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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第3章 不幸を招く少女
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お人好し

 夜が明け、暗闇に包まれていた森に陽の光が差し込む。温かで神秘的とも思える緑の地は、静かで恐ろしい夜の森とは真反対の顔を見せていた。  

 そんな森の変化を気にも留めず、黒宮アキトは度々大きなアクビをしながら、森の中で助けた少女のイチを連れて森を抜けた。イチは尚も西連寺マコトから向けられる殺意から逃れるように、黒宮アキトを盾にしながら歩いていく。そんなイチの小動物らしさに、西連寺マコトは嫉妬していた。


「いつまでその子を連れていくつもりですか?」


「別に連れていくつもりはない。ただ引っ付いてきているだけだ」


「なら引き剥がしましょう。ええ、そうしましょう」


 西連寺マコトは黒宮アキトからイチを引き剥がそうと近付くが、イチは逆側に回り込んで西連寺マコトの手から逃れていく。

 そうして黒宮アキトの周りを二人がグルグルと回り続けていくと、鬱陶しく思った黒宮アキトが二人の頭を掴んで、二人のおでことおでこをぶつけた。黒宮アキトは力加減をしたつもりだったが、思いのほか勢いがついていたようで、二人は地面に膝をつきながら悶絶し始める。


「い、痛い……!」


「どうしてこんな小娘と……!」


「悪かった。ハエみたいでウザかったからさ。だが、マコトの言う事にも一理ある。オレの旅に、イチを連れて行く事は出来ないな」


「ですよね!」


「じゃあマコト。お前が元いた場所に戻してこい」


「はい!」


「そのままお前も家に帰れ」


「嫌です!」


「ハウス!」


「ワン!」


 西連寺マコトは黒宮アキトに抱き着いた。まるでここが自分の家だと言わんばかりに、全身を黒宮アキトに押し込んだ。

 抱き着いたのも束の間、黒宮アキトは西連寺マコトの頭頂部に肘打ちを当てると、西連寺マコトは再び地面に膝をついて悶絶し始めた。


「オレは家じゃねぇよ。お前そんな馬鹿だったか? 下手をしたら達也以上の大馬鹿だぞ?」


「それは言い過ぎです! あんな道端に落ちているお金を拾ったのが死因になるような方と一緒にするのは止めてください!」


「達也に対する解釈が独特過ぎるだろ。あと達也はそんな死に方はしない。自分で掘った落とし穴に落ちて死ぬんだ」


「嫌だ嫌だ! 離れ離れ嫌だー!」


 西連寺マコトは懲りずに黒宮アキトへと抱き着いた。今度はまるで蛇が獲物を絞め殺すが如く、黒宮アキトの体に足や腕で絡みつく。黒宮アキトは引き剥がそうとするが、かなり上手く拘束されている所為で、思うように腕を動かせなかった。

 しばらく二人の様子を見ていたイチは、夜に見た二人の印象とは真反対の愉快さに困惑しつつも、二人の仲の良さに嫉妬していた。たった一度の誤解から、親しくしてくれていた人々から敵意を持った目で見られるようになった事を思い出し、イチは静かに泣き始め、やがて声を出しながら泣きじゃくった。

 イチの泣き声を耳にした二人は冷静さを取り戻し、西連寺マコトは自分から黒宮アキトから離れ、破邪の指輪から取り出した布を手にしながら、イチの涙を拭った。涙でボヤけた視界が元に戻ると、目の前に立つ西連寺マコトは今までの怖い印象から一転し、姉のような優しさのある微笑みを浮かべていた。

 そして、西連寺マコトの後ろに立つ黒宮アキトも、イチの傍に近付いてはこないものの、気にかけている様子がうかがえた。


「ぅぅ……あ、ありがとう……」


「いいえ。何か辛い事でも思い出したのでしょ? 辛い過去は溜め込まず、今のように泣いて吐き出した方がいいんです」


「……何があった?」


「え……?」


「夜の森に来る奴は大抵何かしらの事情があって駆け込む最後の場所だ。だが、決してお前のような子供が来るような場所じゃない。何があった?」


「それは……」


 黒宮アキトの問いかけにイチは答えようとするが、辛い過去がフラッシュバックし、声が喉に詰まって言葉にならない。

 すると、黒宮アキトはイチの傍に寄り、目線を合わせる為にしゃがみ込んだ。


「何があったんだ?」


「……」


「兄様……」


「お前はあの時、助けてくれと叫んだ。そしてオレが助けた。だから、もう一度くらい助けてやる」


「……僕の、村で……殺され、たの……」


「誰が殺された?」


「村の……当主、様……」


「当主が? 殺したのは?」


「それは……それは……分かんない……分かんないけど、でも……僕、らしい」


 イチの言葉に、二人は驚きよりも疑問が浮かんだ。領地の当主が殺される事は珍しい事ではない。殺され方は様々あり、見返りの為に親が子供を使って当主を殺す事も前例がいくつかある。

 だが、イチは自分がやったと言いながら、自分でやった事を理解していない様子であった。


「僕、いつものように家の仕事を手伝ってたら、急に眩暈がして……それで、意識がハッキリしたら、どうしてか当主様のお屋敷にいて……足元で、当主様が死んでたの……」


「眩暈? どんな感じだった?」


「急に視界がボヤけて……あと、体から力が抜けていくような感覚もした……」


「……マコト」


「ええ。おそらく、怪異の仕業ですね」


「……怪異? 私がやったんじゃないの?」


「自分がやってない事は、自分でよく分かっているでしょう?」


「……うん」


「そういえば、あの時もお前は怪異に狙われていたな」


 黒宮アキトが思い出したのは、夜の森でイチが襲われていた時の事。人の弱みに付け込んで怪異は人に害を為す。

 だが、あそこまで集団で一人の人間を狙うのは極めて珍しい事であった。子供であろうが大人であろうが、怪異が憑りつけるのは一人の人間まで。その為、集団で一人の人間を狙うのはおかしな事であった。また、ただ単に危害を加える怪異も存在するが、そういった怪異は強い力を持っている。あの森に現れた怪異の集団は、全員弱かった。

 今ある情報だけでは謎が広まるばかりで、黒宮アキトはイチが怪異に狙われやすい理由を知る為に、決断を下した。


「イチ。お前の村に案内してくれ。当主が殺された事、それからお前に何があったのかの原因を突き止める」


「……村に戻ったら、殺される」


「顔を隠せばいい。万が一、原因を突き止める前に正体がバレた時は、オレが安全な場所まで連れて行ってやる」


「私達ですよ、兄様。また私を仲間外れにするのですね」


「なんだ? お前も来るのか?」


「原因を突き止めたとて、怪異を祓わない限り、問題は残ったままです。怪異を祓うには、私の力が必要でしょう?」


「まぁ、そうだな。いくら力を持っていても、破邪の指輪無しじゃ、怪異を祓う事は出来ない。改めてお願いするよ。マコト、力を貸してくれるか?」


「喜んで」


「よし、じゃあ行くか!」


 黒宮アキト一行は、村の当主殺害の原因と真相を突き止める為に、イチの村へと赴くのであった。 

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