第十二話 私の過去 3ー➀
よろしくお願いします
少し強めの金色が光に透けて眩しい。
精悍で美しい顔は時折目を細めて私を値踏みしている。
その横で幼き日に見惚れた清らかな淑女が私に微笑んでおられます。
対象的な二人の表情に少し戸惑いながら彼の方のお言葉をため息を噛み殺し待っていると、やっとお声がかかりました。
「貴方がアディルね、顔を上げて私はマリエンヌ。よろしくね」
真っ直ぐに下ろしている紫色の髪には一つも装飾品を付けておらず、町娘が着るようなワンピースをお召になった王妃陛下は私に優しい笑みを向けております。
何故此処に王妃様が⋯⋯?
聞きたいけれども聞けないこの状況。
考える事を放棄したいです。
「お目にかかれて光栄です、アディル・メイナードです。お会い出来た幸運に感謝申し上げます」
「エンヌがね。貴方に会いたいって言ってたから呼んじゃったの、突然でごめんなさいねアディル」
公爵家別邸についてエントランスに足を踏み入れた途端に抱きついてきた美しい義母は、私に可憐な笑顔で謝って来られましたが緊張しすぎて返事に窮します。
私の胸の内は先程から
来なければよかった⋯⋯。
来なければよかった⋯⋯。
掛け巡っております。
「アディルそんなに緊張しなくていいよ。
邪魔なお人は居るけど本題に入ろうか」
邪魔とは?不敬も甚だしいのですが。
お義父様、私はこんな場に慣れてないのですから少しは気を使ってくださいませ。
「テモシーやドーランが会わせてくれないんだよ。君を囲い込んでね。私達は君が嫁いで来るのを心待ちにしていたというのに」
「テモシー達は貴方に会わせたくないのよ、だから私は本邸に行くと言ってるのに貴方が駄目っていうから、私まで会えなかったわ」
「行かせるわけ無いだろう。あいつがいるじゃないか」
「子供みたいなヤキモチ焼いてる貴方が悪いのよ」
美貌の夫婦のイチャイチャ掛け合いとそれを見て爆笑している王妃様。
カオスだわ。
来なければよかった⋯⋯。
来なければよかった⋯⋯。
来なければ⋯来ちゃったのよね〜。
確か昨日後悔先に立たずと学んだのではなかったかしら私。
「ねぇ誰が話すの〜、私でもいいわよね!」
「私が話すよ、義姉上が話し始めたら止まらないし感情のまま話すだろう」
「エンヌそうしましょう、長くなるし私達はアディルのフォローに回りましょうよ」
「解ったわ、しょうがない。譲ってあげるわよ義弟」
「承知。アディル今からとても大事な事を話すよ。君の母上チェリーナは、まだ君が若いから駄目だと言ったけれどもう嫁いで来られたからね。
それにテモシーからの報告でかなりのしっかり物と聞いているし愚鈍でもない。本当に噂とは宛にならないな。聞く勇気はあるかな?」
聞く勇気とは?
色々とお義父様は仰いますが、ここまでの流れで聞きませんという勇気のほうを持ち合わせてないですわ。
お義父様の目をしっかり見て頷きました。
話を聞いたのですけど⋯⋯。
私が聞かされていた話と根本的に違っていて、ん?まぁ合ってるところもありますけど。
反応しかねます。
「では、陛下の夢見はただ王族を探してるだけではないと言うことですわね」
「そうだよ、他国がうちを制圧しようと考えてる。
それは何故か、魔法が蔓延ってないから簡単に制圧出来ると思われてるからなんだ。
昔からちょっかいは出されてたんだけど、うちの魔術師団は割と優秀なんだよ。数は少ないけれどね。
でも頭打ちで払っても払っても他国が集ってくるからさ。
兄上も五月蝿くってしょうがなかった所に夢見だからね。最初は面倒くさいもん見てんなよ、とは思ったけどこれを機に一掃しようと思ってさ。
一回叩きのめしたら他国にも牽制になるかなってね」
国盗りの話をされるとは夢にも思いませんでしたわ。
テモシーやマリーまで使って、こんな回りくどく私を呼んだのは何故かしら?
「国の目星は付いてらっしゃるのですか?」
「あぁ、大陸の地図で見るならうちから2つ先この国だよ」
「えっ?この国は⋯⋯」
「そうあいつのいた国だ」
その国はマーク様の居られたお国でした。
マーク様は知ってらっしゃるのかしら?
「あいつは知らないんだよ、敢えて教えてない。
まだ国にあいつの親が残ってるからね。
あいつは家の役目も教えられてないし影武者の話しを断らせない為にも教えない事にしたんだ」
「家の役目ですか⋯。」
「まぁね。簡単にいうとあいつのとこは代々あの国に置いてるうちの間諜なんだ、もう何十年もね。メイナード家の歴史は学んだかな?」
「はい、嫁ぐ前に学ばせて頂きましたがそのような記述はありませんでした。でも書けないことですものね」
メイナード家は今から200年程前、当時の第三王子様が臣籍降下して誕生されましたお家柄です。
その後は王族とあまり遜色なく扱われていらっしゃいます。
ですが、代々のご当主様はあまり国の重鎮ではなく中枢には入っておられないとも聞いておりましたが、どうやら違うようですね。
「メイナード公爵家は王家の保険なんだ。代々ね。王家の血を絶やさぬように存在している。
だから私のように養子に入って継ぐ事もある。
但し嫡男以外は他の国に行かなければならない決まりもあるんだ、そしてそこで一生を暮らす。勿論身分の保証などはない。だからかなりの厳しい生活を余儀なくされた者もいるよ。王族であっても王家ではないというのを刻まれた家なんだ」
また難しいことを⋯。そんな事をして反発する方はいらっしゃらないのかしら?
「私もそう思うよ」
「!!」
「びっくりしたかい?
私はね、魔力はないけど生まれた時から不思議な力を宿してる。
邪な考えを持っていない者の考えは読めるんだよ。便利なようで便利じゃない、中途半端な力だけどね」
え〜怖いですわ。
「ごめんごめん。怖がらせちゃって」
思考停止するしかないかしら?無理ね。
「苦しいお力ですね」
「⋯⋯そんな表現をしたのは君が二人目だな。サンディルは見る目があったという事か」
「貴方良かったわね。でもさもありなん彼女はチェリーナの娘よ。当然だわ、悪い娘なわけないでしょう」
「そうだね。さて君は周りからの自分の噂は知ってるかい?」
そう訊ねられて私の気持ちは途端に暗くなりました。
過去の嫌な思い出が纏わり付くようで両手で自分を抱きしめます。
辛かった、悲しかった、けれども表面には一切出さないように努めていました。
それを流したのが誰なのかを知った時の絶望。
暫くは人を信じることが出来ませんでした。
彼女達に救われるまでは⋯⋯⋯。
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