閑話 女嫌いには理由がある
よろしくお願いします
子は親に似るとよく聞きます。
今まさに私の息子が若かりし頃の私のようにブツクサ言ってます。
妻が諭そうと懸命に声をかけておりますが無駄です。
何故なら私がそうだったから⋯。
息子と話さなければならないな。
これは父親の努めでしょう、今夜サロンで話そうと息子に伝えました。
妻には私に任せてと言いましたが納得してないような顔をしています。
そちらの方が軽くショックです。
息子の婚約話か⋯⋯。
私の若い頃にそっくりな息子に私の話をしようと思っています。
私は伯爵家の嫡男として生を受けました。
順調に育ててもらったと思います。
堅実な領地経営をしている、母にベタぼれな父
お人好しで優しさに底がない母
そんな両親に囲まれて充分な愛情をかけて育ててもらった私の名はアーチー・スパナート。
私のお茶会デビューは6歳の頃と記憶しています。
王家と血族の公爵家の主催でした。
母と二人で参加しましたが初めての上に私の周りには同じ頃の子供がいなかったので「お友達が出来るわよ」と言った母の言葉を信じワクワクドキドキの参加でした。
参加する前にお友達とは男の子は一緒に勉強したり遊んだり、女の子はか弱いから大事にしてあげないとだめよ、と教わりました。
そして臨んだお茶会。
母が言った通り、同じ年頃の男の子も女の子も沢山参加していて、何人かの子息達と一緒にかけっこをしたりかくれんぼしたりと楽しく遊びました。
お菓子やお茶を休憩と称して堪能してる時に、女の子達が周りに来て目をうるうるしたり、ニコニコしたり色んな風にみんな話しかけて来て初めてのお茶会は想像以上に楽しくて、帰りの馬車の中で楽しかった話を沢山して満足で帰りました。
最初のお茶会で仲良くなった友人達とはその後も男女問わず他のお茶会で会ったり、家で母が催してくれた茶会に招待したりとかで友情を育てていってました。
私が12歳になった頃です、その頃には何人か婚約が調った者もいました。
特に仲の良かった伯爵家の友人は、仲間の中でもマドンナ的な存在の侯爵家の令嬢と婚約しました。
私も密かに思っていた令嬢でしたが友人達のおめでたい話なので「おめでとう」と祝福したのです。
ある日いつものようにお茶会に参加してました。
その伯爵家には薔薇の生け垣で迷路を作っていることが有名で、私は友人3人とそれに挑戦すべく庭を散策しながら歩いていると、何か声が聞こえてきます。
泣き声も混じってるようで、3人で声のする方に歩みを変更しました。
すると一番前を歩いていた友人に腕を引っ張られ低木の影に身を潜めさせたのです。
何だ?と声を上げそうになった私の口に人差し指を当てその指をまえに向けます。
指の方向には一人の尻もちをついてる子爵令嬢を数人の令嬢が取り囲んで罵詈雑言を浴びせてます。
信じられない!囲ってる子達は、
いつもニコニコしながら話しかける子
目をウルウルしながら自分が摘んだと言って花を渡してくる子
活発な物言いで私達の話にも乗ってくる気持ちの良い子
そしてみんなの憧れの候爵令嬢でした。
そのうち候爵令嬢が扇で子爵令嬢の足を叩こうとしています。
他の子は叩きやすいようになのか子爵令嬢のドレスを持ち上げて足を露わにさせています。
その足には紫掛かった筋が何本も有りました。
これはマズイ!と、止めようと3人で同時に立ち上がった時、ひと足早く誰かが大声をあげながら走って来ます。
彼女達は大慌てで私達とは反対側に逃げ出しました。
私達はそのままそこを離れて茶会の会場に戻り、乾いた喉を潤すべくお茶を飲んでいると彼女達がいつものように周りにきました。
そしていつものように話しかけてきます。
その日私達は3人とも早々に帰りました。
とてつもなく具合が悪くなりました。
後日友人2人は家へ遊びに来がてら報告に来てくれたんだけど、あの光景の理由がわかりました。
私達と同年代にみんなに人気者の公爵家の次男がいるのだが、件の子爵令嬢が見初められ婚約した事が原因だったらしい。
次男は公爵の持っている爵位を一つ譲られて結婚するそうでそれにヤキモチを焼いた彼女達があのような事をしたらしい。
しかもあの一件だけでは無いそうで、私は初めて聞く彼女達の裏の顔に絶望しました。
友人の伯爵子息は侯爵家に婿に行く予定の婚約だったけどあの後辞退したそうです。
格下の伯爵家に辞退されて令嬢はプライドが許さなかったのでしょう、扇を右手に持ち理由は!と詰め寄ってきたそうです。
彼は「そういう所です」と言ったらそれを聞いた候爵が辞退を認めてくれたとか、「大変だったな」と労ると「大変だった」と嘆息してました。
それから私は女性を信じられず両親が薦めてくる婚約の話を片っ端から断りました。
成人してからは仕事に打ち込んで、これにも理由があるのですが⋯⋯。
彼女達の様な女性ばかりではなく母の様な女性も少数ですが存在します。
ただうちの母は直ぐに騙される。
特にあの女達の様な者に言いように騙されていて、あの候爵令嬢の事など近年希に見る完璧な令嬢だなどと言っており、私は心配になりました。
