被害三 でも嫌われるような事してる宗教家は極一握りであって、そういう奴は大抵自滅する
「ハァァーッハハハハハハハハハハハハハハハァ!
何が幹部だ!何が日異連だ!
異世界を旅して悪霊を倒した?
太平洋戦争で兵士を二万人以上殺した?
航空機を3942機落とした?
地上兵器を六千以上潰した?
戦艦を32艘沈めた?
だから何だ!
所詮は只の下級悪魔だ!
ソドムとゴモラを焼き払う神の怒りに起因する大火には、呆気なく焼かれざるおえなかったわけだ!
どうだ参ったか手塚松葉ァァァァ!!
我ら天聖会はァ、この腐りきった世に生きる人間共にィ、神罰を下ァァァ――
ラッセルがそう高らかに喚き、それに合わせてメンバーが雄叫びを上げていた、その瞬間。
空中に突如巨大な獣の頭が大口を開けて現れ、『火炎』のメンバーを次々と生きたまま食い尽くしてしまった。
棒立ちになって眺める天聖会メンバーそ尻目に、獣の頭は次第に実体を成しながらその正体を露わにしていく。
そして現れたのは、人間の姿に戻った松葉。
天聖会メンバーは驚きの余り動くことが出来なかった。
ラッセルは言った。
「…手塚……松葉…貴様……死んだ筈では…?」
「馬鹿か、手前は。
俺の能力『禽獣』ってのは所謂『単一変身系能力』だろうが。
単一変身系の異形は、本来の能力と潜在的才能に加えて『霧散化』っつー技持ってるってなぁ、異形業界なら常識の中の常識だ。
まさか俺達を"汚れた悪魔"なんて呼ぶ手前等が霧散化も知らねぇなんて笑い話はねぇだろうな?」
その言葉に誰より腹を立てたのは、ラッセルではなかった。
プライドが無駄に高い事に定評のある、『燐光』の団長である。
「…糞ッ!我らが教祖様を馬鹿にしおって……えぇい!怯むな貴様等!
教祖様の敵は我ら天聖会の敵だ!『燐光の使徒』構えェェッ!!」
団結した『燐光』の集団は、団長を戦闘に鋭い二等辺三角形の様に並ぶ。
そして団長は両腕を高く挙げた。
また三秒後、今度は団長の両腕からまるで光る刃の様なものが生えている。
「団長、エネルギー充填完了しました!」
「でかした!手塚松葉!この俺の両腕の餌食となるが良い!
『ライトニング・ホワイト・スラッシャー』!!」
団長は両腕の長い刃を松葉に振り下ろした。
刃は振り下ろされながら急速に伸びていくが、振り下ろされるのと同時に松葉は獣化し、瞬く間にその場から消え失せた。
「糞!何処だ?何処に消えt――「此処だ、呆けが」
ふと見れば、空中には灰色の羽毛を生やした巨大な鳥の様な生物が器用に滞空していた。
その体格は禿げ狗より一回り小さく、しかし大きな翼はその身体をより大きく見せていた。
足はまるで爬虫類のように強靱で硬い鱗に覆われ、嘴は鋭く全体的にミサゴを思わせたが、喋る度に開くその口は大きく裂け、その中には鋭い牙が等間隔で並んでいた。
「貴様…何者だ!?」
問いかけつつ刃を振るう団長に、それを避けながら巨鳥は答えた。
「何者だァ…?
この声で判別出来ねぇのかよ……。
俺ァ、日本異形連盟東京チーム幹部にして一部じゃ名の知れたゲーム詩記者の手塚松葉様だ…」
淡々と話す、松葉を名乗る巨鳥。
「馬鹿を言え!貴様のその姿はどう考えても変身した手塚松葉ではないだろうが!
あの男はもっと醜く、汚らわしい姿に変ずる筈だ!」
団長はそう良いながら巨鳥を切り刻もうと刃を振るうが、巨鳥はそれらを卓越した飛行技術で避け続ける。
「糞!でかい図体に似合わず素早く動き回る奴め!」
痺れを切らした団長は、その刃を腕から剥離させ、巨鳥へと投げつける…が、次の瞬間。
ザガシュッ!
