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第8話 千年後の今

2人がいい雰囲気になっている間、お馬ちゃんは外にずっと放置されてます

「それでその日が今日だったってわけ…」

 ヒーラギが過去を語り終えると、サディ―は指でそっと目尻を拭った。

「そんな事があったのね。話してくれてありがとう、ヒーラギ。辛かったでしょ?」

 ヒーラギはゆっくりとかぶりを振った。

「君こそ怖がらずに俺の話を聞いてくれてありがとう。正直俺は、過去を思い出す事よりも、君に嫌われる事の方が怖かった」

「どうして?」

「だって俺は大勢の人間を無差別に殺したんだよ?今だってやろうと思えば、人間界をこの魔界やキモンの里のように燃やし尽くすことだって出来る。君はそんな危険な魔族を目の前にしているのに怖くないの?」

「怖くなんかないわ。だって今のあなたからはそんな敵意は感じないもの。それにあなたは自分の行いを悔いてる。私の知っている悪魔のような人間は、そんな事一切しなかった」

 サディ―が吐き捨てるように言うと、ヒーラギは皮肉っぽい笑みを浮かべた。

「いつの時代も悪魔のような人間はいるんだね。俺も魔族なんか見た事もなかった時は、人間たちの方がよっぽど悪魔に見えたよ」

「私もそう…」

 ジャックノーマに母を殺された時のことを今でも夢に見る。

 本物の魔族を知らないサディ―にとっては、ジャックノーマこそが魔族で、ヒーラギの方が遥かに真っ当な人間に見える。

「最初はビックリしたけど、何だか私もあなたの事が好きになってきちゃった…」

 出来る事なら、このまま村から完全に逃げ出してしまいたいくらいだった。少なくとも、ここにいる間は、あの悪夢の日々を忘れられる。

「ヒーラギ…私、帰りたくない…」

 ぽつりと本音を漏らす。

 ヒーラギはフッと笑みをこぼすと、自分の本来の使命を思い出した。

「そういえば、まだ君の話を聞いていなかったね…」

「……」




「そっか…お姉さんを助けるために君はここに来たんだね」

 ヒーラギは、頭を自分の胸に預けてしゃくり上げるサディーの背中を優しく摩った。

 座っていた椅子は、いつの間にか二人掛けの長椅子になっていた。

「本当は、あのジャックノーマがいるところへなんて帰りたくない…でも欠片を持って帰らないとアズが死んじゃう…」

 ヒーラギに、ジャックノーマを何とかしてもらうよう頼むことは、過ぎた願いだろうか…

「ヒーラギ…」

 サディ―は言いかけて、やめた。

「どうしたの?言ってごらん?」

「ダメよ、言えないわ!だってあなたにはあの人との約束があるもの…」

 二度と人を傷つけないという約束が…

 ヒーラギは、しゅんと目を伏せた。

「うん…そうだね。言ってなかったけど、俺は条件付きの結界と封印を施すために〝魂の契り〟を結んでしまったから、どの道君と一緒には行くことはできない…」

「魂の契り?」

 聞き慣れない言葉に、サディ―が眉を顰める。

「魔族特有の魔法でね、何か約束事を誓う時に、破った場合のペナルティーも同時に設定するんだ。それが重ければ重いほど、約束の力は強固に働く。魔族たちはは他人を支配するために使っていたみたいだけど、応用すれば自分にも使えるんだ。それで俺は強力な結界を作るために、魔界から出ると魂ごと消滅するっていうペナルティーを自らに課してるんだよ…」

「魔界から出るのもいけないの?」

「極論だけど、人を傷つけないためには、人と出会わないことが一番簡単だと思ったから…」

 でもそれが返って裏目に出てしまったと、ヒーラギは自嘲した。

 しかし、だからと言って、このままサディーを手ぶらで帰すつもりもない。それではせっかく封印を解いてもらった意味がない。

「だけどサディー、君の目的の物はあげるよ」

「え…?」

 サディ―が困惑している間に、ヒーラギは自分の胸にスッと手を通すと、河原の石くらいの大きさの黒い結晶体を取り出した。

「これが俺の魔力の欠片。他の魔族の結晶は、俺が奴らを葬った時に塵も残さず消滅してしまったから…」

 とりあえず、これを持って行けば、ジャックノーマのお遣いは果たせるわけだ。

「……」

 サディ―は差し出された欠片を受け取るのを一瞬躊躇した。

 本当はジャックノーマの手に、そんな物を渡したくないからだ。

 しかし、世の平和よりも姉の命を優先したのは自分だ。そのためにここへ来たのだ。

 サディ―は意を決して欠片へ手を伸ばした。ボゥッと妖しげな光を発する結晶が手の平に載せられる。

 それを懐へ仕舞おうとした時、ヒーラギが唐突に口を開いた。

「ところでサディー、一ついい事を教えてあげる。その欠片を取り込んでもそいつが魔族(おれ)と同じ力を手に入れることはないよ?」

「へっ?」

 涙を引っ込めて顔を上げたサディ―は、その時初めてヒーラギの魔族っぽい怖い笑みを見た。

「魔族の残骸が魔力の塊なのは間違ってない。でもいくら強力な魔導士だろうと、ただの人間(・・・・・)が魔族になれるわけがないんだよ。俺にみたいな混血(例外)でもない限りね…」

