第二十話 解除は造作もないことですわ
よろしくお願いします
「私は貴方様を、奥様とは認めません」
これはマーク様が仰った「君を愛するつもりはない」と同義語でしょうか?
若干違うような気もします。
でも雰囲気はバッチリ同じ感じなのですが、これも流行りの小説の台詞の類かしら?
アンディーに薦められた時読めばよかったかしら?
「侍女長、控えてください。奥様の前です。
発言は許されておりませんよ」
うわぁテモシーも怖い声が出せるのですね。
初めて聞きました。
まぁ数日の付き合いではありますけども。
侍女長は勤続25年と聞いております。
資料にはここ1年程、勤務態度がおかしいとありますわ。
これは精神魔法ですか?
フムフム、少し強いですね。
この国ではなさそうです。
「それでは拘束しましょうか、先ずは口ですわね」
私は彼女に魔力を纏わせ口、手、足、と順番に拘束していきました。
魔力の流れを見てみます。
足のくるぶしあたりに何かあるみたいだわ。
「テモシー、ドーラン。くるぶしを見て」
「奥様何も見当たりませんが⋯⋯おや?」
ドーランが何かを感じたようで手を翳しています。
「奥様、何か有るように感じたのですが気のせいでしょうか?」
やっぱりドーランよりも強い魔力のようですね。
これでは誰も気づかないはずです。
母も侍女長と直接会えばわかったかもしれないですけど会う機会などなかったのでしょう。
彼女のくるぶしに手を翳してみると異様な文様が浮き出ました。
文様を目に刻みます。
「少し調べないといけないわね。マーク様、私のお願いとは別で至急、師団長様をお呼びしてください」
「わかった。彼女はどうする?」
「ここでこのまま拘束しておきます、直接見てもらった方がいいと思いますので」
一番都合が良いということでサンディル様のお部屋に、テモシー、ドーラン、マーク様と私4人で集まり侍女長を呼び出しました。
だって私が呼んでも来ないのですもの。
ここだと直ぐ様来たのでちょっとびっくりしました。
侍女長のジニーはお義父様と学園で同級生だった子爵家の方で、学園卒業後にメイナード家に侍女として雇用したそうです。
長年よく働いてくれていた方でとても気立ての良い人だったそうです。
この方は私の犠牲になったのではないかしら?
その疑惑を師団長様に聞かなければなりませんね。
──────────────
団長様は小半時程して来られました。
部屋に入ってこられた時は肩で息をされていたので相当急いで来てくれたのでしょう。
深碧の髪に整った容姿、細身の体に濃紺のローブを纏っておられます。
もっとお年を召した方と思っていたのですがとても若くお見受けします。
「チェリーナの娘のアディルとは君だね」
「左様にございます」
「申し訳ない、もう公爵夫人だね。だが私には身分はあまり関係ないんだ王族以外はね。
失礼な物言いになっても許してくれ。
それにしても大きくなったなぁ、覚えてないよねぇ。
まだ生まれて4日目だったもんな」
流石に赤子の時の話をされても覚えてるわけありません。
「で、(仮)から少し聞いたけど何か出たんだろう」
団長様はマーク様の事を仮と呼んでらっしゃるのですね。ちょっとマーク様が可哀想です。
「これですわ」
私はまたジニーのくるぶしに手を翳し文様を浮かせる。
「はっっ、こんなものを仕込みやがって、少し時間がかかるかもしれないが解除は出来るんだが問題があるな」
「問題ですか?」
ドーランが腕組みをしながら団長様にたずねます。
「これは高度な魔法なんだが、まぁ解ってると思うが人を操れる。術者が遠くにいる場合に使う魔法なんだ。
掛ける対象の体の一部、爪や髪とか何でもいいんだがそれを使う。魔法を紋にして遠くから掛けるのだがその時に名前も刻むんだ。
刻んだ名前の者が魔力無しでも操れるんだよ。
だから近くに操ってる者がいるはずだが名前がわからないと完全には解除できない」
「スノーと刻んでますわ」
「見えるのか?」
「えぇ普通に読めますし解除も可能だと思いますけど」
「「「!!!」」」
皆様声が出ておりませんわ。
そんなに驚くほどの事でもないです。
「流石チェリーナより強い魔力だな、解除もできるのか?」
「出来るとは思いますけど、私はこの魔法のかけ方が解らないのです。だから教えて頂ければ大丈夫です。
かけ方がわかる物は解除もできます」
「チェリーナの鍵を開けた時も鍵の掛け方を知っていたのか?」
「いえ知りませんでした、あれは本でしたから。
私がたとえ解除に失敗して破壊したとしても、あくまでも本でしたので挑戦できましたの。
凄く大変で1冊目は一週間も掛かったのです。
でも2冊目は仕組みが解りましたので3分で外せました。ただ今回は人が相手ですので壊すわけにはいかないので挑戦するにはちょっと不味いですものね」
母の本はありとあらゆる鍵が掛かっていたので一つ解くのにも大変でした。
あれを人に施すのは流石に躊躇います。
「この魔法をかけた方はよっぽど自分の魔法に自信がお有りと見受けますわ。返しが掛かっていないようなので」
「そうか、では掛け方は私が教えよう。こちらへ来てくれ」
それから団長様は一通り掛け方を教えて下さいましたが説明下手で理解するのに暫くかかりました。
「誰か実験させて頂けますか?」
無理かな?試しなしでするのは少し気が引けるけど無理なら仕方ないものね。
そう思っていたらドーランが身を捧げて下さいました。
ドーランの髪を1本もらってテモシーと書いた紙の上に乗せて手を翳し念じます。
するとドーランの掌に紋様が入りました。
「テモシー何か指示してみて」
テモシーがドーランに指示をします、何の指示をしたのかと思ったら団長様に罵詈雑言を浴びせています。
その物言いが子供みたいで笑っていたら団長様に早く解除してくれと頼まれました。
笑いを堪えながら解除します。
3秒程で解除した時は皆の顔がポカンとしておりました。
「どんな魔力なんだよ。アディルの魔力量」
「さぁ鑑定された事はないですわ。私より多くないと鑑定はできないのかしらね」
「そうだろうな。チェリーナもアディルの鑑定はできないって言ってたからチェリーナよりも上だろう」
「団長様はお母様より少ないのですか?」
「そうだよ、私が知ってる中で一番がチェリーナだったけど今はアディルだな。君は最強だ」
「まぁそうなのですか。ふ〜ん、何でもできそうですね、楽しみです。でもとりあえずはジニーを開放してあげましょう」
ジニーのくるぶしに手を当てて撫でます。
紋様が消えると今まで私を憎々しげに見ていた目が閉じました。
そのまま眠らせて拘束を解除します。
テモシーが彼女を抱きかかえて部屋に連れて行くそうです。
私はその前に彼女に保護魔法をかけました。
彼女の精神は疲弊していることでしょう。
お気の毒です。
それからサンディル様に魔力供給をしてサロンに移動しました。
さてとスノーが次はどうするのかしらね。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




