第十九話 マリーの進退
よろしくお願いします
サンディル様の執務室を出てそのままテモシーの執務室へ向かいました。
私が来てまた苦情かと思ったのかしら、少し、いえかなり訝しんでいる様子。
そんなにいつも無理難題言ってたかしら?
「テモシー、今ドーランに執務を教えて貰ったの。よかったら家政の仕事も教えてもらえるかしら?」
「奥様、先日お話しましたように公爵家の執務や家政はサンディル様が目覚めてからと私は聞いておりますが、どうかされましたか?」
「そうね、どうかというよりは。
んーするべきと思ったのだけど駄目かしら?」
「いえ!そんな事はありません。
奥様がヤル気になって頂けましたらこの上ない事でございます。ではこちらで説明してもよろしいのですか?」
「えぇ、本格的に私の執務室で始めるのはダルトンが来てからにしようと思います。
それとマリーをあとで呼んでもらえるかしら?」
「マリーは外したのでは?」
「そうね。外したのだけど、テモシーは解ってるでしょう。
彼女の昨日の役割を。だから彼女の気持ちを知りたいとおもったの。でもさきにお仕事よ、フフ」
テモシーの説明もとても解りやすかったわ。
公爵家の使用人の仕事のレベルは、やはり凄いわね。
家政の主な内容は予算です。
公爵家の予算から家政に回された予算をやりくりするというもの。
だから主に支出をどこまで抑えるか、または使うかね。
これもとても楽しかったわ。
決済のサインをする度にドキドキするの。
今月の分の割り振りはテモシーがしてくれていたので其処から勉強しないとね。
来月から頑張りましょう。
こちらもテモシーの補佐のおかげでスムーズに終わったので「今日の分は終わりました」と言われた時拍子抜けしたわ。
二人とも私が初めてだから気を使ってくれたのね。
「ではマリーを私の執務室に呼んでもらえるかしら」
「畏まりました」
ローリーと私の執務室に向かうとマリーは先に待っていました。
「ローリー、私が呼ぶまでアンナと廊下に待機していてもらえるかしら」
「畏まりました」
ローリーが部屋を出てから私は防音魔法を部屋にかけます。
さて、マリーはどうするのかしら。
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「マリー取り敢えず座って」
私は執務用の椅子を指しマリーに座るよう促す。
どうやって話を切り出すかと考え倦ねていると、突然マリーが頭を下げる。
「奥様、昨日は申し訳ありませんでした」
「お義父様の指示なのでしょう」
「へっ?⋯⋯解ってらしたのですか?」
「途中までは解らなかったわ、流石に頭に来てたんだけどね。スノーの名前を出した時に違和感があったの。
テモシーが私の侍女にスノーの事を話してないわけないもの、なのに敢えて名前を出した挙句に会わせようとしてたでしょう。
それでね、何らかの意図があるのは解ったけれど何の為に私を怒らせようとするのかが、今ひとつ解らなくて、でもドーランが呼びに来たから、前日に私にヒントを出したのだと解ったの。お義父様が絡んでいるって」
「ご明察でございます」
「貴方の気持ちを聞こうと思って呼んだのだけど。
このまま私の下で働く事はできるのかしら?」
「奥様の侍女に戻れということですか?」
「まさか!侍女にはしないわ。
貴方はお義父様の指示で私を怒らせたけれど、私の侍女ならそんな事する必要はないのよ。
正直に話せば良かったの。
それをしなかった時点で貴方は私の侍女失格だわ。
私の下でというのはこの邸でってことよ」
「どういう事でしょうか?」
「⋯⋯⋯貴方の仕事は私の監視もって言われているでしょう。それを撤回してほしいの、必要ないからって伝言を頂いているのだけど、誰かは言わなくてもわかるでしょう。だから戻りたいのか、それともここにこのまま雇われるのかを貴方が決めるようにって。
言っておくけど私も言わされてるのよ」
マリーは元々王妃様の担当補佐官でした。
実は彼女の父親がアッパール家の執事でした、その関係で9年前王妃様が彼女の才女ぶりに目を付け側に置いていたようです。
スノーが公爵家に連れて来られたときに責任を感じて、彼女の監視役を志願してこちらに来たみたい。
父親が自分の主人の暴挙を止める事ができなかった事を気にしているそうです。
マリーが勤めていたわけでもないし、お義父様が止められないのに執事が止められるわけないじゃない。
って私は思うのだけど、それに縛られてる人にそんな事言えないわね。
「言わされてるって⋯⋯。奥様は妃殿下に気に入られたようですね」
「それは光栄だわ。で、どうする?」
「私がここを出た後は誰が代わるのですか?旦那様はお忙しいと思うのですが⋯⋯」
マリーはマーク様の事は知らないのね。
あっぶない、お義父様爪が甘いですわ、ちゃんと話しておいて貰わないと、私がうっかり話したらどうするつもりだったのかしら?
「私が代わるわ。そう言われてるから」
「奥様がですか?でもおそらくスノーは旦那様に横恋慕されておられると思うので⋯⋯難しいのでは?」
「う〜ん、それがね。私は普通にしてていいそうよ。
好きに魔法をバンバン使っちゃえって言われたわ、だからそうするつもり。スノーがここを出ていかなければいいだけだから、それでいいみたい」
「左様にございますか」
マリーはそういった後、暫く部屋の中を見回してから私を見てニッコリ微笑んだ。
「奥様は私を侍女には戻さないと仰いました。
その上でこちらに残るか意思を聞いてくださるということは執務室で働けと指示されたという事でよろしいのでしょうか?」
「そうなの、どうかしら?」
「ありがとうございます。精一杯勤めさせて頂きます」
「王妃様の所に戻らなくてもいいの?」
「はい、大丈夫です。こちらにいてもしょっちゅう仕事が回ってきてましたので、却ってそれがなくなるのならば幸いにございます」
公爵家に王家の仕事を回さないで欲しいわ、王妃様。
「⋯⋯大変だったわね。これからよろしくね。
そうと決まれば貴方に話しておかないといけないことがあるのだけど、とりあえずは部屋も変わってもらわないといけないから荷造りしといて、今日は休みね」
「畏まりました。ではこのまま失礼してもよろしいのでしょうか?」
「えぇいいわよ」
「ではその前にお茶の準備をさせて頂きます。
侍女としての最後の仕事をさせて下さい、何も出来なかったので」
「ありがとう、お願いするわ」
マリーがお茶を準備してる間にローリーとアンナを呼んでお菓子の用意もしてもらう。
疲れちゃった。
少し休憩しましょう。
お茶とお菓子を堪能して⋯⋯忘れてた!
侍女長どうしましょう。
人を拘束するの得意じゃないのよね。
人に向ける魔法はキャンベラくらいにしか使ってなかったし。
ふぅ〜。
でも嫌な事は早めに済ませるに限るわ。
またテモシーの仕事増やしちゃうわね、倒れないかしら?
水球の肩もみしてあげようかな。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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