を終えた不二子は、両手を天高く掲げ、叫んだ。

「総員、攻撃開始!」


世界中の上空に浮かぶ爆撃機とヘリコプターの下部ハッチが開き、中から大きさ・容姿共に千差万別の異形達や、無数の機械兵達が落下傘装着の元投下されていく。

それだけではない。

世界各地あらゆる場所で、地中や水中から突如怪物が発生する等という事も起きていた。


東京湾の不二子は、更に続ける。


「とはいえ、この世界の人間誰もが命乞いをすれば死を免れるわけではないわ。

何故って、この世界にはこの制裁によって必ず死ななければならない者が居るからよ。

今からそのリストを表示するわ。我らに必ず裁かれるべき悪人達…それは、こいつらよ!」


不二子が右手を掲げると、船が建て半分に割れるように変形し、その中から巨大なモニターが現れた。

そこへ次々と、あらゆる人間の顔写真・名前・性別・国籍・年齢が表示されていく。

その中には、名だたる死刑囚の他に、元アメリカ大統領や世界各国政府の重役、ギャングやマフィアの他、日本の内閣官僚や大臣の名の殆どが記されていた。


―同時刻・沖縄県某所―

首相・鳩谷幸満はテレビを見ながら凍り付いていた。

「…何故……私の名が…!?

それに…大川先生や(スガ)大臣まで…?

…何者なんだ……あの、人禍という連中はッ!?」

その場で動けなかったのは何も幸満だけではなく、彼の妻と両親に娘、更には旅行に同伴していた娘の恋人や友人やその家族も含まれており、その人数は実に十五人にも及んだ。


と、その時である。

部屋の中に、突然何者かが現れた。

「はァい総理♪それにご家族や御友人のミナサマも御機嫌よウ」

陽気な口調と奇妙な声で喋る何かに気付いた一同は、その場を振り返る。

するとそこには、異様な怪人―否、怪物が居た。

身長は2mに及ぶ程高く、頭部にはアリクイにもツチブタにも見える動物模した奇抜で不気味なデザインのヘルメットを被っていた。

幸満は怪人に、思い切って問う。

「お…お前は誰だ?」

怪人は答えた。

「僕の名前聞きましたネ?

私の名前訊くんですネ?

ならば答えましょウ答えますとモ答えるべきでしょうとモ!


まァい、ねェィむ、いッず リージョン!

人禍のォォォゥ…リィィィィィジョォォォォンッ!よーろしーくネェッ!」


内閣総理大臣・鳩谷幸満他、この場の人間達はまだ知る由もない。

この狂った侵入者・リージョンが、自分達を地獄の奥底に突き落とす装置のスイッチを力一杯押す存在である事を。

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