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被害一 奇怪なる小隊を統べる長の秘密

―前回後半より20分後・船内・日異連一行、YB―


死闘は20分に渡ったが、その戦況は誰がどう見てもすぐに理解できた。


YBの圧勝。


それ以上に、この場の状況を言い表すのに適切な言葉はなかった。

恋歌、エヴァ等の非戦闘員は勿論、薫、鉄治、健一、千晴、千歳、大志、直美の負傷度合いもかなりのもので、最も驚くべきは松葉が疲弊の余り動けなくなっているという事であった。

唯一度合いの軽い雅子も、既に限界が近付いていた。



それを見て、YBの目が笑う。


「コレデ…終ワリダ!!」


YBの身体が緑色の光に包まれる。

この光というのは、言うなればYBのエネルギーそのものであり、松葉をも苦戦させた脅威の再生能力―只の再生能力ではなく、死亡直後それまで受けたダメージに耐性を付加した状態で復活するというもの―と、その手から放たれる信じがたい破壊力を誇る緑色の怪光線の正体でもあった。


YBは掲げた両掌に光を集中させ、特大級の光線を放つ―――「エァアアアア!!」



その瞬間、腕を鋭いフォークの様に変化させた雅子が背後からYBを貫こうと襲ってきた。

彼女は最期の余力を振り絞り、YBへと向かっていく。



ザク!


嫌な音と共に、雅子の右腕がYBの背中に突き刺さる。

ダメージの余り、YBの身体から光が消えた。



―よし!


どうにか有利な状況に持ち込めたと考えた雅子は、そこで一瞬油断をしてしまう。

その一瞬の油断を、当然YBは逃さない。

YBはその頭をトカゲのように、首を蛇のように変化させると、長く伸びた首で雅子の喉に噛み付き、そのまま食い千切った。



「ッガ!!」

大した声を上げることも出来ず、吐血して地に伏す雅子。

イェロウアイズ・ビリジアンは食い千切った雅子の喉を飲み込もうとしたが、途中で飲み込むのをやめた。

というより、飲み込めなくなった。

いや、『全身が凍り付いたかの様に動けなくなった』というのが、適切だろうか。


僅かに意識を保っていた負傷者達は、その光景に目を疑った。



―何故?エヴァの浄化にさえ耐え、直美や松葉をも追い詰めた程のイェロウアイズ・ビリジアンが、今になって硬直している?


暫くすると、YBが口を開いた…が、その口から出てきたのは掠れた様な、今にも死にそうな者の声であった。


「…ォ……ァ……何故ダ……何故………儂……ガ…………コノ、味……マサ……カ……」


YBが言葉を紡ぐ度、その身体にヒビが入っていく。


「……ク………ソ………メ………ガ……」


その言葉の直後柔らかい筈のYBの身体が、まるで硝子の様に砕け散った。

一同はその光景に、ただただ驚いて声さえ出せなかった。



ふと、その場に一人の男が現れた。

「いやはや、偶然とはいえイェロウアイズ・ビリジアンの致命的な弱点を突いてしまうとは、君らは悪運まで強いんだねェ」

玄白である。

「…玄白…テメェ……」

自身を睨み付ける松葉に対し、玄白は紳士的に返す。

「待ってくれ。今の僕は君らとは中立さ。

だから君らを攻撃する権利は無いし、君らが僕を攻撃する権利も理論上与えられていない」


一同が黙り込むと、玄白は語り始めた。

「このイェロウアイズ・ビリジアン…奇怪小隊隊長はね、実を言うと異形ではないんだよ。

かと言って、人間でも無いし、人間以外の生物群の何にも属さないがね。



どういう事か?