刃の一本は巨鳥が銜えて受け止めており、巨鳥はその一本を器用に扱って、『燐光』団員の約半分を瞬時に斬り殺した。
団員は一成にその場から逃げ出そうと考えるも、動き出す前には既に投げ返された光の刃によって瞬時に斬り殺されていた。
巨鳥の身体は次第に縮んでいき、最終的にそれは松葉の姿を取った。
ラッセルは聞いた。
「それが、頭のすげ替えという奴か?」
「ご名答。普段使ってる獣の奴以外に、俺にはもう六つの頭がある。
そして俺は頭をすげ替える事で、獣化後の姿全てを変えることが出来る訳だ。
さぁ仕向けろよ。クレヨンはまだ五本も残ってンじゃねぇか!
俺もあと五つ変身を残してんだぜ?」
松葉のその言葉を受け、ラッセルは命ずる。
「『激流の使徒』よ!
ルルイエ様との連携により成り立つ貴様等の必殺奥義で、奴を沈めてやれ!」
『はッ!』
『激流』の団長はリモコンのような小型機械に備わっている蒼い大きなボタンを押す。
すると総統室が大きく変形し、松葉は全長30m程の巨大で真っ直ぐな深い溝の中に立っていた。
松葉は思った。
「(ルルイエの奴…随分と無茶な変形を…)」
『激流』の団員は、団長を先頭にしてトライデントの矛先の様な隊列を成す。
すると、列と列の間に青く光る壁が現れた。
団員の一人が叫ぶ。
「団長、エネルギー充填完了しました!」
「でかした!では手塚よ…溺死するが良い!!
奥義『ビッグ・ブルー・スパイラル』!!」
ドォアア!!
溝に向かった青く光る壁面から、どういう訳か大量の水が現れ、その全てが溝に流れ込む。
水は津波と激流を成し、高速で松葉に襲い掛かる。
しかし対する松葉は、一切動こうとしない。
激流は松葉を丸飲みにした。
二分後、団長は再び青いボタンを押した。
すると溝の末端付近に渦が発生し、徐々に巨大化していくそれは最終的に渦潮の様な大きな水流の渦となった。
渦が完成してから一分後、団長は言った。
「はっはっは!
どうだ、我らが奥義『ビッグ・ブルー・スパイラル』の威力からは、流石の貴様とて逃れられまい!
真の激流の中からは象も鷹も抜け出すことは出来ん!
その上ルルイエ様によって作られた大穴からその水が抜け出す時、そこには擬似的な渦潮が発生する!
渦潮に巻き込まれた動物の脳は狂わされ、その流れに逆らうことの出来る者はこの世に存在しない!
今頃は上も下も判らぬ状態で、その身を海軍に食い尽くされている事だ―――「団長!団長ーッ!」
「どうした峰崎?」
「げッ…激流の中に…何か居ます!!」
「何か…だと?
まさかあの男、あの状態でこの流れを溯っている訳はァァー!?」
『激流』の団長が驚くのも無理はなかった。
ふと壁から溝の激流に目をやると、流れに逆らって余裕で泳いで接近してくる巨大な影があったからである。
しかも、途中黒い背鰭が見え隠れしており、そこを泳いでいるのが相当巨大な魚である事が判る。
団長は言った。
「…何故……何故だ……我が『激流の使徒』が誇る『ビッグ・ブルー・スパイラル』の流れに逆らって泳げる海兵は居ない……そもそもあの渦を溯って船内に侵入出来る者など…人禍には居ない筈だ!」
と、次の瞬間。
激流の中を泳いでいた巨大魚が、遂にその姿を現した。
その姿は全長10m程の巨大な漆黒の肉食魚であり、その胴体と頭部は深海魚・ホウライエソに似ていた。
しかし背鰭はどちらかと言えばスズキ目の魚の様であって、その胸鰭は何とトビウオの様な大きく幅広いものだった。
肉食魚―に、変身した松葉―は身体をうねらせながら激流の中を突き進み、突進するようにして瞬く間に『激流の使徒』達を食い尽くしてしまった。
松葉が青服達を食い尽くすのと時を同じくして溝の中の水は全て抜けきり、溝は元に戻った。
その直後、松葉も次の戦闘に備えて、陸上が苦手な魚の姿から人の姿に戻ろうとする。
が、既に周囲を緑色の『烈風の使徒』達に囲まれていた。
どうにか人間の姿に戻った松葉だったが、その直後『烈風』の団長が奥義を発動した。
「『エメラルド・グリーン・ハリケーン』!!」
ギュォオオオン!!
