それから。
アラン様のお相手はアメリアナ様のお姉様に決まった。
「今まで嫁がせてなかったのは、薄々こうなるのを見込んでたのよ。
うちの国と友好は結びたい。
それには王太子妃でなければ。って。」
「彼女がなにかやらかしそうだから、念の為に
姉姫をキープしといたのですか?」
王妃様とリード様の会話だ。
面倒くさい話は聞かない、聞かない。
「レイカさん、すみませんでした。エリーフラワー様に叱られました。
自分も残業や出向手当ては
渡してきたけど、元々の基本給が
こんなに安いとは知らなかったと。」
セバスチャンに神妙な顔で謝られた。
「そうですね。寮費が安くて自炊してますから、
なんとか。」
「自宅から行儀見習いに通ってた研修生扱いですからね。
見直します!」
ふう、助かる。実家に仕送り分とか天引きされてる?ってくらいの安さだったからね。
「今日は夜お食事とかどうですか?
ご馳走します。
ドレスもお送りしますよ。」
「いやいやいや?いりませんよ。」
「福利厚生の一貫として。最近新しい服を仕立てて無いことに気がつくべきでした。」
「仕事着には不自由してませんから!
ペラペラした服で働けません!
ていうか、気付かないで、人の服のローテーションに!」
お食事もお断りした。
さて、この世界にはウスターソース、ケチャップ、
マヨネーズはある。
マヨネーズの開発なんか転生物のお約束だが、
やらなくて良くてほっとした。
(黄身酢あえは作ったことはある。遠い料理学校の時の記憶だ。)
で、本日のランチのリクエストはお好み焼きだ。
「青のりはないので、乾燥パセリの粉末で良いですか?洋風ってことで。」
「これは?」
「魚粉です。というか、そんな感じ。
いりこというか、小さい魚の干ものがありますから、それを粉末にしたものですよ。」
(粉末にしてもらうのは力自慢の護衛の人たちに頼んだ)
昭和40年代は時々薄いソースをかけて魚粉にまぶしたたこ焼きのようなものを売っていた。
鰹節粉もあった。そっちが美味しい。
ああ、どうしてここの世界に鰹節がないのであろうか。
さて、お好み焼きの具は豚肉、エビ、卵だ。
「あら?コレはまさか?紅しょうが?」
「新生姜の甘酢つけです、
皮ごと酢につけるとひとりでに紅くなるんですよ、
九月頃に作っておきました。」
とりあえず
代替え品だらけのお好み焼きはそれなりに喜んでいただけた。
「たこ焼きは型がないから無理ねー」
「若い頃、タコパとかしませんでしたか?」
「したした!
具にチーズやら、ソーセージなんかいれてね。
近所のスーパーに普通のタコが売ってなくて、酢ダコを買っちゃって、酸っぱいのができたりしてね!」
「あとは、焼きそばの代わりに今度、焼きうどんはどうですか?
中華麺がどうしても手に入りませんから。」
「あら、いいわ!
ところでレイカ、セバスチャンからドレスを受け取ったの?」
「いいえ?」
「男性からドレスを受け取ると
面倒くさいことになるから、私があげるわ。建前は前使ってたのを下賜するという形になるけどね??」
それに、と王妃様は続けた。
「貴女のお給料がそんなに安かったなんて?
手元にのこるのが
日本円にして五万!!
おせんのグリコさんか!!
UNIQLOのお洋服でも時々厳しい手取りじゃない!それでは貴族の令嬢としてのドレスや
アクセが買えないわ!」
「最近はエリーフラワー様から手当を頂いてますから。それに食費はお仕事で試食すればかかりませんし。寮費が光熱費込みで安いのはわかってます。
それに、帰省の時は護衛の人が送ってくれて、タダだったし。」
「わかっていて、放置してたの?セバスチャン。
まさか自分に泣きついてくるのを待ってたとか言わないわよね?」
「いや。そんな。…ただ、結婚すると生活が楽になるよ、と思って欲しくて。」
「「最低だわ!!」」
「セバスチャン!あなた今月レイカと同じ給料で生活しなさい!」
「そんな!そんなのちょっと服を買ったり、外食すればなくなる、。あっ!!」
「それにレイカは一年近く耐えてきたのよ!
それにその最低の給料でもいい、娘さん達はね!
お家からたんまりとお小遣いをもらって、
綺麗な服を着て、お城でお手伝いみたいな
ぬるい仕事して!
玉の輿を狙ってるだけなのよ!!」
「セバスチャンさん。
貴方との結婚はもう、あり得ません。
あなたは経済DVをするタイプだと思います。
王妃様、この発言の証人になって下さい。」
「そんな!」
「私もそう思う。」
「王妃様、私は5歳からあちらの世界の記憶がありました。
だからきっと貴族社会に馴染めないと思うんです。」
「セバスチャン、あなたは根っからの貴族。
多分、子供ができなかったら、いいえ、出来ても?
妾をつくるんでしょ!」
「そんな事は!」
「それに御実家からは伯爵令嬢との見合いを勧められてる。」
「断ったはずです!」
「貴方、どうしてカレーヌと結婚しなかったの。
考え方が似ていて似合いだと思ったのに。」
私もそう思う。価値観の根っこが同じなのだ。
無意識に人を見下すところが。
「…王妃様、それをおっしゃいますか。
私の気持ちはご存じでしょう。」
「だって、以前はカレーヌが好きだったでしょう?」
あら?あらら?
「母上、もうセバスチャンをいじめないでくれないか。」
「あら、リード。」
あら珍しい。リード様が王妃さまに意見してる。
「セバスチャンは確かにカレーヌに好意は持っていたけども。あちらは公爵家の一人娘だ。
兄はいたけどね。」
「二言目にはリード様のお妃になりますの、が口癖でしたね。
だけど、あの、アンディには懐いていて。」
「以前あちらで、働いてたからでしょ。」
「あいつは馬番で、盗みを働くような奴なんですよ!」
馬番で盗み、なんか昔の名作漫画を思いだすわ。
(飴さんは冤罪だったけど。)
でも、そうか。恋敵だったからなのか。
あのお互いへの悪感情は。
「私達のオヤツをかすめて食べていたんです。」
あー、栄養状態悪かったって言ってたな。
「私は最後に好物を残しておくタイプで!
ああ、あのチョコクッキー、
あのチョコミントアイス!!
チョコドーナツ!
アーモンドチョコ!
ペロティーチョコ!
今でも夢に見る!なんでなんで、食べておかなかったのかと!」
とりあえずチョコ好きなのはわかった。
「あと、ショートケーキのいちご!」
あ、それは怒っていい。
「でもあの時カレーヌ様に、ど、ど、どうしましょう?って困りモードだったと。
はっきり断わらなかったんでしょ。」
「彼女、そんな事まで話したんですか。
確かに、彼女から、そこで結婚してと言われたら、
受けていたと思います。
ええ、私はどうせ、煮え切らないやつですよ!」
あら、開きなおったわ。




