二章 最終話
第二章 最終話です
よろしくお願いします
俺はアッパール夫人を追った。
夫人はミラー侯爵邸の門には行かず邸の庭の奥に進んでいる。
庭の花壇の後側にベンチを置いている場所が有り、ベンチの後ろには木陰用の木が何本か植えてある、その木の後ろには人がちょうど一人分屈んで通れるようになっていた。
そこを出ると暫く歩き路地に入った。
そこで赤ん坊の産着をまた着替えさせている。
そしてその産着をナイフで切り裂いていた。
彼女は赤ん坊を抱いたまま、また歩き途中の人気のない所で産着を捨てた。
侯爵邸に戻るとまだティーナも侍女も目覚めない。
俺は起こしたくてしょうがなかった。
1時間程経ち侯爵夫妻が部屋に訪れる。
夫人が悲鳴をあげて子供を抱き上げた、体を調べてる。
怪我をしていないか確かめてる様子。
侯爵が必死に侍女とティーナを揺すって起こそうとしてる。
夫人が子供が一人いないと叫ぶ。
侍女が先に目を覚ます、誰かが部屋にいて急に気が遠くなったと侯爵に話している。
侯爵が使用人を数名呼び子供の捜索を指示した。
ティーナが起きる。
ティーナの娘が居なくなったと侯爵に聞かされる。
悲鳴をあげるティーナ、半狂乱になっている。
暫くして産着を手に使用人が戻って来た。
切り刻まれた産着
ティーナは産着を使用人から取り上げ何処にあったか訪ねて走る。
途中靴も脱げたのだろう、裸足でその場所に走ってる途中で脇から来ていた馬車に跳ねられた。
壮絶な物を見た。
なんて事だ、馬車は暫くして止まりティーナを揺すっている。
侯爵や使用人、侯爵家の護衛騎士が来て跳ねられたティーナを侯爵家に連れて行ったが、そのままティーナは息を引き取った。
連絡を受けたのだろう、会長が侯爵家に戻ってきてティーナを抱きかかえて泣いていた。
侯爵家は数時間で重苦しい空気になり夫人は倒れたようだ。
俺は過去戻りして初めて過去を変えたいと思った。
この気持ちになった時に指南書の文言を思い出す。
『どんなにひどい過去でもそれを変えてはならない。
何故なら一人に都合が悪くても他者の幸せを奪ってはならないから』
こんなに辛い過去でもか?
これでは誰もが不幸になる、これでも変えてはいけないのか?
その時にミラー侯爵家の長女を思い出す。
彼女は何時も凛としていた、あまり話したことはない、精々挨拶くらいだろう。
しかし彼女のピンと伸びた姿勢を思い出した。
彼女はミラー侯爵家の娘として何時も毅然としていたんだ。
過去を変えると彼女はまた違う人物になる、それがいいのか悪いのかは彼女が決めることだ。
俺が決めることではないんだ。
また意識しかないのに俺は拳を握りしめる。
会長はティーナの亡骸をおそらくはジョイの墓だろう、まだ石には名前が刻まれていない、その横に埋葬した。
心の中で3人の冥福を祈る。
それから孤児院に捨てられた子供を見に行くとここの孤児院は神父が院長になっていた。
シスターが赤ん坊を見て身元のわかるものはないか探ってるが産着のみ。
産着は脱がせて布で包んで神父に渡している。
神父はシスターと話して赤ん坊に【キャンベラ】と名付けた。
紙に日付と名前を書きその布の結び目に挟んだ。
何日かして伯爵家の騎士と名乗る男が孤児院を訪ねてきて「最近保護した赤ん坊はいないか?」と聞いていた。
シスターがキャンベラを連れてきたが、騎士は少し赤ん坊を見て「違う」と言っていた。
あの騎士は何をもって違うと言い切ったのだろうか?
何処の騎士だ?
あとを追うとミント伯爵家に入って行った。
騎士と伯爵は「王家の証」がなかったと話している。
「王家の証」とは何だ?
俺はミント伯爵も観察対象にした。
メリル、キャンベラ、ミント伯爵、ダンテ会長、
それぞれを交互に観察していくと、ダンテ会長は2年後に亡くなった。商会は親戚の者が継いでいた。
メリルとキャンベラは順調に育っている。
ミント伯爵は、観察して良かったようだ、疑わしき国と接触を始めた。
ミント伯爵は今の王家をかの国に協力してもらい乗っ取るつもりでいるようだ。
国家簒奪を画策している、王家に恨みを持つであろう者を取り込もうとしている。
ジョイの周辺も探らせているようだ。
ダンテ商会にも接触していたが上手くいっていない。
1年ほどしたらある父娘と接触した。
何と!あの顔は覚えている、少し草臥れているがサイフェル侯爵とその娘マリーナだ。
ティーナの産んだ子の話をミント伯爵に持ちかけている。
スパナート伯爵家を調べてマリーナの方が幼いメリルに接触した。
その頃メリルはアディルの祖母とよく色々な場所で慰問をしていた。
幼いながらも祖母にくっついて一生懸命に孤児や怪我人などに声掛けをしている。
その隙間を縫ってマリーナはメリルに声をかけ、余計な事を散々言っていた。
「貴方はあの家の養女なのよ、赤ん坊の時に母親に捨てられたの。貴方には何処かに妹がいるのだけど何処にいるかわからないのよ。貴方の父母はその子も捨てたの。
2人は王家の血を引いてるわ、父親が陛下の従兄弟なの。
だけど今の王家に殺されたのよ。
だから私達の仲間にならない?