透き通る美しい緑色の竜巻が、松葉の身体を巻き上げる。
竜巻に拘束された松葉は身動きが全く取れないで居た。
「フゥハハハハハハァ!!
抜け出せまい?当然だ!
その竜巻からは、あの隼人様さえ能力を使わずしては生身で抜け出せなかったのだからな!」
団長の言葉を聞き流し、尚も竜巻の中で回り続ける松葉。
その身体は強風に煽られる余り、次第に身体の肉が剥がれていくのが見て判る。
「ハハハ!『エメラルド・グリーン・ハリケーン』の絶大な拘束力からは流石の貴様も逃げ出せまい!」
団長がそんな事を言っている内に、拘束された松葉の身体はいつの間にか消えていた。
しかし団長はそれを不審に思うでもなく、勝利を確信した。
「ハッハッハァ!やりました、教祖様!
ついにあの手塚松葉を粉々に粉砕してやりました!」
「よくやったぞジョージ!
お前は天才d―――――ヴォウォゥン!!
喜びに満ちあふれたラッセルの言葉は、羽虫の羽音のような音によって掻き消された。
しかしラッセル他、天聖会メンバーはこの羽音を特別怪しむような事はしなかった。
「何だ?古藤様の空軍か?」
「恐らくその類でしょう。特に心配する必要性も―ッグァァアアあああ!!」
松葉が死んだと思いこみ、暢気に煙草を吸おうとした『烈風』の団員は、突如黒い群れに襲われた。
その他の緑服達も、次々と群れに襲われて苦しみながら死んでいく。
ラッセルを含む『烈風』の団員を除く天聖会メンバーは最初その黒い群れが何か判らなかったが、一瞬でそれが巨大なゴキブリに似た甲虫である事を理解し、恐怖の余り引き下がった。
苦痛の余り悲鳴を上げながら、無数の黒い蟲に皮と肉を食い尽くされていく緑服達。
黒い蟲の総数は余りにも多すぎて判らなかったが、これが群れを成して空を飛ぶ様を衛星写真で撮影すればきっと黒い塊としてはっきり写せるであろうとは、容易に予想が付く。
団長を残し緑服全員を食い尽くした黒い蟲の群れは、急速に一カ所へ集結していき、集合・合体した。
それは巨大な蟲の姿であった。
『烈風』の団長は既に恐怖の余り腰が抜けており、必死に風の矢を連射していたが、そのどれもが出鱈目な方向に飛んでおり、蟲には全く当たっていなかった。
蟲は恐れおののく団長をじっと睨み付けながら大口を開け、最期の緑服をまるで包み込むようにして丸飲みにした。
腹の中からは団長の悲鳴と血肉が食いちぎられる音が絶え間なく聞こえてきた。
蟲が緑色のボロ切れなど食べられないものを吐き出した瞬間、今度は黄色い集団が蟲―になった松葉―を取り囲んでいた。
黄色い『雷鳴』の団員が言った。
「貴様の正体が手塚松葉である事は周知の事実!
そして見たところ、お前は一度変身を解除せねば別の姿へは変身できないと見える!」
更に別の団員が続く。
「お前が我々の属性に合わせて姿を切り替えるのは既に四度見たわ!