我が伯爵家があんな女達の様な者に身包み剥がされてはいけないと思い、どれだけ騙されてもびくともしない資産を築くべく仕事に邁進してました。
それでも母の泣きに弱い私は一度だけ折れましたが、それも散々たる結果で終わりました。
父母の前で貞淑な淑女を演じてた女はあろう事か子を宿して嫁いで来ました。
そのような悪巧みは露顕するもので結婚1日目で見事に発覚し事なきを得ました。
この時もお人好しの母は慈愛を発揮し物の見事に裏切られあの女の餌食にされました。
捨て置かれた娘に同情して養育まで⋯⋯。
益々女に絶望した一件ではあります。
でもその後、女という性別に絶望していた私に神は女神を与えてくれました。
彼女は突然現れました。
文字通り突然です、市中を歩いている時に今まで何も無かった空間にパッと現れたのです。
びっくりして腰が半ば抜けた私の手を取り引き上げてから耳元で「お話が⋯⋯聞いて下さいます?」と言って、気づいたら公園のベンチでした。
瞬く間に切り替わる自分の状況に付いて行けず目をパチパチしていた時
「初めましてアーチー・スパナート伯爵様。
私、チェリーナ・ユースと申します。貴方の監視を賜っておりましたが貴方に恋をしてしまいました。良しなに対応して頂きたいのですが如何でしょう」
彼女は自己紹介からの暴露で告白という。
3段階活用で迫ってきました。
私は思考が付いて行けずアワアワしていますとニコッと彼女は可愛い顔で微笑みました。
私は自他共に認める女嫌いです。
本当に鳥肌が立つほど嫌悪してました⋯。
女は信用できない者と思ってました⋯⋯。
彼女の微笑みを見た瞬間、何故か彼女は信用できると思ったのです。
何故かは今でもわかりませんが、本当にその時はそう思ったのです。
それから彼女は自分の身の上を話しました。
私に潜在魔力がある為、王宮魔術師団の監視対象にある事、自分が担当だと言うこと、ずっと2年ほど監視していたということ。
そして日々の私の行動を見ていて恋に落ちたこと。
率直な彼女の物怖じしないその様は、私には新鮮で私もその時恋に落ちたんだと今ならわかります。
それから私達は1年近くの婚約期間を経て結婚しました。
しかし私の女嫌いは別に治っていません。
妻と娘、そして母以外の女性は今でも自分から好んで話そうとは思いません。
その日の夜、サロンに呼んだ息子は不貞腐れておりました。
二人で向かい合いお茶を飲みながら私の話をします。
息子は興味深そうに話に聞き入ってくれました。
「父上は結局何を言いたかったの?惚気」
「惚気は言いたいがそういう事じゃないんだ。
私は今直ぐアンディーを婚約させようとは思ってないよ。自分のことを思ったら言える立場にない。
でもお話のあったご令嬢とは話を沢山した方がいい。
最初から嫌悪するのではなく、話をするんだ。
それから決めればいいと私は思う。
嫌な女性ばかりじゃないという事をわかって欲しかったんだ。女嫌いの私の前にチェリーナが現れたようにアンディーの前にもいつかいい人が来るよ。
だから自分で可能性を狭めちゃだめだよ。
チェリーナに内緒で話すんだけど、私の婚約者候補にチェリーナがいたんだ。
それなのに私は両親の話を跳ねつけて無視したから出会うのが遅れたんだよ」
唖然とするアンディー。
「あの時によく話を聞いてたらもっと早くに結婚できてたんだと思うと出会わなかった数年チェリーナが誰とも結婚しなかったのは私にとって僥倖だったよ。
本当に偶然チェリーナが私に恋しただけだったけど違ってたら?そんな事、考えるだけでも恐ろしい。
アンディー私の言いたいことわかったかい?」
「わかった。とりあえず今日母上が持ってきた話は断ってほしい。彼女は僕には無理だ、価値観が違う。
自分の邸で働く者を蔑む人は無理だから」
「わかった⋯⋯何か知ってるんだね。彼女は断ろう、チェリーナにも言っておくよ」
「ありがとう父上、父上の話は参考になったよ。
僕は姉様みたいな人と結婚したいから、そういう人見つけてきて」
お茶を飲み干してアンディーは部屋を出た。
その後で心配そうにチェリーナがやってきた。
「チェリーナ、シスコ伯爵家の令嬢は使用人を蔑むように教育を受けてるみたいだ。止めたほうがいい」
「そうだったのね。あちらの奥様は大人しい方だったからその娘なら気立てがいいと思ってたけど⋯⋯。私もまだまだね」
3人目を妊娠してる妻はもう直ぐシンディ医師の元へ預ける事になっている。
その前に娘も嫁がせたし息子の行く末も気がかりだったのだろうな。
「チェリーナそんなに心配しなくてもいいよ。
あいつはただのシスコンだ」
「もっと心配になるじゃない!!」
アレッ?私はまた失敗したか。
チェリーナによく仕事ばかりできても貴方は案外抜けてるわよと常々言われているのだが⋯⋯。
う〜ん、私もまだまだだな。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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