猫と姫と王子様の妃。
「おや、今日もきたのかい?子猫ちゃん。」
この場合の子猫ちゃんは、人間の女の子ではなく
本物を指している。
しかし、この方に限っては。
いもしないファンの女生徒の群れが見えてしまうのである。
んにゃおおーんんん
「ふふ、可愛い子猫ちゃんだ。」
まるで少女漫画に出てくる王子様のようなセリフを吐いて
そっと白い子猫を抱き上げる。
まるで池田理代子や木原敏江や魔夜峰央が
描くようなお耽美さである。
麗しのヴィヴィアンナ様だ。
今日も日課の剣の稽古をしていたらしい。
「おや、レイカ嬢。今日からお仕事ですか。」
「はい、タマちゃんは良くきますの?」
「そうですね、毎回待っていてくれるのかな?
素振りが終わるといつのまにか来ています。
…君、タマちゃんっていうのかい?
素敵な名前だね。」
「まあ、すごいこと。猫までたらし込むなんて。」
「貴女はアメリアナ様。
今日お立ちと伺いましたが。」
おっと!物すごいヴィランオーラをまとってアメリアナ様が現れた!
言葉にトゲがありまくりだぞ。
「ええ、それでタマちゃんにお別れを言いにきたのですわ。」
フーーッ!!
タマちゃんがアメリアナ様に向かって威嚇した。
「なっ、なんなの。タマちゃん、
私アナタには何もしてないじゃないのよお。」
べそをかくアメリアナ様。
さらにハーーとしてからの、シャーー!!
容赦ないぞっ、タマちゃん!
「おやおや、威勢がいい事だ。
だけどタマちゃん、私は君に守られる程
弱くはないよ、ありがとう。」
タマちゃんは名残りおしそうに、ヴィヴィアンナ様の足にしっぽを巻き付け、
身体をすりつけ出ていった。
「ふふ、可愛い。」
ヴィヴィアンナ様、その笑顔、こっちまで
流れ玉でやられます。
ずっきゅーん。
「ずっきゅーんってときめかせられてる場合ではないわ!」
あら、やはり貴女もヴィヴィアンナさまの
色気にやられましたな。
何しろ今日の出立ちは白を基調とした騎士の出立だ。
伝説の戦士か王子様か、って感じなのだ。
「?」
「貴女、なんなのよ。
少しばかり、いえ、かなり綺麗だけどっ!!
私はたらしこまれたりしないわよ!」
「何のことですか?」
「皆んな言ってるんだから!
貴女とリード様は写真やグッズの売り上げで
御殿がたつそうじゃないのっ!」
「今住んでいる離宮はもともとは王妃様のものですよ。それにアラン様とアメリアナ様の為に
新しい離宮が建てられて、おりますよ,
今。」
「あ、あら?そうなの?」
それは本当だ。だけどその費用はリード様たちの
関連商品の売り上げと
エリーフラワー様の開発にした商品の売り上げの一部で賄われている。
彼女はしっかりとご自分の権利を主張なさるので、すべての利益をわたすことはありえないけども。
その方達のおかげでこの国は潤っているのだ。
なんだかな、と思うのは仕方ない。
「貴女はいいわよ、みんなに愛されて。」
あちゃーこの人もカレーヌ様タイプかあ。
「姫様。私も努力はしておりますよ、
ホラ、この通り。」
しゅるるん、と剣をふる。
素敵。やっぱり麗人っていいなぁ。
「そういえば、どうして貴女が剣の稽古を?
護衛がいない、わけ、ないわよね?」
そのとたん、しゅばばっ!!
忍び達が現れた。
スケカクに、ヤー・シチ夫妻。
「わ、わわわ?」
「皆のもの、可憐な姫を脅かすんじゃない。」
「はっ、妃殿下。」
静かにアメリアナ様を見つめる水晶の麗人。
「アメリアナ様。
リード様のお妃になる条件は命をかけて
あの方を守ることなのですよ。」
「え?だってそんなの、、
何のために護衛や騎士がいるの?彼らに
任せればいいじゃないの。」
そっと目をふせる、ヴィヴィアンナ様。
「…そのように答えたものはすぐに王妃様から
失格とされ、候補から外されました。
5年前、いえ、もう6年前ですか。
その時の事件をご存知ですね?」
「ええ、嫉妬にかられた側妃が王妃様を刺したとか。
父上は側妃を上手く御せられなかった王妃様が
愚かだったと。」
忍びたちから怒りと殺気がたちのぼる。
「事実は、側妃がリード様を亡き者にして、第三王子の王位継承権をくりあげようとしたのです。
王妃様が命がけでリード様を守ったのですよ。」
「え?」
「人は信じたいものを信じるものです。
本当の事を知りたいなら、アラン様やリード様に、お聞きなるとよろしい。」
それで、貴女は王妃様をかろんじていたのですね、
と、静かな声で囁いてヴィヴィアンナ様は去っていった。
どうしよう、この雰囲気。
そーっと、撤収しようと思ったら
アメリアナ様に捕まった。
「どういう事なの?
ヴィヴィアンナ様は頭がからっぽの綺麗なだけの
お人形ではなかったの?
エリーフラワー様は、この国に縛りつけられるために、身分の低い男と
無理矢理結婚させられてんじゃないの?
王妃様は嫉妬にくるったヒステリーな人で
王様に遠ざけられてるんじゃ無いの?
リード様はただのマザコンなんじゃないの?」
‥最後だけは同意する。
後、手を離して、痛い。