獣!鳥!魚!虫!全てそれぞれの属性に合わせてあったのよ!
続いて別の団員が言った。
「だがこう囲まれてしまえば我らが奥義によって消し炭になるしかあるまい!」
シメに団長が言う。
「裁きを、受けて貰うぞ!
『グレート・イエロー・サンダーボルト』!!」
大きな落雷が、松葉を直撃した。
しかし彼はその姿を瞬時に次の形態へと写していた。
漆黒の巨大な巻き貝である。
団長は言った。
「何と!我々の読みは外れていたか!
だが不足はない!強固な巻き貝の殻で雷から身を守ったつもりだろうが、その内部には軟弱で愚鈍な本体が仕舞い込まれているのだろう!
愚かな事よ、殻にフタをしていないとはな!
これでは殻の入り口から撃ち放題ではないか!
全員、構えェィ!」
団長の指示により集まった『雷鳴』メンバーは、一斉に右腕のクロスボウを貝殻の口に向けた。
と、次の瞬間。
ズルルルォォォォォォォォォォッ!!
貝殻の口から無数の触手が一斉に飛び出し団長を除くメンバー全員を絡め取ると、その首を縛って絞め殺してしまった。
絞め殺された団員達は、触手によって殻の中に引き込まれて行く。その直後には骨肉の砕ける音だけが木霊する。
誰もがその光景を黙って眺める事しか出来なかった。
暫くして殻の中から這い出てきたのは巻き貝などではなく、巨大な蛸か烏賊の様な生き物。
アンモナイトである。
アンモナイトは触手で殻を器用に支えると、団長を睨み付けた。
団長は漸く口を開いた。
「…貴様……巻き貝に化けたんじゃあ……無いのか?」
オウムガイに化けた松葉は答えた。
「俺が化けたのはアンモナイトだ。
その程度の事、殻の巻き方で気付け」
そう言って松葉は触手を伸ばし、団長を生きたまま生い茂る触手の茂みの中へと引き込み、生きたまま足から食い尽くしてしまった。
松葉は人間の姿に戻ると、言い放った。
「…来いよ、次。
どのみち喰い尽くしてやっから」
その言葉に精神を逆撫でされたのは、銀色の服を着た『聖剣』の団長。
声と体格から推測すると、若い女性のようである。
「どのみち喰い尽くすですって?
あの落ちこぼれ共と私達『聖剣の使徒』を一緒にしないでくれる?
連中は所詮あんな訳の判らないシュールなエネルギーに頼るしか無かったけれど、私達はその実力を神に認められているからこそ、天使でありながら悪魔の武器である刃物を扱う権利があるの。
そう、選ばれた存在であるが故にね。
だからこそ、私達の剣は何者にも負けはしないわ。
万物を切り裂き、貫けぬ物はない、最強無敵の剣…それが私達の『聖剣』!」
団員達は団長に向けて両の平手を突き出すように掲げ、手先から何かを放出するような構えを取る。
そして団長がそっと右手を掲げると、その手元に巨大で独特な形をした大剣が刃を下に向けた状態で現れ、団長はそれを手にとった。
「我らが奥義『シルバー・ジェノサイド・レイン』で細切れにしてあげ………る………?」
幅広い刃に数十本の細く小さな刃が列を成して生えている大剣を振り上げた団長だったが、その身体は突如硬直し力を失ったかと思えば、剣を手放し弱々しく床面に倒れ込んでしまった。
見れば、彼女の首に白く透き通ったヒモの様なものが巻き付いている。
対する松葉は、ポケットに手を突っ込んだまま一歩たりとも動いていない。