私達は王家に復讐しようとしているの、今仲間を集めているわ。
貴方はまだ小さいけれど仲間になる資格があるわ。
貴方の妹は何処にいるかわからないから誰でもいいの、妹を作ってその子も仲間にしましょう」
とんでもない事をメリルに会うたびに何度も、何度も洗脳のように話している。
そして偶然なのか必然なのか洗脳されたメリルはキャンベラを選んだ。
魔法も使えないのに洗脳をやってのけたマリーナの執念は凄いものがある。
長年憎んでいたジョイとティーナを葬ったミント伯爵に心酔している。
ジョイとダンテ会長が画策してサイフェル侯爵家は没落したようだ。
気づいたのだがこの頃のメリルは自分が魔法を使える事に気づいてない模様。
ただ自分の思っているように事が運ぶと感じてるだけの様子だ。
これで、王家の血を引く子や企み、黒幕も解った。
最後に俺は初めてアディルに会ったお茶会の日に飛んだ。
あの日の真実を俺の目で観察して自分の戒めにするために。
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お茶会の当日の朝スパナート伯爵家での出来事。
アディルが可愛い。
メイドが何人かでキャンベラを離れの一室に閉じ込めている。
暫くするとメリルがやってきて鍵を開けて中に入る。
アディルが魔法で鍵をかけてなかなか助けられなかった、ごめんねとか言ってるぞ。
直ぐに出ていくと、また閉じ込められるから暫くしてから出たほうがいい、招待客の誰かに助けを求めたらお祖母様も何も言えないわ、と話している。
あの子は私達を姉とは呼ばないから追い出そうとしているのよ、だからアディルを懲らしめようと思う、公爵の息子を呼んでるからその子に助けを求めたらって⋯⋯俺はメリルに踊らされたのか!
よく見てみるとその日はミラー侯爵家も招待されていた。
あの子が俺のまた従兄妹になるんだろうな。
俺がアディルに意見している。
あ~俺のバカ、でもこれがあったから、あの後アディルに謝ろうとここに何度も通ったんだよな。
俺はスパナート家の庭の木に登ってアディルをいつも見てたんだ。
木の上で枝に寝そべっていた。
ずっと見ていたら段々と不思議な気持ちになっていったんだ、何故かはその時はわからなかった。
ある日アディルは庭に敷物を敷いて幼い弟と遊んでいた。
まだ小さい弟を抱き上げようとしたんだけど流石に5歳の子が2歳の子を抱き上げるのは無理がある。
でも一生懸命なんとか抱き上げようとしていた。
そこにキャンベラがやって来て弟の足元を叩いた、ように見えたけどアディルが魔法で逆にキャンベラを転ばす。
キャンベラが起き上がろうとするとまた転ばす。
何度もやってると弟が笑った。
それでアディルは何度もキャンベラを転ばせてたんだけど同時に治癒もキャンベラにかけていた。
だからキャンベラは格好が可笑しいだけで全く痛くないはず、そのうちキャンベラも笑いだしたんだ。
自分が道化になって幼い弟妹を笑わせてる光景になった。
そしてその後アディルはキャンベラに謝ったらキャンベラもアディルと弟に謝っていた。
そして俺が惚れた魔法。
急に掌を上に翳しそこからシャボン玉を大量に出す。
ふわふわ浮き上がってゆくシャボン玉に光があたり、そして虹ができたように見える。
なんとも幻想的な光景。
3人でニコニコしながらそれを見ていた。
が、突然キャンベラが喚き出すんだけど口を抑えてる。何かに必死に抵抗するように。
でもその様は幼い姉弟には異様に映ったんだろう。
2人は泣きながら手をつなぎ邸の中に戻っていった。
庭の端にはメリルの姿。
俺はそろそろ帰ろうと思う。
みんなに俺が観察した物を見せないといけないから。
俺はジョイのように後悔したくない、守るべきものは側に置かないと。
帰ったら直ぐにアディルと結婚しよう。
ここまでお読み頂きありがとうございます
明日は閑話を2話投稿予定です。
その後三章に入ります。
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