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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第3章 不幸を招く少女
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暗闇の恐怖

 西連寺マコトが残した道標を辿る黒宮アキト。辿り着いた先には、巨大な建築物が存在していた。道標となっていた光の線がこの場所で途切れている事から、二人はそこにいると考え、黒宮アキトは巨大な建築物へと近付いていく。

 扉の前に立つと、黒宮アキトを招くかのようにひとりでに扉が開き、黒宮アキトは中へと入っていった。黒宮アキトが建物内に入ると、扉は勢いよく閉まり、扉の存在が消えて無くなってしまう。

 高く広い空間の中には規則的に並ぶ石の柱があり、足音が暗闇に包まれている奥深くまで反響していく。明かりを灯せる物を持っていない黒宮アキトは、僅かに見える暗闇の中を進み始める。

 しばらく進み続けていたが、何かが起こる訳でも、壁に突き当たる事も無かった。ただひたすら、道が続くばかり。外から見た建物の広さと、実際の中の広さに差異があり過ぎると感じた黒宮アキトは、腰に隠していた拳銃を取り出し、暗闇の何処かから現れるであろう敵の奇襲に備える。だが、暗闇で目が役に立たない為、周囲の微かな音を聴いて敵の居場所を探るしかない。

 すると、黒宮アキトが立つ場所から斜め右方向で、足音が聴こえ始めた。数は5人程度で、黒宮アキトへと真っ直ぐ近付いてきている。

 黒宮アキトは斜め右方向に拳銃を構え、直感で撃った。小さな足音でも反響する空間で発砲した拳銃の音は、まるで爆発が起きたかのように炸裂した。

 拳銃の反響音が鳴り止み出すと、斜め右方向から近付いてきていた足音が4人になっており、黒宮アキトは今度は四発続けて直感で撃った。四発撃ち終えた後、耳を傾けて足音を聴こうとするが、もう聴こえていた足音は一人残らず消えていた。

 黒宮アキトが再び前へ歩き出そうとした矢先、今度は左方向から複数の足音が聴こえ始めた。左方向へ拳銃を向けると、続いて後方、右方向、前方の三方向からも複数人の足音が聴こえ始める。どの方向からの足音も、黒宮アキトの方へと真っ直ぐ進んできており、酷くしゃがれた声まで聞こえ始めてきた。

 囲まれてしまった黒宮アキトは、拳銃の残り弾数が五発な事を頭に置き、四方向から聴こえる足音の数が一番少ない方向を聞き分ける。

 黒宮アキトが選んだのは前方。前方には残り弾数と同じ5人が迫ってきており、黒宮アキトは前方に走りながら、直感に従って五発撃ち込んだ。

 前へ走り続けていくが、後方からは未だに足音が追ってきており、前へ進む度に足音の数が増えていた。


(なんだ? 何か違和感がある。進めば進む程、足音の数が増えている。別方向から合流したんじゃなく、ただ単純に増えている)


 黒宮アキトは足音の数の増え方に疑問を持った。そもそも、黒宮アキトはまだ足音の正体を確認してはいない。聴こえる足音は人間のものと思われるが、それは今まで聞いてきた音の経験から導き出されたもの。

 そして、黒宮アキトが疑問を抱いたものは他にもある。それはこの空間を包む暗闇。ただの暗闇ではなく、明確な意思を持った暗闇のように思えた。

 黒宮アキトは一度足を止め、今一度自分が置かれている状況を考える。後方から数十を超える足音が迫ってきているのを気にもせずに。


(外から見た時と、中の広さが違うこの空間。増え続ける謎の足音。そしてこの気味の悪い意志を持つ暗闇……そういえば、いつか達也が言ってたな)


 黒宮アキトが思い出したのは、怪異探偵の活動中、暗い森の中で彷徨っていた時、暗い森の薄気味悪さに怯えていた宮本達也が語った話だった。


『暗闇ってのは、どうしてこう怖くなるんだろうな……!?』


『こうなったのも、お前が森に入って早々にライトを壊した所為だろ』


『わ、悪かったよ……でもよ、本当に不思議だよな。昼間の時は道が何処まで続いているか分かってたのに、夜になると途端に分からなくなっちまって。まるで、何処までも続くような錯覚を―――ウヒャ!?』


「錯覚……そうか! そういうカラクリか!」


 黒宮アキトは目を閉じ、耳を塞いだ。視界と聴覚を閉じて直感だけを働かせ、自分の意思では無く、直感に体の主導権を渡して動かす。

 自分の足が止まったのを感じ、閉じていた目を開くと、そこはさっきまでいたような空間とは無縁の、明かりに満ち溢れた生活感のある部屋であった。小さなシャンデリアが天井に吊り下がっており、本棚や作業をする為のテーブルも置かれており、火が灯る暖炉が一際目立っていた。

 その暖炉の前にある二つの椅子の一つに、ローブに身を包んだ白髪の老婆が座っていた。黒宮アキトは暖炉のもとへと近付いていき、老婆の顔を見てみると、老婆は優しい印象を持つ綺麗な女性で、若々しい青い瞳で暖炉の火を眺めている。


「……どうしたの? 座りなさいな」


「何者だ」


「まぁまぁ、血の気が多い若者だこと。フフフ」


 老婆のあまりにも無害そうな笑顔に、黒宮アキトはすっかり気を緩めてしまい、空いている椅子に座る事にした。


「さて、まずは私が何者かについてよね? 私はカルミティシア。怪異よ」


「そうは見えないな」


「まぁ、一般的な怪異とは、少しだけ違うわね。私は怪異になる前の人間の時と同じ、情や思想、それに記憶だってハッキリとしている」


「あんたみたいな怪異と一度会った事がある。名はロン・リーフェン」


「あら、彼を知ってるの? 彼とは友人よ。今も、そして昔も。素敵な方だったでしょう?」


「人の価値観は人それぞれだ」


「お気に召さなかったようね。さぁ、私の正体は明かしたわ。今度はあなたの番よ」


「黒宮アキト」


「黒宮アキト……そう、なるほど。あなたが黒宮アキトだったのね」


「知っていたのか?」


「言ったでしょ? ロン・リーフェンとは、今でも友人だと」


「……生きてんのかよ、あいつ」


 やっとの思いで倒したはずのロン・リーフェンの生存を聞き、黒宮アキトはグッタリと椅子にもたれかかった。数々の強敵と戦ってきた黒宮アキトにとって、ロン・リーフェンは今までの敵の中で一番と言える程の強敵であった。そんな強敵の生存に黒宮アキトは絶望感を覚えつつも、今の自分がどれ程までに強くなったかを明確に知れる事に嬉しさも覚えていた。

 黒宮アキトがロン・リーフェンとの戦いを思い出していると、二人が座っている椅子の中央にある小さなテーブルに二つのカップが置かれ、そこにカルミティシアが紅茶を注いでいく。一つを自身に、もう一つを黒宮アキトに差し出し、黒宮アキトは何の警戒も無くカップを受け取った。


「怪異と仲良くお茶会とはな」


「私にはこうするしかないのよ。戦いではあなたに勝てそうにない。だから、話し合いで済ませるの」


「その口ぶりから察するに、オレの連れを抱えてるな?」


「勘が鋭いわね。まぁ、それも合わせて話しましょう。これ以上の争いは無意味なのだから」


 カルミティシアが紅茶を一口飲むと、続いて黒宮アキトも紅茶を飲み始める。黒宮アキトが初めて飲む紅茶の味は、穏やかな風に揺れ動く花畑を思い起こすような優しい味であった。

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