疑問に思うのも無理はない。

寧ろ疑問に思うべきだ。

謎や疑問は脳を持つ生物に考える機会を与え、考えることは成長に繋がるからだ。

そして成長とは、生物が生きる上で最も重要な事の一つだ。

生物は育つために生きていると言っても過言ではない。


すまない、話題が逸れた。


本題たるイェロウアイズ・ビリジアンの正体及びその弱点についてだが…まずは正体から話そう。

端的に言えば、奴は地球外生命体という奴でね…」


―みんなの異形昔話「不死身の竜」―


昔々、ある偉大な王様の納める王国がありました。

その国の王様は寛大で頭が良く、誰もが平等に暮らせる世界を目指しているひとでした。

王様は国中の誰からも慕われていて、月に一度、宮殿で国中の人を招いたパーティが開かれるほどでした。

そしてそんな王様の元には、各国から色々な贈り物が届きます。

食べ物から装飾品、武器や工芸品の他、生き物が届くこともありました。

そして今日も又、王様への贈り物として、とんでもないものが届いたのです。


それは、檻に入った竜でした。


緑色の鱗を煌めかせ、大声で吼える荒々しい大きな竜です。


贈り物を運んできた集団のリーダーたる女は、王様に言いました。

「国王陛下、この竜は我が国に伝わる伝説の軍神様が乗りこなす竜の子供に御座います」

「軍神の愛騎の子供?それは興味深いな。話してくれないか」

「はい。ではお話ししましょう。


我が一族に伝わる軍神様は、普段は空の向こうにある星の海に住まわれて居られるのですが、世界が危機に瀕した時、飼い慣らして居られる巨大な魔法の竜に乗って世界の敵を打ち倒されるのです。

しかし不老不死の軍神様と違い、竜の寿命は三万年と決まっております。

そこで死期の近付いた竜は七つの卵をこの世界に産み落とし、生まれた子供は三千年の間この世界で修行を積んだ後に、星の海で互いが死ぬまで戦い、生き残った最期の一匹が新たに軍神様の竜として使えるそうで御座います」

「ほう、それは実に面白い伝説だ。

では、その竜は君にとって余程大切なのではないかね?」

「確かに我が一族にとってこの竜は、命にも代え難き宝で御座います。

しかし我が一族は満場一致で、この竜が王様の贈り物としてこれ以上無いまでに相応しいと判断したので御座います」

「それは何故だ?」

「この竜は全ての武器で殺せず、またこの竜の力の前にはあらゆる壁や岩が崩壊します。

如何なる獣をも、この竜にとっては餌でしか有りません」

「ほう、それは素晴らしい。有り難く受け取るとしよう」


と、その時でした。

「お待ちを!」


会場に男の声が響きました。

ざわめく会場の中、こんどは一人の子供が叫びます。

「あ!あそこ!あそこに居るよ!」

そう言って子供が指差したのは、壁際に備え付けられた巨大な戦士の彫刻でした。

皆の視線が彫刻に集中すると、その影から一人の男が現れました。

白い服を着た細身の男は彫刻から飛び降りると、パーティー会場へと歩いていきます。


「これはこれは恐れ多き偉大な国王陛下。

初めまして、僕はゲヌハク・コトゥと言いまして―「動くな!」

男―ゲヌハク・コトゥは一瞬で兵士達に取り囲まれてしまいました。

「わかりました、動きません。

―南の辺境地のある都市の産まれなのですが―「おい!」

兵士がゲヌハクの首に剣を突きつけました。

「僕、動いてませんが―「喋るな!」

ゲヌハクは暫く考えてから、驚くべき行動に出ました。


「今日は陛~下に~ご用が~あ~って~参りました~♪」

何と、歌い出したのです。すると王様も歌い出しました。

「何だい~ゲ~ヌハ~ク?試しに~言~ってみてくれ~ないか~?」

「それでは~申し~上~げ~ますが~その竜~私が殺して!御覧に入れましょう~♪」

すると今度は、竜を連れてきた女が歌い始めました。

「な~んと~言~う~事~でしょ~う♪

我ら~が伝説の~不死身の竜を~殺してしまうだな~ん~て♪

それは是~非見てみ~たいもの~で~す~わ~ね~勿論~陛下の~お許しが~あ~れば~♪」

そして続いて王様が歌い出そうとした時でした。


「陛下!」

兵士達の部隊長が叫びました。

「どうしたんだい、部隊長?」

「歌うのを止めて頂けないでしょうか?

