集大成
三体のネムレスを倒した黒宮アキト。残るは巨大なカプセル内で浮かんでいるバグだけとなった。バグはネムレスシリーズとは違い、戦う手段を持ち合わせてはいない。一瞬の間に黒宮アキトに殺されるか、ゆっくりと恐怖心を積み重ねてなぶり殺されるかの二択。どちらにせよ、すぐ目の前にまで迫っている結末に、バグは怯えていた。
しかし、バグが考えていた二択とは別の行動を黒宮アキトは取った。黒宮アキトはバグの前で座り込み、楽な姿勢でバグに話しかける。
「お前、中々やるじゃねぇか」
体に刺さっている小さな鉄屑を抜きながら、黒宮アキトはバグを称賛した。バグは何故自分が称賛されたのかが理解出来ず、返答に困っていると、黒宮アキトは言葉を続ける。
「あのネムレス共をどう作ったかは説明されても理解出来ねぇが、戦ってみて奴らの特性は十分に分かった。犬は自在に操る尻尾で隙が無く、おまけに素早くて隠し武器も忍び込まれていた。猿は一見パワー型でノロそうに思えるが、素早いし頑丈だ。あのビームには本当に驚いたよ。鳥は単体では対処出来るが、他のネムレスと合わせると面倒な相手だ。上空を取っているおかげで、僅かな隙や仲間のピンチを見逃さない。勝てたが、今まででトップクラスに強くて、楽しい相手だったよ!」
「……理解出来ない。どうして君は、笑ってるの? この壁を見てよ! ボクは人を使ってネムレスを作った。ネムレス達には君を殺すよう命じたのに、どうして笑っているの!?」
分かり合えたと思っていたイチとの拒絶。その前例があったからこそ、バグは黒宮アキトに向けかけていた好意を止め、黒宮アキトの真意を聞いた。
「だって、お前はお前なりにやったんだろ? 奇石を悪用されないように。それに壁のカプセルの中にいる女だって、使わない分もあるだろ。それでも廃棄しないって事は、お前なりの厚意なんだろ?」
「……どうして、そう言い切れるの?」
「直感だ。オレは正義の味方じゃない。オレはオレの意思を第一に動く。他人の意見なんか関係ない。自分がやった事を理解出来るのは自分自身だけだ。それでも文句を言う奴や、オレがやりたい事を阻む奴は、思いっきりぶん殴る! ただそれだけだ」
黒宮アキトは手を広げながら倒れ込み、両手を枕にして横になる。エゴイストでありながら、特定の人物の心を動かす姿と言葉を持つ黒宮アキトに、バグは心酔した。
「君は開拓者だ」
「あ?」
「君はエゴイストで、敵を作り続けてしまう。でも、君の姿を見て、自分の足を進められる者も生まれる。障害を叩き壊す力と揺らがぬ信念で道を切り開く者。開拓者、黒宮アキトだ」
「そんな立派な人間じゃねぇよオレは。オレの好きなように壊して進み、馬鹿な奴が勝手に後をついてくるだけだ。例え道を踏み外しかけても、オレは助けてやらねぇ」
「それでいい。そんな君だから、目を奪われてしまうんだ」
二人が会話を交わす中、気を失っていたイチが目を覚ます。イチは頭を抑えながら、自分に何が起きたのかを思い出そうとするが、まるで切り取られたかのように、自身が怪異化した事は思い出せなかった。
イチは羽織っているコートで体を覆いながら、バグの目の前で横になっている黒宮アキトの傍に近付く。怪異化した記憶は無いものの、バグに対する嫌悪感だけがイチに残っており、バグと目を合わせようとしない。そんなイチに、バグは何も言えなかった。
「黒宮アキト。今回はボクのネムレスが負けてしまったけど、戦いの中で君の事を分析させてもらった。次のネムレスはボクの集大成になる。必ず君の前に現れ、君を完膚なきまで叩きのめす」
「おう。楽しみにしておくよ」
「それじゃあ、お別れです」
バグは壁にある隠し出口を開いた。黒宮アキトはイチを担ぎ、開かれた隠し出口の方へと歩いていく。
「兄様! 助力しに参り―――って、あれ?」
「もう終わったぞー! 解散だ、解散!」
遅れて助太刀に来た西連寺マコトは状況を理解出来ずに立ち止まってしまう。その様子に、西連寺マコトを引き剥がすチャンスだと思い、黒宮アキトは隠し出口の階段を駆け上っていく。自分から逃げようとしている黒宮アキトに遅れて気付いた西連寺マコトは、巨大な脳みその姿をしたバグに目も暮れず、隠し出口の階段を鬼気迫る勢いで駆け上っていった。
黒宮アキト一行が去っていった後、静寂が訪れた研究所に一人取り残されたバグ。黒宮アキトに宣言した最後のネムレスは、黒宮アキトが三体のネムレスと戦っている間に完成しており、後は生命を与えるだけであった。
「黒宮アキトに勝つには、ただ強いだけでは駄目だ。心技体全てを兼ね備え、人間のような成長性を持たなければいけない。これまでの技術、保管している全ての奇石が必要だ。ボクを犠牲に」
バグは自身の全てを犠牲にして、別の場所で完成していた人型のネムレスに生命を宿す。ネムレスが入れられていたカプセルは地上へと浮上し、三島家の領地内で起動した。突如として現れたカプセルと、その中から現れた鉄の骸骨に、労働者達の視線が集中する。
ネムレスは鉄塔の頂上を見上げると、助走もつけずに空高く飛び上がり、当主の間がある頂上の階へと落下していく。
突然天井から現れたネムレスに、三島ダンゾウは特に驚きもしなかった。そしてこれから自身の身に何が起こるかも、既に覚悟していた。
「最期ぐらい、息子の贈り物は素直に受け取るか」
ネムレスは三島ダンゾウの頭を掴むと、そのまま強引に頭を体から引っこ抜いた。掴んでいた三島ダンゾウの頭部を投げ捨て、窓から外を眺め、遠く離れた場所にいる黒宮アキトの姿を捉える。
すると、ネムレスの体に皮膚が覆われ、髪の色が黒色な事以外は、黒宮アキトと瓜二つの容姿となった。
「……アキト……黒宮アキト」




