第二十一話 目覚めを心待ちにしております
第一章の最終回です。
時系列、登場人物などを挟みまして次の章に入ります。
よろしくお願いします。
サロンに移動してお茶を飲んでいたらテモシーが戻ってきました。
私達の雑談の中身が私の魔法指導だったのでテモシーが待ったを掛けます。
「奥様がロバットに魔法を習うのは私個人としては何も問題はないのですが、おぼっちゃま⋯サンディル様があとで知ったら私共に命があるかわかりません」
そんな大げさな、命って。私が言うとテモシーとマーク様はブンブンと頭を振ります。
ドーランも軽くですが振ったあと天を見上げるといった面持ちです。
団長様はロバット様というのね。
テモシーと親しい間柄なのかしら?
「テモシー、黙ってればいいだけだよ。
だってチェリーナの娘だよ、アディルが魔法を使えるのはサンディルも知ってるんだからチェリーナに教わったと思うだろう」
そうです、そうです。
心の中で団長様の応援をします、私の今後がかかってるのですもの。
「それは難しいのですよ。チェリーナ様がサンディル様に頼んでしまっているので」
「何だと!」
「何故?!」
私と団長様が同時に叫んでしまいました。
それからテモシーの思い出話?が始まります。
母がサンディル様に魔法の指南をしている時によく言っていたのが、理由あって私に魔法を教える事が出来ないから自分の教え方をちゃんと覚えてね。と常々言ってたそうです。
私が公爵家に嫁いできたら魔法を教えてあげてほしいと⋯⋯。余計な事をお母様。
おそらくメリルやキャンベラのいる所で私に魔法の指導をする事が特にメリルに悪影響があると考えての事でしょうけど、メリルが居なくなってからも教えてくれなかったのはサンディル様に託したからなのね。
そういえばアンディーには3年ほど前から教えてたかも、嫡男だからと思ってたけど違ったのね。
「え〜でも独学で覚えた事もあるから少し位いいじゃない!私も知りたい事沢山あるのです!」
声を大にして主張しました。
流石にどれくらいの魔法を覚えているとかないはずです。
後ろ向きの3人組はボソボソ話し合ってます。
やがてこちらを向き代表でマーク様が了承してくださいました。
渋々という感じでしたけど。
「良かったな、アディル。でもアディルがサンディルが帰ってきた時に、何も知らないんです〜って演技すればいいんじゃないか」
「それは無理です。だって私はこれからスノーをジワジワ魔法で追い込む事になってますので他で頭は回りませんわ」
「そうか、でもサンディルのアディルへの思いは凄いな。話した事ないんだろう?」
「えぇ子供の頃に言い合いをしただけです。サンディル様が私の何に刺さったのか全く身に覚えがありませんわ」
「まぁ帰ってきたらわかるだろう、楽しみにしとけ」
気にはなりますが楽しみではないですわ。
それからは毎日、団長様の時間が空いた時に来てくださる約束をして、その日はお開きになりました。
──────────────
嫁いで来て怒涛の数日がすぎ、暫くして予定より少し遅れてダルトンが公爵家に戻ってきました。
遅れたのは案の定、お兄様と少し揉めたそうです。
私の手紙だけでは少し弱かったかもですね、なんせ会った事ないんですから。
でも彼がやってきてくれたので良かったです。
私はダルトンを秘書にしようと思ってます、だってあんなに真っ直ぐに主人に仕える事ができるなんて、貴重な存在です。
「ダルトンおかえりなさい、部屋は落ち着いたかしら?」
「はい奥様。ご配慮ありがとうございます」
「それでは皆集まってくれるかしら?」
今この部屋、私の執務室にはローリー、アンヌ、マリー、ダルトンの4人がいます。
「ここにいる4名は今から私のブレーンです。
この他には今の所はいりません。
だからこれから貴方達は私の事を奥様ではなく名前の方で呼んでください」
するとアンヌが挙手して発言の許しを請いました。
「奥様、差し出がましく意見申し上げますがご容赦願います。今、私とローリーは2人で侍女を務めてますが本来は5人程必要になると思われます。
人数が揃ってないのではないでしょうか?」
「アンヌ、奥様ではなくアディルよ。
侍女は貴方達の眼鏡に叶った子を連れてきて、後輩でもいいし、そこは任せるわ。でもその子達はあくまでも侍女よ。
私はテモシーを信頼しているの、だからテモシーが直接選んだアンヌとローリーの事は信頼しています。
2人は侍女であっても他の人とは区別するわ。
他の侍女には今まで通り奥様で構わないのよ、まぁ線引きしたいの。
それだけ私が信頼してるという事を周りにも示したいのよ」
「畏まりました、アディル様。
過分なご信頼を頂き恐縮です、精一杯務めさせて頂きます」
アンヌとローリーは2人で同時に頭を下げました、その仕草が美しい。
御辞儀って揃うと美しいのね、初めて知ったわ。
「さて、マリーとダルトンも異論はなくて?」
「「ありません、アディル様」」
こちらも美しい。
「では今後こちらで私が執務をしている間はアンヌとローリーは休憩や雑務をお願い。
タイムスケジュールも自分達で作成してあとで報告してちょうだい、マリーとダルトンには執務の前に話があるわ」
アンヌとローリーが部屋を出た後に私は2人にソファに座るように指示をしました。
「今から私達はチームになります。
だから隠し事をしたくないの、ダルトンとマリーに声を掛けた時は少しだけ話すつもりだったのだけど、お義父様に好きにしていいと許可を頂いたので、全てを話すつもりなの。
ちょっと怖いわよね。こんな話してごめんなさいね。
ただ今からする話は世間的には聞かなかった事にしなければいけないの、だから誓約魔法を施したいのよ。
それ以外では話せない。
ここまで話しておいて希望を聞くのもどうかと思うけどどうかしら?」
「アディル様、それは執務に必要なことなのでしょうか?」
最もな問をマリーに投げかけられる。
「う〜んそうね、直接は必要もないし関係もないわ。だけどそれによって私が動かないと行けない時は協力もしてもらわないといけない事もあるかもしれないってところかしら」
「そうですか、私は構いません。お願いします」
「ダルトンはどうする?」
「アディル様、それはきっと私に特に必要な事なのですね。私の為にしてくれる事だと思うので私も異論はありません」
ダルトンはお兄様に何か言われたのかもしれないわね。
では、と言って用意していた魔法誓約書を出して先にサインをもらう。
話してからでは取り返しがつかないので先に貰わないといけなかったのだけど2人共スラスラサインしてくれた。
ありがたいことだわ。
そして2人に王命の話をしました。
2人共驚愕でしたが特にマーク様の存在に驚いていました。
そうですよね。
あまり接しなければ気づかない位マーク様頑張っておられますもの。
その後は今後の執務の打ち合わせをしたりお茶したり、と楽しい1日でした。
2日おきに庭のお手入れにも気を配りながら公爵家での日々はつらつらと流れていきます。
たまにスノーを刺激するのも忘れてはいません。
嫁いで来て意外と楽しんで過ごしています。
なんだか楽しいな。
私はサンディル様に魔力提供をしながら、いつも話しかけていました。
なんとなくそうしたいなと思ったから。
その日合ったことや困った事、怒ったことなど色々と⋯。
その時間がいつしか1日の締めになっていて私の心にフワフワとした思いが芽生えてゆきます。
何故なのかは全くわからないのですけどね。
今頃サンディル様は過去のどの辺りを見ているのでしょうか。
お話した事などないのに早く会いたいなと思っている私なのでした。
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