欲しかった言葉
暗闇で姿を捉えられない集合体に黒宮アキトは直感で拳銃を撃つ。暗闇に断末魔と悲鳴がけたたましく鳴り響き、ドタドタと無数の足音が暴れ狂う。
しかし、集合体は弾丸を喰らっても尚、祓われずに存在し続けていた。黒宮アキトは続けて拳銃を撃ち続けたが、やはり痛がる様子を見せるだけで祓われない。
(怪異じゃない……この地下領地の人間共か)
黒宮アキトは拳銃を腰元のホルスターに入れ、手首の装置に仕込んでいた刃を引き出し、集合体に真っ直ぐ突き進んで、両手首の装置から引き出した刃を集合体に突き刺した。確かな肉の感触と噴出する生暖かい血液を顔中に浴びながら、黒宮アキトは集合体を切り刻んでいく。
黒宮アキトの動きを止めようと、集合体は無数の腕で黒宮アキトの体を掴む。両腕を掴まれ、切り刻む事が出来なくなった黒宮アキトだったが、既に切り刻んだ部位に向けて蹴りを連続で叩き込んだ。足がスッポリと入る程まで穴を開けると、自分の両腕を掴んでいる無数の腕を振り払い、穴の中へと入り込んでいった。
集合体の中に入り込んだ黒宮アキトは、切り口を作っては引き裂きを繰り返し、集合体の内部から徐々に数を減らしていこうとする。そうしてどんどん奥へ突き進んでいくと、集合体の中心部分で、緑色に発光する球体を目にした。その球体の中に、衰弱しきった西連寺マコトの姿があった。
「マコト? お前ここにいたのか」
「……兄様」
「丁度いい。一発デカい術を放ってくれ。こいつら体は脆いが、いかんせん数が多すぎる。あの怪異とやる前に体力を無駄に減らしたくない」
「……無理ですよ……私は、自分の身を守る為に力を多く使ってしまいました……」
「そうか。それじゃ仕方ない。出来るだけ光らせてろ。視界が良好な方が動きやすい」
そう言って、黒宮アキトは周囲で蠢く肉壁を切り刻んでいく。血と臓物塗れになっている黒宮アキトの姿を見ていた西連寺マコトは、破邪の指輪から短刀を取り出した。
「兄様……私との約束、憶えてますか……?」
「あ!? 今話す事か!?」
「私は今も憶えています。今も、待っているんですよ?」
「そんじゃまだ待ってろ! くそっ、数が多いだけで面倒な相手だ! 一向に終わりが見えねぇ!」
「ずっと待ってたんですよ? もう、待ちたくありません……今、ここで」
西連寺マコトは暗闇から自身を守るバリアを解き、手に握る短刀で、黒宮アキトの背後を刺した。短刀の刃は黒宮アキトの背中に深く刺し込まれ、背中からの突然の痛みに黒宮アキトの動きが止まる。
「兄様……ここで、私と一緒に死にましょう?」
「マコト、お前……!?」
「兄様が私から遠ざかっていくのなら、手が届く内に離れないようにしないと」
黒宮アキトへ優しく語りかけてきた西連寺マコトの声色には、愛情と怒りが混ざり合った愛憎の感情がこもっていた。西連寺マコトは黒宮アキトの背中に刺した短刀を捻り、黒宮アキトの背中をゆっくりと横に切り裂いていく。
黒宮アキトは西連寺マコトの手を止めようとしたが、まるでこの時を待っていたかのように、肉壁から腕が突き出て、黒宮アキトの体を掴んで身動きを取れなくさせてくる。抵抗出来ずに背中を切り裂かれていく中、どこからか声が聞こえてきた。
『その子にはあなたの声は届きませんよ。黒宮アキト』
「その声……カルミティシアか!?」
『私の暗闇は単に暗いだけではありません。人の内に隠された想いや劣情を露わにし、私の操り人形となるのです。ですが、完全に操れる訳ではありません。私に出来るのはあくまで提案。その提案を受けるかどうかは、その人次第。つまり、その子は自分の意思であなたを切り裂いているのです』
