第十話 責められるべきは⋯
よろしくお願いします
スノーを拘束して3日後私はサンディル様に呼ばれました。
公爵邸ではなく別邸の方です。
別邸に着いて案内されたのは庭の温室でした。
温室の中には様々な花達が咲いております。
一緒に来たダルトンの話ではここは魔法で温度管理をして花の維持をしているそうです。
庭の花替えの際に役立てている場所なんだとか、流石詳しいです。
本邸の私の庭にも温室欲しいなぁと思って眺めていると花を置いてある場所よりももっと奥へ連れて行かれます。
「ダルトン何処まで行くの?」
「奥に小部屋があるのですがそこへ案内するように言われましたので、私も入ったことはないので何の部屋までかは解りかねます」
「そうなの、ダルトンも入ったことがない場所なんてね。どんな御用かしら?」
その小部屋のドアの前でダルトンに私はここまでですので中へどうぞと言われました。
ノックをするとサンディル様が許可をくださいます。
いつもならお出迎え下さるのにと変に思いダルトンと顔を見合わせました。
中に入るとそこは離宮の会議室のように暗幕がかけられており扉を開けたことにより光が入ったようでした。
眩しそうにこちらに顔を向けているのは父と母とアンディーそして祖母と祖父。
サンディル様は目を閉じてらっしゃいます。
スパナート一家総出で何を?
「アディル中に入って扉の内鍵を掛けてね」
母が私に指示されましたので、その通りにすると部屋が真っ暗になりました。
不安になりましたので先日の光るボールを作り前を照らしました。
「姉様それいいですね。キレイだ」
「アンディー、お父様達もどうしてここに集まっていらっしゃるのでしょうか?」
「私が来て頂いたんだ」
サンディル様が私の父への問に答えて下さいます。
「アディルこの前、観た物の続きがあるんだ。それはスパナート家だけが見ればいいかなと思ってね、皆様にも来て頂いたんだよ」
「そうなのですか、続きですか?えっと⋯⋯」
あの映像の続きを見せてくださるとの事ですが過去戻りは禁忌なので話してもいいのでしょうか?
でも父や母、サンディル様が良いと判断したのであれば私に異存があるはずもなく大人しくお祖母様の側へ座りました。
「アディル暫く見ないうちに益々キレイになって見違えたわ」
祖父母はだいぶお年を召してますので、お目が悪くなられたのかしら?
私は普段からあまり祖父母にも褒められる事などなかったから少し不思議な気持ちです。
「陛下の許可は取っているわ、安心して」
母がそう言うとサンディル様も頷き、それからボールを消すように言われました。
再び暗闇が訪れます。
あの時のようにサンディル様が目を見開き母が手を翳す。
同じ手順です。が、その後が違いました。
翳した手をサンディル様の目の位置で閉じて開くという動作を始めました。
その度にサンディル様が目を開いたり閉じたり。
何度か同じ行動をされた後あの時の光の粒子が暗幕に流れてゆきました。
それはどれもこれも子供の様子です。
メリル、キャンベラ、私にアンディー。
メリルが祖母と一緒に慰問先で皆に一生懸命声をかけている所、この前の映像とは違う物が沢山ありました。
それから私とキャンベラが二人で仲良く庭でブランコに揺られている所。
後ろから背中を押していたキャンベラが手を必死に抑えている物でした。
顔は苦悶の表情で何かに抗ってる様子です、ですが力尽き私をブランコから押して落としてしまいます。
アンディーの頬を抓ろうとしている所、それも散々抗って力尽き再び抓ろうとしてアンディーの魔法で返り討ちにあっていますが、その顔がホッとしている様子。
庭で私がアンディーを抱っこしようと踏ん張っている時にキャンベラが来てアンディーの足を叩いて転ばそうとするのを私が逆にキャンベラを転ばす所、何度も挑戦するキャンベラに何度も同じ魔法を使うとアンディーが笑い始めて、それから私は魔法を繰り返す同時に治癒を使いながら。
そのうちキャンベラも私も笑いだして3人で楽しそうにしている所。
お互いに謝ってる⋯⋯謝ってる!キャンベラが!
それから魔法でシャボン玉を出して3人で眺めていると突然キャンベラが暴言を、でもすぐ口を抑えて抗っている様子。
私とアンディーが逃げている。
庭の端にメリルが悔しそうに佇んでいる様子。
そこまででサンディル様が目を閉じ終わりました。
光るボールを母が出して周りが明るくなります。
暫く誰も声を出しませんでしたが、私は思い出したのでそれを話しました。
「最後のは思い出しました。私忘れてたみたい。あの時キャンベラは口を抑えながら片手でここを離れろと合図をくれたんです。だから私アンディーを連れて部屋に戻ったの」
いつも虐められてたと思っていたキャンベラと仲良く遊んでた事もあったんだと思い出せない事も思い出した事もあって、知らずに涙が出ていました。
優しく祖母が頭を撫でて下さいます。
背中を祖父が擦って下さいます。
「アディル、俺が初めて君のシャボン玉を見た時は割としょっちゅう出して3人で楽しんでたんだよ。でもいつしかそれを封印してしまったみたいだった。キャンベラは確かに君たちに酷い事もしたと思うけど本心では違ってた事を知って欲しかったし、洗脳される前のメリルも普通の優しい子供だった事を知って欲しかったんだ」
サンディル様の言葉が身につまされます。
するとアンディーが不思議に思ったのでしょう疑問を口にしました。
「あの、キャンベラは僕らを嫌いで虐めてたんじゃないの?メリルも洗脳って何なの?」
父がアンディーや祖父母にもメリルが洗脳されていた事を話します。
3人の驚愕の表情。
私達も悪意に晒されていた一家だった事に3人も理解したようでした。
そして改めてキャンベラの本当の出自を父が3人に伝えました。
「キャンベラが侯爵家の娘だったの?そんな⋯可哀想に本当の親から離されて⋯⋯」
祖母が悲嘆に暮れ、祖父も項垂れております。
お二人のせいではないのに⋯⋯。
「私の傲慢な思いが貴方達にもあの子達にも悪影響だったのかしら、ごめんなさい、ごめんなさ⋯⋯」
何も悪くない祖母が泣いて途中から声にならない謝罪を繰り返してます。
「お義母様それは違います。お母様は私に教えて下さいました。そこに自分が助けられることがあるのならば差し伸べる手は惜しむべきではない、それが貴族に生まれたものの努めだと⋯⋯。でも私、私達夫婦はそれが出来なかった、メリルとキャンベラへ表面だけで接してただ自分達の子を守る為だけに⋯⋯。それがメリルの洗脳を益々強めていたのでしょう」
父と母も項垂れます。
「チェリーナ様それも俺は違うと思いますよ。人間って感情の生き物だ、それが悪いか良いかの判断基準も人それぞれ。チェリーナ様や伯爵が自分の子供を守る為の行動は誰にも責められない。祖父母がメリルやキャンベラを引き取った事も誰にも責められない。今回の件で責められるべきは元サイフェル侯爵家とアッパール家、ミント伯爵家、そして王家です」
サンディル様が父母と祖父母にキッパリと言いました。
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