笑って仕事に集中できません」

「よし、判った。

歌うのは止めよう。

その代わり、君らも席に戻ってくれ。

偶には仕事を忘れてのんびりする時間が必要だ」


兵士達は席に帰っていきました。


「で、ゲヌハク。

その伝説の竜を殺すのは別に構わないけれど、君にはそんな事が出来るのかい?」

「はい。実を申しますと私、数日前別の用事でこの国に来ていたのですが、此方の彼女とばったりお会いしまして、陛下のパーティを盛り上げようと考えまして」

「ご無礼をお許し下さい」

ゲヌハクと女は土下座をしました。

しかし王様は言いました。

「いやいや、そんな事はどうだって良いんだ。

私は君がこの竜を殺せるかどうかを聞いている」

「はい。絶対にとは言えませんが、一家総出で作り上げたこの五つの効果を持つ秘薬を使えば、恐らくは」

そう言ってゲヌハクは、懐から瓶と紙包みを取り出しました。

「では、此方側で何か用意する者はあるかね?」

「はい。ではこの秘薬を仕込むのに丁度良い、竜の餌をお願いしたいのですが」

「判った。君、名前は―「エリスとお呼び下さいませ、陛下」

「では、エリス。竜の餌は何だい?」

「はい。私達は普段鹿の肉を与えています」

「では至急手配させよう」


数分して、会場に鹿の肉が届きました。

ゲヌハクは懐からスプーンを取り出すと、瓶の中身を掬い取ってそれを紙包みの中の黒い粉と混ぜ合わせ、鹿の肉にナイフで切れ込みを入れて、そこへ薬を仕込みました。


「あとはこの肉を竜に食べさせるだけです。

エリス様、お願いできますか?」

「判りました」


エリスは薬入りの肉を竜に食べさせました。

すると竜は、一分もしない内に苦しむでもなく静かに息を引き取ったのでした。


「で、この後エリスは竜の鱗や骨、爪や牙や角に加え檻を溶かしたものを使って、国王専用の鎧と戦斧を仲間の職人達と共に作って献上した。

竜を殺したゲヌハクは、国王から沢山の褒美を貰い、エリスに頼んで竜の右目を貰ってその国を出た。

その夜ゲヌハクは―っていうかその当時の『()』は目玉を薬漬けにしたんだけど…それがどういう訳か変異して産まれたのが、あのイェロウアイズ・ビリジアンって訳。

で、あいつ自身と話してたら何か自分は地球外生命体だみたいな事言ってたもんで後々調べてみたらその遺伝子には明らかに地球の生物と全く類似点が無かったのさ」


「…どのみち奇怪小隊には何らかの形で手前が関わってんのな?」

松葉の問いに、玄白は答える。

「そう言うこと。


で、次にそんなイェロウアイズ・ビリジアンの弱点についてだけど…これはストレートに言おう。


奴の弱点、それは『巨像の体液』さ」


「「「「「「「「「巨像の体液ィ?」」」」」」」」」


一行の殆どは、玄白の言った事が今一つ理解できなかった。

「巨像の体液があいつの弱点なら…何で雅子の喉を喰って死んだんだ…?」

「某に聞くな。どうせ頭脳はお前と大して代わらん」

「んー…」

「今一判りませんね…」

「千晴…どういう事だと思う?」

「千歳…どういう事だと思う?」

「何で楠ちゃんと巨像が関係あるんだよ…」

「引っかかるのはそこなのよねェ…」

「…私の能力って、確かライアーのが感染(うつ)ったんじゃ…」


混乱する連中に、松葉と健一は言い放つ。

「貴方達、よく考えて下さい」

「そもそもライアープロジェクトの発端になったのは何だったんだ?」


松葉のその一言を聞いて、閃くように気付いた直美が言う。

