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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第4章 鉄の男
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敵意の塊

 新たに旅の一員となったイチを加えた黒宮アキト一行は、遥か北の地を目指していた。道中で遭遇する邪奇醜の群れを撃退しながら、夜になれば野営を設置して休息をとる。

 そんな日々を続けていた四日目。一行は既に不満が爆発していた。死にかける毎日が続いて気力が削がれるイチ。連日の戦闘で疲れが溜まる西連寺マコト。食事が全てスープのみで表情から覇気が消え去った黒宮アキト。

 別々の不満を持っていた三人が望むのは同じく、癒しをくれる場所であった。まるで水を求めて砂漠地帯を歩くかのように足を進めていく三人。

 すると、三人が行く先で、一人の祓い士が邪奇醜の群れに囲まれていた。ヘドロに包まれた人型の邪奇醜の体には人の体の一部が消化しきれず残っている。


「誰か襲われてる!? アキト! 助けないの!?」


「あ?……ああ、祓い士か。まぁ、なんとかなるだろ」


「なんとかって……なんとかならないから、ああなってるんでしょ!?」


「腹減って気が乗らない」


「えぇ……じゃあ、マコト!」


「……まぁ、恩を売って見返りに期待しましょう」


 西連寺マコトは光の線を伸ばし、邪奇醜の群れへと駆けていく。高く飛び上がって邪奇醜の群れの頭上から光の線を分裂させて伸ばし、線の先を邪奇醜の心臓部に突き刺して結びつける。邪奇醜の群れを飛び越えた先で線を腕に巻きつけ、結びつけていた邪奇醜の心臓を引っ張り出すと、邪奇醜は崩れ落ちた。

 邪奇醜の群れに囲まれていた祓い士は、一瞬の間に倒しきった西連寺マコトの姿を捉えると、傷を負った左腕を抑えながら西連寺マコトのもとへと近付いていく。


「助かったよ。あと少しで、奴らに殺されるところだった。君は、俺と同じ祓い士だね?」


「西連寺家の祓い士。西連寺マコトです」


「西連寺家! 家の名がある祓い士か! 俺はカザミ。君とは違って、家の名の無いただの祓い士だ」


「何かの任務の最中で?」


「任務自体は完了した。その帰り道で奴らに襲われてな。邪奇醜が群れを成すなんて聞いた事がない。おかげで、危うく殺されるところだった……あそこで立ってる二人は、君の連れ?」


 カザミが顎で指した方へ西連寺マコトが視線を移すと、服を握りしめながら心配そうに見ているイチと、呆然と空を見上げる黒宮アキトの姿があった。 


「……まぁ、そうですね」


「随分疲れてるようだね。白髪の男の方は特に。ここから少し先の方に、僕が仕えている村がある。そこで二人を休ませるといいよ。君に助けてもらった事も当主に報告したい」


「当主の名は?」


「三島ダンゾウ。鉄を主に扱う三島家の当主様さ」


「三島家……分かりました。ご同行しましょう」


「そう言ってもらえて助かる! 恩人に何の礼も無しに返すのは気が引けるからね!」


 そうして、カザミが仕えている三島家の領地へと向かう黒宮アキト一行。同じ祓い士同士だからか、領地へと向かう道中で、カザミと西連寺マコトは祓い士の扱いや未来についての話を交わしていた。

 そんな二人の後ろ姿を見ていたイチは、同じ祓い士であるはずの黒宮アキトが二人の会話の輪に入らない事に疑問が浮かんだ。


「ねぇ、アキト。アキトも混ざれば? 同じ祓い士でしょ? というか、なんで自分も祓い士だって言わないの?」


「オレが祓い士について真面目に話している姿が想像つくか?」


「それは、僕とアキトは知り合いたてだからだけど……全然想像つかない」


「だろ? ただ眠たくなるだけだよ……それにな」


「それに?」


「オレとあの野郎は、同じじゃない」


「え?」


 黒宮アキトの意味ありげな最後の言葉に、また新たな疑問が浮かぶイチ。その疑問が晴れる前に、三島家の領地へと辿り着いた。鉄を扱う領地なだけあって、領地内を囲む壁は鉄で出来ており、壁を隔てても見える鉄塔が目立っている。

 カザミが門番に事情を話し、領地内へ入る事を許された三人が門を通っていくと、忙しなく作業する人々の作業風景が出迎えた。荷車に乗せた資材を運ぶ者や、周囲の建物を補強する者など、領地内にいる誰もが何かしらの作業を行っている。


「わぁ。みんな忙しそうにしてるね」


「よくもまぁ、こんな真面目に働けるもんだな」


「アキトも見習ったら?」


「オレだって働く時は働くさ。やる気が起きればな」


「不真面目~」


「んな事より、飯屋は無いのか? 飯屋は」


 黒宮アキトとイチが話していると、西連寺マコトが近付いてくる。 


「私、少しだけここの当主と話をしてきます。待っている間、お二人は何処かで休息をとってください」


「一人で行くの?」


「招待されたのは私だけですから。本当なら、兄様にも来てほしかったのですが……」


「お! 飯屋だ!」


 二人の事など気にもせずに、黒宮アキトは飯屋へと一直線に向かっていった。その様子にイチは頭を抱え、西連寺マコトは苦笑いを浮かべる。


「そ、それでは。兄様の事をよろしくお願いしますね、イチ」


「年下の娘に面倒を任されるって、だらしないなアキトは」


「あ、それとですね」


 西連寺マコトはイチの耳元に顔を近付け、イチにだけハッキリと聞こえるように呟く。


「兄様にちょっかいをかけたら……殺す」


 冷たく、そして心のこもった声色で呟かれた西連寺マコトの言葉に、イチは冷や汗をかきながら激しく頷いた。


「フフ。それでは、行ってまいります」


 とってつけような笑顔を浮かべると、西連寺マコトはカザミのもとへと戻っていった。一人取り残されたイチは、額の汗を拭うと、黒宮アキトが駆けていった飯屋へと歩いていった。

 イチが飯屋の中へ入るや否や、身を震わせるほどの怒声が出迎えた。


「だから!!! 何度も言ってるだろ!!! 労働者以外には飯はやらねぇって!!!」


 店主は顔を真っ赤にしながら、黒宮アキトに指を差して怒鳴りつける。黒宮アキトは店主の怒りを鎮めようとするが、怒る事に夢中になっている店主。

 そんな場面を目にしたイチは、異常ともいえる怒りを見せる店主の態度に、どうやっても状況が良くならない事を察して、黒宮アキトの腕を引っ張って外に出た。


「あー、怖かった……! ちょっとアキト! 一体何やったのさ!」


「オレは何もしてない! ただ店に入っただけだ! それでアレさ!」


「たったそれだけであんなに怒るわけ―――」


 そう言いかけた所で、イチは周囲からの視線に気付く。彼らは店主と同じような、明確な敵意を持った目を二人に向けていた。視線を向けられるだけでなく、危害を加えようと企んでいるのか、手に金属で出来た道具を握りしめて近付いてくる者もいる。

 異様とも思える領地内の労働者の様子にイチが困惑していると、黒宮アキトがイチの肩を掴んで、その場から離れていく。イチが黒宮アキトの表情を見ると、さっきまでの覇気が無い表情ではなく、周囲の異変を見逃さないよう鋭い眼で警戒していた。


「……ねぇ。ここ、何か変だよ……」


「とりあえず人気の無い場所まで行こう。来て早々、キナ臭くなってきたな」

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