「団長!」
「団長ー!」
団員達は倒れた団長に駆け寄り彼女の意識を確かめようとするが、時既に遅し。
団長は身体に傷一つ無い状態で死んでいた。
「一体何が起こったんだ?」
「心臓麻痺じゃないの?」
「馬鹿言え!若い異形がそんなもので死ぬか!」
「じゃあショック死か?」
「あのね、貴男『異形医者要らず』という古藤様の御言葉を忘れたの?」
「だとしたら何だと言うんだ?」
「またあの手塚松葉が何かやったんじゃ―――「正解」
松葉の一言は至って普通の一言だったが、銀服他『天聖会』のメンバーを黙らせるのには十分だった。
「御前等のリーダーを殺したのは、他の誰でもなく正真正銘この俺手塚松葉様その人だぜ。
御前等も見ての通り大虐殺―獣に化けて炎を喰らい、鳥に化けて光を啄み、魚に化けて水を噛み殺し、虫に化けて風を崩し、オウムガイに化けて雷を締め上げるっつー行為―の限りを繰り返した俺が次に化けたのはな……海月だ」
『クラゲ…?』
「そう、海月だ。しかも毒は今回限定特別仕様って事で、刺さった瞬間相手の細胞全てに自殺命令を出す強力かつ高等なブツを使ってやった」
「な…貴様…クリスチャンにとって自殺が何よりの禁忌であり、屈辱である事を知っての行いか!?」
そう言って一人の団員が放ってきた矢を手で受け止めた松葉は、右手の人差し指をクラゲの触手に変化させると、言い返した。
「おう、勿論知ってるとも。
つか手前等だってよォ、『輸血拒否で死んだ子供は自分を見殺しにした親に感謝すべき』とか言ってるだろうが」
その言葉に、銀服達は怒り狂い矢を放つ。
「黙れ!悪魔如きに我々の何が判―――「死ね!」
松葉の触手が風を切るような音を出し、銀服数名の地肌に接触する。
その瞬間、銀服達は苦しむ様子もなく地面に倒れ伏した。
直後身構え、松葉に向けて刃の矢を放つ団員達。
矢が飛来する中、松葉は一部の皮膚を橙色の疣状の甲殻に変化させた。
『聖剣の使徒』が放つ矢は、他のものと違い物体と接触した瞬間その物体を一定の長さだけ切断するという特性がある。
動かぬ松葉に放たれた無数の矢は、瞬く間に彼を細切れにした。
団員の一人が言った。
「……口ほどにもない……口ほどにも無いぞ、この男………それにあの女は何だ…?
何時も偉そうに命令ばかりしやがって……自分ばかりを特別扱いして、俺をぞんざいに扱ってきた…。
……それが何なんだ…あっさりと毒殺なんてされやがって!
貴様等、よく聞け。
今や変革の時。
時代は新しいリーダーを必要としている!
そして我ら『聖剣の使徒』ニューリーダーは勿論この俺――― バォフッ!
某戦闘機の様な台詞を言い出した団員は突如、謎の袋へ包まれ、何かに吸い込まれた。
謎の袋は、いつの間にか元に戻った松葉の口から吐き出されていた。
「…貴様……まだ、生きて居たのか!?」
「…避けるのは余裕だったんだがな、手前等油断させるんならこっちのが適切だろうと思っただけだ。
ッッッ…ヴェアカッ!!」
松葉は再び袋を吐き出し、殺した団員達を丸飲みにする。
残る銀服達も腰が抜けて動けず、一人が言った。
「…死ぬ前に一つ教えてくれ……その袋は何だ?
というか…貴様は何に化けたんだ?」
「俺が化けたのはヒトデだ。
で、さっき吐き出したのは俺の……胃袋だな」
「……胃袋……?