「え…それじゃあ欠片を取り込んだらどうなるの?」

「死ぬ。分不相応な力は、身を滅ぼすだけだ」

 その答えにサディ―は愕然とした。

「それじゃあの人との約束を破る事になるじゃない!ダメだわ!やっぱり受け取れない!」

 欠片をつき返そうとするサディーの手を、ヒーラギはそっと押さえた。

「いいんだ、サディ―!受け取ってくれ!」

「でもっ…」

「サディー、俺は約束を破ることよりも、そいつを生かしておくことで君がこの先もずっと辛い思いをすることの方が嫌なんだ。なぜなら、俺が心から助けたいのは君だから!」

 ヒーラギが真剣な目でサディーを見つめる。

「本当に…いいの?」

「いいんだ…彼女もきっと許してくれる!」

 ヒーラギの青い方の瞳が一瞬煌めいた気がした。

 サディ―はヒーラギにひしと抱き着いた。

「ヒーラギ…ありがとう!」

「いいんだよ、お礼なんて。それよりも早く行かないと期日までもう時間がないんじゃないの?」

 それはそうだ。せっかく目的の物を手に入れられたとしても、期限に間に合わず、アズが処刑されてしまったら元も子もない。

「そうね…その通りだわ」

 名残惜しそうに椅子から立ち上がるサディーだったが、ハッと何かを思いついた。

「そうだわ!もし本当にジャックノーマがいなくなって自由になれたら、またここに戻って来れるじゃない!ねえ、そしたら一緒に暮らさない?あなたがいるなら私は魔界でも構わないわ!」

 唐突な申し出に、ヒーラギは一瞬面食らったような顔をした。

「こんな、本当に何もないところで?」

「あなたが魔法でいろいろ出せるでしょ?」

「まぁ、それはそうだけど、お姉さんと離れ離れになってもいいの?」

「大丈夫よ!アズだって子供じゃないんだから、ジャックノーマさえいなければ、そのうち誰かとよろしくやるわよ!」

「でも人間の君は寿命が来ればいずれ死んでしまうし…」

「じゃあ私に永遠の命を頂戴!魔王と同じ力を持つあなたなら出来るでしょ?」

 サディ―のとんでもない申し出に、思わずむせ込みそうになるヒーラギだったが、やがてフッと吹き出した。

「その少し強引なところ、やっぱりサディーだな!」

「ね、約束よ?」

「わかったわかった!」

 ヒーラギは降参したように両手を上げた。

「よかった!これで安心して帰れるわ!」

 強引に約束事を取り付けたサディ―は意気揚々と出口へ向かう。

 次元の裂け目の前まで来ると、ヒーラギがおずおずと背中越しに話し掛けてきた。

「サディー、帰る前に一つだけ俺のお願い聞いてくれる?」

「もちろんよ!なに?」

「キスしてもいい?――わっ」

 サディ―は返事の代わりに、ヒーラギに飛びついてそのまま押し倒した。

「バカ!そんなのいちいち許可取らなくていいの!」

「そう?じゃ、遠慮なく…」

 初めての生身同士でのキス…

 たっぷり2分が経過してから、ヒーラギはそっと唇を離して起き上がった。

「ありがとう、サディ―!満足した!」

 サディ―はヒーラギの膝の上に跨ったまま、イタズラっぽく上目遣いになった。

「こんなので良ければ、戻ってきたらいくらでもしてあげるわよ?」

「本当に?嬉しいな!」

 その屈託のない笑顔があまりにも幸せそうで、サディ―も思わず笑みをこぼした。

 そしてもう一度ヒーラギを抱き合った。

「必ず、私があなたを幸せにしてあげる!だから待っててね?ヒーラギ…」

「うん。気を付けて行っておいで」


何もないところから物をポンポン出せるヒーラギ君なら人を瞬間移動させる事くらい出来るだろと思うかもしれませんが、あれは魂が無い物限定ですので、生き物は転移させられないんです。自分以外は…

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