人外
奇跡の力を宿す奇石を見つけたのは、バグではない。バグは目を覚ました時には既にカプセルに入れられており、五人の老人達に囲まれていた。老人達はバグに奇石について語り始める。奇石の効果、奇石の採掘方法、そしてバグに課せられた使命。老人達の言葉は同じ言語に聞こえるようで違い、同じ次元の存在に見えるが違う。バグは老人達から課せられた使命を実行する為、鉱山から全ての奇石を採掘し、奇石を使ってプロトタイプを作り続けた。
バグが老人達から課せられた使命は【最強の存在】を作り上げる事。名無しの守護者であるネムレスシリーズを作り続け、ようやく三体の最強の存在を作り上げた……そう思っていた。
「どうした! そんなんじゃオレは殺せねぇぞ!!!」
バグが作り上げた最高傑作達を相手に、黒宮アキトはたった一人で善戦している。戦い始めて数十分。黒宮アキトの体力は衰える様子は無く、動きが鈍くなる様子も無い。むしろ、戦う時間が長引く程、黒宮アキトの勢いは増していく。初めはネムレス達の攻撃に防戦一方だったが、今は黒宮アキトが攻め立てている状況。
何者をも寄せ付けない強さと、どんな攻撃をも防ぐ鋼の体。そんなネムレス達が徐々に壊れていくのを目の当たりにしたバグは絶句していた。黒宮アキトは常人離れという言葉では片付けられない程に人外じみていた。
理解が追い付かない強さを持つ黒宮アキトに絶望するバグであったが、同時に希望が芽生えていた。ネムレスシリーズは確かに強いが、あくまでバグが想像したものを形にしただけの空想の産物。いくら強い個体が作れても、空想故に成長性は皆無だ。
しかし、黒宮アキトは実在する存在である。最強の存在を作る使命を課せられたバグにとって、黒宮アキトは最高の素体であった。
黒宮アキトとネムレス達が死闘を繰り広げる外で、バグは作り始めていた。黒宮アキトを模したネムレスを。
一方、三体のネムレスと死闘を繰り広げている黒宮アキトは決め手に決めあぐねていた。何度も全力で拳を叩きつけているにも関わらず、未だネムレス達は健在。更にネムレス達は機械の為、痛覚は無く、どれほど効いているのか分からない。
そして厄介なのは、三体のネムレスの連携である。一体に絞って集中攻撃を仕掛けようとすると他のネムレスが邪魔をし、かといって三体同時に相手をすると、いつまで経っても仕留めそこなってしまう。
(くそっ! ウザい! 個として強いのは当たり前として、チームワークもバッチリだ! 常に仲間を手助けする事を考え、仲間が手助けしてくれる事を信じ切っている! 機械の癖に、人間よりも信頼関係が出来てるじゃねぇか! 相手するこっちとしては面倒くさいがな!)
黒宮アキトは犬型のネムレスの尻尾による攻撃をスルりと避け、その尻尾を鉄棒のように回転して飛び上がり、上空を飛んでいる鳥型のネムレスを蹴り落とす。落下していく鳥型のネムレスに追い打ちをかけようとすると、猿型のネムレスが巨体を広げて黒宮アキトに飛び掛かり、黒宮アキトを下にして地面に落下した。
三体の中で一番重量がある猿型のネムレスの下敷きになった黒宮アキトだったが、歯を喰いしばって猿型のネムレスを持ち上げ、再び飛び上がろうとする鳥型のネムレスに投げ飛ばした。
(まずは一体目! 次は―――)
鳥型のネムレスを無力化出来た事を確認した直後、黒宮アキトの体に犬型のネムレスの尻尾が突き刺さった。
「チクショウ!!! またかよぉぉぉぉ!!!」
再び体に尻尾を突き刺された黒宮アキト。犬型のネムレスは黒宮アキトを尻尾で突き刺したまま、壁へと押し当てる。尻尾の先が壁に貫通している為、容易に尻尾を抜く事が出来ずにいた黒宮アキト。
黒宮アキトが悪戦苦闘していると、少し離れた場所にいた猿型のネムレスが自身の両腕を合わせると、一つの巨大な大砲となり、その狙いは黒宮アキトへと向けられた。
「おい! ふざけん―――」
いかにも近接戦を得意とする見た目の猿型のネムレスが飛び道具を隠し持っていた事に、黒宮アキトは文句を付けようとした瞬間、大砲からビームが放たれる。為す術無い黒宮アキトはビームをまともに喰らい、ビームが射出し終えると、黒宮アキトが貼りつけにされていた側の壁に大穴が出来上がっていた。
しかし、その威力に見合った代償は確かにあり、犬型のネムレスの尻尾は半分溶け、ビームを放った猿型のネムレスは再起不能となった。犬型のネムレスは動かなくなった猿型のネムレス、鳥型のネムレスを一ヶ所に集め、弔いの鳴き声を研究所に響き渡らせた。
「まるで人間だな」
犬型のネムレスが大穴に振り向くと、そこには五体満足の黒宮アキトが立っていた。機械である犬型のネムレスには恐怖心といった弱点は備えられていない。
だが、黒宮アキトが犬型のネムレスに恐怖心を芽生えさせた。
「ほんとはオレがお前らをブッ壊してやろうと思ってたんだがな。そっちの方が気が楽だろ? 身を犠牲にして死なれるより、敵に殺される方が罪悪感を抱かずに済む。まぁ、それは人間の場合だがな」
犬型のネムレスは後ろへ足が後退してしまうが、足元に転がっている自身の同胞の亡骸を目にし、口をかっ開いて黒宮アキトを威嚇した。突進してくる犬型のネムレスを真正面から受け止めようと、黒宮アキトはその場から微動だにしなかった。
大きく開いた犬型のネムレスは黒宮アキトを噛み千切ろうとするが、黒宮アキトは上顎と下顎を掴んで耐える。徐々に黒宮アキトに力負けしていき、犬型のネムレスの口は限界以上に開かれていく。
すると、犬型のネムレスの喉の奥にある射出口が作動し、回転した射出口から龍のような炎が吐かれた。炎に包まれた黒宮アキトであったが、尚も犬型のネムレスの口を開いていき、開く事も閉める事も出来なくすると、喉の奥にある射出口を掴んで強引に引っ張り出した。
いくつもの損傷に、犬型のネムレスはとうとう立つ事も出来なくなり、黒宮アキトは無抵抗となった犬型のネムレスのボディを剥がしていく。体の中心部分にある動力源を見つけると、そこに嵌め込まれていた奇石を外すと、犬型のネムレスは機能を停止した。
黒宮アキトは手にした奇石を見てみると、破邪の指輪を着けていなくても感じ取れる不思議な力を宿している。
「こいつが、奇石……破邪の指輪と似た不思議な力が宿ってるな」
「……ボクの……ネムレス達が……」
自身が作り出したネムレス達が壊された事に悲しむバグ。表情を持たない巨大な脳みその姿をしていても、その声色には深い喪失感がまとわれていた。