…ふざけやがっ―――
松葉は自身の身体の何倍もある特大の胃袋を吐き出し、銀服全員を丸飲みにしてしまった。
千切れた脚一本どころか細切れになった破片一粒からでも個体として再生できるヒトデの凄まじい再生能力の片鱗と、食餌目的で吐き出される胃袋を得た松葉は、まさに異様そのものであった。
人の姿に戻った松葉へ、次に立ちはだかるは紫の衣。
曰くその矢は「悪人の進路を妨げ、悪魔を殺す茨の棘」であるという『罪悪の使徒』。
『罪悪』の団長は言った。
「手塚松葉。
貴様は随分と我々天聖会の力を軽んじているようだが、我々は今までの雑魚共とは一味二味どころか、百万味も違うぞ」
「確かにな。そのPCにデフォで入ってるペイントソフトの色選択升上段左から8番目の位置に最初から入ってる時々どことなく空しくてダサイ感じのする紫色ベースに、下段左から五番目に最初から入ってる黄緑色の嫌と言うほど厨二病全開でカトリックやプロテスタントどころかグノーシス、おまけに律法学者だのパリサイ人までドン引き確定で見た途端逃亡者続出しそうな程ダサイ宗教テイストを恥ずかしげもなく下品にさらけ出した制服見せつけられりゃ、手前等が他の連中とは格どころか次元が違う存在だってのが嫌と言うほど丸判りだ」
「貴様…そこまで言うか?
言っておくが我々の矢は突き刺さった後体内で急速に肥大化し相手を内部からなぶり殺しにする最強の矢なのだぞ?
そして我々の奥義は嘗て皇帝の色として崇められた紫色の衣を纏う我々に相応しく、貴様など一瞬で滅ぼす事さえ出来るほどに強力なのだ。
それを承知でその様な暴言をこの私に向かって吐いたのか―って、あれ?」
自分の世界に入り込んで歩き回りながら話を続けていた『罪悪』の団長は、松葉がその場から消え失せているのに気が付いた。
「手塚松葉!この私の話を無視したばかりか霧散化で逃げおおせるとは卑怯だぞ!
異形連盟の幹部を名乗るのならば、せめて律儀さというものをこの私に見せつけたらどうなんd―――ドサッ
「ッ!?
おい、大丈夫か?しっかりしろ!」
人の倒れる音と何者かを心配する団員の声に、団長は喋りをやめて振り返った。
「おい、どうした?」
「それが、こいつが倒れたまま動かないんです」
「何?
持病や貧血ではないのか?」
「それが…脈が無いことから。死んでいるとしかおもえませn――ッ!!
倒れた団員を心配していた男は、突如右手を押さえ苦しみだした。
「な、何があった?」
「…く……親指を噛まれたッ………ご……が……何かが……入ってくる……ッ…………」
驚きと恐怖の余り動けない仲間を尻目に、男は窒息死するかのように息絶えた。
「…何が…起こったの……?」
一人の女が、勇敢に死体を脚で突いた、次の瞬間。
ブヂォァアァ!!
死体の腹を突き破って黒い何かが飛び出して来た。
それらは黒いミミズかヒルの様な―英語では属にワームと呼ばれる―生物で、集団がまるで黒い流体の様に素早く動き回り、次々と団員達に纏わり付いて衣類や皮膚を食い破り、素早く体内を蹂躙する。
ワーム達は体内へと侵入した後瞬く間に内臓を食い荒らしては脳まで侵入し体内で好き勝手暴れ回り団員達は瞬く間に殺されていった。
『罪悪』の団員は全員殺されたが、またもラッセルと団長だけは無事だった。
とはいえ、不二子が姿を消し、松葉も消えた総統室には『罪悪』の団長とラッセル以外まともな生者は一人として居なかった。
先の六部隊は全員変身した松葉に喰い殺され、残る『罪悪の使徒』達もまた黒いワーム達によって体内を食い荒らされ生きては居なかったのだ。
「……教祖様…一体何が起こったのでしょう?」
「…サカイ……一体何が起こったのか判るか?」