「そういえば…アブチラガマで封印してた巨像の心臓の拘束が解けたかと思ったら全盛期ばりに動いてたから、会社で飼ってたらいつの間にか人間になったっていう…」

更に鉄治が続く。

「…そうだった…それで調べてみたら巨像の細胞はかなり凄ぇ事が判ったんで、その性質を応用してメ●●ンばりの変身が出来る奴を作ろうって事になって…だからライアーの遺伝子を持っている雅子の血も弱点だったわけだ!」

鉄治の口から出た言葉を聞いた雅子は驚いた。

「ちょちょちょちょ待って待って待って!待って!

…え?ライアーが巨像から作られたって何…?

手塚さん…そんな話してましたっけ?」

混乱する雅子に、松葉は言う。

「おう。お前が必死で●ア・ス●●ーミ●グ・●●ウの●ルートやってる最中に話振った」

「えぇ!?私その時手塚さんがまた何か適当に虫ネタ振ってきたよぐらいにしか思ってなかったんですけど!?」

「聞いとけ。幾ら●が可愛いからってな」

「何言ってるんですか手塚さん、あの作品で一番可愛いのはゴ●ですよ」

「そういやぁそうだった。俺としたことがあのゲームの最萌キャラを間違えてたぜ」

そんな二人の会話を見て、玄白は思う。

「(…●アス●のメインヒロインって5人中3人が名前一字だから伏せ字にすると誰が誰だか判らないな…)


まぁ、そういうわけだから、巨像と共通の遺伝子を持っている楠木雅子の血を飲んだイェロウアイズ・ビリジアンは結晶化して死に至ったって訳さ。

ちなみにその結晶、事前に調べてみたんだがどうもゲームとかで良くある『回復薬』的な効果があるらしいから試してみると良い」


そう言って玄白はその場から姿を消した。

玄白の言葉を信じる事の出来る者は少なかったが、今の状況からして試さないわけにはいかなかった。


そして、一分ほど後。



傷の治った一行は総統室へと向かった。


―一方その頃・日本国内―


YMAジャーナルによって報じられたトビウオ漁船を握り潰した怪物のニュースは、瞬く間に日本中を駆け巡った。

そしてそんな記事の書かれた新聞は、当然シンバラ社緊急特務科にも届いたりする。


「……大変なことになってしまったな…」

スポーツ新聞を片手にコーヒーを啜りながら呟くのは、科長の荒俣源太郎。

「暢気にコーヒー飲んでる場合ですか?

巨像が蘇ったという事は、人禍が人類を攻撃する準備がかなり進んでいるという事になりますよ?

というか、確実に攻撃の合図ですって」

そう言うのは、ザ・ライアーで前副長の安藤陽一が殉職したため繰り上がりで緊急特務科副長に就任した木伏斑(キブシマダラ)

「おいおい焦るなよきぶにゃん。

非公式部署の俺等が下手に動くのは正直ヤバイ。

何たって今回の問題は俺達緊急特務に限らず、日異連どころか国異連―全世界の異形―が関わってるし、護るものの大きさが違うからな。

それに今回はマスゴミまで騒いでやがる。

もう少し待っとくのが得策だろうよ」

そう語るのは、機械の設計から広告のデザインまで、会社に関する「描く事」の全てを担う部署「描画部」の副部長にして高い画力を持つ男、早乙女晴紀。

「確かにそうだが…」

「早乙女君の言う通り、ここはひとまず様子を見よう。

巨像もあれ以来動いていないようだし、巨大空母もまだ太平洋に在る。

可能性は若干低いが、もしかすれば手塚君達が上手くやってくれているかもしれないしな」


そうこう言っている内に、時刻は人禍が予定している攻撃時刻の17分前に迫っていた。

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