第一話 目覚めの時
第三章スタートです。
よろしくお願いします
「ふふふ〜ん、ふふふ〜ふ〜ん」
「アディル様非常に気になりますので心の中でお願いします」
「えっ声に出てた?」
「はい、メロディーが何の曲か気になって集中できません」
「ごめんなさい、私が適当に作った節だから、曲ではないわ」
「左様でございますか、では心の中で」
「はい心の中でね」
執務室で報告書を読んでたら無意識で鼻歌歌ってたみたい。
この一年で以前のナヨナヨしてた馬鹿正直者からすっかり様変わりしたダルトンに、やんわりと注意を受けました。
失敗、失敗。
執務の方もすっかり慣れて領地に友人達を誘い避暑も兼ねて行ったり、テモシーと家政を頑張ったり毎日充実した日々を過ごしております。
最近は良い出来事ばかりで2ヶ月前に私の弟が誕生しました。
悪阻の時は皆をハラハラさせて、父は家を祖父に任せて産まれるまで付き添うほどの献身ぶり。
少し幼い弟に嫉妬してしまいました、少しですよ少し。
皆には内緒です。
王命の事でなかなか結婚できなかったキャンベラも先月ようやく嫁ぎました。
お相手はレイニー公爵様です。後妻ではありますがレイニー様と前妻様は白い結婚で3年経ち離縁されたそうなので、気性の激しいキャンベラは直ぐに実家に帰ってくるのではと祖母が心配しておりましたが、意外に年の離れたキャンベラを公爵様が気に入り仲睦まじく今の所は過ごしているようです。
この婚姻はエンヌ様が間に入ったのも効果があったのかもしれません。
母が結婚式に出なくて良い理由がある時にさせたほうが良いというお義父様のご配慮にもよるものでした。
それでも父には出席して欲しかったようでキャンベラは私に何度も「父が来たら教えて」と言っていました。
私にお願い事をするキャンベラが初めてだったのでアンディーと二人で面食らいました。
父が出席しない事は解っていましたが、来てほしいなと私も願ってましたが、やはり父は来ませんでした。
でも凄く豪華な花束が父母名義で届いてキャンベラが泣いていたのが印象的でした。
キャンベラも静かに泣くんだってその時思ったものです。
そして先日やっと私の庭が完成しました。
出来上がったときは公爵家の庭師のティティと二人で手を取り合いぴょんぴょん跳ねてたら、ドーランにやんわりと手を離されて???となってましたら距離が近いと怒られました。
夜会に偶にマーク様と出席する時もドーラン夫妻が後ろについて回りエスコート以外での接触をことごとく邪魔するので、ドーラン夫妻は社交界で不名誉な噂を撒かれておりましてドーランはともかく奥様がお可哀想で、家政の予算から夜会手当を奥様にお渡ししております。
これがサンディル様が帰ってくるまで続くのかと思うと嘆息してしまいます。
そろそろサンディル様がお戻りになるのでは?と団長様は仰ってましたが、はてさて何時になるのでしょうか?無事に目覚めて下さるといいのですが⋯⋯。
──────────────
本日は私の17歳のお誕生日パーティーの日です。
パーティーなど不要、身内だけでと言ってたのですが何故かお義父様が張り切ってしまって朝から準備が大変です。
アンヌとローリーは交互に休んでましたが、この日は二人揃って私に張り付いております。
DayPartyですので夜明けと共に起こされましたので、とても眠いです。
本日のドレスはエンパイアスタイルの膝下丈のワンピースでお義母様のお見立てで先日作りました。
色は私の髪に合わせた薄いピンクと白。
服に合わせた宝飾品は父と母が贈ってくれました。
みんなの愛に包まれた装いで、いざパーティーへ!
⋯⋯挨拶だけでかれこれ1時間。
いつになったらあの美味しそうなケーキは食べれるのかしら?
などと考えながら色々な方々に挨拶を返します。
何故か私の横に鎮座されてるエンヌ様が
「誰よ、こんなに招待客増やしたのは」とそろそろご機嫌が悪くなりそうで後ろに控えてたテモシーに合図を送るとお義父様に進言しに行ってくれました。
それを合図に立食式になっているお料理の中から厳選毒味した物がエンヌ様に届けられました。
勿論私のもあります。
エンヌ様と二人で美味しいお料理をニコニコしながら堪能していたら、ふと視線を感じてそちらを見るとスノーが憎々しげに私を睨んでおります。
こちらに来て暫くしてから図書室の大改造と称してスノーの前で魔法をぶち上げ(あら端ない)怖がらせたあとも、折りにつけジワジワと私の魔法をお披露目しておりましたら、だいぶおとなしくはなっていたのですが⋯⋯。
あの目は要注意では?
