−8年 10月4日
「名前は海月結増家族全員の死亡と同時にバイアスの覚醒、効果は人格の多重形成。こりゃ一生施設から出られないな。」
「そりゃそうだ偶然とは言え研究成功の可能性があるピースが降ってきちまったんだから」
見た目が小学生から変わっていない白髪の少女は手元にある研究資料に目を通す。
『能力は人格形成によってもたらされる一人一つのチカラであり、なんらかの形で人格が増加した場合それに応じて能力の増加が起きる可能性がある。実際に多重人格の人間を調査したところ似通っているが異なる性質を持った能力を観測したという研究結果が出ている』
「はぁ…」
元々やりたいことなどなかったため仕方なく研究チームに入っていた彼女は実験方法を見て後悔していた。
「解離性同一症ていうのは幼少期の過度なストレスやトラウマから発症するものだ。この少年の場合両親と妹が目の前でぐちゃぐちゃに潰されたことによるストレスでの発症だ。そこから自分が一人にならないように人格を生成しているんだろう。この研究を進めるにはアレに能力を使わせるほどのストレスを与え続けなければいけない。本当に最悪な実験だよ。」
「本当に気の毒ですね。ほとんど拷問されてるようなものですから…」
「この実験は完全に人道に反している。いくら完全な多重能力者を作り出すためとは言え…あの子の命は丁重に扱え」
「当然です。」
白髪の少年を見ながら少女は苦い顔をする
◆◇◆◇
「どういうことだ!!これは小学生に与えていい刺激じゃない!痛みを伴う実験はしないはずだぞ!」
「研究長からの命令でして、最近人格増加の速度が低下してきているため多少強引な手段を使ってでも結果を出せと」
「クソジジイ」
すぐに実験を停止して少年の元へ駆けつける。目に光の灯らない少年の顔を見て少女は少年に目を向ける。
泣いていた。少年はただただ泣いていた。
その声を聞いて人生で初めて、最上 千代子に『やりたいこと』ができた。
そこから研究チームから少年と一緒に脱走し、彼の母親になるのはまた別の話。