月下の麗人
誤字報告ありがとうございます
結局マイクとサムは、ジークとフリードに
改名のこととなった。
「カッコいいでしょ。」
「あっ、ハイ。」
「母上はネーミングセンスも
グンバツですね!」
なんでも母上ファーストのリード様。
王妃様の影響か言葉のセンス、古いですよ。
そのうちナウいとか言いそうだ。
夕方、中庭を通って寮に帰る。
護衛はエドワード様だ。
「私の大事な親友、レイカを宜しくね!
とエリーフラワーに頼まれてましてな。
はっは。」
おや、ここでも知らないうちに親友になっていた。
かきーーん、
こきーーん、
はあー!ヤァー!!
まだまだ!!
庭の奥から剣を交わす音と、人の声が聞こえる。
「今日も熱心でごさるな、ヴィヴィアンナ殿。」
月の光に髪をきらめかせ、
オー・ギンと剣をかわしているのは、ヴィヴィアンナ様だ。
抜けば玉ちる氷の刃!
(まさか真剣ではないよね??)
剣をうちならし、うちならし、
青い火花散らしながら
華麗な足捌きで舞うさまは、
まさに月の精霊。
アクアマリンのような蒼きひとみ。
その身のこなしの美しさよ。
青いイナズマと呼びたい。
ホノオがからだを焼き尽くすような。
「今日はここまで!」
「ありがとうございました!」
「やア、見てたんですか、恥ずかしいな。」
額にかかった髪をかき揚げ、汗をぬぐう、
ヴィヴィアンナ様。
ベンチの私の隣に座ってきた。
ふっとただよう、花のかおり。
この方もアラン様と同じ、ヅカ系の色気をお持ちだ。
おおお。たまらん。
「いつもここで訓練を?」
「ええ、リード様をいざと言うとき守らねばなりませんから。」
あの質問。
リード様を身をていして守れるか、か。
「それに、以前から護身のために剣を学んでました。
カレーヌ様もそうでしたよね。
以前、練習場で顔を合わせてたものです。」
そんなこと言ってたな。
「失礼。」
水筒の水を飲もうとして、銀のコップに移していた。
……大変だ。
いつもこんなに気をはらなくては行けないのか。
「ふふ、もう慣れですよ。」
「お妃教育は大変ですか?」
「う、うーん。そうですね、、。
そうじゃないと言ったら怒られますかね。」
足を組み替えるポーズもセクシーだ。
「リード様には感謝してます。
あの人は私をいやらしい目で見ない。
対等の人間として扱ってくれた。」
似た物同士なんだよ、と言ったそうだ。
私は兄上のスペアだ。
見かけがいいから人寄せの見せ物になっているだけだ。
兄上のためにおとりになって、敵をひきつけろ、といわれたことがあると。
成人したら、危険な外国への訪問は任せた、
そこで殺されたら
こっちが攻め入る口実になる。とまで。
(誰が言ったのかは知りませんが、それなりの
地位の方とか。)
ひどいな。それで誰も信じなくなって、
王妃様だけを信じてるのか。
「私もそうです。
望むと望まざるとも、この見かけで小さい頃から追い回されました。
父はなるべく私を高い地位な人に嫁がせたかったので、護衛がたくさんいましたから、
それほど危険はありませんでしたけど。
小さい頃から粘着質の視線が絡みついて
嫌でしたね。」
笑っただけで自分に気がある、と勘違いされて。
ふう、とため息をついて、続けられた。
「私は多分、王子の誰かと結婚するだろうと
言われてました。
王太子アラン様が、隣りの姫と親善の為の
結婚が決まってなければ、彼に嫁いだはずです。
それでお妃教育みたいなものは
叩き込まれてました。
語学、歴史、礼儀。
そうですね、今は感謝してるとも言えます。」
この方は本当に清廉で透明な水晶の結晶のようだ、
美しく、強く、悪意を跳ね返す。
「第三王子様という話はなかったのですか?
リード様のひとつ下、同い年だから
候補になっていても。」
後ろ立てがない側妃だから、彼女との縁が欲しかったはずだ。
「王家の秘密ですが。
第三王子は王の御子ではありませんでした。」
それでサクッと粛正されたのか。
ん?なんか今やばいワードを聞いた?
王家の秘密とか。
「ふふ。秘密の通路の存在までご存知のくせに。
今更ですよ。」
立ち上がって、
「それに貴女のご飯は美味しい。
貴女といる、王妃様は優しい。
ふふ、私ともお友達になっていただけませんか。」
「ハイ、喜んで!!」
居酒屋の店員なみに良い返事をした。
「くすくすくす。
変ですよね、レイカ嬢と話してると、優しかったおばあちゃんと話してるみたいなんです。
もう、亡くなりましたが。」
…あっ、ハイ。