エンヌ様と反対側の横に座られているマーク様に耳打ちしたらそっと立ち上がり何処かへ行かれました。
何らかの対策を立てに行くのでしょうね。
王宮の夜会ほどの招待客にご挨拶して本日のお誕生日会での私の役目は終了です。
あとはご勝手に騒いだり帰ったりそれぞれでしょう。
エンヌ様と退出してサロンに行くとお義父様、ドーラン、テモシー、団長様が既に寛いでおりました。
「ウィル!何なのあの招待客の数」
「ハハッびっくりした?うちに間者を送り込んだ家門の長を呼んでみたんだ。みんな恐れをなしてたよ。あ~愉快、愉快」
「貴方は愉快かもしれないけど挨拶を受ける私達は自由になれなくて、せっかくのアディルのお誕生会だったのに⋯⋯」
「だから来るなって言ったのに来たのは義姉さんじゃないか」
「だって私もアディルのお祝いしたかったのだもの」
エンヌ様が可愛くてつい不敬にも抱きついてしまいましたら応えて下さって嬉しいです。
「なにやってんの⋯⋯で、アディルどうだった?」
「団長様が仰っていた方々の中で魔力を開放済みだったり保有してる方はいませんでしたがスノーに見知らぬ者の魔力の気配が有り、今マーク様が調べていると思います」
「なるほどね。そろそろ仕掛けて来るのかな?」
「まだよ」
エンヌ様がきっぱり言いきりましたが根拠があるのでしょうか?
「陛下の夢見を思い出して」
エンヌ様は皆様に言います。
「あぁそうですね」
団長様が同意して皆も頷いていますが私だけわかりません、誰か教えて下さい。
一人取り残されてキョトンとしているとドーランが教えてくれました。
陛下の夢見で伯爵家の養女が男を連れて謁見の間に現れた時、サンディル様が陛下の後ろに控えていたそうです。
あ~そうですね、サンディル様がまだお戻りではないから、まだと言う事ですね。
それから皆で今後の話と雑談をして部屋に戻ったのは夕暮れ前でした。
あ~疲れた〜。自分の誕生日なのにこんなに疲れるなんて、と思っていたらノックです。
ローリーに目配せすると彼女が扉の外へ、それから⋯
「姉上〜おめでとうございます〜」
「アンディー。どうしたの?ここまでは誰が?」
「義兄上に連れてきてもらいました」
弟の後ろからはマーク様が付いてきております。
私の部屋へは入ったことがないので物珍しそうにキョロキョロしておりますが、その態度は弟にバレちゃいます。
「まぁサンディル様、アンディーを案内して下さってありがとうございます。会場ではゆっくり話せなくて嬉しいです」
二人にソファを薦めているとローリーの部下のアンがワゴンにお茶の用意をして来ました、素早い。
祖父母は先週から『孫の顔見に行脚』をしておりまして、メリルの居るバスティナ伯爵家の領地と父母の居るシンディ医師の元へ行くので本日は欠席すると知らせが来ておりました。ですのでアンディーもてっきりついて行ってるものとばかり思ってたから挨拶に来てくれた時はとても嬉しくて泊まる様にお願いしてたのです。
「姉様、今日は沢山の方がお祝いに来てくれてましたね。流石僕の自慢の姉様です」
「フフ公爵家のお客様よ。姉様にはお友達少ないから。でも今度クラリスとタリーとお芝居に行くのそちらの方が楽しみだわ」
「姉様、そういえば僕の近くの方々がザワザワしてて姉様の隣にいた方が王妃様って言うんです。
前公爵夫人ではなかったのですか?」
お義母様はクジでエンヌ様に負けてしまったので本日はテモシーと一緒に裏方をして下さってましたが⋯テモシーが迷惑そうでした。
だってお義父様がいちいち邪魔するので二度手間だったようです。
そんな裏話話せないわ。
「お義母様は連日の準備でお疲れでサロンで休まれてたのよ」
「そうなんですか!姉様の為に頑張って下さったんですね。義兄様あとでご挨拶してもよろしいでしょうか?」
「あぁ夕食の時に紹介しよう。結婚式の時は出来なかったからね」
「ハイお願いします」
私の可愛いアンディーは益々可愛いわ。
14歳にもなった男子に使う表現じゃないかもだけど、だって可愛いんですもの。
三人で食堂に行くとお義父様とお義母様はまだでした。
使用人の皆にアンディーを紹介していたらお二人が来られました。
改めてマーク様がアンディーをお義父様とお義母様に紹介します。
するとお義母様がアンディーに抱きついてしまいました。
一瞬でお義父様の顔色が変わり、その殺気にマーク様が怯み、結局テモシーが二人を引き剥がし「あらら」とつぶやくお義母様をお義父様に押し付けて事なきを得ました。
アンディーの明日が無くなるところだったわ。
お義母様ご注意を!と目配せするとお義母様は自分の咄嗟の行動に気づいたようでテヘヘと笑っておられます。
テヘヘで弟を処分されては叶いませんわ。
夕食が終わりそれぞれ部屋に戻る時にもアンディーがなかなか私を離してくれなくて、何時もよりもかなり遅くサンディル様の部屋に行きました。
魔力を送っていると不意に手首を掴まれました。
目を開けていないサンディル様が
「君は誰だ、チェリーナ様の魔力じゃない。
チェリーナ様は何処だ」
そう言って目を開けたサンディル様が私を見て途端に⋯。
「ぎゃ〜〜〜〜〜」
と叫んでベッドから飛び降り壁際に蹲りました。
目覚めるなら静かに目を覚ましてくださいませ、旦那様。
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