上を下へのスラップスティック
誤字報告ありがとうございます
「「えええー!!」」
「これで肩の荷がおりましたよ。
折角エリーフラワー様が乳母に名乗りを挙げて下さったると言うのに。
私が何年も懐妊しなかったら、と。」
「私こそ!名乗りをあげたのは良いのだけど、
それが貴女にプレッシャーになっていたら、と。」
「ふふ。エリーフラワー様はお優しい。」
多分九月の頭頃だそうだ。
「「心よりお祝い申し上げます。」」
「まだ内密でお願いします。」
「アッ、ハイもちろん。もう、剣の練習はなさってないですね?」
「ええ、あの日が最後です。」
ああ、猫ちゃんとヴィヴィアンナ様が
キャッキャッウフフしてたら
アメリアナ様がきて、きーーってなっての
自爆の日かあ。
妊娠初期は激しい運動、ダメ、絶対。
翌日。王妃様に呼ばれた。
「ああ。よかった!
いいことだわ。!
嘘みたいに嬉しいわ!
ええ、最高よ!
王もたいそう喜ばれて!」
と、大喜利のあいうえお作文のような喜び方をされた。
「やはり腹帯かしら?」
「でもこの世界では戌の日がいつかわかりませんよ。」
「そうだわ、生類憐みの令を出すのはどう?」
「それ、一番あかん奴です。」
王妃様のところから寮に戻る時、
ヤー・シチが送ってくれた。
「愚息が先日ご迷惑をかけまして。」
「そういえば見かけませんね。」
「アラン様の命令もありますが、カレーヌ様を
御実家の領地に送るのに、同行しております。
流石に影からで姿は見せませんが。」
「ああ。ええと、何かこちらこそ余計なこといって。つい、色々とお気の毒で。」
「ご存知の通り、アレは昔カレーヌ様の所にいまして。祖母と両親と妹と暮らしておりましたが、
火事で全員無くしましてな。」
なんか、思った以上に悲惨だぞ。
「その時逃げまどった暴れ馬からアラン様をお救いしたのです。
その火事は同僚が起こしたものとか、その前にみんな殺されていたとか、まあ、
色んな噂はあります。」
アラン様をお助けしたのは良いが、誰もいなくなった自宅兼馬番小屋を見て泣き崩れたのだという。
「馬を押さえた身のこなし、度胸、そして係累を失ったことから、ウチで影として育てます、
私達夫婦が親がわりになります、と
アラン様に私が申しあげました。」
しばらく厳しく鍛えてから、アラン様の護衛として
行動を共にすることになった。
「またカレーヌ様と接する機会が増えて、
ちょうど、亡くなった頃の妹と同じくらいで。」
なるほど。それであんなに執着したのか。
「それで、奴がこれから気にかけるのはあなたです。」
「ええっ?妹枠が空いたからですか?」
そんな心のスキマお埋めします、みたいなことやっちゃったっけ?
ヤー・シチは少し言いにくそうに。
「お嬢と話してると、優しかったおばあちゃんといるような気がするのよね、と。」
アッ、ハイ。
また三日後、エリーフラワー様の所にいると、
アンちゃんが現れた。
「先日はご迷惑をおかけいたしました。」
「護衛という名の監視と護送は終わったの。」
「はい。これから領内にてご結婚まで過ごされるはずです。
王都内のお屋敷に戻られることもないかと。」
「また逃げられるといけないからね。手引きする人もいるようだし?」
「これは手厳しい。」
それから美しい織物を出して、
「私からのお詫びの品です。
つまらないものですが。」
「つまらないものなら受け取れません、
あら、素敵な絹織物!」
所ジョージの往年のギャグみたいな事をいってたが
、実は素晴らしい絹織物にホクホクの
エリーフラワー様。
「お嬢には、コレを。色々悪かったわ。
あなたがそこまで薄給で清貧だとは思わなかったの!」
そこには、缶詰、瓶詰めがズラリ。
どこから出したんだ。
あと、乾パン、氷砂糖。
うーん。災害の備蓄食か。
「これで何日かは生きられるワネ。」
やはりか。
「ご飯が食べられなかったらアンちゃんにいいなさいね!」
兄ちゃんに聞こえるのは、何故か。
「何かご馳走してあげるわ!
えーっと、屋台の串焼きとかあ?」
転生ものの、定番ですね、それ。
「まあ、狂犬の手綱をにぎれる人間がいて良かったわ。」
エリーフラワー様?
「それも手厳しい。」
「そうでござるな。カレーヌ様に振られて、
ヤケになって
ヒャッハー!みんな滅してやる!!
になったらどうしようかと思っていたでござる。」
「エドワードお!悪気ないだけに、
効くぞ!ってか、
私ってそんなバーサーカーだと思われてたの?」
うん。
皆んながうなづいた。
「ひどぉい!!」
口を尖らせてはけていった。
良かった。いつものアンちゃんだ。
六月にエリーフラワー様が女の子を、
九月にヴィヴィアンナ様が双子の男の子を
お産みになった。
そして全国民が熱狂に渦巻く頃、
ひっそりと
カレーヌ様は嫁いで行かれたそうだ。
「今でもねえ。良くわからないのよ。
カレーヌ様への気持ち。」
エリーフラワー様のところへ野菜をとどけながら、
ポツリとアンちゃんが言った。
「家族というか、やはり妹に近かったのかもね。
姫さんが追い詰められていて、
どうにかしなきゃと思ったのよ。」
うん、そうか。
「なんか可哀想でねえ。リード様に選んで貰えないし。頭では姫さんにはお妃は無理、だとは
わかってたけど。」
「あのね。アンちゃん。
私の国の有名な文豪の作品の中に、
名セリフがあって。
可哀想だた 惚れたってことよ。
って。」
そっか、とアンちゃんは遠い目をした。