「他人の想いを利用する卑怯者が! 姿を現してオレと戦え!」
『老人の身である私と戦えるのですか?』
「安心しろ! オレは老若男女問わずブッ飛ばす主義だ!」
「でしょうね。ですが、あなたの前に姿を現すのは叶いません。私は今、新しい体に移り変わる最中ですので』
「新しい体? イチの事か!?」
『叶う事なら、新しい体を手に入れた私とお会いしましょう。その為には、その肉塊とその子を殺さなければいけませんが』
そう言うと、カルミティシアの声は聞こえなくなった。カルミティシアとの会話を終えた頃には、黒宮アキトの背中は半分切り裂かれていた。背骨のおかげで半分で済んでいたが、肉壁から伸びた手が西連寺マコトを手助けし始め、ノコギリのように短刀を扱って背骨を削ってくる。
このままでは体を真っ二つに切り裂かれてしまうにも関わらず、黒宮アキトは自分の体ではなく、自分が切り刻んだ肉壁の傷口が塞がっていく事が気になっていた。
(傷が治っていく? 見た目は怪異らしいが、グチャグチャに集まっただけの人間のはず……そういえば、あのババア言ってたな。この暗闇では死ぬ事が出来ないと。ならオレがいくら斬っても潰しても、無意味って事か。やはりあのババアを祓うしかない! その為には、ババアのもとへ行く必要がある。ババアは今、イチと一緒にいるはずだ。そこへ行くには、マコトの助けがいる!)
自分一人ではこの状況を打破出来ないと判断した黒宮アキトは、尚も自分の体を切り裂こうとしている西連寺マコトに語りかける。
「マコト! いい加減目を覚ませ! 他人に操られるだけなんて、お前らしくないぞ!」
「……兄様は、こんな状況でも強気でいられるのですね。体を引き裂かれそうになっているのに」
「じゃあ痛い痛いって叫べばいいのか!? オレは絶対に負けねぇぞ! 例え体を真っ二つにされても、必ずあのババアをブッ飛ばしてやる! その為にはお前は必要なんだ!」
「……私なんて、必要ないでしょう。兄様は一人でも強いんだから」
「オレだって人間だ! 一人じゃどうしようも出来ない事だってある! 助けが必要な時があるんだ! オレはお前に助けてほしいんだ!」
「……私に、助けてほしい?」
「オレを助けろマコト! そんで、あのババアの骨という骨を砕いてやろうぜ! オレと一緒にな!」
「兄様と、一緒に…………あれ? 私は、何をしているのですか?」
黒宮アキトの言葉を受け、正気に戻った西連寺マコト。自分の手に握られた短刀を目にすると、その刃が突き刺している相手が自身の想い人である黒宮アキトだと分かるや否や、急いで短刀を引き抜いた。
背中から短刀が引き抜かれると、黒宮アキトは自分の体を掴んでいる腕を振り払い、動揺している西連寺マコトへと抱き着く。
「あ、兄様……私は、こんな……こんな事をしたかった訳では―――」
「イチのもとへ転移出来るか!? いや、しろ!」
「は、はい!」
周囲の肉壁から伸びた無数の手が迫ってくるのを前にし、西連寺マコトは転移術を発動し、黒宮アキトと共にイチのもとへと転移した。
転移した先は儀式が行われるような空間となっており、並べられている長椅子に転移した二人。西連寺マコトはすぐに黒宮アキトの傷を手当てしようと傷口を見るが、既に傷は塞がっていた。
あまりにも早い回復に西連寺マコトは疑問に思ったが、そんな西連寺マコトを気にもせずに黒宮アキトは立ち上がり、奥で行われている儀式の場に立っているカルミティシアに叫んだ。
「カルミティシア!!!」
「っ!?……本当に、来れたのですね……」
「オレは借りをキッチリと返す男だ。美味い茶の礼は返させてもらう。オレなりの返し方でな!」