『罪悪』の団長、サカイとラッセルはあまりに急な出来事に対応するのがやっとだったが、ふと背後に嫌な気配を感じて振り返り、視線の先の光景に一瞬凍り付いた。
見れば黒ワームの群れが一カ所に集まり、その山が徐々に人型と成っていく。
足の裏、足首、膝、腰、肩、肩の位置から伸びて腕…ワーム達の動きは素早く、それらの集合体は頭を残し完全に松葉の肉体を形作った。
即ち、先程のワーム達は全て松葉が変身・分裂したものということになる。
頭部は未だワーム達が蠢いていたが、やがてそれらも一つにまとまって頭部の形を成した。
だが、その頭部は明らかに元の松葉とはとても言えた者ではないほど異様であった。
それを一言で言うならば、黒くテカる柔らかく太い生きた管―即ち巨大な黒ワーム。
目・鼻・耳は影も形も無く、口と思しき穴は丸い穴の様で、その中には鋭い歯がずらりと並んでいる。
口の周囲には髭とも触手とも触角とも見て取れる細長い突起物が等間隔で生えており、それらが蠢いて周囲の状況を探っているらしかった。
松葉は暫く突起を動かし続け、一つの方角―『罪悪』の団長が居る方向―を察知すると、ぎこちない足取りで其方へ早歩きを始めた。
その不気味な歩きを見た『罪悪』の団長は恐怖の余り全速力で逃げ出し、身体の構造上必然的に移動の遅くなる松葉では到底追いつけない距離まで逃げおおせ、ある程度距離を取ったところで即死効果のある自らの"矢"を放とうとした。
だが、次の瞬間。
バゴギュ!
松葉の頭はその身長の三倍以上にも伸び、団長の上半身を食い千切った。
だが松葉は思った。
―妙だな…コイツ、生きた肉の味がしねぇ…
松葉は団長の上半身を吐き捨て、頭部を元に戻した。
見れば上半身は粘土の様な材質で出来た人工物と思しき物体であった。
思考を張り巡らせる松葉の耳に、ふと声が飛び込んできた。
「騙されたな手塚松葉!
私は此処だ!」
松葉が振り向いた先には、ゴシックロリータ・ファッション的何かに身を包んだ幼女が居た。
幼女の右手には紫色に光る"矢"の発射台が構えられており、この幼女が『罪悪の使徒』の関係者―というか、団長―である事が判る。
松葉は団長へ、嘲笑しながら言った。
「随分と貧相だな。色んな意味でよ。特に外見」
「うっ…五月蠅いッ!五月蠅い五月蠅い、五月蠅ぁーいっ!
それ以上言うと射殺すわよ!」
その言葉に何処か過剰反応した幼女は怒り、矢を構えた。
「撃てや。どうせ手前は死ぬんだからよ。
部下の仇取る権利ぐれぇ無きゃ話になんねぇだろ」
馬鹿にしたような松葉の言葉に、幼女は完全に怒り狂い我を忘れ、矢を放とうとした。
しかし松葉の対応もまた、素早かった。
チャキ―ズドァ!
ワルサーの弾は矢を打ち砕き、そのまま幼女の眉間を貫いた。
松葉が放ったその一発で既に幼女は力尽きていたが、松葉の容赦無き射撃は続いた。
「もう一発ッ、もう二発ッ!?」
歩み寄りワルサーの弾を全て使い切ると、今度はスパスのスラッグ弾を全て叩き込む。
幼女の顔面は無惨に崩壊し、骨どころか臓器さえも原型を完全に失った。
その様を見て、松葉は言った。
「よしよし立派な他殺体!
人間壁画いっちょ上がりィ!!」
その光景を見ていたラッセルはといえば、腰を抜かして地面にへたり込んでいる。
松葉はそんな教祖を見てにやけると、歌いつつスキップしながらラッセルへ歩み寄った。
「只殺すだけじゃ勿体無ぇ♪
只壊すだけじゃ勿体無ぇ♪
ストレートに射殺じゃ物足り無ぇ♪
ストレートに捕食じゃ物足り無ぇ―とォ。
ガウガウガウーグルル~ワォンワォ~ン!
オイラはケダモノ野郎サ!イカス雄サ!」
丁度松葉とラッセルの距離が30cmにまで縮まった時であった。
総統室の巨大な扉に穴が空き、そこから外部で敵戦力を削りに出ていた仲間達が戻ってきた。