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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第3章 不幸を招く少女
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風が襲い来る

 小さな豆電球一つだけが灯る薄暗い室内。汚れた壁や、椅子に掛けられた脱ぎ捨てた服、キッチンのシンクに溜まっている洗い物。ここで人が確かに暮らしていた痕跡がある。

 だが、その住人の行方は何処にも無かった。黒宮アキトは周囲を見渡し、ここには気になる物は無いと判断して奥の扉を開けた。

 扉を開けた先には上の階に繋がる階段があった。上を見上げれば、階段は五階まで続いている。黒宮アキトは階段を上り、それぞれの階層にある部屋の扉に手と耳を当てて、部屋の中の気配を探っていく。

 そうして探り続けていき、四階の部屋に手と耳を当てて気配を探ると、今まで感じられなかった何らかの気配を察知した。破邪の指輪を使えない黒宮アキトが、その気配の正体を断定出来る事は不可能だが、この建物内に怪異が潜んでいる事は西連寺マコトが確認済みの為、黒宮アキトはこの部屋に怪異がいると確信した。

 戦闘に備え、背負っていたバックパックを扉の隅に置いていこうとすると、黒宮アキトは不意にバックパックの中に入れてある銃器が気になった。気になった理由はハッキリとしたものは無いが、黒宮アキトはバックパックの中で初めに手に触れた拳銃を取り出す。その拳銃は黒宮アキトが選んだ物よりも一回り大きい物で、手にズシリと確かな重みを感じさせる拳銃であった。

 

「細工をしておくと言っていたな……」


 拳銃のマガジンを引き抜いて、込められている弾丸を見ると、見た目は普通の弾丸であったが、妙な違和感があった。

 西連寺ソウジは祓い士であるものの、戦闘向きの祓い士ではなかった。かと言って、補佐の役目を果たす者でもない。西連寺ソウジは細工を得意とした祓い士である。どれだけ不利な状況に陥っても、事前にその状況を見据えて細工を施してある食えない男だ。

 そんな人物だと知っている黒宮アキトだからこそ、拳銃に込められている弾丸に何が細工してあるかは理解出来た。黒宮アキトは拳銃を片手に握りながら、怪異が潜む部屋の扉を開けた。

 玄関に入ってすぐに、異臭が鼻を刺激した。鉄臭く、嫌悪感がある臭い。通路を進んでいく途中にある扉を開けると、扉の先には狭いトイレがあり、顔の半分が綺麗に斬られた子供の死体が便器に座っていた。断面を見れば見る程、一寸のズレ無く綺麗に斬られており、口元の表情を見てみると、まるで斬られた事が分かっていないような平然とした表情であった。

 トイレから出て、再び通路を進んで奥の扉を開けると、その先はリビングとキッチンが一緒になった部屋であった。特に荒れた形跡は無いものの、キッチンとリビングにある椅子に死体がある。そしてそのどちらも頭部を綺麗に斬られており、やはり斬られた事が分かっていないような表情の口元であった。

 黒宮アキトは部屋の中央に立ち、見落としがないようにゆっくりと周囲を見渡していく。家具の隙間、小物、物の影に怪異が潜んでいないかを瞬き一つせずに索敵する。

 そうして見渡していくと、部屋の窓に掛けられていたカーテンの隙間から、窓が開いていたのを目にした。窓から怪異が逃げ出した後かと考えた矢先、カーテンがフワリと揺らいだ。


(風……風だと!?)


 黒宮アキトは一瞬、ただ風にカーテンが煽られただけだと考えたが、それはおかしな話であり、不可解であった。地上ならまだしも、ここは地下領地。ここまで歩いてきて、黒宮アキトは風を感じていない。

 明らかに異常な事だと判断した黒宮アキトの視界に、直感が映し出す刃の軌道が見えた。黒宮アキトは刃を避け、拳銃を向けた。

 しかし、そこには誰もいない。気配を探ってみるが感知せず、直感で次に何処から襲い掛かってくるかを探るが、何も分からなかった。これまで黒宮アキトを何度も助けてきた直感ですら探れない怪異に、黒宮アキトの額から汗が流れ出す。

 静寂の中、黒宮アキトは瞬き一つ許されない緊張感に包まれていた。


(怪異は風と共に襲い掛かってきた。おそらく、あの風が怪異だろう。目に見えない姿と刃で、斬られた本人が斬られたと自覚しないまま斬られる。さっきは直感のおかげで避ける事が出来たが、それは目の前から襲い掛かってきたから出来た事。死角から来れば刃を捉えられず、この部屋の死体と同じ末路を辿る。さて、どうするか……)


 黒宮アキトは死角を無くす為に、壁に背をつけた。これで死角が無くなり、周囲を警戒する事が出来るが、避ける事は困難になる。一か八かの勝負であった。

 目に見える物や音を捨て、自らの直感に集中し、いつでも拳銃を撃てるように準備をしておく。次に直感が見せる怪異の刃にどう対応するかで、黒宮アキトの命運は左右する。

 

(…………来るか!!!)


 向かい側の壁に掛けてある服が揺らいだのを目にし、黒宮アキトは身構える。見えない敵の動きから目を離さず、感じるはずのない敵の殺意を身に受けながら、一瞬のタイミングを待つ。

 そして、その瞬間は来た。直感による刃の視認化。刃の軌道は黒宮アキトの鼻元へ真っ直ぐと迫り来る。風は目に見えないが、触れる事は出来る。

 黒宮アキトは、刃を歯で噛み受け止めた。噛んだ刃を受け止めると、振動が目に見えない怪異の体に伝わり、黒宮アキトの目の前で歪みが発生した。その歪みに、黒宮アキトは拳銃を向けて撃った。

 初めて耳にする拳銃の発射音は、黒宮アキトの耳に耳鳴りを起こし、数秒の思考停止を起こす。再び思考が正常に働くと、歯で噛み受け止めていた刃の感触は消えていた。


「……やったか?」


 念の為、しばらくその場に立ち止まって怪異を待ち構えてみるが、再び風が吹く事は無かった。怪異が祓われた事を確認し、黒宮アキトは安堵の溜め息を吐くと、外で待つ西連寺マコトとイチに、怪異を祓った事を知らせようと窓へ近付いていく。

 窓から顔を覗かせて外の様子を見ると、路地には誰もいなかった。


「マコト? イチ?」


 声を掛けてみるが、イチはおろか、マコトの返事も無い。消えた二人に胸騒ぎを覚えた黒宮アキトは、急いで部屋を飛び出し、扉の傍に置いていたバックパックを背負い、階段を下りていく。

 路地に出て、辺りを見渡すと、建物の壁に光の線が引かれていたのを目にした。西連寺マコトが黒宮アキトへ残した痕跡だ。黒宮アキトは続いていく光の線を頼りに、路地を駆けていく。

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