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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第3章 不幸を招く少女
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暗闇の声

 黒宮アキトが怪異が潜む部屋に入った頃、外で待っていた西連寺マコトは黒宮アキトの身を案じていた。この祓い士の世界に戻ってきてから、黒宮アキトは凄まじい勢いでブランクを解消し、体術に関しては西連寺マコトが知っている域を超えていた。だが、奇術に関してはその逆をいっていた。  

 祓い士にとって奇術とは、怪異を祓う上で必須。奇術を扱えない者は、祓い士とは呼べない凡人にすぎない。今の黒宮アキトはまさに凡人であった。西連寺マコトも認めようとはしないが、心の奥底では黒宮アキトを祓い士とは思えずにいた。

 それでも黒宮アキトを怪異のもとへ行かせたのは、西連寺マコトが黒宮アキトに向けている絶大な信頼からだ。例え格上の相手だとしても、黒宮アキトならば勝ってくれると信じられた。

 しかし、ここ最近の黒宮アキトの変貌ぶりに、西連寺マコトの黒宮アキトに対する評価は変化しつつあった。容姿や性格、常人離れした身体能力と体術。

 そして、何処か遠くを見ている瞳。その遠い何処かへと、黒宮アキトは進んでいる。途中までは共に歩けても、その先は自身では決して進めない領域。西連寺マコトと黒宮アキトの間に、明確な差が出来つつあった。西連寺マコトが幼少の頃、ワガママを言う自分に嫌々ながらも最後まで付き合ってくれていた黒宮アキトは、今では手が届かない存在へと変わりつつある。  

 もう、記憶の片隅に憶えてもらうだけでは済まなくなっていた。謙虚なままでは今の黒宮アキトに付いていけない所か、存在を記憶から抹消されてしまう。そんな恐れから、西連寺マコトは黒宮アキトに対抗心を燃やしつつあった。祓い士である以上、奇術を巧みに操れる自分の方が上の立場だと傲慢さを抱いて。


「兄様。あなたには私が必要なはずです……必要なんです」


「お母さん?」


 西連寺マコトが黒宮アキトがいる建物に視線が釘付けになっている中、イチは路地の奥に自身の母の姿を見た。イチの母はイチが自分に気付いたと分かると、後ろに振り返って路地の更に奥へと進んでいく。 その姿に釣られ、イチは自然と足を母の方へ進ませていた。

 そうして先程イチの母が立っていた場所にまでイチが離れた頃、ようやくイチが傍にいなくなった事に気付いた西連寺マコトは、いつの間にか遠く離れたイチに気が付く。

 

「何処へ行くんですか! 待っているよう言われたはずですよ!」


 西連寺マコトの呼び声を気にも留めず、イチは母の後ろ姿を追い続けていく。そのまま何処か遠くに消えてしまえばいいと思った西連寺マコトであったが、黒宮アキトにイチのお守りを任されている以上、放ってはおけなかった。


「全く、手が掛かる子供……!」


 西連寺マコトは破邪の指輪から光の線を伸ばし、建物に道標として引いていく。初めは小走りでイチを追いかけていた西連寺マコトだったが、段々とイチの後ろ姿が遠くなっていくにつれ、走るスピードが速くなっていく。最終的に全力疾走で追いかける事になったが、不思議な事に、歩いているはずのイチとの距離が縮まらない。

 明らかに不可思議な事が起きているにも関わらず、西連寺マコトは後を追いかけるばかりで、その不可思議さに気付く事は無かった。そもそも、普通にイチの後を追いかけている時点でおかしかった。西連寺マコトの光の線は無限に伸ばす事が可能で、西連寺マコトの技術力によって多種多様な使い方をする事が出来る。離れた場所にいるイチを捕まえる事など簡単な事であった。

 それにも関わらず、西連寺マコトは【追いかける】事を選んだ。西連寺マコトが自分がおかしな行動をとっていると自覚したのは、石の柱に囲まれた巨大な建物の前に辿り着いた頃であった。

 

「ここは? 私は、どうしてここまで……イチさん?」


 西連寺マコトが自分の行動を理解出来ずにいると、開かれた建物の扉の中へとイチが入っていくのを目にした。その扉の奥の暗闇から、破邪の指輪が複数の怪異の反応を示し、扉が閉まると怪異の反応が消えた。建物内にいる怪異の力によって自分達が誘き出された事を西連寺マコトは理解すると、黒宮アキトに知らせようと来た道へと振り返る。

 振り返るとそこに道は無く、ただただ暗闇が覆うばかり。そして、眼前に広がるその暗闇に、破邪の指輪は怪異の反応を示す。

 暗闇をよーく見ると、何も無い虚空だと思っていた暗闇からいくつもの人間の腕が伸び、それ以上のおびただしい数の口や目が暗闇の中で泳いでいる。目は西連寺マコトを凝視し、腕は西連寺マコトを求め、口は西連寺マコトに助けを懇願していた。

 すると、暗闇の中から声が聞こえてきた。年老いた老婆の声だ。その老婆の声は、西連寺マコトへと語りかけてくる。


「可哀想な子。誰からも必要とされず、見向きもされず、端へと追いやられていくばかり。可哀想な子だね」


「怪異が……喋っている……!?」


 怪異は喋る事が出来ない。死人に口なしと言うように、現世を生きる者に言葉が届かないからだ。時折、声を出す怪異も存在するが、それでも不自由さが明らかなカタコトとして聞こえる。  

 だが、強い力を持つ怪異は例外だ。黒宮アキトと対峙した妖刀やロン・リーフェンのような強い力を持つ者だけは、生きている者と遜色なく会話が可能である。

 そんな強い力を持つ怪異は、西連寺マコトにとって初めての体験であり、遭遇であった。


「私には分かる。お前が抱えている想いも、劣情も、憎しみも」


「私の何を―――」


「愛を知る人間は愛を知らない者よりも強い。しかし、愛を知っているからといって、愛の重みを知っているとは限らない。お前の愛は今、軽くなっている。まるで空気が抜けていくみたいに、今も軽くなっている」


「兄様に対する愛が軽いですって!? この私が!? ありえない!!!」


「私は誰とは言っていないよ。そうやって特定の個人を思い浮かべられるという事は、私の言葉が正しい証拠さね」


「っ!? ふざけないで!!!」


 西連寺マコトは破邪の指輪から伸ばした光の線をしならせ、鞭のようにして暗闇を叩いた。当然、実体の無い暗闇からは手ごたえを得る事は無く、空を切るだけであった。


「効かない!?」


「当たり前さ。真実に目を向ける勇気も覚悟も無いお前では、この暗闇にいる私には届かない」


「くっ!?」


「ああ、可哀想な子。器として選ばれたあの小娘とは違い、お前は誰にも選ばれていない。お前は一生孤独なままだ。せめて、私が包み込んであげよう。この者達と共に、暗闇の中で苦しみと自虐に悶えなさいな」


 暗闇が西連寺マコトを覆い尽くそうと迫り来る。暗闇に飲まれる直後、西連寺マコトは光の線を球体に変え、自身を守るバリアにした。

 しかし、それは身動きが取れなくなったも同然であり、暗闇に飲み込まれるのは時間の問題であった。


「抗うか。それもいい。抗ってその果てに待つのは、より深い絶望と苦しみさね……さて、あの小娘に移る前に、少し見ておこうかね。この子の想い人である兄様に」

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